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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
33/55

30話 ー 婆さんとの約束 ー

 



 あれから小一時間話し合った結果。



「ほんっっっとうに助かったよ! これで暫くはスムーズに練習ができるわ!」



 矢口部長は何度も何度もお礼を言っていた。


 オレ達が実行したこと。

 それは、新しい道具を出す事ではなく、修理する事だった。

 ネットはバレー部の連中が身を削って買うとして、支柱の問題は、やはりハンドルが回らない点にある。




 練習が一段落して、コートを使わなくなった後、支柱を貸してもらって観察した。

 ギアは錆び、ハンドルはユルユル。

 先端に付いているロープをかける為のローラーの回りも悪かった。


 そこで、体育館にあった工具箱を引きずり出して直そうと考えたのだが…… 中々上手くいかない。

 当然だ、素人なのだから。

 下校時間ギリギリまで頑張ったが、結局上手くいかなかったオレ達は、最後の手段を使った。

 魔法である。


 オレは最後まで反対したのだが、現状他に打つ手がないのも確かだし、最大限の努力をしてもできなかったのだ。

 確かに魔法は自然と出るものかも知れないが、どんな物にせよ使わなければ意味がない。




 凪咲は部品の一部を魔法で出して、それを支柱にはめ込んだ。

 耐久力もちゃんと確かめたので、ある日いきなり壊れるなんて事はないだろう。

 これ以上は怪しまれる段階へ踏み込んでしまうので、応急処置をしたという事にしてバレー部に支柱を返した。

 支柱がミシミシ音を立てるのは相変わらずだが、ハンドルやギアは前よりもうんと回しやすくなった為、女性でもある程度楽にネットを張れるだろう。



 矢口部長にも試してもらったが、全く問題なく回す事が出来たので、部員達は大喜び。

 最終的に魔法を使ってしまう事になったが、本来の目的は凪咲の魔法使いとしての修業だ。

 これも一つの答えとして、今は受け止めておこう。





 何度も頭を下げるバレー部一同に別れを告げて、オレ達は帰宅路を歩いていた。


 オレとシャーロットの前を歩く凪咲は、まずは一つ問題を片付けたことに大満足だったみたいで、偶にスキップなんかしている始末。


 一方で、オレはどこか今の凪咲に危うさを感じていた。




「……シャーロット。お前のおばあちゃんはどんな魔法使いだったんだ?」



 隣にいたシャーロットに囁く。

 凪咲に聞かれるわけにはいかないしな。



「私のおばあちゃんも基本的には、あまり魔法を使わずに人助けをしていました。魔法を使った時も、気がついたら使っていたと言いますか、後で知らされて気がつく事が多かったです」



 やはり、か。



「お前から見て、今の凪咲をどう思う?」


「………… 少なくとも、おばあちゃんとは少し違った考え方をお持ちだと感じました」


「同意見だ。アイツがどんな魔法使いになっても構わんが、今のままだと…… 」



 壁にぶつかるだろう。

 直感的にそう感じた。



「ほーらハル、シャル! 早く帰ってご飯にしましょ!」


「お前…… 人が作るからって軽く言ってくれるなぁ」


「それだけ遥希さんのご飯が美味しいんですよっ?」



 まぁ、悪い気はしないけどさ。

 とりあえず、この件は保留にして様子を見よう。



 その後オレ達は食材を買って、普段よりもちょっとだけ腕をふるったご飯を囲んだのだった。







 久しぶりに夢を見た。


 これは夢?

 予知夢?

