cys:202 滅輝乃魔眼の慟哭
「なっ……『無色の魔力クリスタル』だと?!」
アルカナートは思わず目を見開いた。
無論、この頃はまだノーティスに出会ってはいない。
なので、驚いたのはそういった意味ではなく、全く別の部分にだった。
そんなアルカナートに、シルフィードは話を続けてゆく。
「お前に分かるか? 何をどう頑張ろうが、無色の魔力クリスタルだというだけで、悪魔の呪いにかかる忌み子と蔑まれ、皆から追放される苦しみが……」
シルフィードが辿ったのは、まさにノーティスと同じ道だった。
スマート・ミレニアムで語り継がれている、悪魔の呪いの感染神話。
無論、これは五大悪魔王がアーロスを逆賊に仕立て上げ、国民に広めた偽りの神話だ。
しかし、五大悪魔王に裏から支配されている国民達にとって、それはもう疑いの無い常識と化している。
「追放された俺は住む場所はもちろん、ろくに食べる物も無く、幾度も生死の境を彷徨った……」
「誰も助けてくれなかったのか」
「当たり前だろ。助けるどころか、誰も近寄りすらしなかったさ……」
哀しくそう零しながらも、シルフィードの脳裏には浮かんでいた。
そんな中でもただ一人、笑顔で手を差し伸べてくれた少女の姿が。
───そう、一人だけいたな。だが……
その少女は、すぐに転校させられたのだ。
呪われた忌み子に手を差し伸べた、危険因子とみなされて。
───アイツには、すまない事をしたな……
シルフィードは、一瞬瞳を閉じ心の中で謝った。
本当は、何も悪くないにも関わらず。
そして瞳をスッと開くと、哀しみに染まった瞳で再びアルカナートを見据えた。
「アルカナートよ、そんな俺がどうしたと思う……」
悲壮感が漂うその問いかけに、アルカナートは数瞬の間を置き零すように答える。
「国を捨てたか。復讐の為に……」
「クククッ……ご名答。だがそれは、俺一人の力だけでは不可能だった。誰からの支援も受けれず、瀕死に近かった俺にはな」
シルフィードの瞳の色が、哀しみから狂気の色に変わってゆく。
「けれど、人の縁とは不思議な物だ。出会わせてくれたのだからな」
「なんだと」
軽く謎めいた顔を浮かべたアルカナートを見据えたまま、シルフィードはニヤリと嗤った。
「トゥーラ・レヴォルトの裏組織『解獄煉』の長に拾われたのさ」
「解獄煉だと?」
「そうさ。お前の国では、最寄りの失くなった子供は売られてるのさ」
「なんだと?!」
シルフィードはそこから話した。
スマート・ミレニアムでは、親を失った孤児たちが攫われ貴族達に売られている事。
しかもだ。
その目的が単なる奴隷ではなく、魔力クリスタルから魔力を吸い取り、若返りの道具にされてる事を。
またその後遺症で、体に変異を起こす事も。
「くっ……」
「酷すぎるわ……」
あまりの残酷さに、アルカナートもナターシャも顔を青ざめさせた。
シルフィードから告げられた話に、嘘や誇張を一切感じなかったからだ。
「解獄煉は、そういった孤児達を下劣な奴らから解放する、スマート・ミレニアムに潜伏している裏組織。アルカナートよ、お前が倒したカミラ達も同じだ」
「そういう事かよ……」
脳裏にザラークやクリス、カミラの姿が浮かび、アルカナートはギュッと拳を握りしめた。
怒りと悔しさで、体が震える。
そんなアルカナートを、シルフィードは闇に染まった瞳で見下ろした。
「これが真実だ。そして、俺は確実にお前達を滅ぼす為、先代の長の命と引き換えにこの力を得たのだ。滅輝乃魔眼をな……!」
鞘から剣をスッと抜き、頭上に掲げたシルフィードから、哀しい狂気のオーラが立ち昇る。
「だからこそアルカナート、貴様はここで死ぬべきなのだ! 忌まわしき国の勇者として!!」
シルフィードは哀しき咆哮と共に剣をザッ! と、振り下ろした。
ガキインッ!!
顔をうつむけたまま剣を受け止めたアルカナートに、シルフィードはギリッと顔をしかめ剣を押す。
「貴様……この期に及んで……まだ命が惜しいのかっ!」
「違う……」
「だったらその女か……!」
「それだけじゃねぇ……」
「ならば答えよ……なぜ、まだ戰う……?!」
剣を押しながら問いかけるシルフィードに、アルカナートはサッと顔を上げて鋭い眼差しを向けた。
その瞳にはアルカナートらしい、精悍な光が宿っている。
その光を見たシルフィードは剣をバチンッ! と、弾かせ、バッと後ろに跳び退いた。
「アルカナート、貴様……」
謎めいた顔で見据えるシルフィード。
分からないのだ。
アルカナートは、参獄星との戦いを経てナターシャの裏切りを知り、更には滅輝乃魔眼の力にボロボロにされた上、自国の悍ましい闇まで知ってしまった。
───だからこそ、お前はもはや体も精神もボロボロのハズ。なのに、なのになぜだ……!
不可解な想いに顔をしかめ、額からツーっと汗を流すシルフィード。
そんなシルフィードを見据えながら、アルカナートは剣をビュッと斜めに振った。
「シルフィード、気持ちは分かるぜ。痛い程にな」
「ハッ、でまかせを言うな。貴様などに分かるハズが無いだろう……至高の魔力クリスタルを持つ、お前になど!!」
シルフィードの怒声が周囲に響き渡り、同時に風で木々がザワめいた。
まるで、シルフィードの怒声に共感するように。
けれど、アルカナートは動じない。
「お前の壮絶な生い立ち、それがどれ程のもんかを否定するつもりはねぇ。けどよ、シルフィード……」
そこまで告げると、アルカナートは剣をギュッと握りしめた。
「恨む事も憎む事も闇に堕ちる事も、難しい事じゃねぇ。簡単なんだよ」
「なんだと?」
「テメェにひでぇ事をされたから恨む? 辛い事が続くから世の中を憎む? フンッ、そんなの普通じゃねぇか。何のひねりもねぇ」
「貴様っ……その立場でよくもぬけぬけと言えた物だな!」
憤るシルフィードだが、アルカナートは構わず続ける。
「勘違いするな。そのクソみてぇな貴族共は、俺が粛清すべきだ。けどな、お前は分かってねぇ」
「何をだ! ハッ、まさか……」
シルフィードが目を見開いた瞬間、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ。無色の魔力クリスタル、それはお前だけじゃねぇ。シルフィード、俺も同じだったんだよ……!」
まさか、アルカナートは……!




