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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
19/55

16話 ー シャーロット様 ー

 



 3-Cの教室の中を覗いたオレとリチャードは言葉を失っていた。

 目前に広がる余りの光景に、瞬きすることは愚か数秒間息をすることも忘れていたかも知れない…… 。



 改めて教室を見る。



 心配の元であったシャーロットはまだ教室にいたし、別に孤立しているわけではなかった。


 いや、むしろ……





「シャーロットさんっ、オレの弁当の中に入っていたデザートのプリンです! どうぞお召し上がりください!」


「これ、私が作った卵焼き! 甘くて美味しく出来ていると思うわ!」


「困ったことがあったら何でも言ってくれ、力仕事なら任せな!」


「まだ学園内のことわからないよね? 放課後案内してあげるっ!」




 逆だ。

 大人気だった、これ以上ないくらい。

 でもそれだけじゃ安心はするだろうが放心まではしない。


 問題なのは、クラスメイトの対応ではなく()()()



 シャーロットの周りを囲み群がるクラスメイト。


 当の本人は、教室の中心に机を集めたステージの上で、まるで王様のような待遇を受けていたのだ。

 中には膝を折る者や他のクラスメイトに指示を出す者までいる始末。



 ど う し て こ う な っ た ?



 ふと隣を見上げる。

 そこには、世界を旅し、世の中にある不思議な場所や曰く付きの場所を巡りに巡っているリチャードでさえ……



「…… どうしてこうなった?」



 ご覧の通り、ハニワも裸足で逃げ出すレベルの直立不動っぷりだった。




「……っ!……!………… あっ、遥希さん!た、助けてくださぁあぃ……」




 ステージ(?)の上からだと周りがよく見えるのだろう。

 シャーロットは逸早くオレの存在に気が付いてくれた。




「…… うぉっ、リチャード先輩だ…… 」


「うそっ、stellaの"王子"がなんで私達の教室に!?」


「しかもその隣にいるのって… … さ、桜庭先輩!?」


「遠目でしか見たことなかったけど、結構ちっさくて可愛い顔してるんだ…… 」


「生徒会長の手綱も引いてるって話だよな?」


「…… 腐腐腐。リチャ×ハル…… 私が求めていた…… 薔薇色の世界…… 」


「この二人と黒木先輩の3人が作ったクリスマス会の伝説は忘れられねえ!」


「桜庭先輩、年下の面倒見がいいし料理も上手なんだって! 今度教えてもらっちゃお…」




 クラスメイト達も気が付いたのか、道を開けながらポロポロとオレ達の噂話を漏らす。

 一斉にボソボソ言い始めたのであまり内容は聞き取れなかった。


 まぁ、リチャードは金髪イケメンだとか持て囃されて、オレは背が低いだの童顔だのと嘲笑されているのだろう。




「この騒ぎは…… まぁいいや、なんでこんな事になったんだ、シャーロット様?」



「…… じ、実は…… 」







 私のクラスは3-C。


 遥希さん達が放り出された後、他の先生方よりもちょっと遅く教室に向かいました。



 教室前に着くと、棚橋先生から"ここで待っていろ"とジェスチャーを受けたので、しばらく待機していたんです。



 他のクラスでは既にHRが始まっているのか、廊下には其々の教室から微かに聞こえる先生方の声と、柔らかそうな芝生と色取り取りの花で埋め尽くされた花壇がある中庭で遊びまわる小鳥の鳴き声だけが響いていた。



 そんな時、どこからか来たのか春風に乗った白い鳥の羽根が窓の外を横切り、空へと舞い上がる。

 それに誘われるように、私も空を見上げた。




 蒼天。




 目の前に、雲一つない青空が広がる。

 狭苦しい廊下にいる筈だったのに、一瞬で世界が広く感じられた…… 。



 あぁ、私はなんでこんなにも悩んでいたのだろうか。

 あがり症が治る根拠も理由もない。

 でも、緊張は白い羽根と共に空へて溶けて行った。


 吸い込まれるように澄み渡る空を見ていると、何故かそんな気がしたんです。




「…… さて、今日のメインイベントの時間だ。突然だが、今日からこのクラスに留学生が編入してくる事になった!この学園や慧神島どころか、日本にも慣れてないから、お前達でサポートしてやってくれ。よし、入って来てくれぃ!」




