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今日も僕はまた死んだ  作者: 宍戸 耀
第一章 死ぬ夢

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第40話 自分の足


今日も夢を見た。


ただ、昆虫の夢は。


別に珍しくない。


今までにも。


何度も見た。


蟻だったり。


蛾だったり。


蠅だったり。


名前も分からない。


小さな虫だったこともある。


死に方も。


大体。


似たようなものが多かった。


踏まれる。


潰される。


食べられる。


寒さで動けなくなる。


それから。


そのまま死ぬ。


昆虫は小さい。


だから。


死ぬ時も。


何かに簡単に殺されることが多かった。


少なくとも。


僕が今まで見た夢では。


そうだった。


でも。


今回の夢は。


少し違った。


最初から。


何かがおかしかった。


暗い。


草の匂いがする。


僕は歩いていた。


六本の脚で。


前の二本だけ。


少し形が違う。


それを見て。


分かった。


カマキリだ。


僕は。


カマキリになっていた。


歩く。


草を越える。


石を避ける。


どこへ行こうとしているのか。


分からない。


ただ。


脚が動いていた。


前へ。


前へ。


僕は止まろうとした。


でも。


止まらない。


違う。


そっちじゃない。


そう思う。


なのに。


脚は進む。


自分の体なのに。


自分で動かしている感じがしなかった。


今までの夢でも。


僕が体を動かしているわけではなかった。


僕は。


死んだ生き物が見たものを。


感じているだけだ。


だから。


自分の意思で動かせないこと自体は。


いつもと同じだった。


でも。


今回は。


違う。


このカマキリ自身も。


そっちへ行きたくない。


そんな感じがした。


なのに。


体だけが。


前へ進んでいく。


そのうち。


前が開けた。


光っている。


水だった。


僕は止まりたかった。


行きたくない。


水の中なんて。


入りたくない。


なのに。


体は。


水へ向かっていた。


一歩。


また一歩。


水が近づく。


怖い。


それでも。


なぜか。


水へ行かなければいけない気がした。


行きたくないのに。


行きたい。


二つの感覚が。


同時にあった。


どっちが。


僕なんだ。


分からなかった。


そして。


脚が水に触れた。


冷たい。


次の瞬間。


体が水の中へ落ちた。


苦しい。


すぐに。


思った。


出たい。


ここから。


出たい。


脚を動かす。


必死に。


水を掻く。


さっきまで。


勝手に水へ向かっていた脚が。


今度は。


水から出ようとしている。


岸は。


すぐそこに見える。


行け。


上がれ。


生きたい。


死にたくない。


体を動かす。


何度も。


何度も。


でも。


うまく進まない。


体が重い。


その時。


腹の中で。


何かが動いた。


僕じゃない。


僕の中に。


何かいる。


長い。


細い。


何かが。


体の中を動いている。


気持ち悪い。


怖い。


でも。


今は。


そんなことより。


水から出たかった。


生きたかった。


脚を伸ばす。


岸へ。


あと少し。


その時。


腹の奥が。


大きく動いた。


何かが。


出ていく。


長い。


細い。


僕の体から。


ありえないくらい長いものが。


水の中へ抜けていった。


それは。


僕から離れると。


そのまま泳いでいった。


僕は。


まだ生きていた。


なら。


まだ。


終わっていない。


脚を動かす。


水を掻く。


岸へ。


行きたい。


上がりたい。


生きたい。


死にたくない。


何度沈んでも。


また脚を動かした。


水が体にまとわりつく。


力が入らない。


それでも。


動かす。


まだ。


死んでいない。


だったら。


動ける。


動けるなら。


生きられるかもしれない。


岸は。


見えている。


あと少し。


本当に。


少しなのに。


脚が。


動かなくなっていく。


違う。


動け。


まだ。


まだ死にたくない。


前脚を伸ばす。


何も掴めない。


沈む。


また。


必死に動かす。


少しだけ浮く。


