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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
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31話 ー 特別な日 ー

 



 それからと言うもの。

 オレ達は奉仕活動に励みまくった。



 女子バレー部を始め、野球、サッカー部、バスケ、卓球などのスポーツ系はもちろん、文化部からの要望も多々あった。

 内容としても様々で、数日かけて解決する案件や、場合によっては出会って数分でスピード解決することも。



 その結果、季節は既に7月に入ろうかとしていた頃、ようやく部活動関連の投書を片付けることができ、オレ達は数日前から個人のお悩み相談に手を付けている。

 が、これが部活動の案件よりも厄介だった。




 例えば『学食のメニューを増やしてください』と言う案件。

 一体どんなメニューを増やせばいいのか。

 肉か、魚か、丼か、あるいはパンか。

 要件がフワフワしすぎて答えようの無い投書ばかりだったのだ。


 それでも可能な限り協力してあげた。

 全部が全部上手くいったワケではなかったけど、最後には依頼主から「ありがとう」と一言もらえていたので、それなりには役に立てたのだろう。




 そして今日も迎える放課後フェイズ。

 オレはどうする?


 1.ナギに協力する。


 一択だった。




 さて、残った投書をもいよいよ底が見え始めた今日この頃。

 本日のミッションは………



「…… あぁ、こ、これ、私達じゃ答えづらいわね」



 ピラリとオレとシャーロットに投書を見せてくる凪咲。




『僕には1年前から付き合っている彼女がいます。7月26日が彼女の誕生日なのですが、夏休みに入っている事もあり、その日を特別な一日にしたいと考えています。しかし、僕はデートコースや女性が好むものに疎く、自分が考えたプランではイマイチ自身が持てません。是非、率直なご意見やアドバイスを頂ければ幸いです。 高: 1-B name : D.H 』




 …… 恋の悩みか。

 オレも凪咲も誰かとお付き合いしたことはないし、この投書を見てあわあわしているシャーロットも、恐らく経験がないのだろう。



「一年前って…… こ、この子達まだ中学生じゃない! 最近の若いモンはマセてるわねぇ…… ハハッ」



 そっちかよ。

 ってかなんで渇いた笑いをした?



「どうする? オレ達じゃムリだろこの問題。ここにいるメンバー全員恋人どころか想い人すらいないし」


「…… っ、カッチーン…… はい来ましたー、あったま来ましたー!」



 なんでだよ。



「要は女の子が喜びそうな1日の過ごし方を考えてあげればいいんでしょ? アドバイスって書いているんだから、この子も回答通りのコースにするんじゃなくて、あくまでも参考程度に聞きたいだけなんでしょ?」


「まぁ、そうとも取れるが……」


「だっ、だったら考えてやろうじゃない、サイコーのデートプランってヤツをさ!」




 先程までの態度とは打って変わり、途端に息巻く凪咲。

 一体彼女の身に何があったのだろうか。



「デートプランですかー…… 私達も雑誌などを参考にして回答するんですかー?」




 やはり、あまり男女の関係には芳しくなかったのか、シャーロットが絞り出したように尋ねてくる。

 絞り出したと言うよりは、何処と無く棒読み感溢れていたが。

 でも、確かに解決策としては現状それしかな……




「何いってんの。せ、せっかくここに若い男女が揃っているんだから、私らで経験して楽しかったことを提供してあげたほうが、現実味があっていいでしょ?」



 とんでもないことを言い出しやがった。



「な、ナルホドですっ! 流石はナギさん、私では考え付かないことを簡単に考えつける、そこに痺れる憧れますっ!」



 なんかシャーロットも納得してるし!



「って事で、お誂え向きに明日は土曜日! 三人でパーっと遊びに行くわよ!」


「おーっ、です!」



 トントン拍子に話が進んでいっているが、オレの意見は聞かないんですねお二人さん。

 別に予定なんてなかったけど。

 それにしても、デートコースに三人で行って成立するのかよってツッコミは……野暮なんだろうなぁ。




 それに、思えば三人で出かけた事は度々あるが、それはシャーロットの探し人の情報収集を主な目的としたもので、根本から「遊びに行くぞ」と言う確固たる意志を持って遊びに行った事はなかったはずだ。


 星見祭の時はステラのみんなもいたし。

 新しくできたクラスの友達と遊ぶこともあるようだが、今考えるとシャーロットには寂しい思いをさせていたのかもしれない。




 いい機会、か。

 結局、オレも凪咲の意見に賛成して、明日のプランを考えるのだった。









「……まずい、まずいまずいまずいっ! どうしようシャルぅ〜っ!?」



 その日の夜。

 夕食を終えた()は、自屋にシャーロットを招いて作戦会議を開いていた。




「お、落ち着いて下さいナギさんっ! 普段通りに行けば大丈夫だって、この前自分でも仰られていたじゃないですか?」


「違うの、本番が迫ってくると…… あーっ、なんか自信がなくなってくるのよっ!」




 枕に顔を埋めてベッドをバシバシ叩く。

 行き場のない不安をぶつけるように。



 そう。

 放課後に見せたあの投書を私は…… いや、私達は予めから知っていた。





 私は………… ハルのことが、好きだ。

 それはもう何年も前から。


 兄としてではなく、男の子として。





 そしてそれは、今回の私の修業の一環である奉仕活動を通じて、更にその気持ちが強くなってしまった。


 前から知っていたことだけれど、遥希は何だかんだ言いながら面倒見がいいし、口はちょっと悪いけれど、それは優しさからくる照れ隠しだってことも知っている。

 奉仕活動をしている中、そんな遥希の良いところを沢山目の当たりにしてしまった。




 力仕事ではとても頼もしかった。

 難しい問題でも、先方の事を第一に考えてやり取りしていた。

 それでいて自分だけで話を進めずに、あくまでも私のサポートとして、さり気なく立ち回ってくれた。

 相手から「ありがとう」って言われた日は「よく頑張ったな」って頭を撫でてくれた。




 あぁ、私の好きな男の子はこんなにもステキな人だったんだ。

 今まで抑えていた想いが、この奉仕活動を通じて益々膨れ上がってしまう。


 だから、私は…… 遥希にこの気持ちを打ち明けようと思った………… が。

 今更何処かに呼び出して告白とか、恥ずかし過ぎてムリっ!




