cys:203 貫く意志
「バ、バカなっ! アルカナート、貴様の魔力クリスタルは、至高の白輝のクリスタルのハズ!」
驚愕し思わず身を乗り出したシルフィード。
あまりの事に額からツーっと汗を流し、固まってしまっている。
「ううっ……ありえぬ……」
だが、シルフィードには分かっていた。
アルカナートがこういう事について、決して嘘や誇張を言わない事を。
「だから言ってんだろ。痛いほど分かるってよ」
「……バカな。一体どうやって……」
「フンッ、別に大した事はやってねぇ」
「なんだと……」
苛立ち顔をしかめるシルフィードを、アルカナートは真っ直ぐ見据えている。
「捨てなかっただけだ。俺自身の希望と、可能性をよ」
「捨てなかっただと……」
「あぁ、そうだ。考えてもみろ、シルフィード。テメェは国を捨てたんじゃねぇ。捨てさせられたんだよ」
「な、なにを……」
ギリッと歯を食いしばるシルフィード。
アルカナートが何を言わんとしているかを、直感的に分かってしまったから。
「シルフィード、俺だって嫌だったさ。無色の魔力クリスタルとして、皆から蔑まれるのはな。だが、それ以上に嫌だったんだよ」
「まさか……」
悔しそうに睨むシルフィードに、アルカナートは言い放つ。
「穢される訳にはいかねぇのさ。周りが憎しみに染めようとしてきても、そんな事は認めねぇ。俺を動かせるのは俺だけ。それが……俺のプライドだ!」
その言葉がシルフィードの心へ、矢のようにグサッと刺さった。
認めるしかないからだ。
同じ無色の魔力クリスタルを授かってしまったにも関わらず、闇に堕ちた自分と勇者になったアルカナートとの違いを。
───くっ……! 俺は、国を捨てたのではなく、捨てさせられたのか……
その想いが、これまで自分の意思で生きてきたという自負を打ち砕く。
ただそうなると、シルフィードは気にせずにはいられなかった。
「だがアルカナート、無色の魔力クリスタルから、どうやってそこまでの力を得たのだ」
そこが分からないシルフィードに、アルカナートは哀しく告げる。
「心の力、それが全てだ」
「心の力だと?」
「そうだ。無色の魔力クリスタルは、他の魔力クリスタルよりも覚醒させる為のエネルギーが必要になる。しかもそれは、闇じゃなく光の心がな」
「光りの心だと……ならばもし……」
シルフィードは、そこまで言って言葉を詰まらせた。
それを言ってしまえば、今までの自分を自ら否定してしまう事になるからだ。
無論、アルカナートもそれを分かっている。
またそれが、どれだけ辛い事かを。
───そうさシルフィード、もしお前が闇に堕ちる事を選ばなければ……
だが、この戦いに決着をつける為に敢えて言う。
トドメになる一言を。
「お前も成れていたハズだ。白輝の輝きを宿す勇者に……!」
その言葉と同時に、静寂がその場を支配した。
アルカナートもシルフィードも黙ったままだ。
また、ナターシャはそんな二人を哀しく見つめている。
───もしシルフィードが違う選択をしていれば、きっとアルカナートと一緒に肩を並べて……
ナターシャがそんな事を思う中、シルフィードは固まったままだ。
瞳を伏せた状態で、アルカナートを見ようともしていない。
そんなシルフィードを、アルカナートは哀しく見つめている。
「シルフィード、もう終わりにしようぜ」
だがその時、シルフィードはクククッ……と、嗤うとスッと顔を上げた。
その瞳はまだ闇に染まったままだ。
「だからどうだと言うのだ」
「なんだと」
「お前の言う通り国を捨てさせられたのだとしても、この俺自身が歩んできた道は紛れもない事実だ」
「フンッ……それは否定してねぇよ」
「なによりも……」
シルフィードはそこまで告げると、アルカナートに向かい片手で剣を突きつけた。
「我が師の命と引き換えに得たこの滅輝乃魔眼の力は、貴様の白輝の魔力クリスタルを凌駕する物!」
「そいつはどうかな……」
「クククッ……負け惜しみを。アルカナートよ、貴様が自分の意思で何者にも穢されなかったように、俺もお前には穢されん! 貴様の命を絶つ! それは間違いなくこの俺自身の意思だ!!」
そう言い放ったシルフィードの瞳は闇に染まっている。
けれど、そこには確かな光も同時に宿っていた。
それを受け、剣を構えたアルカナート。
「シルフィード、それがテメェの答えか」
魔力クリスタルから溢れる白輝の輝きが、アルカナートの身体を包み込んでゆく。
「そうだ! 俺は、お前の存在そのものを消してやる! オォォォォォッ……!」
滅輝乃魔眼から再び紫白の悍ましいオーラが立ち昇った。
そして、シルフィードの体を凄まじい魔闘気で覆ってゆく。
「いくぞアルカナート! 己の弱さに後悔しながら死ぬがいいっ!!」
その咆哮と共にアルカナートにバッと跳び向かうと、凄まじい速さで剣を振り下ろした。
ガキインッ!
「くっ! シルフィード……!」
それを防いだアルカナートに、シルフィードは更に打ち込んでゆく。
間断なくアルカナートを襲う剣の乱打は、一撃一撃が必殺の威力を持っている。
「オォォォォォッ!」
シルフィードが振り下ろしてゆく剣を、連続で受けて止めてゆくアルカナート。
二人の剣が、ガキインッ! ガキインッ! ガキインッ! と、激しく剣がぶつかり合い火花を散らす中、シルフィードは言い放つ。
「アルカナートよ、これが俺の力だ! 俺は……お前など認めぬ!」
「そうかよ、勝手にしやがれ。俺は、俺の意志でテメェを止める」
「ハッ! 止める? 止めるだと? それをすべきはお前自身だろう、アルカナートよ」
鍔迫り合いをしながら、アルカナートは想いを巡らせた。
「フンッ……ナターシャの事か」
「そうだ。先に言った通り、仮にこの場を切り抜けられたとしても、ナターシャを庇えばお前が勇者でいられなくなる可能性は非常に高い。下手をしたら、国家反逆者として処分されるだろう」
シルフィードが告げてきた事は正しいが、アルカナートの意志は揺るがない。
「それがどうした。それこそさっき言った通りだぜ。俺は俺の意志でお前を止めて、ナターシャを守る。俺が処分されるかなんて、どうでもいいんだよっ!」
そう言い放つと同時にバチンッ! と、剣を弾かせシルフィードを退かせたアルカナート。
その表情には一分の迷いも無い。
アルカナートにとって処分される事など、本当にどうでもいいのだ。
それよりも遥かに大切なのは、己の意志を貫く事に他ならない。
「愚かな……そこまでして己の意思を貫いて何になる? 待ち受けているのは破滅しかないのだぞ!」
「分かってねぇな、シルフィード……それが生きるって事だろ」
アルカナートの体は傷だらけでボロボロだが、不敵な笑みと共に光る眼光には微塵の曇もない。
だが、それがシルフィードを苛立たせる。
「……ならば、その意志ごと消滅させてくれるわ! この滅輝乃魔眼最大の力をもってな!」
シルフィードが咆哮を上げた時だった。
「アルカナート!」
その声に、ハッと後ろを振り向いたシルフィード。
その瞳に映ったのは、カミラ達を背に引き連れアルカナートを見つめている、セイラの切ない姿だった。
この場に到着してしまったセイラは、何を思うのか……!




