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ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆  作者: ジュン・ガリアーノ
第9章 アルカナートの追憶
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cys:204 剣を下げたアルカナート

「ひ、酷い。傷だらけじゃない……!」


 顔を青ざめさせたセイラは、タタッとアルカナートに向かい駆けだした。

 そして、アルカナートの側に行くと両手に回復魔法を放つ為の魔力を滾らせてゆく。


「アルカナート、今治してあげるから!」

「やめろセイラ!」

「えっ?!」


 アルカナートから突如キツく断られたセイラは、一旦魔力を収めアルカナートを困惑した顔で見つめた。


「なんで? 全身ボロボロじゃん!」


 セイラが言う通り、アルカナートはこれまでの戦いでボロボロの姿だ。

 けれど王宮魔導士であるセイラなら、すぐに回復させる事が出来るのも事実。

 なので、なぜアルカナートが回復魔法を拒むのかが分からない。


「きっと、あの男と戦ってこんなんになっちゃったんでしょ」

「フンッ、関係ねぇ。奴とはサシで戦ってんだ。ここでお前に回復魔法なんて受けたら、俺はコイツと戦う資格が失くなんだろ」

「もうっ、意地っ張りなんだから。でもシルフィード(あのおとこ)凄く強いって、このカミラって子から聞いたもん」

 

 セイラがそう告げると、カミラが後ろからスッと出てアルカナートを見つめてきた。


「アルカナート……」

「カミラ……」

「額の目を開かせてしまったのね」

「あぁ……せっかくテメェからアドバイス貰ってたってのに、すまねぇな」

「いいのよ。それだけ貴方が強いって事だから」


 そう零したカミラを、シルフィードは驚愕の瞳で見つめている。

 アルカナートに破れ、殺されていたとばかり思っていたからだ。


「カミラ、お前なぜ……!」

「フフッ、アルカナート(このひと)ワザと急所を外してくれたし、さっき出会ったセイラに治してもらったの♪」

「なんだと?」

「もちろん、ザラークとクリスも同じよ。まっ、あの子達は鍛え直すってどこかに行っちゃったけど、私は気になったからこうして来たの。それにしても……」


 カミラはナターシャをスッと流し目で捉えた。


───あの子ね、アルカナートが本気で守ろうとしてる子は……


 心でそう零したカミラの瞳が、軽い嫉妬でキラリと光る。

 だが、今のカミラにはそれ以上にシルフィードの事が気になっていた。


───マズいわね。あの姿になったからには、アルカナートといえどもやっぱり……


 そんな中、シルフィードはセイラの事を謎めいた顔で睨みつけている。


「貴様は、なぜ敵であるカミラ達を……」

「そんなの、目の前で傷ついて倒れてるんだから当然じゃない!」


 その言葉を受けたシルフィードは思った。

 物腰や雰囲気は全く違うが、流れている精神はアルカナートと同じだと。


「クククッ……貴様らは揃いも揃ってなぜそうなのだ」

「どういう事よ?」

「分からぬならそれでいい」


 シルフィードがそう零した時、アルカナートはギリッと顔をしかめた。


───チッ、マズいな……


 アルカナートにとって、これは誤算だった。

 ナターシャがクルフォスを切りつけ逃亡した際、セイラやクリザリッドに敢えて連絡せず単独で行動したのは、二人に責任を負わせたくなかったからだ。


───このままだと、セイラまで巻き添え喰らわせちまう。


 アルカナート自身でナターシャを庇うだけなら自分の責任だけで済むが、セイラ達に知られてしまえばそうはいかなくなる。


───どうする……


 思い悩むアルカナート。

 その気持ちを、ナターシャは痛い程ヒシヒシと感じながら見つめている。


───アルカナート、ごめんなさい。全部、私のせいよね……


 ナターシャは両腕を下に伸ばしたまま、ギュッと両拳を握りしめた。

 そして、悲壮なる決意を募らせてゆく。

 今まで復讐に身を焦がしてきた事から始まり、アルカナートと過ごしてきた日々の事を心に巡らせながら。


 そんな中、シルフィードはニヤリと嗤いアルカナートを見下ろした。

 奇しくもナターシャと同じ程、アルカナートが今考えている事を分かっているからだ。

 ただ、その使い方は当然ナターシャとは違う。


「クククッ……アルカナートよ、お前がナターシャを救う事の出来る道は完全に閉ざされたのだ!」

「チィッ……! 黙りやがれシルフィード!」

「だから言っただろう、アルカナート。お前はここで死ぬべきなのだ。愛するナターシャの為にもな」


 それを聞いたセイラは、怒りにバッと身を乗り出した。


「何言ってんのよっ! アルカナートが死んでいいハズないじゃないっ!!」


 セイラの瞳が怒りに燃え、体が震える。

 既に、大好きなアルカナートがボロボロの姿な事に心を痛めているのに、その上死ねとまで言われては黙っていられなかったのだ。


「アルカナートは確かにぶっきらぼうだし言葉遣いも乱暴だけど、いつも目に映る人達を守る為に全力で戦ってるんだからっ!」

「そうか……だが、これを聞いてもそう言えるかな」

「えっ、どういう事?!」


 謎めいた顔を浮かべたセイラに、シルフィードはこれまでの事を話していった。

 セイラが復讐の為にアルカナートに近づいた事や、それまでの生い立ち。

 また、その上でアルカナートがナターシャを救えばどうなるのかまでを。


 それを聞いたセイラは、悔しさに涙を滲ませながらナターシャを見つめた。


「ナターシャ、本当なの……?」

「……そうよ。彼の言った事は、全部、本当の事なの。セイラ……ごめんなさい……」


 魂を削るような痛みと共に、心から声を絞り出したナターシャ。

 悲壮な決意がより募ってゆく。

 そんなナターシャを見つめるセイラは、悲しさでギュッと瞳を閉じた。


「そんな……イヤだよ、イヤだよナターシャ、そんなの悲し過ぎるじゃん……うぅっ……」


 セイラの瞳から涙が零れ落ちてゆく中、アルカナートはシルフィードを睨みつけている。


「シルフィード、テメェ……!」


 セイラに完全に知られてしまったからだ。

 もう、完全にどうする事も出来ない。

 流石のアルカナートも心に憎しみが沸いてくるが、それでも冷静に思考を巡らせていった。

 そして思う。


───こうなっちまった以上、これしかねぇよな……


 アルカナートは心でそう零すと、決意と共に剣をスッと下ろした。

 そして、アルカナートらしい涼やかな眼差しでシルフィードに告げる。


「シルフィード、さっさと俺を斬りやがれ」

大切な者達の為だからこそ……

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