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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
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38話 ー 遺されたモノ ー

 




 あの日以来、凪咲は度々魔法を失敗するようになっている。

 最初は僅かな違和感から始まったが、それは一時的なモノで数秒後にはいつも通りの調子に戻っていた。


 しかしこの一週間で、失敗する頻度は増えており、練習するも全くうまくいっていない。

 それどころか魔法を使えば使うほど状況は悪くなる一方だ。


 凪咲の表情には焦りや不安が如実に出ており、失敗する回数も最早無視できないレベルまで来ている。

 原因が分かれば対処のしようもあるのだが、いかんせんその原因すらも分からない。





 そこで、オレは視点を変えることにした。

 凪咲と話していても原因が突き止められないとなれば、先人の知恵を借りようと思い至ったのだ。


 幸いなことに、此処には超優秀な魔法使いが住んでいた。

 彼女が残した書物の中に、何かヒントになるもがある筈である。





 現在は日曜日の午後8時。

 この土日の修行でかなりのストレスを溜めてしまった凪咲は、夕食を終えた後、早々に部屋に引き篭もってしまっている。

 表情を見るに、あれはかなり思いつめられているな……。





 付き合い始めて数週間。

 ゆっくり関係を進めていこうとしたのが裏目に出たのか、まだ恋人らしい事はあまりしていない。

 放課後に寄り道をしたり、手を繋いだりしたくらいだ。

 交際が始まった矢先にこんな展開とは、実に幸先が悪い。


 まぁ、恋人云々はともかくとして、凪咲の元気がないとこちらの調子も狂ってしまう。

 まるで昔の凪咲を見ているようで……… 。





 そんなしょげた凪咲をリビングから見送った後、オレはシャーロットと一緒に婆さんの部屋に来てもらい、書物に目を付けた理由を話した。





「…… ってことで、この本の中に改善策があるんじゃないかと言うのがオレの意見だ」


「確かに、この部屋にある本のどれもが私が今まで見てきた魔法の本よりも内容が濃く感じます。過去に凪咲さんの様な状態になった例もあるかもしれませんし、可能性は高いと思います!」





 オレの胸の内を話すと、それを理解したシャーロットは手を貸してくれるようだ。

 凪咲の表情が曇っていく一方で、シャーロットもまた、彼女を案じて難しい顔をする事が多くなってしまっていた。


 これでは誰も笑えない環境ができてしまう。

 それだけは避けたかった。




「さて、手掛かりを探すのはいいが……… 本が多すぎてどれから取ればいいか分からんな」





 部屋を見渡せば本、本、本。

 壁は全て本棚で隠れているし、机の上や引き出しの中にも本がこれでもかと言うくらいギッシリと詰まっている。

 本棚に至っては、並べてある本の奥にも更に本が並べられていた。


 それでいて大したジャンル分けがされているワケではないので、もう何が何だが分からない。

 古代語の様な文字で書かれた、如何にも古く希少な物と



『豊胸術 〜 気になる男性を快楽のドン底に沈めるためのバストを貴女に 〜 』



 なんて本が隣り合わせで並んでいるのだから、悩んで当然だろ?

 ってかなんでそんな本があるんだよ。

 後で凪咲に勧めてみよう。

 乳を見る前に血を見そうだ。





 そんなこの部屋は、まるで本の無法地帯。

 ある意味、統一性のなさが統一されていると言ってもいい。

 しかも改善策があると言うのは、あくまでも可能性の話。

 途方も無い計画に、オレの心は既に折れかかっていた。





「シャーロット。お前は最近何を読んでいるんだ?」


「私が読んでいたのは……… あれっ、なんでしたっけ?」





 あれれ? と首を傾げるシャーロット。

 はい可愛い。


 だが、こうなってしまう気持ちもわかる。

 毎日これだけの本に囲まれて、そこから無造作に取って読んでいるとなると、一体何を読んだのかも忘れてしまいそうだ。





「……… 兎に角、本を取って見ないことには始まらないか。オレはこの辺から漁ってみるわ」


「わかりました。では私は反対側から見ていきますね?」





 オレ達は有力な情報が書かれていそうな本があったら声を掛け合うように約束して、作業に入った。









「結構な数の本が集まりましたね」



 どれだけの時間がたっただろうか。

 体感的には一時間くらい経った頃、オレ達はそれぞれ気になった本を持ち寄って、部屋の中心に集めた。


 一応声は掛け合っていたのだが、どうせなら二人で一緒に見た方が良いと言う結論に至り、こうして改めて集合した次第だ。





 因みに、オレが気になって持って来た本は10冊程度。

 それでも一冊一冊が分厚いため、かなりの高さまで積み上げられている。

 …… にも関わらず、シャーロットが持ち寄った本は、ざっとオレの5倍近くあり、彼女の身長と同じ高さまで積み上がったブックタワーが3〜4建っていた。



 一番驚くべきは、これ程の数の本を抜いたにも関わらず、周りにある本棚の圧迫感が全く消えていないと言う事。

 目の錯覚だと思いたい、信じたい。





 ….… 真面目な話、どうしてシャーロットが持って来た本が多いのか。

 それは、本に書かれている内容ではなく、書かれている字にある。





 この部屋にある本に法則性はない。

 つまり、必ずしも日本語で書かれているワケではないのだ。


 英語、ドイツ語、フランス語、ギリシャ語、どこの国の言語なのかすらわからない言葉で綴られた本も山程あった。


 残念ながら、オレは日本語しか読めない。

 一方でシャーロットは、英語はもちろん、ヨーロッパ諸国の言語なら大体理解しているらしい。


 内容とかヒントとかではなく、まず読めるか読めないかの時点で差が出てしまった結果がこれだ。





 悔しい…… でも絶対に勉強はしたくないでござるっ!!





