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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
29/55

26話 ー 星見の鏡 ー

 



 夜。


 そこには昼間までの喧騒も祭囃子も聞こえず、ただ舗装された道の片隅にポツポツと小さな灯りが足元でぼんやり光っているだけだ。



 道行く人々の数は日中よりも更に増していたが、聞こえてくるのは、極力ボリュームを抑えた話し声と木々の葉が擦れ合う音。

 草の陰からは鈴虫が奏でる静かなオーケストラ。

 たったそれだけなのにも関わらず、人々はこの星見エリアに押し寄せていた。




「し、静かですね…… お祭りは終わってしまったのでしょうか?」




 シャーロットは空気を読んで声を潜めながらオレの耳元で囁く。

 甘い吐息が直に耳や首筋に触れてしまい、思わず奇声を上げてしまいそうになるが、唇を噛んで我慢した。




「いや…… いよいよ本番を迎えるのさ、この星見祭は」




 オレの回答に首を傾げる彼女の姿は、足元から伸びる灯りに照らされているせいか、より一層幻想的に見える。



「この時期の島の空は良く澄んでいてな。まぁ、百聞は一見に如かず…… みんな、例の場所に移動するぞ」



 状況がわかっていないシャーロット以外は、静かにコクリと頷いた。







 オレ達が向かったのは、星見エリアの最奥にある古い高台。

 オレと凪咲がよく行くあの場所だ。


 草木を掻き分け、急な斜面を登らなければ辿り着けないこの場所には、オレ達以外の姿はない。

 街灯や建物の明かりも一切なく、懐中電灯がなければ正に一寸先は闇である。



「は、遥希さぁん…… ここ、ちょっと怖いですぅ、お化けさんとか出てこないでしょうか?」




 既に日が沈みきった現在、この月の明かりと懐中電灯しか頼ることができない高台は、()()()()なスポットと化している。

 真夜中に一人で来ようものなら、オレだって逃げ出したくなるかも知れん。


 だが、それでもこの場所に来る理由がオレ達にはあった。



「シャーロット、見てみな?」



 オレは高台に設置された申し訳程度の柵の近くへとシャーロットを誘導した。


 おっかなびっくり柵にしがみついた彼女は、恐る恐る顔を上げる。




「………これは」




 そこから見える景色。


 それは、薄黒く染まった満零湖と、その奥に見える慧神島の夜景。

 星を散りばめた様に光っている街明かりは、一瞬で恐怖心を消し去るのには十分過ぎる美しさだ。



「ふぁ… 綺麗です!」



 シャーロットも例外ではなく、震えながら握っていたオレの裾を離して大きく身を乗り出していた。



「私達の特等席よ。島の人でも滅多に近づくことがないわ」


「来るのも結構めんどいしなー」


「アタシは運動になるから好きだぞ!」


「それ、姉さんだけだよ…」


「私も楽に来れる」


「メグ先輩の場合、ヘリをチャーターしてくるからなぁ…」



 冷たい闇は、ステラの笑い声で晴れていく。

 草葉の陰で見ているお化けとやらも、オレ達ならば笑わせてやる事が出来るだろう。




「おっと、そろそろ時間だ。みんなライトを消せ」




 腕時計を確認した廻流の一声で、全員が会話をやめて持っていた明かりを全て消した。



「えっ!? な、何がはじまるんですか!?」



 突然の行動に取り乱すシャーロットの肩を抱き、再び満零湖へと体を向けてやる。



「……シャーロット、覚えておけよ? 世界一美しい慧神島の夜景を」



 時計の針が8時に迫る。



「3……2……1……っ!」





 瞬間。


 街の明かりが一斉に消えた。


 そして、深い闇へと繋がる穴の様だった満零湖には…………





「……………………」





 雲一つない夜空が、無数に輝く星々と共に満零湖の水面に映る。


 人工的な光はどこにもない。


 ただ淡い月光が島と湖を優しくを照らしていた。







「…… 満零湖は、"星見の鏡" とも呼ばれていてな、波が殆ど立たない夜には大きな鏡になって夜空をそのまま湖に映し出す、大自然が齎した奇跡をこの島の人間は『星映(ほしうつ)し』と呼んでいるんだ」


「…………………」


「特にこの時期は良く映る。星見祭当日の夜8時から30分だけ、島にある全ての電気や街灯を消す事で、星映しを最大限に楽しもうとする催しがあって、次第に規模が大きくなり星見祭になったのさ」




