14話 ー 遥希の紙芝居 ー
「…… ってコトがあったわけさ!」
呆気からんと言う廻流を思いっきり叩いておいた。
うちの子怖がらせんじゃねぇよ!
「で、着替え終えたお前は学園をウロウロしていたわけか」
「はい、途中で道に迷ってしまった時には、近くにいた生徒さんに道を教えてもらって…… お礼に魔法で出したアニマルキーホルダーをぉぃいいたいいたい痛いですぅっ!?」
不用意に魔法を使った罰として、頭をグリグリした。
まぁ、今回は手品ってことに出来るレベルの噂しかなかったが…… ちょいとお仕置きが必要か。
「色々言いたいことはあるけど…… あんまり無茶な事はやめてよねメグ先輩! シャル凄く怖かったわよね?」
「さ、最初はビックリしましたけど…… メグさんのお人柄がわかってからは、緊張も解けました!」
シャーロットを抱きしめながらあやす凪咲。
一緒に暮らし始めてまだ間もないと言うのに、姉妹のような謎の絆が垣間見えるのは気のせいか。
息子がいない父親の肩身は狭いと良く聞くが、この数日でその真意を体感してしまっている。
やはり将来は息子二人と娘が一人くらいの家庭を持ちたいものだ。
「ぁぁぁ…… イッスねぇ……」
「例えお前でも手ぇ出したら容赦せんぞ?」
二人のスキンシップを見てやや興奮状態になってしまった弘信に釘を刺す。
コイツの性格を考えると、手を出すことなんてほぼありえないし、出すとしてもちゃんと筋を通す男だ。
だがそれとこれとは別で、二人をそんな目で見られるのは気に食わん。
「すっかりお父さんだね、ハル」
「わかってくれるかリッちゃん」
リチャードの顔には『苦労してるんだね』と書かれてあった。
「け、結局…… シャルちゃんはいつから入学するんですかメグ先輩?」
「そうだそうだー! あれ、ってことはシャルは中等部に入るのか?」
「正式な手続きには今週いっぱいかかるからな。早くて来週から通学する事になるだろう。 ハル、後で教科書などの必需品一式をお前んちに送らせるよう手配してある。来週の初めから登校出来るように色々教えてやっててくれや」
「そう言うとこだけ用意周到なんだよなぁコイツは……」
シャーロットの同意を得ているのであれば、オレから言うことは何もないのだが。
制服姿も可愛いし。
「ま、午後の授業もある。シャルはハル達の授業が終わるまでまたテキトーにブラブラ見学でもしてろ、何なら中等部の授業を見ても構わん。私から話を通しておく」
廻流は尚も飄々とした態度で話を進めていく。
ホントいい性格してるわ。
「…… ちょっと待て、シャーロット連れて来たのって授業中だったよな、お前まさか……」
「サボった。理事長の孫だからじゃないぞ、私が天才過ぎるから授業の1つや2つ受けなくても影響ないんだよ」
クソっ天才め。
皮肉の1つでも言ってやろうと思ったが、運悪く昼休み終了のチャイムが構内に鳴り響いたのだった……
放課後。
どうしても外せない生徒会の仕事があると言い、凪咲は帰りのHRが終わると、オレにシャーロットの事を任せて生徒会室へ行ってしまった。
「…… あっ、遥希さん!」
下駄箱で待ち合わせをしていたので、シャーロットは直ぐに見つかったが…… 当たり前と言うか、下校する学園生から凄く注目されていた。
オレを見つけた瞬間、安堵したのだろうかホッとした笑みでトコトコと走り寄って来た。
女子は何事かと、男子は心底羨ましそうな眼差しでオレ達に視線を集め、再度注目されてしまう。
いいだろ、オレんちの子やぞ?
