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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
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41話 ー 三人の道 ー

 



 淡い月明かりに照らされた病院の屋上庭園に、二つの影が伸びる。


 花壇には青や紫となど、目に優しい花々が咲き乱れ、この屋上に唯一立っている桜の木はすっかり葉桜となっており、そよそよと擦れ合う葉の音が、しんと静まった庭園を優しく包む。





 草木が奏でるBGMを背に、オレとシャーロットは月下にある街の輝きを見つめていた。

 病院は居住エリアとアミューズメントエリアの丁度中間にあり、この辺では一番の高さを誇っている為、居住エリアの点々とした夜景と、少し離れたところに見えるアミューズメントエリアの煌びやかな夜景を同時に楽しめる。

 地元民しか知らない絶景スポットだ。



 しかし、それを眺めるシャーロットの表情は浮かばない。

 鏡がないからわからないが、多分オレも相当ダウナーな顔をしているだろう。

 少なくとも、笑う気はさらさら無かった。





「…… ありがとな」





 屋上に来てからしばらく無言が続いていたが、オレは意を決してシャーロットに話しかけた。




「お前が手際よく手当てしてくれたおかげで、被害も最小限に抑えられた」


「そんな…… 私こそ、体を張って守ってくださってありがとうございました!」




 夜景から視線を外して、シッカリとオレの方を向いて頭を下げる。

 その所作一つからも、彼女の優しい性格が滲み出ていた。




「………………」


「………………」




 またも無言になってしまう。

 シャーロットもオレに話したいことがあるらしく、その唇は何度も小さく動いている。

 お互いタイミングを見計らっている状態だった。




 …… ザワッ。


 妙に暖かな一陣の風が葉桜を優しく撫でる。

 その風に乗った一枚の葉が、まるで早く話せと言わんばかりにオレ達の間を横切った。




「…………… お前、魔法を使ったか?」




 年下に気を使わせるのも忍びないので、こちらの方から先に切り出す。




「い、いえ…… 私は何も? 今日は一度も使っていないと思いますが…… 」




 何故そんな事を?

