(9) たまには俺も、休みます。(後編)
露店は種類が豊富だ。さっきの射的に加え、魚型の魔物掬いもある。まるで日本に帰ってきて縁日を楽しんでいるかのような気分だ。いつの間にか時間が経ち、日は赤く斜めに差していた。
「エフ、次何したい?」
「そうですね~。あ、あれなんてどうです~?」
エフの指の先には「目利き」と書かれていた。何を目利きするのか。
店の前に行ってみる。十個ほど石が並んでいて、後ろに景品があった。
「お、兄ちゃんやるかい? 五十ルゥだよ!」
「やるよ」
料金を手渡す。
「ルールは簡単、この中から作りモンじゃねぇ、天然モンの石を見破るだけだ! 触ってもいいぞ! 当たったら時間に応じて景品が貰える、準備はいいか?」
俺は首肯する。
「そいじゃ、はじめ!」
合図を聞いて、石を見る。水晶の類が三つ、ターコイズが二つ、モリオンが一つ、ブラックチルクォーツが四つ。どれも日本でも高級かパワーストーンとして扱われているものだ。暇人が見尽くしたYouTubeの知識はやはり強い。
とりあえず全部持ってみる。水晶二つ、ターコイズ一つ、モリオンが明らかに軽い。これらは偽物だろう。次に水晶だ。今日買ったネックレスを直線にして、その上にかざす。回転させてどの角度から見ても乱反射しない。偽物だ。流れでターコイズの色を見る。青一色であまりにもムラが無さすぎる。これも偽物。最後にブラックチルクォーツ。四つの中のどれかが本物と踏む。ちょうどいい具合に夕日が差しているからその光に当てる。一つ目、中の針状のものが黒いままだ。これは違う。二個目も同じようにする。中の針が光沢を示した。これだ。
「おっちゃん、これだ」
店主に見せる。店主は驚いた表情で、
「兄ちゃん、初めてだよ一発で当てられたの……しかも早ぇ! すげぇ! どれでもひとつ持ってきな!」
と興奮している。
「コウキさん~! 凄いじゃないですか~!」
少し照れる。景品は豪華で、種類も豊富だ。その中から何かいいモノはないかエフに聞いてみる。
「あの剣なんてどうですかね~、多分魔剣かなにかですよ~」
「じゃあそれにするか。おっちゃん、その剣でお願い」
「あいよ! 尊敬を込めてプレゼントだ!」
今日はなかなか楽しめた一日だ。
だがそろそろ晩御飯の時間だ。エフに促されて王宮に戻る。この剣は後でヴェルズに見てもらおう。
俺たちは王宮へ急いだ。
◆
自室に戻ってきた。荷物を置き、ソファで足を癒す。流石に歩き疲れた。エフもいつものメイド服に着替え、こちらに来る。
「ではでは~ご飯にしましょう~」
脚に鞭打ち、食堂へ向かった。
食べ終わったあと、俺は例の剣を持ってヴェルズのもとに向かう。ヴェルズは自分の剣の手入れをしていた。
「ヴェルズさん、今日のお祭りで貰った剣があるんだけど見てくれますか?」
「祭りで? どれだ?」
俺は石鑑定で貰った剣を渡す。
ヴェルズは受け取った瞬間黙り込んでしまった。口を開いて言ったことには、
「こりゃ……凄い剣だ……」
「どういうことですか?」
笑いながら言うヴェルズに、俺は何も分からず聞き返す。まさか本当に魔剣なのか?
「こりゃ確かに使える剣だがただ装飾されてるだけだ」
「えぇ~~~っ!」
後ろから急にいつもは間延びしたが今は違う意味で伸びている声がした。だが叫びたくなる気持ちも分かる。エフが「魔剣だと思ったのに~」半泣きになっている。
明らかに落胆する俺たちにヴェルズが「今度本物の魔剣を見せてやるから」と宥めてくれた。
俺たちは大人しく自室に戻る事にした。
自室に入れば、今更ながら一部が変わっていることに気づいた。
「なあエフ、俺らの部屋ってキッチンあったっけ?」
違和感を率直にぶつける。
「あ~バレました~?」
やはりそうだった。若干部屋が大きくなり、キッチンが増設されていた。
「ご主人様って~ここ来るまで家事してたらしいじゃないですか~」
ま、まさか……このメイド……俺に飯を作れと言うのか?!
「休みの日は~ご主人様のご飯食べてみたいです~」
目眩がした気がした。
◆
夕食後、特にすることも無いのでいつもの溜まり場に行った。定時を過ぎているからか、人が多い。エフは自室で休むと言っていたので一人である。
「おっ、勇者さんこの時間帯は珍しいねぇ! 一戦やってかない?」
とある騎士に誘われたのは戦略系ボードゲーム、もといチェスだ。まんま地球のチェスだ。もう一人地球からの転生者がいるのではと思うぐらい変わらないルールだった。だから、ルールを覚えるのもある程度勝つのも簡単だった。
トスでこちらの黒番が決まった。白の方が良かったが気にしてはいけない。
ゲーム中、過去に地球からの転生者がいるか聞いてみた。
「あー百年くらい前に居たとは聞いたが記録がはっきりして無いらしいな」
「やっぱり居たのか」
「やっぱり?」
「おう。このチェスってゲームは地球のもんなんだよ」
相手はそれは知らなかった、と感嘆している。
そうこうしている内にゲームも終盤、相手はキングとルークが一つでこちらはキングとビショップとポーンが一つずつ。プロモーションすれば勝ちが見える。しかしここはグッと堪えてデッドポジションを狙う。すると不意にチャンスが訪れる。
「キタ!」
「何?!」
キングとルークの両取りが決まった。形成は逆転、ビショップを捨ててでもルークを取れば相手はキングのみ、こちらはキングとポーンになる。ポーンを守りきってプロモーション出来れば勝ちだ。
相手は予想通りキングとこちらのビショップの間にルークを入れてくる。ほぼ勝ち確定だ。あとは成り行きでポーンを守り抜き、見事勝利を収めた。
自室に戻るとエフが慌ただしく俺を呼んだ。
「ご主人様~! 今から花火ですよ~!」
ここの文化は所々日本に似通っていて、懐かしい気分になれた。まだこの世界に来て一年も経ってないと言うのに。
──ヒューー……ボーン!
球状に色の付いた炎が散る。俺はその花火が弾けるように、蘇る日本での記憶を愉しんだ。