でも。


また沈む。


体から。


力がなくなっていく。


それでも。


最後まで。


脚を動かした。


生きようとした。


さっきまで。


僕の意思とは関係なく。


水へ向かっていた体で。


今度は。


僕自身が。


水から出ようとしていた。


最後まで。


死にたくなかった。


最後まで。


生きようとしていた。


でも。


岸には。


届かなかった。


朝、目が覚めてからも、夢のことを考えていた。


カマキリだった。自分の意思とは関係なく水へ向かって、そのまま水の中へ入った。


でも、水に入ってからは違った。外へ出ようとして必死に脚を動かしていた。


何度沈んでもまた動いた。最後まで、生きようとしていた。


今まで何度も昆虫になった。潰されたり、食べられたり、寒さで動けなくなったりした。


小さな虫は簡単に死ぬ。ずっと、そんなふうに思っていた。


でも、ただやられているだけじゃない。小さな虫でも、やっぱり最後まで必死に生きようとしている。


マロもそうだったし、牛も蜘蛛もそうだった。そして、昨日のカマキリも同じだった。


夢を見るたびに、少しずつ分かることが増えている気がする。


死ぬところばかり見ているのに、僕が知るのは、生きようとしていることばかりだった。


ベッドから起きて顔を洗い、机の前に座った。タブレットを開く。


カマキリにハリガネムシが寄生すること自体は、前にどこかで聞いたことがあった。


でも、昨日の夢みたいに、自分から水へ向かっていくことまで詳しくは知らない。


どうしてあんなことになるんだろう。


検索欄に「カマキリ ハリガネムシ 水」と入れて、いくつか出てきたものを読んだ。


ハリガネムシは、成長すると水の中で暮らすらしい。そのため、寄生しているカマキリなどを水辺へ向かわせ、水に入らせてから体の外へ出る。


僕は画面を見たまま、しばらく動かなかった。


やっぱり、あれはカマキリ自身が水に入りたかったわけじゃなかった。


体の中にいたハリガネムシのせいで、水へ向かわされていた。


自分の脚なのに、自分の行きたい方へ歩けない。止まりたかったのに止まれない。


夢の中で感じたあの感覚を思い出すと、今でも少し怖かった。


でも、水に入ったあとは違った。


ハリガネムシが出ていったあとも、カマキリは生きていた。そして、自分の脚で外へ出ようとしていた。


少なくとも僕には、そう感じた。


体を操られて水に入っても、最後には自分で生きようとしていた。


僕はタブレットを閉じた。


そこで、昨日の夕食のことを思い出した。


犬を飼いたいと言っていた桜は、雨の日も散歩すると言った。


疲れていてもやると言った。父さんと母さんに何度言われても、最後まで諦めなかった。


本当に犬が欲しいんだと思う。


でも、やっぱり飼わない方がいいんじゃないかとも思った。


犬も生き物だ。生きているなら、いつか死ぬ。


昨日のカマキリだって、最後まで必死に生きようとしていた。それでも死んだ。マロも、牛も、蜘蛛も同じだった。


どれだけ生きたくても、いつかは死ぬ。


犬を飼えば、その犬もいつかそうなる。


家の中で僕たちと一緒に暮らして、名前をつけて、毎日ご飯をやって、散歩をする。多分、僕も好きになる。


それから、死ぬ。


その時、僕はその犬の夢を見るかもしれない。


それが怖かった。


まだ飼っていない。今ならやめられる。


父さんと母さんがこのまま反対してくれれば、桜もそのうち諦めるかもしれない。その方がいいと思う。


でも、昨日の桜の顔も浮かんだ。


「私、本当に犬欲しいの」


あんなに必死に言っていた。


一人で留守番する時は少し寂しいとも言っていたし、ココみたいな犬が家にいたら楽しいとも言っていた。


それを思い出すと、簡単に「やめた方がいい」とも思えなくなる。


桜が諦めてくれれば安心する。


でも、諦めてがっかりしている桜を見るのも、あまり見たくなかった。


昨日だって、桜に「駄目?」と聞かれた時、僕は結局、駄目とは言えなかった。


犬を飼うのは怖い。


でも、桜は飼いたい。


朝からそんなことばかり考えていた。まだ犬が来ると決まったわけでもないのに。


階下から物音が聞こえた。そろそろ朝ごはんの時間らしい。


僕は椅子から立ち上がり、部屋を出ようとして机の上のタブレットを見た。


さっきまで画面に映っていたカマキリのことを、もう一度思い出す。


自分の意思とは関係なく水へ向かわされた。それでも最後には、自分の脚で外へ出ようとした。


生きるために。


僕は立ち上がり、自分の足で階段を下りた。

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