↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も僕はまた死んだ  作者: 宍戸 耀
第一章 死ぬ夢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/54

第45話 もう決まってた


家に帰って玄関を開けると、すぐに足音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、おかえり!」


桜が廊下を走ってくる。


「ただいま」


「今日早かったね」


「部活にちょっとだけ顔出してきたから」


「百人一首?」


「うん」


桜はそれで納得したらしく、すぐに別の話を始めた。


「ねえ、犬のことなんだけど――」


やっぱり犬だった。


朝からずっとこれだ。


「その前に、今日佐倉に会ったよ」


「佐倉さん?」


「うん」


言ってから、やっぱり少し紛らわしいと思った。


家で「桜」と言えば妹の桜。学校で「佐倉」と言えば同級生の佐倉。


声に出せば違うけれど、頭の中ではどっちも「さくら」になる。


「今日、朝も昼も話したし、帰りにも会った」


「今日いっぱい会ってるじゃん」


「同じクラスだからね」


「ココいた?」


桜がすぐに聞く。


「いなかったよ」


「えー」


分かりやすく残念そうな顔をする。


「佐倉のお父さんには会った」


「佐倉さんのお父さん?」


「うん。家の前にいた」


「ココは?」


「だから家にいたって。あとで散歩するって言ってたよ」


「そっか」


桜は少し考えてから、何か思いついたように顔を上げた。


「あ」


「何?」


「うちの犬も、ココにしようかな」


「やめた方がいいんじゃない?」


「なんで?」


「紛らわしいから」


「紛らわしい?」


「僕が『ココが』って言った時、どっちのココか分からなくなるでしょ」


桜が真剣な顔で考える。


「……そっか」


ようやく気づいたらしい。


「ココ、いい名前なのに」


「いい名前だと思うよ。かわいいし」


「でしょ?」


それを聞いただけで、桜は少し満足そうな顔になった。


「じゃあ別の考える」


「そうした方がいいと思う」


「どんな名前がいいかなあ」


もう僕に聞いているわけではないらしい。


桜は一人で何か呟きながら、ダイニングの方へ走っていった。


犬が来る前に、名前の候補だけで何個できるんだろう。


夕飯になった。


父さんも母さんも帰ってきていて、姉さんも席についている。話題は、やっぱり犬だった。


桜は昼間から考えていたらしい名前をいくつか挙げている。


どれも、まだ実物を見てもいない犬の名前だ。


僕はご飯を食べながら、昼に佐倉と話したことを思い出した。


そういえば、家でも言っておこうと思っていた。


「犬なんだけど」


僕が言うと、桜がすぐにこっちを向いた。


「名前決まった?」


「違う」


「じゃあ何?」


「できれば、小さい犬がいいんだけど」


父さんが僕を見る。


「小さい犬?」


「うん」


「なんで?」


理由はいくつかあった。


「小さい方が飼いやすそうじゃない?」


「まあ、種類にもよるけどな」


「それに、桜でも一人で散歩できるかもしれないし」


「できるよ!」


桜がすぐに言う。


「まだ犬の大きさ決まってないでしょ」


「大きくてもできるもん」


「引っ張られたら転ぶよ」


「転ばない」


この前も段差につまずきそうになっていた気がする。


「ココくらいならまだいいけど、もっと大きかったら桜一人はちょっと心配だし。僕も毎日散歩に行けるとは限らないから」


父さんが頷いた。


「それはそうだな」


僕は少し迷ってから、もう一つの理由を付け足した。


「あと、小さい犬の方が長生きすることが多いらしいし」


父さんが少しだけ僕を見る。


「だから、どうせ飼うなら小さい犬にしない?」


父さんが困ったような顔をした。


「ああ……それなんだけどな」


「何?」


父さんが母さんを見る。


母さんも少し笑っている。


なんとなく嫌な予感がした。


「もう決まったんだ」


僕は箸を止めた。


「何が?」


「犬」


「もう?」


