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(7) たまには俺も、休みます。(前編)

 カウンターにやられて地上に戻された。エフは予想通りニマニマと笑みを浮かべている。

 それはそうとして、今日だけで俺は三回死んだ。こんなにバッタバッタ死ぬ勇者がいても良いのだろうか。良くはない気がするが、それが俺だと諦めるしかない。

「ご主人様~そろそろ夕方ですので~今日はもう終わりにしましょ~」

 エフに言われて時間の経過に気づく。

「そうだな。今日は特に疲れた……」

 足は重いが歩ける。晩ご飯のためなら。


 ◆


 食堂に辿り着く。配膳された晩ご飯はいつもより何倍も美味かった。

「今日は疲れてますね~後でマッサージしてあげます~」

 エフが神かと思わせる提案をしてくれる。断る理由がある訳ない。

「良いのか? じゃあ頼んだ」

「頼まれました~」


 ◆


 一日の予定は全て終わり、いつもの自由時間に入る。この時間は毎日エフとテレビを見て、エフと風呂に入って、エフと寝る。なんだかんだエフは俺の生活に欠かせない存在となっていた。


 今日もテレビを見ていたら掃除に関する内容になった。そこでふとした疑問が湧く。

「なあエフ、そういや俺部屋の掃除して無いけどなんで綺麗なままなんだ?」

 訓練の疲れで気にしていなかったが、アールスと共に生活していた時は毎日自分が掃除をしていた。それが王宮に来てから一切の家事をしなくなったものだから不思議に思うのも当然だろう。

「それはですね~ご主人様とエフが訓練している時に~私の部下が綺麗にしてるからです~」

 驚いた。エフの部下の存在もそうだが、まさか第三者が部屋に入ってるとは思わなかった。これでは男の夢たる薄い本も隠せない。

「ですから~薄い本とかは~隠さないようにしましょうね~」

 エフはこういう時ピンポイントで思考を読んでくるから怖い。平静を取り戻そうにも動揺は隠しきれていないだろう。

「大丈夫だけど?!」

 エフはウフフ~とニヤついている。

「ご主人様は~薄い本無くても~大丈夫ですよね~」

 エフの意図が全く読み取れない。何を思ってこう言ったのか……。いつもの誘惑か? それとも俺はそんなことをしないと? 次から次へと、しかしループする思考は纏まる訳が無い。

「さてさて~冗談はこの辺にして~明日は休日ですよ~」

「お、明日なのか」

 毎日休みもなく訓練していては体も壊れる、と勇者の俺にも休日が設けられている。頻度は三日から五日に一日ぐらいだろうか。

「明日はどうします~? 初めての城下でも探索しますか~?」

 エフが提案してくる。そういえばこの世界に来てから市街地に行ったのはアールスと共に通過した時だけだった。いつも休日は貴族御用達の王宮の溜まり場だったから、王宮から出ると言うだけで気分が高揚する。王宮の溜まり場も色んなボードゲームがあって面白いのだが、そればかりでは飽きが来るというもの。

「そうだな、城下かぁ、見下ろすだけだったからなぁ」

 今日は早めに寝ようか。

「そうですね~、一回王宮に入ってから出てないですもんね~」

「よしエフ、風呂入って寝るぞ!」

 遠足前日の幼児のように鼻息を荒げてしまう。止めろとか無理は言わないで欲しい。エフに呼びかけてからクローゼットから服を取り出したら、エフも同じく用意をしている。ダンジョンの疲れを癒すために今日もモフり、床に就いた。エフが何やら準備運動をしていたが、そのまま眠ってしまった。


 ◆


 鳥の囀が聞こえてくる。ゆっくりと目を開ければ東から日が差しているのが目に入る。ダンジョンの疲れが癒えきっていないのか、まだ体が重い。エフが起きるまで寝ていよう。俺は瞼を下ろした。


 数分後、体の上で何かが揺れている気がしてはっと目を覚ます。そこには明らかに自分では無い毛布の膨らみがあった。毛布を捲れば、そこには何故かエフが俺に抱きついている。体が自重より重く感じた原因はこれだったらしい。

「おいエフ、起きろー」

 体を揺さぶり、声をかけるが効果が見られない。

「おーい、エーフー」

 もう少し揺さぶりを激しくしてみる。

「にゃ~」

 結果は、俺が死にかけただけだった。こればっかりは俺は悪くない。元々可愛い猫耳が抱きつきながら寝惚けて「にゃ~」とか言ってるんだけど? 猫好きキラーなのかこのメイドは?

 とりあえず起こさねば俺のHPは削られる一方なので根気よく起こす。

「エフー! 起きろー!」

 言いながら自分の体を回転させてエフの体を落とす。ぼふん、とベッドに着地すれば、もふん、と効果音をつけられそうな感じてしっぽが揺れる。そこでようやくエフが起きた。

「あれ~ご主人様~? どうされました~? 体は軽いですか~?」

 自分のやった事を覚えていないのか、こんなことを言ってくる。付け足すような謎の質問に疑問を覚えつつ答える。

「エフのせいで死にかけてた。まあ軽かったな」

「?」

 エフは何故か首を傾げていた。


 すっかり目が覚めたエフと共に朝食を摂り、城下に行く準備をする。その時、ふと疑問が湧いた。

「そういやエフ、お金はどうするんだ?」

 異世界と言えどここまで発展していれば通貨の概念があるだろう。

「お金ですか~? ご心配無く~、このエフが公費から捻出するよう手配しておきました~。お財布パンパンです~」

 金の出処が気になるところだが。とりあえずエフを信頼することにした。


 「着替えます~」と言っていたエフの着替えが終わったらしいのでエフの方を見ると、いつものメイド姿ではなく、Tシャツにロングスカートといった一般の人とあまり変わらない格好をしていた。

「あ、ご主人様~。城下でエフがメイドっぽく振舞っては~市民に怪しまれるので~ご主人様はコウキさんとお呼びします~。あと敬語もその場のみ使いません~」

 なるほど、そういう事情があったのか。

「分かった。じゃあ案内よろしくな、エフ」

「おまかせあれ~!」

 一番いい笑顔で承諾してくれた。やっぱり頼もしいメイドである。

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