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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
32/55

29話 ー 焦り ー

 



「いやぁ助かるよー、まさかホントに来てくれるとはねぇアッハッハっ!」



 体育館内。

 オレ達…… と言うより凪咲の顔を見た女子バレー部部長の矢口さん( 三年生 )の笑い声が響いた。



『壊れたネットと支柱をどうにかしたい。高:女子バレーボール部部長』



 記念すべきファーストミッションに選ばれたのは、そんな事が書かれていた投書だった。


 選んだ理由は、比較的目的がはっきりしている事。

 他にも似たような投書はあったのだが、その中で無造作に選んだ結果、この投書だった。

 それともう一つ。



「ナギーっ! 来てくれたんだなぁっ!」


「ひやっ、ちょっとキョンピー!? 汗臭い身体で抱きつかないでよっ!」



 凪咲の親友である中川さんが所属しているので話がしやすいと言う理由もあった。

 因みに中川さんの名前は『杏香(きょうか)』。

 いんちょ( 瑠璃 ) と凪咲は彼女の事をいつからか『キョンピー』と呼んでいるようだ。



「…… わかったから話しなさいって! で、目安箱にはネットと支柱? が壊れたって書いてあったんですが」


「そうなんだよねー、丁度今からコートを設置するから見ててよ!」



 言われるがまま、コートの端っこで現場を見守る。


 まずは体育館床のカバーを外してネットを固定するポールを立てる。

 このポールを支柱と言うらしい。( まんまやんけ )


 次に出てきたのは肝心のネットだが……。



「酷いわね、これは」



 凪咲がバレー部員に聞こえないようにポツリと囁いた。

 編み目はボロボロで千切れている部分もあり、幸い支柱に固定するための太いロープは健在のようだが、最早ネットとしてでは無く、ただ高さの目安になるロープを張っているだけと言う印象。

 素人の目から見ても、そのネットが既にリミットブレイクしているのは明らかだった。



「虫食い状態と言うんでしょうか…… アレって直せるものなんですか?」


「ムリだろうな。直せたとしても専門店に預けないと……いや、あの状態なら買い替えた方がまだ早いだろうな」



 あまりスポーツの事を知らないシャーロットが見てもこの反応。

 寧ろ今までよく持っていたと褒めるまである。



「ネットはいいんだ。みんなでお小遣い集めて買うからさ。問題は支柱にあるんだ」



 一通りの作業を終えた中川さんがこちらに駆け寄ってきて、ネットを掛け終えた後の支柱を指した。



「ファイト〜っ! これがぁ…回らなきゃぁ…練習できねーっ!」



 二本ある内の片方で、さっきの矢口さんがめっちゃ頑張っている。



「バレーボールの支柱ってさ、ネットをピンっと張る為に支柱に付いているハンドルを回してロープを引っ張るんだけど……ご覧の通り、ハンドルが中々回らない上に無理やり回すと支柱からミシミシ音がするんだよ」


