(8) たまには俺も、休みます。(中編)
遂に俺は城下に出る。それだけで気分を高揚させるのには十分である、とは何回か言ったか。
「それじゃあご主人様~、行きましょ~」
エフに促されて歩き出す。「あ、ここからは口調変えますね~」と付け加えるのを聞きながらだが、意識は街にしか向いていない。
見慣れないエフの格好も、耳としっぽと相まって清楚系でありながら可愛いとか微塵も思ってない……はずだ。うん、そのはずだ。
暫く歩けば商店街らしき道に着いた。
「コウキさん~あれなんかどうです~?」
向こうも興奮しているのか、敬語が抜けていないエフが勧めてくる。エフが示すのは青くぷるんとした串刺しだ。
「なんだあれ?」
「あれはスライムの刺身ですよ~!」
この国では魔物を食うのは当たり前のようだ。
「ほー、買ってみるか」
俺はポケットから財布を取り出す。エフに『こういうのは男の子が払うからサマになるんですよ~』と持たされた他人の金ぎっしりの財布だ。
「へいらっしゃい!」
威勢のいい店主だ。街の店はやはりこうでないと。
「スライムの刺身二本で」
しっかりエフの分も注文。
「毎度ありぃ! 百ルゥだよ! タレは二度漬け厳禁だよ!」
ルゥとはこの国の通貨の単位らしい。
どこかで聞いた事のあるような忠告を受け、一度だけスライムにタレを纏わせる。ぷるんっとした蒟蒻状のそれにテラッとタレが輝く。これ絶対美味い。断言出来る。
一口で一切れを頬張る。美味い。
「コウキさん~、美味しいです~」
エフもいい顔をして頬張っている。
「ホントに美味い」
日本では庶民だった俺にはこういう味が非常に懐かしい。店主も味を褒められて嬉しそうである。
少し行儀は悪いが食べながら歩く。異世界の市街地は面白い。日本ではまず見ない街並みに加え、見たことも無い商品ばかりが並んでいる。王宮では見ないものも数多くある。また少し歩けば今度は雑貨屋が目に入った。エフがその雑貨屋を示す。
「コウキさんコウキさん~、あのお店見てみましょうよ~」
「雰囲気も良さそうだな。見てみるか」
笑顔でエフが頷く。俺たちは雑貨屋に入った。
扱っているのは主にアクセサリーの類だ。しかし、どれも何か特殊な機能が付いていた。
「コウキさん~これなんてどうです~?」
エフが見せてきたのは青と赤との、ペアネックレスだった。
「魔力吸収式の通話機能が付いてますよ~」
「魔力吸収式? 通話機能はとても良い気がするが……」
聞きなれない言葉に俺は困惑する。
「あ~そういえば説明してなかったですね~」
エフ曰く、この世界の基盤となる惑星の中心から魔力が湧き出ているという。その力を受けることで人類や獣人類は魔法を使う事が出来るらしい。魔力を一度に蓄えられる量がその人の魔力量だと言う。このアクセサリーや部屋のテレビ等は湧き出る魔力を直接使用できるらしい。
「なるほどー、便利だなそれは特にダンジョンとかダンジョンとかダンジョンとか」
「ダンジョンばかりじゃないですか~」
指摘も最もだ。ただ、ダンジョンを除いてずっとそばに居るからそれ以外に必要性を感じないのだ。
「まあ買ってみるか? 何かあってはぐれた時に使えそうだし」
エフが頷くのを見て購入を決定した。
「五百ルゥね、どうもどうも」
雑貨屋の店主によると今の設定では首にかけ、手で握ることで呼び出しできるそうだ。相手も同じようにすると通話が繋がる。設定を変えれば首からかけるだけで通話出来るようにもなるそうだ。距離はかなり広いらしく(この世界の単位が分からない)、しかも、相手の声は自分にしか聞こえないらしい。とても便利である。
購入してその場でかける。設定変更の方法も教えてもらい、準備は万端だ。試しにエフを置いて別室に行ってみる。早速呼び出しが来た。淡く光り、音が聞こえる。握って見れば、エフの声がはっきりと聞こえてきた。
『コウキさん~聞こえますか~』
「ばっちり。よく聞こえるよ」
いい物を買った、と二人ホクホクしながら店を出た。
また歩いていれば、今度は祭りの屋台みたいな店が並んでいるのを見つけた。
「あ~そう言えば今日はルウェス教の聖祭日でした~」
「ほーお祭りか」
俺の言葉にエフが「そうです~」と肯定する。行ってみたい。
「行きますか~?」
俺は迷いなく頷いた。
昼間からの祭りとは余程大事なものなんだろうか。辺りを見回せば弓射的らしき露店があった。
「エフ、あれやろうよ」
「射的ですか~? コウキさん弓扱ったことありましたっけ~」
「ない」
即座に否定する。だが男としてやりたいものはやりたいのだ。
射的の目の前に行く。
「らぁっしゃーらぁっしゃー! 一回二百ルゥ! そこの兄さんやんのかい?」
威勢はいいが少し柄の悪い店主に二百ルゥを渡す。七本の矢と弓が渡される。
「兄さん弓系の魔法持ってねぇよなぁ? 持ってても使っちゃアウトだぜ?」
「持ってないから安心してくれ」
店主の忠告を軽く流し、弓を握る。エフに希望の品を聞き、猫のぬいぐるみが描かれた的に狙いをつける。距離はおよそ五メートル、的の直径およそ三十センチ。素人には少しキツイかもしれない。
弦を引き、狙いを定める。
──ヒュンッ
一射目は空のみを切った。残り六射。ここからが俺である。
弓の感覚を掴み、修正する。三射目には当たるだろう。
──ヒュンッ
二射目も不発だ。だが意味はある。修正の感覚も掴めて次こそは当たる。日本では射的は友達とよくやった。その感覚が今蘇る。
──ヒュ、コン
当たった。見事猫のぬいぐるみゲットだ。
「エフ、取ったぞ!」
「やった~!」
得意な顔をしてエフに報告をすると、エフも喜んでいる。猫耳はやっぱり猫が好きなようだ。
残りの四射はエフが射た。見事に外れていたが、それでもいい、楽しければ。
大満足の俺たちはまた露店を巡ることにした。