「犬に詳しい知り合いには、前から相談だけしてたんだ。今日、正式に飼うって決めたって話したら、ちょうど譲ってもらえる子がいるって話になってな」


準備が良すぎると思う。


「じゃあ、小さい犬?」


父さんが一瞬黙った。


「いや」


「違うの?」


「ああ。悪いけど、小さい犬ではない」


「……そうなんだ」


遅かった。


今日の昼に佐倉と話して、家に帰ったら言ってみようと思ったばかりだった。


その時には、もう決まっていたらしい。


「どれくらい大きいの?」


「それは実際に見てからのお楽しみでいいだろ」


「そこ隠す必要ある?」


「まあまあ」


父さんが笑う。


どうやら教えるつもりはないらしい。


「すまんな。もう話を進めちゃったんだ」


「まあ、決まったならしょうがないけど」


今から僕一人の希望で断ってくれと言うつもりもなかった。


犬が嫌なわけではないし、飼うこと自体ももう受け入れている。


それに昼には、自分で「楽しみだね」と言った。


だったら、どんな犬でも来たらちゃんと世話をするだけだ。


父さんが少し笑った。


「でも耀、喜べ」


「何?」


「白い犬だぞ」


僕は父さんを見る。


「白い?」


「そう」


まだそれが残っていた。


別に僕は、白い犬が好きなわけじゃないんだけどな。


桜が「お兄ちゃんは白い犬が好き」と両親に言ったせいで、完全にそういうことになっている。


今さら訂正するのも面倒だった。


「そうなんだ」


「白いの!?」


桜の方が僕よりずっと喜んだ。


「どんなワンちゃん? 写真ないの?」


「今はないな。今度見せてもらうよ」


「男の子? 女の子?」


「それは聞いてる。男の子だ」


「男の子!」


桜が嬉しそうに繰り返す。


「いつ来るの?」


「近日中には来ると思うぞ」


「ほんと!?」


桜の声が一段大きくなった。


「やった!」


椅子から立ち上がりそうになって、母さんに「食べてから喜びなさい」と言われる。


姉さんも楽しそうだった。


「白い犬か。絶対かわいいじゃん」


桜が姉さんを見る。


「姉ちゃんも散歩してね」


「気が向いたらね」


「毎日は?」


「しない」


即答だった。


僕は姉さんを見る。


「そこは変わらないんだ」


「最初からそう言ってるじゃん」


「ちょっとくらい格好つければいいのに」


「後でやらないって言われる方が面倒でしょ」


それは確かにそうだった。


桜が頬を膨らませる。


「じゃあ私が毎日する」


「小さい犬じゃないんでしょ」


僕が言う。


「できるもん」


「まだどれくらいの大きさか知らないじゃん」


「できる!」


根拠はないらしい。


父さんと母さんが笑う。


姉さんも笑っている。


僕も少しだけ笑った。


その日の夕飯は、結局ずっと犬の話だった。


どんな犬だろう。


名前はどうする。


どこで寝かせる。


何を用意する。


まだ姿も見ていないのに、桜の中ではもう家にいるみたいだった。


     ◇ ◇ ◇


風呂に入って部屋へ戻った。


ベッドに座ってスマホを見る。


何となく画面を眺めているうちに、ふと綾さんのことを思い出した。


「……連絡先、教えとけばよかったな」


綾さんとは、まだ連絡先を交換していない。


向こうは聞こうとしていたのに、僕が断った。


あの時は別に必要ないと思ったし、今でも毎日連絡を取りたいわけじゃない。


でも、夢を見たあとにすぐ聞きたいことや話したいことが出てくるなら、知っていてもよかったかもしれない。


少し失敗した。


次に会ったら、その時は教えてもいいかもしれない。


僕はスマホを机に置いた。


それから、夕飯の時の話を思い出す。


小さい犬ではない。


白い犬。


男の子。


分かっているのは、そのくらいだった。


どんな犬なんだろう。


昼までは、小さい犬がいいと思っていた。今だって、できればその方がよかったとは思う。


でも、もう決まった。


だったら、来る犬がどんな犬なのか、少しくらい楽しみにしてもいい。


僕はまだ見たこともない犬の姿を少しだけ想像してから、布団に入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。