13話 ー 被害者 ー
今回はシャーロット回です
時は遡り数時間前。
遥希と凪咲を見送ったシャーロットは、昨晩から考えていたある行動を実行しようとしていた……
「…… さて」
私は遥希さんとナギさんを玄関で見送って一呼吸おいてリビングに戻った。
この数日、遥希さん達には本当にお世話になりました。
昨晩、おばあちゃんの名前を聞かれたので教えてたら、早速知人へ連絡を取ってくださりましたが、まだお返事はないようです。
今まで気が動転していてこんな初歩的な情報を伝え忘れていたとは…… 我ながら情けない。
エリーシャ・ハーツ。
おばあちゃんの名前です。
ただ、おばあちゃんも今探している知り合いの正体を知らないと言っていたので、一体どこまで役に立つかわかりません。
何がともあれ長期戦になることは確実なので、気長に待ちましょう。
さてさて、本日はお世話になった遥希さん達に少しでも報いるために、この家のお掃除をしようかと思います!
私、お料理も出来ないですし…… これから遥希さんに教わって出来るようになりたいな。
リビングから見える台所を見て、そこに自分と遥希さんが立って一緒に料理をしている姿を想像する。
…… 何故でしょうか、少しドキドキですっ。
「…… しかし、今日はお掃除です!」
これ以上ないくらいピカピカにしましょう。
お二人とも、喜んで下さるでしょうか?
喜んで下さるでしょうかっ!?
気持ちを切り替えて、魔法で箒や塵取り雑巾などのお掃除セットを出す。
「…… 頑張っとるね」
お掃除を始めようとした時、足元にムチャさんが擦り寄ってきた。
「そいで、ウチのご飯はあるとね?」
「はい、ナギさんが用意していきましたよ」
私は予め用意されていたムチャさん用のご飯を棚から取り出して、目の前に置いてあげた。
すると、お腹が空いていたのかムチャムチャと一心に食べ始めた。
「居候同士、仲良くしましょうね」
「ばってん、アンタのが大変かろ? 話ば聞いとったがこいまでよー生きとーさ」
ムチャさんの話し方は独特で、所々意味がよくわからない。
こうしてしまったのは私なのですが。
「そ、そうですね!」
私の答えを聞いたムチャさんは満足そうに頷くと、改めてご飯を食べ始めた。
邪魔するのも悪いと思い、まずは廊下のお掃除から始めることにしましょう。
私は掃除セットを持って廊下へ出た…… 。
「…… 廊下はこんなところでしょうか」
二時間程廊下のお掃除をして、私は辺りを見渡した。
孤児院として建てられたこの家は、居住エリアで見た家よりも一際大きく、余っている部屋もあるくらい。
その為、廊下もかなり長く、途中には棚や置物があったので、それも埃を落として傷が付かないように丁寧に磨き、一定の間隔である窓も綺麗に拭いた。
その後、廊下の掃き掃除で棚から落ちた埃や隙間に溜まった塵を隅々まで取り最後に固く絞った雑巾で廊下を拭くと、掃除をする前もある程度綺麗だった廊下が更に綺麗になり、心成しか前よりも廊下が広く感じます。
掃除の結果に満足した私は、次のステージ…リビングに向かおうとした時でした。
ピンポーン
来客を知らせるチャイムが鳴った。
「はーい!」
玄関と廊下は一直線に繋がっていて、私の目の前に玄関があったので、条件反射でドアを開けてしまった。
ドアの鍵を開けて外を見ようとした瞬間、自分の家じゃないのだから勝手に対応してはいけないのでは…… ?
と考え始めた時には既にドアはゆっくりと開いていく途中。
もしここで引き返そうものなら、居留守は完全にバレバレな上に、遥希さん達の評価を大きく下げてしまいかねない。
「…… ど、どちら様でしょうか?」
やってしまったものは仕方がないと覚悟を決めて、来訪者Xの顔を確認した。
「……………」
そこに立っていたのは、高い身長にスーツ姿がよく似合うショートカットの女性と、その後ろに控えている執事服の男とメイドさんでした。
「す、すみません…… や、や、家主は現在学園に…」
高圧的な雰囲気で私を見るお三方に圧倒されて、うまく喋ることができたかわかりません。
「存じ上げております。シャーロット・ハーツ様ですね?」
スーツ姿の女性は、鷹のような鋭い目で私を見下ろした。
何故私の名前を知っているんだろう?
私は首を縦に振る。
もう恐怖心から思ったように声が出ない状態でした。
「我が主人からの命により馳せ参じました。どうぞ、我々とご同行頂きたく存じます」
「え…… あ… の、お留守番…… 鍵…… っ」
もはや会話すらまともにできません。
「ご心配なく。スペアキーの隠し場所は把握していますし、家主への連絡もいずれ……」
そう言いながらも、道に待機させていた黒い車へと誘導させられ、そのまま乗り込むと走り出してしまったのです。
もしかすると、魔法使いだと言うことがバレてしまったのでしょうか!?
遥希さんが、日本では魔法使いを名乗るなとあれだけ用心深く言い聞かせていたのは…… こうして誘拐されてしまうからだったのかも!?