 … …違う。

 これは過去だ。


 舞台には小さな男の子と女の子。

 そして見覚えがあるお婆さんが立っていた。




「今日から一緒に暮らすことになった、東雲凪咲ちゃんよ」


 お婆さん…… 朱里亜が男の子に女の子の事を紹介している。

 対して女の子は、婆さんの後ろに隠れて男の子と顔を合わせようとはしなかった。



 ああ。

 これは、オレと凪咲が出会った時の夢だ。



「…… 遥希。見ての通り、この子は内気で自信がなく、弱い子だ。お前が家族として、兄としてこの子を守っておくれ?」



 婆さんは優しく男の子…… 幼い頃のオレに言った。



「…… アニは弱い子を守るの?」



 オレはまだ意味がよくわかっていないらしく、首を傾げていた。

 あの頃はまだ、何もかもよく分かっていなかったからなぁ。



「違うわ。お兄ちゃんはね、妹を守るの。辛い時は側にいて、泣きたい時は思う存分泣かせてあげる。そして、何よりも妹を笑顔にしてあげないといけないのよ」


「…… 婆さんが言うなら、そうする」


「お前は()()()()()()()()分からないことも多いか…… 仕方がないわね。これからゆっくり覚えていくといいわ」




 困ったように笑う朱里亜は、どこか遠くを見ているようだった。

 オレがこの孤児院に来て一年が過ぎたある日。

 妹が出来た。


 最初は逃げられていたけど、共に暮らしているうちに、次第に慣れてきたのか、数ヶ月後にはいつもオレの後ろに引っ付くようになった。


 でも、人見知りまでは治らず、極力外の世界へと出ようとはしなかった。





 舞台は変わり、どこかの教室。

 オレ達は初等部に通うようになっていた。



「うわっ、捨て子兄妹が来たぞーっ!」



 クラスのガキ大将がオレ達を指して喚き散らす。

 周りにいたクラスメイトもそれに便乗して、やれ近づくなだのやれ捨て子菌が感染るだのと言いたい放題だった。


 当時のオレには『捨て子』の意味がわからなかったが、凪咲には堪えたようだ。




 家に帰ると、凪咲は泣いた。

 彼女は人前では決して泣かなかった。

 思えばこの頃から既に、猫被りの才能がある開花していたのかもしれない。



「私っ、捨てられたのかなぁ? おとーさんとおかーさん、私のこと、忘れちゃったのかなあっ!?」



 オレはどうしていいかわからなかった。

 泣いたことも、寂しいと思うことも、不安になったことも……… お別れした事もなかったから。



 それでも、兄として妹を笑顔にさせないといけないと言う教えは守りたかった。

 オレはこっそり練習していた魔法をかける。

 誕生日プレゼントとして買った、桜色のリボンに。




 一つは『願いを叶える魔法』

 凪咲が少しでも前向きに、笑顔になれるよう願いを込めた。


 二つ目は『記憶の魔法』

 お互いの事を決して忘れないようにする魔法。


 オレは凪咲にリボンを渡しながら言った。




「オレはお前を忘れない。だから、お前もオレがいる事を忘れないで? お兄ちゃんだから、ずっと凪咲の側にいるよ」



 凪咲はそれを聞いて、また泣いた。




 幼い頃の凪咲は弱かった。

 泣き虫で、ドジで、トロくて、引っ込み思案で、いつもオレの後ろに隠れていて。



 でも、リボンを付け始めてから凪咲は変わった。



 人と積極的に接するようになった。

 よく発言するようになった。

 オレの前を歩くようになった。


 オレは嬉しかった。




 また場面が変わる。

 これは、オレの誕生日パーティーの時だ。


 既に弘信や鷲峰姉妹ははしゃぎまくっていて、廻流はお行儀よく椅子に座ってじっとしていた。

 幼い頃のみんなは、今とは大分違う印象だ。

 弘信はあまり変わってないが。


 そんな中、外から帰って来た凪咲が遅刻して入ってきた。

 パーティーの中、皆自分達が用意したプレゼントをオレに贈った。

 そして最後に凪咲の番が回って来る。


 でも、彼女は何もくれる事なくオレに言った。




「ゴメンね! ハルの事忘れちゃってたから、プレゼントは用意してないのっ」




 あの時、オレはどんな表情をしていただろうか。

 仕方ないね。

 プレゼントより、みんなで美味しいモノを食べよう。

 そんな事を言った気がする。



 でも。


 その後一切、『記憶の魔法』を使うことはなかった。


 彼女の反応を見て確信した。

 オレは失敗したんだ。

 だから、『願いを叶える魔法』も…………




 ……………。


 遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。

 朝だ。

 陽の光が容赦なくオレの顔を照らす。

 目覚めは良くも悪くもない。

 ただ、胸の奥に寂しさがほんの少しだけ渦巻いていた。



「もう10年か」



 凪咲を見守って来た時間。


 最近、オレは彼女を家族や妹として見るようにしている。


 逆に言えば。

 それは今までは意識せずとも当たり前だったのに、意識しなければ何かが崩れてしまう。

 そんな不安があった。



 大きく深呼吸をする。

 オレは家族として、兄として、朱里亜のような魔法使いを目指す妹を応援してやるだけ。

 婆さんと、そう約束したのだから。



 今日もまた、1日が始まる。




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