 先生に呼ばれたので、窓から離れて再び教室の扉の前に立った。


 深呼吸をする。



 重苦しく感じていた空気が、今は極自然に肺を満たしてくれた。



 行ける。




 扉のガラスに薄っすら映っている自分の笑みを見て確信した。




「…… はいっ!」




 私は扉を開けて、堂々と教室に足を踏み入れ……




「…… っへぶしゅっ!?」




 見事に足を絡ませて、ある意味綺麗に転んでしまったのです。

 上ばかり見ていたので、どうやら足元がお留守になってたみたい…… 。

 緊張ではなく、余りの恥ずかしさから声が震えてしまいました。




「あいたたたぁ………… あっ…あのあのっ…… は、初めまし、て?」




 一瞬、クラス内がしんと静まり返った後…




『か、可愛いぃぃぃぃぃっ!』



「…… はいっ?」




「あなた、どこから来たの!?」


「い、イギリスです…… 」


「金髪碧眼っ!カラコンでも髪を染めている訳でもないですよねっ?」


「はい…… カラコン?と言うものはよくわかりませんが、元から…… 」


「ちっさくてお人形さんみたいで可愛いっ!」


「どうして日本…… いや、慧神島に来たんだ?」


「…… 男の子同士のラブロマンスに興味はない?」



 まだ自己紹介もしていないのに質問責めにあってしまいました…… 。



「はいそこまで!今はHR中だ。聞きたいことがあるヤツぁ昼休みに質問しろー!先生も聞きたいことがあるんだぞぅ…… イギリスの男性の平均収入って幾らなのーとかホントに紳士なのーとか」




『あっ、ハイ…… 』




 何かを察してか、クラスの方々はあっという間に自分の席へ戻って言ったのです。








「…… その後、自分の席へ案内されてからは特に何事もなく過ごせていたのですが」



 昼休みになるとご覧の通り、と辺りを見回した。

 まぁ…… 懸念していた事態にはなってなくて良かった。

 理想の斜め上の事態でもあったが。



 しかし、いきなりの待遇に緊張することすら忘れているシャーロットは、まだこの状況を理解できていないようだ。

 クラスの友好的な雰囲気は大変結構だが、流石に積極的すぎるか……


 なので、一言残していく事にした。



「お前達、転校生を担ぎ上げるのは良いが、ソイツはまだ学園…… と言うか、日本人に慣れていないんだ。日本語喋るし意外だと思うかも知れんが、もう少しマイルドに接してやって欲しい。本人曰く、緊張癖があるらしいからな」


「は、遥希さぁん…… 」




 情けない声で呼ぶシャーロットの顔は、安堵の笑みに少し涙を溜めた目をしていた。



「…… そうだったのか、すまねぇ」


「私達、ちょっとハッスルし過ぎちゃったね…… 」



 クラスのみんなも反省してくれている。

 流石棚橋クラスと言ったところか、良い人連中が揃っていた。



「シャーロットさんごめんなさい…よかったら今から学食に行かない?人数は…… とりあえず女の子3〜4人くらいで」


「…… せやな、ここは女子に任せて一旦解散しよか」


「おう。まぁ、困ったことがあればいつでも声かけてくれよ!」




 皆思い思いの言葉を一言ずつシャーロットに投げて、其々の昼休みへと戻って行った。

 ステージからゆっくりと降ろされたシャーロットは、真っ先にオレのところへ来て、ぎゅーっと抱きついた。




「あ、ありがとうごじゃいましゅぅ…… 」


「あぁ、これから仲良くなれそうか?」


「…… はい!ちょっとビックリしちゃいましたけど…… 皆さん良い人達ばかりでした!」




 ならよかった。


 オレはシャーロットの頭を一度だけ撫でた後、クラスメイトの方へ押し出した。




「学食行くんだろ?オススメのメニューでも紹介してもらいな?」


「…… はいっ!」




 シャーロットは再びクラスの輪の中に入って行った。




「それじゃ僕たちは帰ろっか。凪咲がハルの昼ごはんも買うって言ってたよ」


「ありがてぇな、流石妻だ」



 一安心したオレ達も、いつもの昼休みを過ごすために、高等部へと帰還したのだった………







「ちょ、シャーロットさん!?桜庭先輩とどう言う関係なの!?」


「甘えられる関係なの?甘えられる関係なのね!」


「いいなぁ、あんなステキな先輩と…… 」


「年上で可愛い系のカレかぁ…… 羨ましいっ!」


「親睦もだけど、その点も踏まえて学食でお話ししましょ!?ささっ、急いで急いでっ!」


「ふぇっ、いや、あのっ……!?」




 その日。


 学食の一角では、妙に色目気だった中等部の女子集団が周りの注目を集め、金髪美少女が留学してきたと言う噂は瞬く間に学園中に広がったのだった……



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