「しかし…… 一旦集めたとは言え、これでも何処から読んでいけば良いかわからんな」


「私が選んだ本と、遥希さんが選んだ本…… 少々毛色が違いますね?」





 二人の違いは他にもあった。


 専門的且つ効率的な魔法の使い方などが記された本を選んだシャーロット。

 対してオレは、凪咲の性格やここ最近の行動パターンから何か分からないかと思い、過去の例や基礎、凪咲に合った魔法がないかを模索して選本した。


 シャーロットは凪咲の総合的なレベルを上げる手助けをしてくれそうな本。

 オレのは凪咲の長所を伸ばして自信を付けさせるような本と言ったところか。





 どちらが正解ではない。

 どちらも必要なことだ。





「結局読む必要があるか…… 取り立てて要望がなければ、先ずはオレがこの中から選ぼうかな…… っと」





 自分が持って来た本の内容は大体知っているので、シャーロットの方にある本を一冊無造作に取った。


 さて、どんなプロフェッショナルでインテリジェンスな本を持ってきたのか。

 気合いを入れ直し、本のタイトルを見る。

 オレごときに理解出来れば良いが……




『豊胸術 〜 気になる男性を快楽のドン底に沈めるためのバストを貴女に 〜 』




 すまん、サッパリ理解出来なかった。

 何がって、何故こんな本を彼女が持って来た理由がわからない。

 因みに、個人的にはアリです。

 グラマラスになったシャーロットにご奉仕して貰えるとか、ドン底どころか快楽に埋まってしまうまである。




「……… あっ!? こっ、コレは後で見ようと…… ではなくっ、どどっどうしてこんな本が? あー、隣にあった本を取りたかったんですがー、ウッカリチャンデスー」




 デザートだったらしい。

 正直、胸の大きさなんて千差万別、みんな違ってみんないいのに、何故あんなにも巨乳を目指すのだろうか?

 ちっぱい派のオレからすれば、凪咲のスレンダーな乳も、発展途上のシャルロリバストも、とても素敵だと思うんだ。


 素敵だと思うんだ。





「ちっ、違うんですよ!? 凪咲さんも胸のことで悩んでいて、それが原因か…な……… って」


「お前それ、ナギに『お願いだからハルにだけは言わないでよっ!?』って言われなかったか? 」


「……………… はい、一言一句違わず、そう仰っていました」






 聞かなかったことにしてあげよう。



「……………… 」


「……………… 」



 しかし、既にこの部屋に漂い出した気まずい雰囲気までは無かったことに出来なかった。




「今日は、本を絞るだけにしとくか」


「そうですね」




 居た堪れない空気の中、オレ達の意見は合致した。

 積み上げられた本達の高さを低くして、改めて部屋の中心に置いた。




「こうして見るとかなりの量だな…… 」




 集められた本だけでも、ゆっくり1年間かけて読みたくなるくらい分厚い本。




「遥希さん?」




 少しボーっとしていたのか、シャーロットは既に部屋の扉に手をかけていた。




「あ、あぁ、悪いっ」




 扉の横に設置してある電気を消して、シャーロットと一緒に部屋を出た。




「………… ん?」




 なんだ。

 部屋から出た瞬間、僅かな違和感を感じる。




「シャーロット、今何か感じなかったか?」


「そうなんですよ。この部屋から出る時はいつもこんな感じなんです」




 彼女も奥歯にものが詰まった様にもどかしがった。

 毎日のように来ているシャーロットがそう言うのであれば、間違いないのだろう。


 …… そういえば、オレがこの部屋に入ったのはいつ以来だっただろうか。

 シャーロットにこの部屋を紹介した時は中まで入らなかったし……… ダメだ、数年前のことだと思えるくらいには入っていなかったな。




 気になって、再び部屋の扉を開ける。




 …… うん、部屋の空間を最大限に活用した本棚には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「うーむ。気にはなるが、今日のところはこれくらいにしておこうぜ?」


「…… そうですね! もう9時になる頃ですし、早くお風呂に入って明日の授業の準備をしなくちゃ!」




 シャーロットはそう言うと、トテトテと風呂場へと駆けていく。




「オレも風呂に入って授業の準備しよーっと」




 トテトテと風呂場へと駆ける。




「ってえぇぇぇっ!? だっ、ダメですよぉ!? せ、せめて…… 水着で…… っ」


「いや冗談だから」




 罪悪感を感じてしまった。




 一悶着した後、オレ達は廊下で別れて、自室へ戻った。




「……… あれぇ?」




 まただ。

 何か違和感を感じる。

 部屋に入った瞬間、脳裏にチラついたのは、先程までいた婆さんの部屋の中。


 内装も物も何もかも違うのに。

 オレの部屋と婆さんの部屋とで、何かが決定的に違う。




「ダメダメっ、寝よう! 朝起きたら案外簡単に思い出すかも知れんし」




 どうにも引っかかる感情を無理やり御して、オレは眠りについたのだった………


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