 シャーロットは首を傾げる。


 ………… そうか。

 曖昧だった考えが確信に変わった。




「オレさ、今日頭を怪我しただろ?」




 コンコンと自分の頭を指で叩いてみせる。

 するとシャーロットは「傷口が開いたらどうするんですか!」と慌てて腕にしがみついてきた。




「ビックリさせないで下さいっ! ビックリしてしまいます!」




 本気で心配してくれたのだろう。

 慌て過ぎて日本語が疎かになっているようだ。




「悪りぃ悪りぃ、大丈夫なんだ。今から話そうとしていたのも、この傷口の件でな…… 」




 オレは既に傷口がふさがっている事。

 本来ならばありえない事。

 序でに精密検査でも異常がなかった事を話した。




「…… そうだったんですね。でも、後遺症などが残らなくて何よりです!」




 シャーロットは胸に手を当ててホッと息を吐いた。


 だが、オレが話したかったのは、そんな報告ではなく、()()()()()()()()()()()()()である。




「本来なら、こんな短時間で塞がる事無い傷口が消えていた……… お前はさっき、今日は魔法を使っていないと言ったな?」


「はい、使った覚えは…………… あっ!?」




 どうやらシャーロットも、オレが言いたいことに気が付いたようだ。




「…… 『 "想いの力" が自然と "魔法" になる 』、ですか」




 自分の手を見つめながら、そう呟いていた。


 あの後、病院のシャワーを使って体の汚れを落としたと聞いていたので、彼女の手にはもう血の跡はないはずだ。

 それでも、手の中にある骨まで見るかのように、シャーロットはジッと手の平を見つめている。




「私の魔法で、遥希さんの傷を癒したんですね…… ? 」





 そう。

 必死にオレを解放してくれていたあの時、シャーロットは正に、凪咲が目指す魔法使いとしての在り方を体現していたのだ。


 元々人の事を第一に想える彼女だ。

 だからこそ、シャーロットは常人では考えられないほどの魔法を使うことができるのだろう。





 最近、シャーロットの魔法を見ていないからすっかり忘れていたが、抱き抱えられる程大きなぬいぐるみを、形をしっかり保ったまま、何もない場所から出すことができる。

 手の平サイズの物ならばともかく、そんな芸当ができるのは、現世どころか過去を振り返ってもそうはいない筈。


 まるで、()()()()()()()()()魔法使いの様だ。




「あの時はただ必死で….… 遥希さんを何としても助けたくて…… 」


「それが婆さんが言っていた教えだったんだろうさ」




 例え魔法がなくても、結果的にその行動は形となって事を成す。


 要は、魔法を使わなくても、実際にその人の事を想って自分が行った事は、物としても、その人の心にも残るってことだ。

 服の解れを直してやれば、当然物理的にも解れは直るし、持ち主にも感謝される。





 残念だが、最初から魔法に頼りきっていた凪咲の行動パターンとは根本的に考え方が違う。

 その考えが悪いわけではないし、実際魔法ありきで働いている魔法使いもいる。

 例えば凪咲の両親とか。

 仕事の内容はあまり知らないが、そもそも魔法を使う事を前提としている職業なのだとか。


 両親の仕事柄、凪咲がそっち寄りの思考になるのは仕方がない。

 が、朱里亜婆さんを目指すのであれば、避けては通れぬ壁でもあるワケだ。





「…… で。あの時、お前は魔法を使った…… いや、使っていた事を理解した上で聞きたい」


「はい」


「凪咲のヤツは、自分が望む魔法使いになれると思うか?」





 凪咲の魔法が優秀なのは言うまでもない。

 そもそも、オレらの歳で、修復や復元の魔法やら物の記憶を探る魔法を完璧に使える時点で、控えめに言って頭おかしい。


 小学生がフェンス越えの特大ホームランを連続で打っている事に等しい。

 あり得ない話ではないが、少なくとも『コイツ、絶対プロ入りするだろうな』と感じざるを得ない、俗に言う " 天才 " であることに変わりない。





 そんな天才をも凌駕する実力を誇るシャーロットの目から見て、魔法使いの東雲凪咲はどう映っているのか。

 それに彼女は年下と言え、オレや凪咲よりも多くの経験をしている。

 彼女の祖母がどれほどの魔法使いかは知らないが、少なくともヨーロッパ中を渡り歩けるくらいには実力と名声があったのだろう。

 そんな人とつい最近まで旅をして、傍で仕事を見学し、手伝いもしてきたのだ。



 実力、経験共に、今の凪咲よりも優れた魔法使いだと言うことは間違いない。





「…………… 私は旅の途中で、多くの魔法使いの方々と交流してきましたが、ナギさんの実力は、その人達と勝るとも劣らないものだと思います」




 まだまだ新人の私の判断ではありますが、と付け加えながら言葉を紡いでいく。




「私が知る限りでも、優秀と言われている魔法使いと遜色ないと感じていましたが……… まだ魔法の使い方に拙さを感じた事も否めないです」




 それは今後の努力でどうにでもなることだ。

 だから、シャーロットが言いたいのはそう言う事ではないのだろう。


 彼女は、遠回しに『今のままでは、凪咲が望む魔法使いにはなれない』と言っているのだ。




 前に聞いた時には、まだ断片的且つ曖昧だった答えだったが……。


 今のは確信、いや、()()に近いニュアンスだった。




「…… 『魔法とは奇跡の力であり、諸刃の剣でもある』。おばあちゃんが言っていました」




 シャーロットは懐かしむように、まだ満月には程遠い月を眺めながら呟いた。




「魔法はあくまでも人の助けをするもので、決して人の道を決めるものではないと思うんです」




 そう言って、彼女は小さな手の平に、魔法で簡素だが綺麗な白い羽根を出す。

 それは、彼女の手から柔らかな風に乗って宙を舞い、やがて夜の街並みへと溶けていった。





 …… 例えば、予知能力があるとしよう。

 誰かの未来を予知して、その誰かを導くために、アレしろコレしろと指示を出す。

 確かにそれは、ソイツにとって一番幸せになれる道の一つとなるだろう。


 だが、果たしてソイツは自分の意思で生きていると言えるのか?