「かなり深刻じゃない! なんでもっと早く言わなかったの?」


「言ったさ! でも部員数も十人くらいで成績もあまり残していない部活動だからどうしても後回しにされちゃうんだよ…」



 怒り…… いや、焦りの表情を見せた中川さん。

 クラスではいつも大雑把で明るく振舞っていたので、こんな彼女を見たのは初めてだ。



「これまではどうしてたんだよ?」


「あぁ、いつもは体育館を使っている別の部活の男子にお願いしてるんだ。ただ、今日は偶々体育館を使っているのが私らだけだったのさ」



 お手上げーと両手を挙げる中川さん。

 その拍子にほんのり汗ばんだ健康的な二の腕が露出する。

 加えて、その根元である脇と胸が強調されて…… なんかエロい。

 制服の上からじゃ分からなかったけど、中川さんって結構胸が大……



「あーっとハルのシューズの上にバッタがぁ〜っ!!」


「ギャァァァッ!?」



 いきなり凪咲がオレの右足を踏んづけて来やがった。

 ゴロゴロと右足を抑えて翻筋斗打(もんどりう)つ。



「あっごめーん、私の見間違いだったみたい☆」


「…… 仮にバッタがいたとしても、踏み潰すことはなかったと思うんですがねェ」



 コイツ、最近益々暴力的になってきたな。

 女の子なんだからもう少しお淑やかにして欲しい。

 だが、コイツは猫被りのプロフェッショナル。

 オレ達以外の目を盗んで行為に及んでいるので、側から見ればオレが急に転がっている様にしか見えないだろう。



「…… 相変わらず愛されてるな、桜庭?」


「痛みでしか伝わらない愛ならいらねェよ」



 ボソッと耳元で囁かれる。

 そのまま殴り飛ばしても良かったのだが、今は置いておこう。



「ハンドル固いんだろ? オレがやるよ… イテテっ」



 一度つま先を合わせてから、支柱の元で踏ん張っている部長さんのところへ向かう。



「オレがやりますよ…… うわっ、こりゃホントに固そうだ」


「… あっ、桜庭くん」


「……むむっ」



 部長さんにその場を開けてもらいハンドルを見ると、ギアの部分は錆びており、取り外し可能なハンドルも結構ガタが来ていてかなり回しにくい。


 が、オレだって男の子。

 周りからは小さいだの中性的だのア◯ル弱そうだのクソミソに言われているが、これでも運動神経は良いし大抵のスポーツならなんでも熟せる自信がある。

 それもこれも、周りから舐められないように筋トレや走り込みをした努力の結果だった。


 故に。



「…… おぉ、みるみる回っていく」



 多少の抵抗はあるものの、案外すんなりハンドルは回ってくれた。

 そして程よくネットが張ってきた頃、ギシリと言う音とハンドルから伝わる違和感を感じたのでストップした。



「こんな感じでどうです?」


「助かったよー、流石は男の子だね! 廻流もいい弟分を持ったもんだ!」



 豪快に頭を撫でられた。

 バレー部部長と言うだけあって、身長は女性の平均よりはかなり高い矢口部長。( オレ目測175cm前後 )

 廻流と接してきた経験上、このシチュエーションでは……



「ちょっ、やめて下さいよ! オレも男なんですから!」


「ファァァッ! いいね、キミいいね! ウチの弟分にもなってくれよ、ハッハッハ!」



 ちょっと照れた感じに対応すると年上受けがいい事を学んでいた。

 まぁ、8割は素だったのだが。



「…………( ムッスー )」


「あ、あのあのっ、ナギさんどうしたんですか?」


「気にしないでやってくれ転入生。自分のお兄ちゃんが取られそうだからムクれてるんだよ、ナギは」



 外野の視線が痛かったが、役に立てて良かった。



「ありがとね弟くん! じゃ私達は練習に戻るから、前向きに検討してくれな!」



 矢口部長はそう言ってバレー部に集合をかけて練習を再開し始めた。



「……さて、これからどうするよ」


「…………」


「おい、ナギはなんで不機嫌なの?」


「乙女の秘密ですよ、遥希さん」



 ……あっそ。



「…… 一先ず体育館裏にある用具室へ行きましょう。まだ新しい道具や使える物があるかも知れないわ」



 と、意気込んで用具室を隈なく探してみたものの、結局使えそうな道具はなかった。



「いきなり手詰まりか」


「ネットは買えるんですよね? なら支柱もどうにかならないのでしょうか?」


「うーーん…… あぁ、こりゃ無理だわ」



 凪咲は弄っていた自分のケータイ画面を見せてくる。


 其処にはバレーボール用品店のサイトが映っていて、その一部に支柱の購入アイコンがあったのだが……



「安くて10万、良いので40万か」


「ネットの比ではありませんね……」



 10万円なら部員全員で出し合えば買えなくもないのだろうが、ネットも買わなければならないとなると苦しいだろう。

 バイトをして貯めるにしても、その間練習ができないワケだし本末転倒だ。



「……そうだ! シャル、あなたの魔法でどうにかならないかしら?」


「おい、魔法は使わないんじゃなかったのかよ」


「バカね、人を助けたいと思う心が魔法になるのでしょ? 私は真剣にバレー部の事を思っているもの」



 それは魔法を使うに値するんじゃないの?

