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(2) 勇者、始めました

 翌朝、俺はアールスに連れられ、市街地に来ていた。元々都市から離れた山小屋に住むアールスだが、生活費を稼ぐ時はここに来ているという。土地勘の全くない俺はただただアールスの後ろに付いて行った。

 透き通る青空の下、市街地は混雑している。アールスによるとひと月のほとんどがこうだという。雨でも降らなければこの街から賑わいは消えないらしい。

 俺の頭には疑問が詰まっていた。異世界の言語を理解出来ること、俺が国王に勇者として招待されたこと、勇者として招待されたにも関わらず街に危機感は走っていないこと、最も聞きたいのはこの三つである。

「そろそろ城に着くぞ」

 アールスが俺にそう伝えてくる。勇者として招待されているのだから、アールスとはこれで最後なのだろうか。

 俺とアールスは少し歩いた。大きな洋風の城、と表現すべきだろうか。やけにとんがりの多い城が目の前に迫る。

「着いたぜ」

 アールスは告げる、シャールイス城はここだと。緊張からか、手のひらに湿気が籠り、心音がうるさく体内に響く。門番に例の手紙を見せれば、直ぐに通された。王の使いらしき人物が俺達二人を先導する。案内されたのは日本の我が家のリビングより広い応接間であった。

「間もなく国王陛下が来られますので今暫くお待ちくださいませ」

 使者は恭しくそう告げると、深く一礼をして応接間から退出した。一体これから俺はどんなセカンドライフを送るのか、不安と共に胸騒ぎがした。

 部屋の扉がノックされる。何度見ても重厚な戸が開かれ、高貴な衣装に身を包んだ明らかに高位の人物──シャールイス国国王が入ってきた。

「君がコウキ殿でよろしいかな?」

「は、はいっ」

 緊張のせいで口元がおぼつかない。たった二文字の返答さえ噛んでしまう。

「ふむ、先ずは腰を下ろしてくれ」

 俺は国王に勧められた通りに華美な装飾の施されたソファに腰掛ける。

「私はボーレーン・シャールイスと言う。本当は謁見の間で顔を合わせたかったが表にはだしておらぬ計画故にここでの対面となった。拍子抜けだろうが、申し訳ない」

 この瞬間、この国王は信頼出来る人物だと俺は判断した。一般市民となっているはずの俺にも国王曰く異例の対面となってしまったことに謝罪をしている。普通の国王なら謝罪の言葉など出ないだろう。

「いえ、だ、大丈夫です」

「失礼したね。で、本題に入る訳だが、心の準備はよろしいかな?」

 俺はなるべく平静を取り戻そうとした。繕う必要は無さそうだが、動揺したままでは国王の話を聞いてはいけないと感じたからだ。少しだけ間を置かせてもらい、準備が整ったと伝える。

「改めて本題に入るが、コウキヤマダ殿。貴殿は我々を救う勇者として召喚された」

 国王は俺を召喚した経緯をこと細やかに話してくれた。簡単に纏めると、今このシャールイス国は隣国であるラスカル王国と長い間休戦状態にあるという。協定が交わされてからそれぞれ四代の王位継承が行われたほど長い間らしい。そしてつい最近ラスカル王国が協定以来五代目の王位継承を行い、当時の皇太子が王座に座った。しかしその皇太子が問題で、歴代の王に比べ血の気が多いという。また、ラスカルは資源不足に陥りかけており、いつ休戦状態を破るか分からないのだ、とシャールイス国の貴族間は危惧している。そこで、異世界の才能ある者を一人召喚することに決めたが、シャールイス国の貴族は情に熱く、今生きている異世界人の召喚には反対意見しか無かった。その時、俺が癌で死にかけていたから新たな命を吹き込む形で俺を転生召喚した、とボーレーン王は話してくれた。だが、この国の魔術者は召喚魔法には未熟で、召喚する座標を正確に指定できず、数ヶ月も時が経ってしまったのだ。

「つまり、君が病に死ぬ事が見えたから我々は君をここに連れてきた。死にかけていた者の中で君が一番才能があったのだ。頼む、我が国に力を添えて頂きたい」

 その言葉に俺はしっかりと応えた。


 ◆


 勇者としての第一歩は国王との契約確認だった。ラスカル王国とは召喚時より三年間の不可侵協定を結んでいる。一つ目の項目はそれだ。不可侵協定の期限が切れる前に力を付けること。俺が訓練に励み、力を蓄えられるのは二年と少し。長いようで短く感じる。

 二つ目は貴族以外への口外無用だ。一般市民に不安を与えないために期限の六ヶ月前までは発表しない方針で固まっているらしい。あとは誰が何を担当するか、何処の部屋を貸してくれるかなどといった細かい事だったので覚えなくても次第に慣れるだろう。

 文面を確認し終わり、俺は顔を上げた。国王の話の内容から聞きたかった疑問は全て解決された。あとはこの国の人に流れを任せていれば今日は終わるだろう。

「その内容でよろしいかな?」

 国王の確認に俺は肯定する。

「じゃあこの場はこれで終いだ。部屋に案内しよう」

 国王の呼び掛けに使用人が反応する。アールスとは暫くの別れになりそうだ。

「今日までありがとうございました。また会う日までお元気で」

「おう! じゃあな! しっかり働けよ!」

 アールスに感謝を述べ、別れを告げる。アールスも色々思うところはあるだろうがいつも通り陽気に返してくれる。その陽気さが俺の不安を少し和らげてくれた。

 俺は使用人に連れられ、新たな自室へと歩を進めた。

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