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魔法学校の料理人  作者: あきゅう
第二章
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黄色くてホワホワのおいしいやつ

 キルケー魔法学校は国内最高峰の魔法教育機関であり、その名は国内だけでなく国外にも知れ渡っていた。そのため頻繁に異国の魔法学校から教師や研究者が視察にやってくる。今月も隣国ケセル王国の魔法学校から数名視察にやってきていた。


「さっき聞いてきたんだけどさ、今回視察にきてるやつらのなかに一人、すんごい大金持ちがいるらしいぜ」


 ノアはどこからか仕入れてきた噂話をネネに話してくれた。


「へえ、学校の先生でそんな大金持ちの人がいるの?」

「いや、そいつは先生じゃなくて学校に出資してる貴族らしい」

「ふうん」


 学校というのは学生から集める学費の他に公的資金や個人からの出資、寄付金などで運営されている。だから貴族が学校に出資することは珍しくないのだが、出資者がわざわざ他国の学校まで視察に来るというのはあまり聞かない。


「どうしてそんな大金持ちが視察に来たんだろうね」

「なんでもその貴族様が新しく魔法学校をつくるらしいぜ。それでうちの学校を参考にしたいんだって」

「つまり個人で学校を作るってこと?」

「そう、すげーよな。どんだけ金かかるんだろ」


 規模にもよるだろうが学校を作るからにはそれなりの大金が必要だろう。それを個人で設立するというなら相当な金持ちでないとできない。

 お金ってあるところにはあるんだな、とネネがぼんやり思いながらニンジンを切っていると、フィリップがカウンターから顔をのぞかせた。


「事務からお届けものです」


 フィリップはメッセンジャーバックから封筒を取り出してネネに渡した。


「いつもありがとう」

「いえいえ仕事ですから。あ、そうだネネさんちょっとお願いがあるんだけど」

「何?」

「勉強しながらでも食べやすい食べ物ってないかな?」

「それは手軽に食べられるものってこと? ならサンドイッチとかじゃダメなの?」

「僕不器用なのかな、サンドイッチ食べるとトマトとか中の具が飛び出してきて、手や服が汚れちゃうんだよね」


 それを隣で聞いていたノアがうんうん頷いている。


「それ、おれもある。最後の方とか特に食べにくいよな。なんでか具よりパンの方が先に小さくなるんだよ」


 そうそう、とフィリップが同意する。

 二人の言ってることは分からなくもないが、ネネとしては食べるときは食べることだけに集中すればいいのでは、と思ったりする。料理人としては片手間に料理を食べられると少し悲しい。ただ「こういうものが食べたい」と言われれば叶えてあげたくなるのも料理人の性だった。


「分かった。ちょっと時間もらえるかな」

「あ、うん。もしあったら嬉しいなってだけだから」


 忙しかったらいいからね、と言ってフィリップは次の届け先へ向かった。


「手軽で手が汚れないものかぁ」


 パンは比較的手が汚れにくいと思うが、ただのパンというのも味気ない。


「おれは勉強しながら食べるとかしないけどさ、外のベンチで食べたりするときなんかもサンドイッチ以外にもっと食べやすいものがあったらいいとは思う。持ち運びも楽なやつ」

「食べやすくて持ち運びもできる……か。ちょっと図書館に行ってこようかな」


 ネネは休憩時間に図書館へ向かった。

 いつものごとく食べ物コーナーで本を読み漁っていると、誰かに肩を叩かれた。


「ネネちゃん。こんにちは」

「あ、ペトラさん」


 肩を叩いてきたのは最近図書館職員になったペトラ・ぺぺだった。ペトラは図書館職員の正規職員になってから、以前よりずっと顔色が良くなっていた。好きなことを仕事にするのはやはり楽しいようだ。


「今日は何の本を探してるの?」

「フィリップ……学生さんに、勉強中でも手軽に食べられる食べ物を作って欲しいって言われて。何かヒントがないかなと」

「手軽にねぇ。分かるわその子の気持ち。私も留学してた頃は机にかじりついて勉強してたからご飯を食べる時間も惜しんだものよ」

「ペトラさんどこに留学してたんですか?」

「東の晨国(しんこく)よ。あそこの国は独特の術式を用いるんだけど、この国より発展してる分野もあってね。そういえば、あそこの国の料理おいしかったわね。あちらは屋台が発展してて、外で持ち歩きながら食べるものも多かったような……」