「お待たせ。ナギは用事があるから別行動な」
「そうなんですね…… これからお帰りですか?」
別に直ぐ帰っても良かったのだが、ある意味最初のシャーロットとの下校なので、凪咲の仕事が終わるまで待っていようかと思っていた。
「いや、今日は部室に行くわ。お前もこい」
「部室ですか?でも部外者の私が入ってもいいのでしょうか…… 」
「気にすんな。部員は実質オレ一人だ」
「…… あっ」
一先ず注目されるのは癪なので、シャーロットの手を取りさっさと部室に移動した。
移動する際も、すれ違う学園生達から見られてしまったが仕方ない。
「な、なんだ! 桜庭のヤツまーた美少女を連れ回してるぞ!?」
「ヤツめ…… 学園で一番人気の東雲さんと一緒に住んでて、文武両道完璧美人の生徒会長のお気に入りで、隠れファンもいる一年生の鷲峰姉妹の兄貴分でもあるんだろぉ!?」
「これに加えて…… あんな絵本から出て来たような金髪少女までっ……」
「神よ、何故あなたは平等ではないのだ!」
「あの金髪ロリめ…… よくもオイラの遥希きゅんに……」
やはりと言うか、男子の突き刺さる視線が多かった。
この学園には2つの校舎があり、1つは其々の教室や美術室などの特別教室がある新校舎。
もう一つは、設立時に建てられた二階建ての旧校舎。
現在は比較的部員数が少ない文化部の部室となっている。
設立当時は学園生が少なかった事もあり、旧校舎は新校舎に比べて大分小さく建物も古く、所属している部員も殆ど幽霊部員のためとても静かだ。
そんな旧校舎の二階最奥の教室が目的地だ。
「…… どうぞ」
オレは部室の鍵を開けてシャーロットを招き入れた。
「本がいっぱいです」
中に入ったシャーロットは辺りをキョロキョロ見渡した。
部室内には5〜6の机と椅子。
その中心には一際大きな机があり、鉛筆や絵の具やらが散乱している。
壁の棚にはギッシリと本が詰まっていたり、ハサミやカッターや紙が大量に入った棚もあった。
「ようこそ、"紙芝居部"へ」
そう、オレは学園の紙芝居部なる部活に所属していた。
最も基本的に部員はオレ一人だけの、部活と言うよりはただのオレ専用の作業部屋と化しているが。
「紙芝居…… 普段は何をされているんですか?」
興味津々に探索しながらシャーロットが尋ねる。
「ここは紙芝居を作る部屋さ。紙芝居だけじゃなく、絵本とか漫画とかも書くぞ」
そう言って、まだ書きかけの紙芝居を彼女の前に置いた。
「…… 優しい絵です。これは遥希さんが?」
「あぁ、棚にあるヤツは普通に売られているのも多いけど…… この辺は全部オレの作品だな」
少し小さめの本棚を指して答える。
「すごいです! もっと部室を見てもいいでしょうか? いいでしょうか!?」
「好きなだけどうぞ」
シャーロットはワクワクしながら部室内を見て回った。
これなら凪咲の仕事が終わるまで退屈はしないだろう。
さて、オレは書きかけの紙芝居に手をつけるか。
暫し無言の時間が過ぎていく。
聞こえるのはカツカツと響く鉛筆の音と、遠くから聞こえる運動部の声だけ。
「あっ、この写真、遥希さんですか?」
沈黙を破ったのはシャーロットの一言。
何を見ているのかと彼女の方を振り返ってみると、そこには小さめのトロフィーと写真立てが飾られている棚だった。
写真の中心には、トロフィーと一冊の本を持ったまだ幼いオレ。
その周りには凪咲や弘信などstellaの連中が、オレを囲むようにして写っていて、それを見守るように一人の老婆が後ろに立っている。
「あぁ…… 初等部の頃に絵本の賞を受賞したんだよ。写真のオレが持っている本がそれね」
「…… この本、何処かで見たことがあるような?」
「そりゃそうだ。お前、毎晩見てるだろ」
「見てるって…… ああっ!!」
授賞した本。
それは先日、シャーロットにあげたあの本だった。
「は、遥希さんが書いた絵本だったんですか!?てっきり売り物かと思いました…… 」
「まぁ、記念に書籍化して貰ったものだからな。ほんの少しだけだけど、授賞式があった会場で売られてたっけ」
昔から物語が好きだったオレは幼い頃、町に出ては紙芝居をしている黒いフードの人を見つけては紙芝居を見ていた。
それも日に何度も。
ある日から、今度は自分で物語を作りたくなって紙芝居の製作を始めたがやはり子供、中々上手くいかなかったのだ。
そんな時、朱里亜の婆さんからアドバイスを貰った。
"最初は自分が一番好きな物語をアレンジしてごらん"
と。
そう考えると、真っ先に思い浮かんだのは『魔法使いと笑顔の魔法』だった。
オレは夢中になって描いた、描いた、描きまくった。
ようやく完成した作品をみんなに見せびらかし、時にはブルーバードにも持って行って、客相手に自分で紙芝居ごっこもした。
で、ある日廻流にそれ貸してくれと言われたので素直に渡した数週間後、廻流は貸した紙芝居ではなく大きめの封筒を一つ持ってきてこう言った。
「全国作家になろう賞絵本18歳以下の部優秀賞受賞、おめでとう」
勝手に応募しやがっていたのだ。
言いたい事はあったが授賞した喜びの方が勝り、数日後に授賞式に出席し、そこから帰ってきた後、オレの家の前でみんなで記念写真を撮ったんだっけ…… 。
「えぇーっ!そ、そんな大事なものを頂いてしまったんですか!?お返ししますよ!」
「いやいいんだって、オレの部屋の本棚に原本とお前にあげたのと同じ本があるから」
「それなら…… はい、ありがたく!ここにある本も読んでいいですか?」
「どうぞ」
早速棚に仕舞われた本を数冊取り出して読み始める。
「………」
本を開いた途端、彼女の雰囲気がガラリと変わった。
普段は幼さを感じる仕草や言動があり、二つ下とは思えない程子供染みているシャーロットだが……
今、目の前にいるのは誰だ。
澄んだ碧眼に絵本を映したその顔は、まるで子供を優しく見守る母親の様な温かな笑み。
ページを捲る仕草は天使がハープを撫でている一枚絵を見ている感覚になる。
思わず数分間見惚れてしまっていたので、握っていた鉛筆を手の甲にグリグリと刺す。
我に帰ったオレは凪咲が迎えに来るまでの間、一心不乱に紙芝居の製作に励んだのだった………。




