15話 ー 初めての学び舎 ー
「…… では、今日からこのクラスで共に学ぶ事になった仲間を紹介します。シャーロットさん、入って来てください」
ガラッと扉を開いた先には、ガチガチに緊張しているシャーロット。
そのままぎこちない動きでオレの隣に立ち、凪咲の方を向いた。
「しゃ、シャーロット・ハーツ…… で、す。よ、よろろろし……」
「ハイカットぉっ!ダメよ、ダメダメ!こんなんじゃ自己紹介にならないわ!」
シャーロットの自己紹介は、オレんちで行われていた。
『き、キンチョーして眠れませんっ!』
事の発端は、シャーロットのそんな一言。
晩飯も食べ終わり、ぼちぼち寝ようかなとしていたところ。
初登園を明日に控えた金毛の子羊はプルプル震えていた。
「が、ガッコーとか、通った、こと、ああ、ありませんし、じこっ、自己紹介ちゃんと…… 」
「いや今から緊張してどーすんの」
「幼い頃から学校に通いなれているナギさんには分からないんですぅっ!」
えらいこっちゃ、と頭を抱えながら悩む姿も可愛い。
「…… 今、一瞬アンタの方から悪寒を感じたんだけど」
「おっかしいなぁ、窓開いてたっけか?」
凪咲の鋭い勘を華麗に受け流しながら、ちょっとマジメに考えてみる。
確かに今の状況でシャーロットを学園に送り込むのは宜しくない。
ブルーバードでのテンパり具合を見るに、あがり症ってのはホントの事だろう。
況してやクラスには40人近くの人間がいる。
オレ達stellaの7人を前にしただけでもあの有様なので、この様子では結果が目に見えていた。
そこで。
「突発企画! 第一回、シャーロットのあがり症をどうにかしよう会を開催します!」
凪咲の提案により、自宅で明日行われるであろう転校生の儀式を突発的にやる事になったのだが……
「う、数十人の前で話さないといけないと考えると…… 足が震えて…… 」
足どころか全身をプルプル震わせるシャーロットのあがり症は、我々が思っている以上に深刻なものらしい。
「わ、私はイギリスから来た…… あの、イギリス人の…… えっ、イギリスですっ!」
でっかい人間だな、いろんな意味で。
「…… I'm Charlotte.That a hobby reads a book. And It's to learn Japanese culture……」
母国の言葉が出てますよ。
「…… 某、生まれは英国がイングランド。性はハーツ、名はシャーロット。此度は縁あって慧神島の大地を踏んだ次第。以後、皆々様とこの寺子屋にて学に励みたく候……」
…… お前実は緊張してねェだろ。
そういや時代劇を観てたとか言ってたな。
あれから小一時間ほど練習を重ねたが、結局多少はマシにはなったものの、不安を拭いきれないまま当日を迎える事になったのだった………
「…… 水無星学園にようこそ。私がシャーロットさんのクラスの担任をしている棚橋 良子です」
朝。
シャーロットを連れて学園に来たオレ達は、学園の総合職員室の中にいた。
「しゃ、シャーロット・ハーツです…… 」
「緊張しているのか?まぁ無理もないか…しかし一部例外があるとは言え、この学園の連中は基本的に気のいいヤツらだ。焦らずともすぐに溶け込めるだろうさ」
シャーロットの状態を察した棚橋先生は、その緊張をほぐすようにあっけらかんと言った。
棚橋先生は、オレと凪咲が中等部にいた頃の担任だった人だ。
肩まであるくらいの髪を雑に纏めたヘアスタイルと吊り上がった目を隠すようなメガネ。
女性の誰もが憧れる程のワガママボディは、ズボンタイプの黒スーツに包まれており、男子からもカッコイイと言われている風貌だ。
面倒見が良い反面、この教師中々の体育会系で、熱くなるときはとことん熱くなるクセがある。
それもあって生徒達との距離が近く、学年問わず誰からも信頼されている先生だ。
担当教科は数学。
…… 因みに28歳、独身である。
「…… これからよろしくお願いしますっ!」
深々と頭を下げるシャーロットに「あいよー」と軽く返事をした後、後ろに控えていたオレと凪咲に目を向けた。
「うむ…… ところでお前らはなんだ?もうHRが始まる時間だが」
「…… 子供の晴れ舞台に親がいて何が悪い?」
「は?」
「事情は聞いているでしょ?シャーロットはオレ達の家にホームステイしている…… (ことになっている) 。つまりオレ達の子同然だ!あっ、妻の凪咲です」
「ちょっ、ちょっとハルっ!?」
勢いに任せて隣にいた凪咲の肩を抱いた。
アレから色々考えた結果、いっそオレ達がその場にいれば緊張も少しはなくなるのではないかと言う結論に至ったのだ。
「ってことで、今日一日シャーロットの保護者として授業参観を……」
「良いわけあるかボケェ!過保護も大概にしとけよ、しかもよくもまぁ私の前でそんな…… そんな夫婦の真似事などっ…… クソがっ!さっさとテメェの教室に戻りやがれ!」
職員室を追い出されてしまった。
棚橋良子、28歳独身である。
「やっぱダメだったかぁ…… 分かっちゃいたけど」
「…… ハル」
「あ?」
「いきなりあんな事するんじゃないわよっ!」
「イッテェっ!お前肩パンはやめろや!」
「うるさいっ!……… ホント、バカなんだから」
何だよ、お前だって渋々とは言え賛成してくれたじゃん…… 。
肩の痛みを和らげるように肩を摩りながら自分達の教室へと戻った。
心配だ
ああ心配だ
心配だ
授業中、ずーっとシャーロットの心配をしていた。
自己紹介はうまくいっただろうか?