 ネネはその話である食べ物を思い出した。昔、父が作ってくれた異国の食べ物。


「ペトラさん、ありがとうございます!」

「え? あ、ええ」

「また今度お茶でもしましょう」


 そう言ってネネは厨房へ駆け戻った。


 厨房へ戻ってきたネネはさっそく調理に取りかかる。

 ボウルに小麦粉、砂糖、塩、妖精の粉、水を入れよくこねる。妖精の粉というのは簡単にいうと膨らし粉である。

 まとまってきたら油を少し加えてこね、生地を寝かせる。その間に、生地の中に入れる具を作る。


「ほんとうは肉ダネを入れるんだけど」


 この国の人には別の味の方が馴染み深いかもしれない。ネネはアレンジして中の具を変えてみることにした。作った具を先ほどの生地でくるみ、蒸し器で蒸す。できあがったものを試食してみる。


「んお! これならきっとフィリップも満足してくれるはず」


 ネネは翌日、フィリップを厨房へ呼び出した。


「頼まれていたもの作ってみました。勉強中でも手が汚れない軽食」

「え、ほんとに作ってくれたの!?」

「うん。ちょうど蒸しあがったから食べてみて」


 ネネは蒸し器の蓋を開ける。

 フィリップとノア、ミランダも近くに寄ってきて蒸し器の中をのぞき込む。

 すると湯気の中から黄色の丸くてホワホワのものが現れた。


「これは……何?」


 三人が首を傾げているので、ネネはその丸いホワホワのやつを一つ手に取って半分に割った。すると中から、熱々のトマトソースととろーりとろけたチーズが。


「うわ! 美味しそう!」


 目を輝かせるフィリップに割った半分を渡す。

 濃厚トマトソースととろけたチーズ、さらに柔らかい外皮が口の中で溶け合う。

 ネネとフィリップがハフハフ美味しそうに食べているのを見て、ノアが声を上げる。


「おれもそれ食べたい」


 ネネが一つとってノアに渡してやる。

 ノアはミランダと半分ずつにして、かぶりついた。


「うまっ!」

「こりゃたまげたね。まるでピザが入ってるみたいだ」

「本当は肉まんって言って肉ダネを入れるんですけど、こういうのもいいかなって。ピザまんですね」

「ネネ、これ売ったらいいんじゃないか。ピザまん売れるって」

「そうだね、僕以外にも食べたい学生たくさんいると思う」


 ふむ、おやつを売るというのは考えたことがなかったが、このピザまんならそれほど手はかからないし小銭稼ぎにいいかもしれない。


 ネネはもろもろ許可を取ったのち、食堂でピザまん販売をすることにした。

 最初はたくさん作っても余るだろうと見込んで数を少なめにしたのだが、フィリップが口コミを広げてくれたのかピザまんは販売開始とともに完売し、さらに一週間後にはピザまんの蒸し上がり時間に合わせて食堂に行列ができるほどの人気商品になった。


(まさかこんなに売れるとは)


 ネネはピザまんに加えて肉まんも販売することにした。さらに甘いものも欲しいという学生の希望に応えてカスタードまんなるものも開発し、それもまた人気商品となっていた。


「よかったなネネ。ピザまん大人気じゃん」


 ピザまんや肉まんのおかげで思わぬ臨時収入が入った。


(ペトラさんにお礼しなきゃな)


 肉まんのことを思い出させてくれたのはペトラだ。彼女のおかげでピザまんも思いつくことができたのだ。ペトラにはぜひこのピザまんたちを食べてもらいたい。

 ネネは休憩時間に図書館へ向かった。腕にはピザまんや肉まん、カスタードまんの入った紙袋を抱えいる。

 少々数が多すぎたかもしれないが、他の職員とわけてもらえばいいだろう。


「でもそういや図書館て飲食禁止だよね。裏口から入った方がいいかな」


 職員用入口を目指していると、図書館横のベンチの上で青年が横たわっているのが見えた。最初は学生が寝ているのかと思ったが、彼が身につけているのはこの学校の制服ではない。見るからに上等な絹であつらえた豪奢な服だ。