 まだ瞳を奪われて動かないシャーロットに解説してやる。

 多分耳には入っていないだろう。

 それ程までの美しさを誇った星映しが、オレは好きだった。




「……ハル、そろそろ食おうぜ?」




 暫く無言で星映しを楽しんでいると、待ちきれないと言わんばかりに弘信が、自分が持っていたビニール袋をガサガサとあさって取り出した物をオレ達に配る。


 受け取ったのは、あの色取り取りのアイスキャンデー。

 毎年、オレ達はこの美しくも儚い30分を、このアイスキャンデーを食べながら過ごすのが定番だった。




「シャーロット、お前の分だ」


「ぅひゃいっ!?」




 まだ夢を見ているみたいにボーッとしているシャーロットのプニプニ頬っぺたにアイスキャンデーをくっ付けると、彼女は驚きのあまり、直立しながらジャンプする離れ業を見せてくれた。




「は、遥希さんっ!? ……はっ、遥希さんったらもうっ! 全く、もうっもうっ!!」




 悪戯された事に気がついたシャーロットは、ポカポカとオレのことを叩く。


 なんだコイツ、オレを悶死させる気ですかぁっ?




「悪かった、悪かったって…… ほれ、アイス溶けるぞ」


「あっ、はいすみませんっ! 頂きます……ペロペロっ」


「フォォォォグアァッ!?」




 弘信が奇声を上げ始めた刹那、ヤツの尻を思いっきり蹴った。

 一体何を想像しやがった。




「いいねぇシャルぅ…… どれ、記念撮影しような?フラッシュは厳禁だが月明かりでなんとかなるだろう」




 しかし、オレの攻撃終わりの硬直時間に割り込んだ廻流が、連写機能を使ってシャーロットを撮影しているだとっ!?


 後で焼き増ししてもらお。




「アンタ達うるさいわよっ! ちょっとは風情と言うかこの雰囲気に浸れないワケ?」


「無駄だよ凪咲。 あの3人に情緒を求めるのは余りにも酷だろう」




 そう言いながらも凪咲とリチャードの顔は笑っていた。


 一方で鷲峰姉妹は、仲良く手を繋いで星映しを見ながら黙ってアイスキャンデーを堪能している。

 智世は兎も角、遊七が黙っているのは非常に珍しい。


 案外、年下のコイツらの方がよっぽど大人なのかも知れない。




「……ヤバイ、今になってお腹が…… 屋台で食い過ぎたぞ」


「ね、姉さん、あまり動かない方がいいよ…ほら、柵に寄りかかった方が落ち着くよ?」




 と思ったが、どうやら食べすぎで動けなかっただけのようだ。

 台無しである。




「……遥希さん」


「ん?」


「ありがとうございますっ。 ここにみなさんと一緒に来れた事、一生の宝物にしますね?」




 そう言って、シャーロットはオレの手をそっと握ってきた。

 オレも優しく握り返す。



「…… お気に召されたようで何よりです。この様なことでお喜び頂けるのであれば…… 不肖桜庭遥希、これから先幾度と無くあなたを楽しませてご覧に入れましょう」


「……はい、良きに計らって下さい、です!」




 ホント、こんな事で喜んでもらえるなんてな。

 それにしても小芝居に付き合ってくれるシャーロットたんマジシャーロットたん。( 意味不明 )



「…………」


「なんだよナギ、肩でオレの腕を突いてきて…」


「べっつにー」



 あ、そ……。



 不覚にもドキリとした事は、死んでも隠し通さなければいけない。




「相変わらず綺麗ね、星映し」




 オレから離れていつものように柵に寄りかかる凪咲の顔は、月明かりと反射した星々の光によっていつもよりグッと大人びて見える。



  なんだ、オレ変だ。


 昨日、旧校舎の屋上で会って以来、どうも凪咲から目を放すことが出来ない。


 知っていそうで知らないこの感情。



「……いやいや」



 答えは出さない。

 オレは凪咲を守ると朱里亜の婆さんと約束した。

 桜庭園の先輩として、兄貴として。


 でも、いくらそう自分に言い聞かせてもどこか腑に落ちない。





 多少の疑問は残ったが、こうしてオレ達は街の明かりが戻るまで、アイスキャンデーを食べながら二つの星空を眺めていた………






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