グルグルと思考回路が回っている間にも、車はどんどん進んでいく。
見える景色はもちろん知らない場所ばかり…… 。
どれだけ走ったのでしょうか。
距離にしてみれば1〜2km程でしたが、私には数時間は車の中で縮こまっていた気がします。
「…… 到着致しました。裏口からご案内致しますので…構内ではこちらの来客用の上履きをご利用下さい」
車から降ろされた場所には大きな建物があり、裏口と呼ばれた入り口の上には『水無星学園 関係者出入り口』と書いてある札があった。
話すことは出来ても、読み書きはまだまだ勉強中の私には、書いてある言葉の意味が理解出来ません。
しかし…… 唯一、"学園"と言う単語から、ここは学び舎だと理解する事ができました。
そう、連れて行かれた先は、遥希さん達が通っている学園だったのです。
「こちらの部屋へお入りください。我が主人がお待ちです」
長い廊下を歩いた先には一際立派な扉があり、そこに入るよう指示される。
恐る恐る開けてみると…… そこは会議室の様な造りの部屋で、窓から入る日差しに照らされた大きなデスクが奥に見える。
そこにまるで社長の様に座っている人は確か……
「…… おぉよく来てくれたな、シャーロット・ハーツ!」
カフェ"ブルーバード"に行った時にいらっしゃった、遥希さん達のお友達の一人。
「ヒトトセ…… メグルさん?」
あの日。
ブルーバードに集まってくださった方々のお名前は、遥希さんとナギさんから其々の特徴と共に教えて頂いていたおかげもあり、すぐに思い出すことができました。
「そうさ、この学園の生徒会長でもある。早速だがシャーロット、お前この学園に通ってみたいか?」
突然の質問に驚きを隠せない。
そもそもここに連れて来られる過程で既に混乱状態だった。
「は、はい、出来ることなら……」
そんな状況下にあったからでしょうか。
普段なら遠慮するところでしたが、思わず素直な回答をしてしまいました。
「よし、ならコレを着ろ。サイズは知らんから一通り揃えてあるからそこから自分に合った制服を選べ。着替えたらいくつか書類を書いてもらうぞ…… おぅ紫音聞いてたな、着替えを手伝ってやれ!」
かしこまりました、と廊下から声がした。
声色からして、さっきのスーツの方がまだ待機していたのでしょう。
しかし、あれよあれよと言う内に話が進んでいって益々訳が分からなくなる。
「あの…… 1つ質問があるのですが……」
「なんだ? あぁ、書類ならイングリッシュにしてある…… 記入欄も英語で書いて良いぞ」
「あっ助かります…… ではなく! なぜ私はここへ連れて来られたのでしょうか。じ、状況が読み込めなくて……」
「お前、人探ししてるんだろ? あれから私も色々調べているが未だに見つからん。今後も引き続き捜索はするが、やはり自分でも効率のいい探し方をした方が良いとは思わんかね?」
私は頷きました。
遥希さん達に頼ってばかりはいられません!
「お前自身での捜索が困難な理由の1つは、誰もお前の事を知らないと言う事だ。探し物ってのは基本的に人伝に聞いて行くモノ…… しかしお前にはこの島でのコミュニティや人脈が全くない状態にある…ここまではわかるか?」
再度頷きます。
「うむ。なので私は考えた。無いなら作ればいいじゃないと。コミュニティを作るには人と接しなければならない。人と接するには人々の輪の中に入りに行かなければならない。では人々の輪の中に入るには……何かキッカケがなければいけないのだ」
メグルさんは立ち上がり、私の前に立った。
「だから私がお前にキッカケを与えてやろうと言っているのだ。 この学園に入れば自然と友達も出来よう。そこから知り合い捜索に協力して貰うのも良し、友達として仲良く学園生活を謳歌するのも良し。 長期戦になるのだろ?ならば一人でも多くの人脈を築いた方がいいと思うが…… どうかな?」
「で、でもでも、私、お金が……」
「心配するな。私はこの学園の理事長の孫でな。ちょいと卑怯な手だが、ジジイにお願いして入学出来るようにしておいた…… まぁ、流石にタダでとはいかなかった、出世払いな?」
豪快にバシバシと肩を叩かれました。
「出会って間もない私の為に、なぜそこまで…?」
「…… 確かにこうして話す事すらほぼ初めてだが…… 桜庭遥希。ヤツには大きな貸しがあってな。ヤツが困っていることがあるならば、私は出来る限りの援護をしてやりたいのだ…… これ、本人には絶対言うなよ?」
顔を少し赤らめて可愛らしく人差し指を立てるメグルさんの姿は、前に見た威圧的な雰囲気とは異なり、なんだかとっても柔らかな印象が残りました。
「私もお前に興味があるしな。まぁ昨日の今日だ、正式な入学は来週になるだろう。今日は体験入学ってことで、制服着た後は学園内を見て回れ。放課後はそのままハル達と帰ればいいさ」
カッカッカと笑うメグルさん。
最初は怖い人かと思いましたが…… 面倒見のいいステキなお姉さんでした!
「あ、ありがとうございます! ところで、私はなぜあのような形で連行されたのでしょうか?これにも何か意味が?」
「だってその方が面白いじゃん!? アイツらもきっとビックリするぞぉー?」
イシシと笑いながら再び席に戻ったメグルさんは、いくつかの書類に目を通しながら「さっさと着替えてきんしゃい」と隣の部屋を指差した。
部屋に入ると、ナギさんやメグルさんが着ていた物と同じ制服が数着用意されていました。
一着取って姿見の前に立ち、制服を体に当ててみる。
「…… 〜〜〜っ!」
私は嬉しさのあまり、その制服を抱きしめてしまったのでした………




