第48話 目を逸らす
佐倉とは、学校まで一緒に来た。
今朝は遠回りをして、たまたま佐倉と会った。吉田さんにも会って、そのあとも普通に話しながら学校まで歩いた。
その間にも、何度か今朝の夢を話そうとは思った。
知らない犬だった。
外からは普通に見えたのに、本当はずっと苦しんでいて、最後にはそのまま倒れて死んだ。
いつもなら、こういう夢は佐倉に話している。
最近は夢のことを聞いてもらうだけで、少し楽になっていた。
でも今日は言えなかった。
今朝の犬を思い出すと、この前見たココの足の傷まで気になってしまうからだ。
もし、
「ココも何かあるんじゃない?」
と言ったら。
ちゃんと見てないんじゃないの。
怪我してるのに気づいてないんじゃないの。
僕の方がココのことを分かってる。
そんなふうに、佐倉を責めているように聞こえるかもしれない。
そんなつもりはない。
毎日ココと一緒にいる佐倉の方が、僕よりずっとココのことを知っている。
それでも、もし変なふうに受け取られたら。
もう夢の話を聞きたくないと言われたら。
それが怖かった。
せっかく話せる相手ができたのに、また一人で抱えるのは嫌だった。
だから、ココのことだけじゃない。
今朝の夢そのものまで話せなくなっていた。
自分の席に座り、教科書と筆箱を出す。
いつもなら、このくらいの時間になると佐倉が僕のところへ来ることがある。
今日も来るかもしれない。
来たら、夢の話だけすればいい。
そう思った。
でも、佐倉は来なかった。
少し気になって席を見る。
佐倉はもう来ていて、自分の席で教科書を出していた。
目が合いそうになり、僕は前を向いた。
来ないなら、話さなくて済む。
そう思うと少し安心した。
でも同時に、
どうして今日は来ないんだろう。
とも思った。
勝手だった。
僕は話したくないくせに、向こうから来ないと気になる。
そこへ小林が教室に入ってきた。
「おはよ、宍戸」
「おはよう」
「今日早かった?」
「いつもよりは」
「俺、今日マジで危なかった」
「いつもでしょ」
「今日はいつもより危なかった」
何が違うのか分からない。
小林はそのまま近くの男子とサッカーの話を始めた。
僕も何となく聞きながら、佐倉の方をちらっと見る。
佐倉はこっちを見ていなかった。
それを見て、少しだけほっとした。
一時間目はタブレットを使う授業だった。
先生が説明を始めるまで少し時間があったので、検索画面を開く。
犬 体調悪い 普通に見える
出てきたものをいくつか読んでみる。
犬は体調が悪くても、外からは分かりにくいことがあるらしい。食欲や歩き方、呼吸なんかの、普段との小さな違いを見ることが大事だと書いてあった。
今朝調べた時と、だいたい同じだった。
だからといって、ココに何かあるとは限らない。
僕が勝手に、今朝の犬とココを結びつけているだけなのかもしれない。
それでも気になる。
休み時間になったら、夢の話だけしてみよう。
ココのことは言わなくていい。
それならできる気がした。
一時間目が終わると、教室がまた騒がしくなった。
佐倉の方を見る。
ちょうど向こうもこっちを見ていた。
目が合った。
その瞬間、僕は反射的に目を逸らした。
机の上のノートに視線を落とす。
別に確認するものなんてない。
それでも、しばらくそのままにしていた。
佐倉は来なかった。
僕も行かなかった。
さっきまで、休み時間になったら話そうと思っていたのに。
結局、また何も言えなかった。
でも。
佐倉がこっちに来なかったことに、少しほっとしていた。