 夜な夜な悶々と悩んでいるところに、とある晩、シャルが魔法のことについて聞きたいことがあると、私の部屋に訪れたのだ。

 誰でもいい、私の悩みを聞いて欲しかった。

 藁にもすがる気持ちでシャーロットに相談したところ……




「ステキなお話しですっ! 皆さんを笑顔にする魔法使いを目指す第一歩として、ナギさんの恋が実るようご協力させて下さいっ!」



 快く相談に乗ってくれた。


 もちろんこの件は遥希にバレないようにしている。

 そして、日々秘密裏に話し合いを続けていた私達はある結論に達した。




 それが今回の投書。

 私達が仮のデートをして、最後にさり気なく想いを伝えると言うのが今回のプラン。

 因みに投書の内容は本物なので、デートプランは私の恋とは切り離して真面目に考えているので悪しからず。


 このデートがうまく行けば、総じて投書を出した生徒も満足いくプランとなるだろうし、あわよくば私は遥希との恋が実る、一石二鳥の大作戦!



 なのだが。




「うぅ…… ゴメンね、シャル。 あなたには演技までして貰ったのに……… ここに来て私、怖気付いちゃって」



 生徒会室で投書を見せた瞬間、シャーロットには初めて見たかのようなリアクションを取ってもらうように予めお願いしていた。

 ちょっとぎこちなかったけど。

 私も精一杯平然を装ったんだけど、怪しまれなかったかしら?




「あわわっ、私、恋愛とかまだよくわからないんですが…… 好きな人に想いを伝えるのって、大変なことなんですね」


「そう、大変なのよ! うまくいかなかったらどうしようとか、もし断られたとして今後顔を合わせ辛くなるんじゃないかなとか、ネガティブな方に考えが行っちゃうのよ……」




 それに、今まで兄妹同然に育ってきた私達だ。

 私が告白することで、兄妹として、家族としての関係が壊れてしまうのではないか。


 何よりも『妹としてしか見ることが出来ない』なんて言われた日には、二度と立ち直れないかもしれない。




「…… おばあちゃんも恋愛相談を受けていましたが、どちらかと言えばポジティブな人が多かったので、私が聞いてきた内容ではお力になれませんね……」


「例えばどんな相談を受けてたの?」



「例としては…… ナギさんと同じで、想い人に気持ちを打ち明けようとしていた方の話ですが、


『私がこんなにも愛しているのだから、彼もきっと私の事が好きな筈っ! だから、結ばれた記念として何か彼にプレゼントしたいのだけれど、どんな物がいいかしら!?』 


 と言う相談を隣で聞いたことがあります」



「うわっ、告白する前から成功を信じ切っている…… 流石は世界、日本とは考え方がだいぶ違うのね」




 私にもそんな自信がカケラほどでもあれば、こんな気持ちにはならなかったのかもしれない。


 でも、もう決めてしまった。

 覚悟を決めた上で、今日の放課後に満を持してあの投書を遥希に見せたのだ。

 後戻りはできない。



 しかも夏が近づいて、皆浮き足立つシーズン。

 それは遥希も例外ではない筈。

 ここでモノにしなければ!



「…… このままズルズルと先延ばしにしちゃうと、誰かに取られるかもだし」



 奉仕活動をしている中、遥希の評判はうなぎ登りだった。

 元から面倒見が良いことで評判になっていたが、それが奉仕活動に関わった人や側から見ていた生徒達の目に入って、益々人気が上がっている。




 今、女子の間では『王子様のリチャード』、『面白い弘信』、『頼りになる遥希』のステラ男子の三択問題があちらこちらで議論されたりなんかもしてるし……。


 リチャードは金髪長身の如何にもなイケメンだし、遥希はさっきも言ったように頼り甲斐があるのは間違いないが、弘信もそこそこ人気がある事をここ最近で初めて知った。


 普段の言動は性的欲求大爆発の思春期男子その物だが、男女問わず誰と話してもおちゃらけている子供っぽさと、ふとした瞬間に見せる真剣な表情のギャップが人気を集めているようだ。




「遥希さんは私から見ても魅力的な男性だと思います」


「ちょっ、いくらシャルでもハルはダメっ…… あっ」


「ふふっ、今のナギさんとっても可愛かったです! ギュってしてもいいですか? いいですかっ!?」



 言い終わる前に抱きつかれてしまう。



「シャルっ、あなた言うようになったわねっ!」


 ギューッ!!


「ピャーッ!」




 こちらもお返しとばかりに抱きしめ返すと、シャーロットが「おやめくだされ〜っ!」と戯れてきた。

 女の私から見ても、彼女の容姿や行動は可愛いと思う。


 シャーロットに癒されて、気持ちが少し楽になった。




「…… でもいいんですか? 明日は私、ご一緒しない方が……」


「いえ、寧ろ私が逃げないように一緒にいて頂戴? それに、私も、多分ハルも、あなたと一緒に過ごしたいの。だから遠慮しないで、明日はあなたのやりたい事をドンドン言ってね?」


「…… はいっ!」




 更に擦り寄ってくるシャーロットの頭を撫でる。


 勝負の前日。

 最高のコンディションで、眠りにつくことができた………。



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