(5) ダンジョン潜り、逝ってきます!(前編)
数週間が経ち、魔力もそれなりの量になったらしい。ここからは初級魔法と言われた。エフとヴェルズの言葉に従い一度出したことのある炎系から始めるそうだ。
「それじゃ~そこに訓練用藁人形を用意したので~そこに向かって火球を飛ばしてください~」
前に言われた魔力錬成を思い出し、火球をイメージする。それが飛んでいくように俺は教えられた呪文を唱えた。
『ファイアーボール!』
唱えた刹那、ビー玉サイズの貧相な火球が飛んでいく。イメージ通りに藁人形には当たったものの、火力が圧倒的に足りない。
「ダメですね~」
「ダメだな」
二人に言われ、少々のショックを受ける。
「魔力量はあるからあとは如何に上手く魔力を操作出来るかだな」
ヴェルズの言葉に、新たなメニューが追加されることが決まった。
暫くエフとヴェルズが話し合い、騎士団の後衛部総統が呼ばれることとなった。その人がこの国で最も魔術指導に優れていると言う。
「待たせたわね、コウキ君」
聞いた事のない声に振り返るとそこには妙齢の女性が立っていた。この人が後衛部総統だろうか。
「私はシャーロット。後衛部総統を務めているわ。魔法系なら任せてちょうだい」
騎士団と言っても後衛のため、見た感じ筋肉は付いていない。
「よろしく……お願いします」
シャーロットによる指導の元、魔法の基礎の基礎から学ぶことになった。
シャーロットの指導は細やかで、体感で一時間もすればすっかり火球は大きくなり、狙ったピンポイントで飛ばせるようになった。エフによると、炎系統が終わればそのまま水系統、風系統、土系統、補助系統の魔法が予定には組み込まれているらしい。時間はまだある。ゆっくりと習得していこう。
◆
シャーロットによる指導の一日目が終わった。慣れない訓練にやはり疲労が溜まる。夕食を摂ったあとは早く風呂に入って寝ることを決めた。
夕食を食べ終わり、エフと共に自室に戻る。
「ご主人様~、新しい訓練はどうでしたか~?」
エフが問うてくる。
「そうだな、いつもと違って頭を使うから余計に疲れたかな」
率直な今の感情を伝える。エフは微笑みを崩さず、労ってくれる。
「お疲れ様です~。午前中に肉体を鍛え~、午後は魔法を練習して~、とってもカッコいいです~」
エフの言葉でなんだか疲れが飛んだような心地がした。
自室に到着。真っ先にクローゼットに向かう。何かを察し、エフもクローゼットを弄る。同じように風呂上がりに着る服を用意し、向かうのは勿論浴場。今日も今日とてエフに誘惑され、エフをモフりエフに体を流される、贅沢なバスタイムを満喫した。
風呂を上がれば、動力不明のドライヤーでエフの耳を含む頭としっぽを乾かすのはもはや日課と化している。こうモフっていると時々擽ったそうに小さな体を震わすから、庇護欲が出てきてしまう。どちらが主人でどちらが従者なのか。俺は心の中で笑ってしまった。
ベッドに入り暫くしたら、エフが話しかけてきた。
「ご主人様~、この世界、どうですか~? 転生して~良かったですか~?」
「ああ、良かったと思えるよ。訓練ばかりとはいえこの世界は驚きの連発で楽しい」
「それはそれは~良かったです~」
エフがウフフ~と微笑むのを見て、俺は眠りに就いた。
◆
数週間が経った。魔法も一通り実用可能な範囲まで成長した。時々夜こっそりと魔力増強のメニューをしていたのもあってか、魔法の連発も出来る。エフ、ヴェルズ、シャーロットの三人ともからある程度の成長が認められた。そこで俺は遂にダンジョンに潜ることが決まった。ダンジョンと言っても死んだら直ぐに地上に生きた状態で戻される、騎士団御用達の訓練用ダンジョンだ。三百層まであるらしく、そこまで到達すれば相当な猛者であると知られている。
今日も今日とて、案内役はエフ。連れられてダンジョンの目の前に来た。今一度装備を確認する。銅剣、盾、携帯食料、回復剤、ライトなどなど、必要な物が揃っているか見る。
「じゃあエフ、行こうか」
俺は呼びかけた。すると、予想だにしない言葉が返ってきた。
「え~? エフは行きませんよ~? 外からモニタリングできるので~そこで応援してます~」
エフが居ないというだけで随分心細くなった。初めて潜るダンジョンがソロプレイとは、なかなか酷い仕打ちではないだろうか。
「それではご主人様~、逝ってらっしゃいませ~」
「今絶対発音おかしかった! ニュアンスが違った!」
半泣きになりながら俺は抗議したが、エフはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるのみ。俺はやけくそになりながらダンジョンの闇に飛び込んだ。
◆
ダンジョン内部はやはり暗い。まだ第一層なのにも関わらず、ライトが無ければ何も見えない。慎重に、慎重に歩を進める。
──ガサッ
急に聞こえた自分の足音以外の音に身構える。今俺の震えたのは武者震いだ。そうに違いない。
──ガサガサッ
音は着実に近づいてくる。
ライトを再び自分の前方に向けた刹那、何かが飛びかかってきた。
「ギャーーーーーッ!」
いつの日かどこぞのメイドに風呂に突入された時のような悲鳴を上げてしまった。
そんなことはどうでもいい。「何か」が襲ってきている。先ずは冷静に、冷静に……。
武器を取らなければ始まらない。俺は左腰の銅剣に手をかけ、力を込めた。