 決められたレールの上を走らせる事が、果たして本当にソイツの為になるのか?

 …… 果たして、それが本当にソイツが望んだ未来なのだろうか?


 違う。

 魔法はあくまでも助力でなければならないと思う。





 石に躓いて転ぶ人間に『石があるから転ばないようにしろ』と言うのではなく、本人が知らぬところで、その石をさり気なく退かしてあげる。


 どう説明すれば伝わりやすいのかはわからないが、詰まる所、魔法とは()()()()なのだ。




 その道から外れてしまうとどうなるか。


 次第に本人は愚か、周りの人間すらも魔法に頼りきりになってしまう。

 そうなってしまえば……… 一時的には良いかもしれないが、遠い未来はあまり良い結果にはならない。


 極論、()()()()()()()()と同じ道を辿るだろう。





「アイツだってまだ見習いの域を出ていないんだ。凪咲もお前も…… オレも、これから成長していけばいい」


「…… はい」


「オレがフォローしてやる。オレはいつまでもお前達の味方だ」


「………… 遥希さんは、魔法使いにならないんですか?」





 不意な質問に、オレは言葉が続かなくなる。


 魔法を使えることはこの上なく自覚しているのはもちろんだ。

 だが、将来魔法を使ってどうこうしようとか、魔法で今後の人生食っていくぞー、とは考えた事がなかった。

 ……… そういえば、魔法使いになるとかは置いといて、将来のことを真剣に考えたことってあったっけ?





 絵本や紙芝居を描いて食べていけるなら素敵だなぁと漠然と思ったことはあれど、真面目に目指しているの? と問われれば現状そうではない。


 結局、人には『魔法使いになるなら〜』とか言いながら、自分の事はからっきしだったことを痛感する。

 急に、未来への目標やビジョンを持っている凪咲やシャーロットが、とても眩しい存在に思えてきた。





「……… わからない。もしかしたらそんな未来があるのかな、とは考えた事がある」


「そうですか…… すみません、変なこと聞いちゃって」




 申し訳なさそうに頭を下げようとするシャーロットを手で制す。




「いや、オレもそろそろ真面目に決めないといけない時期だったからな。思い出させてくれてありがとよ」




 しかし、今は凪咲のことが心配だ。

 この件は忘れずに、一旦保留にしておこう。




「ところで、お前も何か言いたかったみたいだけど…… どうした?」


「いえ、私の話は……… また今度にします」




 シャーロットも何か言いかけていたことを思い出して聞いてみたが、オレの話が長かったのか、喋る気をなくしてしまったようだ。


 申し訳なく思いながらも、シャーロットに病室に帰ろうと促した。




「あんまり話していると、ナギが起きた時に誰もいなくなっちゃうな。可愛そうだから、そろそろ戻ってやるか」


「…… はいっ! ナギさん、結構寂しがり屋さんなとこ、ありますからね?」


「言うようになったじゃねェか、姉ちゃん?」


「これでも来年は高校生ですから!」




 エヘンと胸を張るシャーロットの姿は、どう見ても背伸びをしている幼女にしか見えない。

 いやはや実に可愛らしい。

 部屋に飾って永久保存したいくらいだ。


 ……… オレは相当疲れているらしいな。




 緑葉が織り成す静かなオーケストラは、いつのまにか幕を引いていて、今はただ月明かりと星々の輝きが、今はもう奏者が眠ってしまったステージを淡く照らしている。




「遥希さん、早く戻りましょう!」




 先を歩いていたシャーロットが出口付近で振り返る。



 オレ達を優しく見守っているあの月に負けないくらい綺麗な金糸の髪が、彼女を中心に渦巻いたのだった………




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