(どこかのお偉いさんかな)


 こんな人がどうして学校のベンチなんかに寝そべっているのか知らないが、なんとなく関わると面倒そうなにおいがする。

 ネネが何も見なかったことにしてベンチの横を通り過ぎようとしたとき、小さなうめき声が聞こえた。


「うう……ううぅぅん」


 青年がもじもじしながら唸っている。


(大丈夫。きっと寝言だろう。そっとしておくのが一番だ)


「うっ、ううぅぅううん」


 青年はさらに大きな声で唸りだした。


(これはあれだ。悪夢でも見てるんだ。無理に起こさない方がいいよね)


「うう! う、うーん!!!」


 ネネは足を止めた。


「あの、大丈夫ですか?」


 無視しきれなかった。

 とりあえずそばに寄って声をかけてみる。すると、小さな声で何か言っているのが聞こえた。


「は、腹が……」


 腹? 


「お腹痛いんですか?」

「うう……もう限界だ……」


 消えいるような声のあとに、ぐぅと腹の虫が鳴るのが聞こえた。

 どうやらこの男、腹が減って動けないようだ。


(仕方ない)


 ネネは抱えていた紙袋からピザまんを一つ取り出すと、男の頭元に差し出した。


「よかったら、これどうぞ」


 すると男は急にガバッと起き上がった。その顔はこざっぱりとしていて一般的には美男子の部類に入るだろう。男は差し出されたピザまんとネネの顔を交互に見ながら言った。


「……なんていい匂い。これ食べていいのかい?」


 ネネが頷くと、男はネネからピザまんをむしり取るようにしてかぶりついた。


「あ、熱っ。けどうまい! 何だこれは!」


 男はペロリとピザまんをたいらげると、改めてネネの方に向き直った。


「ありがとう! 貴女のおかげで命拾いしたよ」

「どうしてこんなところで寝ていたんですか?」

「え? そういえばどうしてだろう……ああ、そうだ侍女のマーサとはぐれて道に迷って戻れなくなったんだ。この学校敷地が途方もなく広いだろう。彷徨ってるうちにお腹が減って動けなくなって……そこからの記憶がないな」

「それは……大変でしたね」

「ところで貴女は? 学生さん? ではないよね」

「私は食堂の料理人です」

「そうか! どおりでこんな美味しいものを持っているわけだ。これは何か礼をしなくてはならないな」


 とそこで、女性の声が聞こえてきた。


「おぼっちゃまー! キースおぼっちゃまー! どちらにいらっしゃいますー!?」

「おっといけない。マーサが呼んでいるようだ。この礼はまた後日必ずすると約束しよう」


 キースと呼ばれた男はそれだけ言い残し、「マーサ!」と叫びながら走り去っていった。


(なんだったんだ……)


 よく分からないけれど元気になったみたいだしいっか。とそのときは軽く考え、ネネは当初の目的通り図書館へ向かった。



 職員用入り口から図書館に入ると、ちょうどペトラが休憩に入るところだった。

 ネネは持ってきたピザまんや肉まんの袋をペトラに渡す。


「ありがとうネネちゃん。これが噂になってるピザまんね。とってもいい匂いだわ。でもこんなにたくさんいいの?」

「はい。他の職員さんと食べてください」

「ありがとう、みんなきっと喜ぶわ」

 

 ネネは図書館をあとにすると厨房へ戻った。


「おかえり」


 ネネはノアに先ほど会ったキースという男のことを話した。


「それってあれじゃね、視察に来てるっていう大金持ちじゃないか」

「そうなのかな」

「きっとすっごいお礼してもらえるぞ」

「すごいお礼ってどんなの?」

「そりゃあ、でっかい宝箱とかさ」

「でっかい宝箱ってそんなお伽話じゃあるまいし」


 と冗談半分に話していたのだが、翌日食堂へやってきたキースは、ネネもノアも予想外の礼を提案してきたのだった。


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