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(3) 俺の未来、見えません。

「本日はお疲れでしょう。訓練の予定は全て明日からとなっておりますので本日はごゆっくりなさってください。それでは失礼致します」

 俺をこの部屋まで案内してくれた使用人はそう言うと深々と一礼して去っていった。

 確かに今日はもう疲れた。早く部屋で休もう。ある程度装飾された扉を開ける。目に入ったのは明らかに高級で柔らかいソファやベッド、絨毯。窓からは夕日が斜めに差す城下街。部屋の中の戸を開ければバストイレがあり、俺専用らしい。ベッドが二つあるのは気になるが、今日から貴族そのものの生活になりそうである。が、気が休まらないという欠点があった。

 この国にはもう「電波」という概念があるらしく、テレビ放映が行われている。動力は分からないが。包み込まれる柔らかさのソファに体重を預け、テレビを付ける。シャールイス国営放送や民間放送など、システムは日本に似ている。この世界の言語は理解できるのでバラエティも楽しめ、思わぬ暇つぶしができた。ゲームもあれば最高だが、そこまでの贅沢は言えない。ぼーっとテレビを眺めていたら、不意に部屋の戸をノックされた。

「ヤマダ様、御夕食の準備が整いました。只今よりご案内申し上げます」

 使用人だ。その言葉と案内に従い、俺は食堂に行った。


 ◆


 食堂には既に多数の貴族が居た。本日は勇者歓迎パーティらしい。国王が自らの横に俺を招く。

「諸君、今日はよく集まってくれた。ご苦労。今日はこの勇者、コウキ・ヤマダ殿の歓迎会だ。勇者の到着を祝福し、この場を楽しみたまえ! 乾杯!」

 長くない乾杯の挨拶に合わせ、貴族たちがグラスを掲げる。どうやら俺は何も話さなくて良いようだ。この国では成年を十五歳としているらしく、既に十七歳の俺は酒を飲める。初めて飲むアルコールは美味かった。その夜は割と飲んだ。途中からの記憶は薄く、ぼんやりと部屋に戻って床に就いた。


 ◆


 翌朝、朝日に薄らと瞼を持ち上げる。柔らかなマットレスが二度寝を促してくる。体を持ち上げようにも頭痛とマットレスが妨げてくる。或いは、重力が仕事をし過ぎているか。重力の仕事は細やかで、瞼にピンポイントで働きかけてくる。俺は今幸せだ。この微睡みは続けば続くほど気持ちいい。人はこの為に生きているのではないか。

 と、微睡みタイムを満喫していたらお決まりで入るのが妨害である。

「コウキ様~コウキ様~」

 いつもの人より間延びした声が俺を呼ぶ。朝食の準備でも整ったのだろうか。渋々微睡みタイムを捨て、扉を開ける。

「おはようございます~、コウキ様~。本日よりご主人様の専属メイドとなりました~エフトゥールと申します~」

 そこには身長が百五十センチ程の小柄な美少女猫耳メイドが立っていた。しっぽもあり、見るからにモフモフしている。歳は俺より少し下だろうか。

「専属メイド?」

 聞き慣れない言葉を復唱し、確認する。

「はい~。これからご主人様が王国にいる間は基本的に傍にお控えします~。気軽にエフとお呼び下さい~。敬語も不要です~。この世界での常識やスケジューリングなどなど、なんでもお任せ下さい~」

 この世界に来て数ヶ月、急に生活の質が上がった。この生活に慣れきった頃にまた元のアールスとの生活に戻る時が来たとしたらきっと満足は出来ないだろう。驚きの連続である。

「じゃあエフ、早速今日の予定を教えてくれる?」

「はい~。最初に朝食をお摂り頂き~、次に占い師による適正検査を受けてもらいます~。そして適正に合わせた鍛錬メニューの構成を騎士団と組んで頂き~昼食のお時間となります~。その後は魔力錬成の時間で~それも終えたら夕食を含む自由時間になります~」

「了解。あとひとつ聞きたいことがあるんだけど」

 ここで俺は昨日から疑問に思っていたことを聞く。

「なんでしょう~」

「ベッド二つあるけどさ、あれなんで?」

 そう、一人で暮らす筈なのに二組あるベッドについてだ。

「あ~あれは片方私のものです~」

 その言葉に俺は呆然とした。

「驚くのも無理無いですよね~。この世界では専属メイドとその主人は同じ部屋で生活するのが常識なのです~」

 拝啓、お父さんお母さん。俺は遠い異世界で猫耳美少女メイドと同じ部屋で暮らすこととなりました。

「ご主人様~? どうして泣いておられるのです~?」

「ある種の歓喜かな」


 ◆


 朝食を食堂で食べ終わり、いよいよ占い師の下へ出向く。

「いらっしゃい、貴方が噂の勇者様?」

 占い師の言葉に首肯する。

「先ずは自己紹介といこうか。私はツェル、王家専属占い師よ」

 何となく奇怪な雰囲気を纏う占い師は言う。

「早速、始めようか」

 ツェルは俺を椅子に座らせ、一枚の金属板を手渡してくる。ツェル曰く、ここに占い結果が出るのだという。ツェルは何やら詠唱を始めた。白い光がツェルの手から溢れ、金属板に収束してゆく。そして、薄らと文字が浮かんできた。

 占い結果を先に言うと、最悪であった。体力、魔力、物理耐性、魔力耐性、敏捷の五つは平均かそれ以下。唯一、賢明だけはかなり高かった。これは日本の教育の賜物としか考えられなかった。

「うーん、賢明だけは高いから魔力さえどうにかすれば魔法は化けそうだねぇ……」

 ふと後ろを見れば、エフが微笑んでいる。

「今日からでも特別強化が必要ですね~!」

 その微笑みが逆に怖い。俺って、育成系ゲームのキャラだっただろうか。

 とりあえず次いこう……。

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