37話 ー 違和感 ー
一触即発の昼休みを終えた後。
瑠璃と中川さんとの仲も拗れることなく教室に戻り、何事もなく昼の授業を消化した。
そして今日も今日とて、皆さんお楽しみのご奉仕活動のお時間がやってまいりました!
現時点で、当初の問題を3分の2は解決したと言ったところか。
最初は絶望すら感じさせる量の投書が、今ではようやく底を見せ始めている。
難しい案件も多かったが、大概は小一時間で解決出来るような案件ばっかりだったのも幸いし、1日に複数の投書に対して答えを出したり、解決できていた。
「さっ、さぁて! 今日も張り切って行くわよ! 」
妙に吃った声で息巻く凪咲。
どうやら昼休みの会話をまだ気にしているらしく、未だにオレと目が合う度に顔を真っ赤にして俯いてしまう。
その仕草は大変可愛くあるのだが、ずっとこのままでは困る。
まぁ、明日には落ち着くだろうから、今しか見れない恥ずかしがり屋さんの凪咲を堪能しておこう。
「…… 遥希さん、何故ナギさんに向かって合唱を?」
「日本では恋人に最大限の愛情表現をする時はこうするんだ」
「なるほど、仏の精神…… ? と言うものですね!?」
あれま、信じちゃったよ。
面白そうだから今日一日黙ってよ!
ってか仏の精神ってなんだよ、あたしゃ菩薩か何か?
「そこっ、何をコソコソ話してるの?」
ビシッとオレ達を指差す。
先生を意識したのか、黒板の前にポジションを移動させてチョークまで握ってる。
実に頭が悪そうだ。
「…… 今、私をバカにした気配がしたんだけど」
「何ばいいよっとかこん娘は」
「動揺してるわね、ムチャの言葉が移ってるわよ」
一瞬で見抜かれてしまった。
…… いや動揺してたのはお前の方だっただろうって言うね。
「今日のお題はぁ〜…… シャル、ドラムロールお願い! 」
「ドラムロール、ですか?」
「こう…… ドルドルドルぅ〜って口で言って頂戴 」
「えっ、えっと…… ドルドルドルドップッぷぅっ!? か、噛んひゃいまひたぁ…っ!」
シャーロットが見てくださいとばかりにベーッと舌を出す。
やっば可愛すぎてオレもペロペロしたい。
「ちょっと、彼女の前で他の女の子にデレデレしないでよねっ!?」
「違う、デレデレじゃないっ! ペロペロしようとしたらだけだっ!」
「誇らしそうに言ってる意味が分からないけど、なおさら悪いわっ!」
背中を思いっきり蹴られた。
たまに、コイツ本当にオレの事好きなのかと不安になってしまう。
「気を取り直して、今日のお題はコレよ!」
凪咲が出した当初には、こう書かれていた。
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「料理研究部です。私たちは日頃、様々な料理の研究やアレンジをしたりしているのですが、最近作る料理が偏ってきています。
もし宜しければ、生徒会の皆さんが食べてみたいもの、又は食べたことがある珍しい料理を教えてください。
料理研究部は今、新たな道を切り開くため試行錯誤していて、何かアドバイスなどがありましたら、是非放課後の第2家庭科室までいらしてください!
よろしくお願いします! 料理研究部部長 江上 奏多」
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なるほど、こう言った投書もあるのか。
「因みにこれを選んだ理由は?」
「…… 私、今日は伸びきったラーメンしか食べてないの」
「めちゃくちゃ集りに行く気満々じゃねえか…… 」
料理研究部を第2の学食とでも思っているのだろうか。
少なくとも調理場の方に立つ気はないらしい。
「まっ、今の私に掛かればなんだってできちゃうし? たまにはこう言った部活もいいじゃない? 」
凪咲はそう言って、握っていたチョークを振る。
「………… あれっ?」
「どうした?」
しかし凪咲は答えずに、手の中にあるチョークをジッと見つめる。
一息ついた後、もう一度振る。
すると、半分ほどまで減っていたチョークが、新品同様の長さになっていた。
魔法を使ったのか。
……… だがさっきの反応はなんだ?
チョークを振った仕草は、1回目も2回目もさほど変わらなかったように見えたが。
「ありゃ、今日はちょっと調子が悪いのかしら?」
思った通り、凪咲は最初の一振りでチョークを元の形に戻す魔法をかけたかったらしい。
が、それは失敗に終わり、再チャレンジした結果、うまくいったのか。
珍しいこともあるものだ。
何もない場所からチョークそのものを出すのであれば兎も角、その場に実在するチョークを元に戻すことなんて、彼女が魔法使いを目指してから毎日練習していること。
凪咲からしてみれば、お箸と同じくらい使い慣れているはずの、体に染み付いている筈の魔法だ。
普段の凪咲からは有り得ない失敗。
隣でまだ舌を出していたシャーロットも、少々驚いた顔をしている。
ビックリしすぎたのか、舌を直すのを忘れてあっかんべーのまま驚いた表情で固まっている。
何その顔アホ可愛い。
目線を凪咲に向けたまま、シャーロットのアホ面を写メる。
側から見れば、恐ろしく手際の良い盗撮犯と思われても仕方がないくらいの迷いなきムーブ。
「ナギさん、最近奉仕活動で魔法を多用していらっしゃるので、お疲れなのではありませんか?」
「いえ、体調もいつも通りだし、眠気もないわよ? ちょっと調子に乗って集中を切らしちゃったのかもね、あははっ!」
本人はあっけからんと言うが、その笑顔はどこか曇っているようにも見えた。
「…… 考えても仕方がない。兎に角、その依頼を受けるのなら早速行動しよう」
「そ、そうね。モタモタしていると放課後が終わっちゃうし、お腹も空いたしね!」
「ナギさん…… 」
年下から呆れ顔で見られるとは、哀れ也。
オレ達は荷物を纏めて第2家庭科室へと向かった。
結論から言うと、料理研究部の問題はあっという間に解決した。
今日は料理研究部に所属している筈の智世は、家の手伝いのため帰っていると連絡があったので、いない事は分かっていた。
完全アウェーだと思われたフィールドに足を踏み入れた瞬間。
聞こえてきたのはバッシングではなく、黄色い歓声だった。
どうやら、噂程度だった『桜庭、料理が上手い説』が、星見祭を通して現実的なモノになったおかげで、料理研究部も興味を持っていたらしい。
そんな時にサプライズ訪問されたもんだから、みんな歓喜あまった…… と、後に江上部長が言っていた。
何をすればと考えていたが、オレが何かを言い出す前に、部の連中があれよあれよと質問してくるので、それにひたすら答えるだけだった。
結局、大した話はしていないのだが、料理研究部員それぞれのインスピレーションを刺激したらしく、早々にお役御免となったのだ。
一件落着。
とはいかなかった。
オレが質問攻めに遭っている間、凪咲は何度もコッソリと手元で魔法を使っていた。
叱らなければと思ったが……… やはり、時々失敗しているのが目立つ。
その後も失敗と成功を繰り返していたが、家庭科室を出る時には、いつもの様に、完璧な魔法に戻っていた。
「……… っ? 」
違和感を感じる。
具合が悪いわけではない。
ただ、こう…… 胸の中に小さな異物が入り込んだ感じだ。
オレ達は終始無言の状態で帰宅路についた。
だが、夕食を囲む時にはスッカリ元のオレ達に戻っていたので、一先ず良かった。
これからは凪咲の体調管理にも気を配ってやらないとな。
そう決意したオレは、早速明日からの献立を立て直し始めたのだった………