 凪咲の目はそう語っていた。


 ……多分、朱里亜の婆さんが言いたかったのはそう言う事じゃない。

 お前は、昔から魔法に………



「で、出来ることには出来ますが…… どうしましょうか、遥希さん?」


「………いや、やめておけ。あと、シャーロットは今後オレの許可なく魔法を使うな」


「なんでよっ!!」



 突っ込みではない。

 凪咲は本当の怒りをオレにぶつけて来た。

 こちらも負けじと睨み返す。



「冷静になれよ。例えば、今ここでシャーロットに道具を出してもらうとしよう。それで全部解決するのかよ?」


「当たり前じゃない。バレー部にも喜んで貰えて、私達も目標を達成できる。万々歳じゃない!」


「数十万する道具を今持って行ってどう説明するんだ? 学園に相談したくらいだ、体育館は愚か学園全体を探し回っても見つからなかったんだろうさ……そんな中、突然相談に乗ってくれたその日に高価な新品の道具を渡されてみろ」


「……そ、それは」



 当然疑問に思うだろう。

 値段もそうだが、どこから持ってきたのかとか。

 魔法使いとバレるところまでは直結しないだろうが、今後もこんな調子じゃ確実にボロが出て噂が広がり、魔法使いにとって良くない状況になるだろう。



 まるで『魔法使いと笑顔の魔法』に出てくる町の人々と同じように……



「お前の気持ちを疑っている訳じゃないんだ。婆さんを思い出せ。大魔法使いでありながら、無闇に魔法を使う人じゃなかったはずだ。その意味を考えろ」



 沈黙が数秒だけ続いた後、フゥッと凪咲は力を抜き……


「…………そうね。ゴメンね、ハル…… 私……。」



 少しは頭が冷めたのか、素直に謝った。

 そんな彼女に近づいて、昔のように頭を撫でてやる。



「気にすんな。適切なアドバイスをするのもお兄ちゃんの務めだ」


「あっ……んっ」



 凪咲は暫く黙って気持ち良さそうに頭を撫でられていた……。



「……… ドキドキっ」



「「あっ」」



 すっかり二人の世界に入っていたオレ達は、隣にいた金髪ロリの存在を忘れていた!



「あっ、どどどうぞ、こちらの事はお気になさらず……ドキドキっ!」


「いっ、ちがっ……いつまで頭に触ってんのよこのスケベっ!!」


「バレボッ!?」



 殴られたオレはキリモミ回転しながら硬いマットの上に叩きつけられる。

 何故こんなコトに……。



「ヘンタイ! ヘンタイ! もうっ、私ちょっとトイレ行ってくるっ!!」



 見事なコークスクリューを披露した凪咲は、勢いよく用具室を飛び出した。

 いけない、今あの猛獣を野に放ってはいけない。



「遥希さんっ、大丈夫ですかっ!?」



 心配そうに駆け寄ってくるシャーロットたんマジ天使。



「……シャーロット。アイツは今、何を焦っているのか分からんが、どうも暴走気味だ」


「……はい」


「女の子同士でしか分からんこともあるだろう。だから、なるべくアイツの側にいてやってくれ」


「ま、魔法はどうしましょう?」


「さっきも言ったが、緊急時以外は使わないようにしてくれ。もしオレがいないところで無茶な魔法を使う、或いは使ってと頼まれたら、すぐに連絡してほしい」


「わかりました」


「オレもなるべく側にいる。一緒にナギをサポートしてやろうな?」


「……はいっ!」



 オレはシャーロットの頭を撫でた。

 凪咲とは違う撫で心地に少し驚く。

 髪は女の命と言うのはよく聞く話だが、こうも人によって髪質が違うとは……。



「……ふふっ、小さい頃におばあちゃんに頭を撫でてもらった時のことを思い出しますっ!」



 シャーロットは自ら頭を擦り寄せてくる猫のように、オレの手をグイグイ頭で押して来た。



 か、かわっ……可愛い…。



 それから暫くじゃれ合った後、トイレから戻ってきた凪咲を含めて、再び作戦会議を開いた。





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