第3話「選択の理由」
人は、選ばなかったことにも理由をつける。
それが、自分を守るためだとしても。
「続けて!まだ戻る!」
田中さんの声が、張り詰めた空気を切り裂く。
「はい!」
美咲は、必死に手を動かす。
押して、数えて、息を合わせる。
頭の中を空っぽにして、ただ動く。
でも。
心の奥では、ずっと響いている。
“選択は保留されました”
(……私が、選ばなかったから?)
一瞬、その考えがよぎる。
すぐに打ち消す。
そんなはずない。
こんなの、ただの偶然だ。
「除細動準備!」
「はい!」
機械の音が、やけに大きく聞こえる。
美咲の手は、震えていた。
――ピロン
まただ。
この状況で、まだ鳴るの?
見ちゃダメだ。
分かってる。
でも――
一瞬だけ、視線を落とす。
『次の対象が選択されました』
「……え」
息が止まる。
画面には、新しい表示。
301号室。
名前の横に、小さく光る文字。
『安定』
「……なんで」
さっき、申し送りで聞いた。
301号室は安定してるって。
なのに。
『残り時間:9分』
「美咲ちゃん!集中!」
田中さんの声で、我に返る。
「……はい!」
慌てて前を向く。
(……違う)
(これ、順番に選ばれてる?)
304号室。
そして、次は301号室。
“全員が対象になる”
(そんなの……ありえない)
「戻ってきた!心拍確認!」
「……っ!」
モニターの波形が、わずかに動く。
「よし、そのまま維持!」
空気が、少しだけ緩む。
でも。
美咲の中では、逆に何かが崩れ始めていた。
(助かった……?)
その瞬間。
ポケットの中で、また震える。
――ピロン
『選択結果を確認しますか?』
「……っ」
指先が、勝手にスマホへ向かう。
見ちゃいけない。
分かってる。
でも。
画面を、開く。
『304号室:選択未実行』
『結果:心停止(回復)』
「……回復?」
その下に、小さく表示されている。
『次回は、必ず選択してください』
「……っ!」
ゾワッと、背筋が凍る。
“次回は”
(……まだ続くの?)
ゆっくりと、顔を上げる。
そこには。
何事もなかったかのように動く現場。
安心したように息をつく田中さん。
でも。
美咲だけが、気づいていた。
この夜は、終わっていない。
スマホの画面が、静かに切り替わる。
『301号室 残り時間:7分』
(……選ばないと)
その思考が。
今度は、はっきりと形になる。
「……やだ」
小さく、呟く。
でも。
足は、すでに動いていた。
301号室へ向かって。
その先にあるものを、知らないまま。
選ぶということは、何かを捨てること。
そして――選ばないことも、同じくらい残酷だ。
次回「最初の選択」




