cys:204 剣を下げたアルカナート
「ひ、酷い。傷だらけじゃない……!」
顔を青ざめさせたセイラは、タタッとアルカナートに向かい駆けだした。
そして、アルカナートの側に行くと両手に回復魔法を放つ為の魔力を滾らせてゆく。
「アルカナート、今治してあげるから!」
「やめろセイラ!」
「えっ?!」
アルカナートから突如キツく断られたセイラは、一旦魔力を収めアルカナートを困惑した顔で見つめた。
「なんで? 全身ボロボロじゃん!」
セイラが言う通り、アルカナートはこれまでの戦いでボロボロの姿だ。
けれど王宮魔導士であるセイラなら、すぐに回復させる事が出来るのも事実。
なので、なぜアルカナートが回復魔法を拒むのかが分からない。
「きっと、あの男と戦ってこんなんになっちゃったんでしょ」
「フンッ、関係ねぇ。奴とはサシで戦ってんだ。ここでお前に回復魔法なんて受けたら、俺はコイツと戦う資格が失くなんだろ」
「もうっ、意地っ張りなんだから。でもシルフィード凄く強いって、このカミラって子から聞いたもん」
セイラがそう告げると、カミラが後ろからスッと出てアルカナートを見つめてきた。
「アルカナート……」
「カミラ……」
「額の目を開かせてしまったのね」
「あぁ……せっかくテメェからアドバイス貰ってたってのに、すまねぇな」
「いいのよ。それだけ貴方が強いって事だから」
そう零したカミラを、シルフィードは驚愕の瞳で見つめている。
アルカナートに破れ、殺されていたとばかり思っていたからだ。
「カミラ、お前なぜ……!」
「フフッ、アルカナートワザと急所を外してくれたし、さっき出会ったセイラに治してもらったの♪」
「なんだと?」
「もちろん、ザラークとクリスも同じよ。まっ、あの子達は鍛え直すってどこかに行っちゃったけど、私は気になったからこうして来たの。それにしても……」
カミラはナターシャをスッと流し目で捉えた。
───あの子ね、アルカナートが本気で守ろうとしてる子は……
心でそう零したカミラの瞳が、軽い嫉妬でキラリと光る。
だが、今のカミラにはそれ以上にシルフィードの事が気になっていた。
───マズいわね。あの姿になったからには、アルカナートといえどもやっぱり……
そんな中、シルフィードはセイラの事を謎めいた顔で睨みつけている。
「貴様は、なぜ敵であるカミラ達を……」
「そんなの、目の前で傷ついて倒れてるんだから当然じゃない!」
その言葉を受けたシルフィードは思った。
物腰や雰囲気は全く違うが、流れている精神はアルカナートと同じだと。
「クククッ……貴様らは揃いも揃ってなぜそうなのだ」
「どういう事よ?」
「分からぬならそれでいい」
シルフィードがそう零した時、アルカナートはギリッと顔をしかめた。
───チッ、マズいな……
アルカナートにとって、これは誤算だった。
ナターシャがクルフォスを切りつけ逃亡した際、セイラやクリザリッドに敢えて連絡せず単独で行動したのは、二人に責任を負わせたくなかったからだ。
───このままだと、セイラまで巻き添え喰らわせちまう。
アルカナート自身でナターシャを庇うだけなら自分の責任だけで済むが、セイラ達に知られてしまえばそうはいかなくなる。
───どうする……
思い悩むアルカナート。
その気持ちを、ナターシャは痛い程ヒシヒシと感じながら見つめている。
───アルカナート、ごめんなさい。全部、私のせいよね……
ナターシャは両腕を下に伸ばしたまま、ギュッと両拳を握りしめた。
そして、悲壮なる決意を募らせてゆく。
今まで復讐に身を焦がしてきた事から始まり、アルカナートと過ごしてきた日々の事を心に巡らせながら。
そんな中、シルフィードはニヤリと嗤いアルカナートを見下ろした。
奇しくもナターシャと同じ程、アルカナートが今考えている事を分かっているからだ。
ただ、その使い方は当然ナターシャとは違う。
「クククッ……アルカナートよ、お前がナターシャを救う事の出来る道は完全に閉ざされたのだ!」
「チィッ……! 黙りやがれシルフィード!」
「だから言っただろう、アルカナート。お前はここで死ぬべきなのだ。愛するナターシャの為にもな」
それを聞いたセイラは、怒りにバッと身を乗り出した。
「何言ってんのよっ! アルカナートが死んでいいハズないじゃないっ!!」
セイラの瞳が怒りに燃え、体が震える。
既に、大好きなアルカナートがボロボロの姿な事に心を痛めているのに、その上死ねとまで言われては黙っていられなかったのだ。
「アルカナートは確かにぶっきらぼうだし言葉遣いも乱暴だけど、いつも目に映る人達を守る為に全力で戦ってるんだからっ!」
「そうか……だが、これを聞いてもそう言えるかな」
「えっ、どういう事?!」
謎めいた顔を浮かべたセイラに、シルフィードはこれまでの事を話していった。
セイラが復讐の為にアルカナートに近づいた事や、それまでの生い立ち。
また、その上でアルカナートがナターシャを救えばどうなるのかまでを。
それを聞いたセイラは、悔しさに涙を滲ませながらナターシャを見つめた。
「ナターシャ、本当なの……?」
「……そうよ。彼の言った事は、全部、本当の事なの。セイラ……ごめんなさい……」
魂を削るような痛みと共に、心から声を絞り出したナターシャ。
悲壮な決意がより募ってゆく。
そんなナターシャを見つめるセイラは、悲しさでギュッと瞳を閉じた。
「そんな……イヤだよ、イヤだよナターシャ、そんなの悲し過ぎるじゃん……うぅっ……」
セイラの瞳から涙が零れ落ちてゆく中、アルカナートはシルフィードを睨みつけている。
「シルフィード、テメェ……!」
セイラに完全に知られてしまったからだ。
もう、完全にどうする事も出来ない。
流石のアルカナートも心に憎しみが沸いてくるが、それでも冷静に思考を巡らせていった。
そして思う。
───こうなっちまった以上、これしかねぇよな……
アルカナートは心でそう零すと、決意と共に剣をスッと下ろした。
そして、アルカナートらしい涼やかな眼差しでシルフィードに告げる。
「シルフィード、さっさと俺を斬りやがれ」
大切な者達の為だからこそ……