孤立してないだろうか?
クラスメイトからの質問に対してちゃんと受け答えできているだろうか。
初日からイジメは無いにしても、気がかりでならなかった。
キーンコーン……
「ハル、これからどう…… ってもういないっ!?」
「あぁ、ハルならソッコー出て行ったぜ?」
「ヒロ、アンタ見てたんなら止め…… あぁもうっ!」
4時限目終了のチャイムと同時に、生徒は獲物を求める獣と化し、怒涛の勢いで学食を目指す。
その様は、宛らアフリカの大草原を走り抜けるバッファローの群れを彷彿とさせる。
一方、その集団突進とも言える猛攻を華麗にかわしながら、人間の激流を逆走する者がいた。
オレである。
目的地はもちろんシャーロットがいる教室。
棚橋先生が受け持っているクラスは、中等部の3-Cだということは知っていたので、迷うことは何も無かった。
道中、stellaの連中とすれ違うが相手にしている暇はねぇ!
「ハル、生徒会長である私が一緒に昼ごは…… 」
「後でなメグっ!」
走る
「急いでどこに行くんだい?」
「どいてろリッちゃん!」
走る
「おぉハル兄じゃん、珍し…… 」
「邪魔だユウ!」
走る
「廊下を走るのは感心しないね」
「うるせぇリッちゃん!」
走る
「ひゃっ?は、ハル兄さん!?」
「トモ、すまねぇ!」
走る
「そうか、今日から彼女が…… 」
「そうだよリッちゃん!」
走り抜ける!
「ハッハッハ、何処へ行こうというのかね?」
「中等部だよ…… って何回お前とすれ違うんだよリッちゃん!!」
暴徒の最後尾を抜け、廊下を通る生徒も疎らになってきたので一旦足を止めた。
「いや、ただ先回りしただけだけど」
「ウソつけ、オレが来た道が最短の筈だ」
「最短の道はそうだろうさ。僕は道を使わなかったからね」
リチャードは背後にある窓を親指で差す。
「おまっ、まさか…… 」
初等部、中等部、高等部は同じ学園内にあれど校舎は違い、小中高の順でそれぞれ30mくらいの間隔を置いて建てられているので、中等部に行くには一度高等部の一階に降りて、一階にある渡り廊下を渡らなければならなかった。(学食&購買部は校舎外の別館)
校舎は4つ(内2つは初等部)ありいずれも4階建で、2階が一年生(4年生)、3階が二年生(5年生)、4階が3年生(6年生)のクラスとなっている。
オレは廊下や階段を走ったが…… リチャードは窓から外に出ていたのだ。
「…… 無茶なことしやがる」
「感心して貰うのは悪い気しないけど、早くシャーロットさんのところへ行くんじゃなかったの?」
「そうだよコノッ!リッちゃんはどうする」
「僕も行くよ。中等部って行ったことないからちょっと覗いてみたかったんだ」
と、リチャードはオレと一緒に走り出した。
そういやリチャードは高等部から水無星学園に来たんだっけ。
一緒に連んでいる時間が長かったから、すっかり忘れてたや。
中等部の生徒も一斉に学食へ向かったのか、立ちはだかる障害もなく、一気に中等部の最上階にある3-Cの教室に辿り着いた。
「…… シャーロット、いるか?」
一瞬で息を整えて、極めて平然を装いながら教室の扉を開けた。
するとそこには………




