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今日も僕はまた死んだ  作者: 宍戸 耀
第一章 死ぬ夢

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第35話 休みの最終日

朝。


ベッドからようやく起き上がる。


さっきまで見ていた画面を思い出す。


食仔。


嫌な言葉だった。


母親が。


自分の子供を食べる。


理由はいくつもあった。


でも。


結局。


僕が見た母猫が、どうして僕を食べたのかまでは、はっきりと分からなかった。


弱っていたからかもしれない。


他の子猫を守るためだったのかもしれない。


母猫自身に何かあったのかもしれない。


それ以外かもしれない。


僕が見たのは。


食べられる側だけだった。


だから。


本当の理由は分からない。


ただ。


食べられた時のことだけは。


まだ覚えている。


痛かった。


怖かった。


安心していた匂いが。


突然、怖いものに変わった。


それだけは。


調べても変わらなかった。


僕は少しだけ考えて。


やめた。


これ以上考えても。


あの母猫のことは分からない。


今日は連休の最終日だった。


明日から、また学校が始まる。


せっかくの最後の休みだし。


何かしたい気はした。


顔を洗って、一階へ下りる。


リビングには、もうみんないた。


父さんは新聞を見ている。


母さんは朝ご飯を並べていた。


桜は眠そうな顔でパンを食べている。


姉さんもいた。


珍しい。


休みの日なら、もう少し寝ていることが多い。


僕も席に座る。


「いただきます」


パンを一口食べる。


その時。


「耀」


姉さんが僕を見た。


「何」


「今日、なんか予定ある?」


珍しい。


姉さんから僕の予定を聞かれるなんて。


「特にないけど」


「じゃあ、昼過ぎ家にいて」


「なんで?」


「友達来るから」


僕は姉さんを見る。


「姉さんの友達でしょ」


「そうだけど」


「僕、関係なくない?」


「いいから、いて」


「なんで」


「いいから」


説明する気はないらしい。


「出かけるかもしれないけど」


「出かけないで」


「なんで決めるの」


姉さんがパンを食べながら僕を見る。


「耀は家にいるの」


「命令?」


「お願い」


お願いの言い方ではなかった。


「理由は?」


「あとで分かるから」


「今言えばいいじゃん」


「あとで分かるって」


また説明する気はないらしい。


うちの姉は、大体こうだ。


普段。


僕が何をしているかなんて、ほとんど気にしない。


学校で誰と話しているとか。


休みの日に何をしているとか。


聞かれることもあまりない。


なのに。


自分に何か用事がある時だけ。


急にこうなる。


「昼過ぎだからね」


「分かったよ」


「ちゃんといてよ」


「分かったって」


昔は。


姉さんも、もう少し僕のことを気にしていた。


夢を見始めた頃は。


父さんも。


母さんも。


姉さんも。


心配してくれていた。


病院にも行った。


何度か。


色々調べられた。


でも。


何も分からなかった。


それでも。


夢はなくならなかった。


食べられたとか。


潰されたとか。


苦しくて死んだとか。


最初の頃は。


僕も見たことを、そのまま話していた。


誰かに聞かれれば。


普通に答えていた。


でも。


何度も話しているうちに。


父さんの顔も。


母さんの顔も。


姉さんの顔も。


少しずつ変わっていった。


心配しているというより。


困っているような。


嫌そうな。


そんな顔をすることが増えた。


病院へ行っても。


何も変わらない。


それなのに。


僕が話すことは。


死んだとか。


食べられたとか。


そんな話ばかりだった。


気味が悪かったんだと思う。


だから。


僕も話さなくなった。


別に。


誰とも話さなくなったわけじゃない。


夢のことを。


人に話さなくなっただけだ。


そのうち。


姉さんも聞かなくなった。


父さんも。


母さんも。


僕が朝起きても。


夢を見たのかなんて。


ほとんど聞かなくなった。


桜には。


最初から話していない。


まだ小さかったのもある。


でも。


今も話していない。


桜まで。


父さんや母さんや姉さんと。


同じような顔をするようになるのは。


あまり見たくなかった。


だから。


桜の前では。


夢の話はしない。


それなのに。


久しぶりに姉さんが僕の予定を気にしたと思ったら。


自分の友達が来るから家にいろ。


それだけ。



やっぱりわがままだと思う。


「お兄ちゃん、怒ってる?」


桜が聞いた。


「怒ってない」


「顔、怒ってるよ」


「普通」


「そう?」


「そう」


朝から少し気分が悪くなった。


ふと。


桜の頭に手を置く。


そのまま、少し撫でた。


「何?」


桜が不思議そうに僕を見る。


「別に」


手を離す。


少しだけ。


気分が落ち着いた。


まあ。


もともと家にいる予定だったからいいけど。


僕は残りのパンを食べた。


朝ご飯を食べ終えて、部屋へ戻る。


スマホを見る。


メッセージ。


メール。


SNS。


一通り確認する。


小林から新しい連絡はなかった。


クラスのグループも。


大した話はない。


スマホを置く。


明日から学校。


そう考える。


連休に入る前なら。


休みが終わることなんて。


別にどうでもよかった気がする。


学校が嫌いというわけじゃない。


好きでもない。


行かなければいけないから行く。


それだけだった。


家にいても。


学校にいても。


僕にとっては。


そこまで大きな違いはなかった。


でも。


今は。


少しだけ違う。


学校へ行けば。


小林がいる。


この前。


僕が急にサッカーへ行くと言っても。


普通に混ぜてくれた。


転んだだけなのに。


僕が何度も大丈夫かと聞いて。


心配性だと言われた。


最後には。


死んでほしくないだけ。


なんて言った。


今考えても。


少し変なことを言った気がする。


でも。


小林は笑っていた。


それから。


佐倉もいる。


僕の夢の話をした。


蜘蛛だったことも。


死んだことも。


普通なら。


変だと言われてもおかしくない。


でも。


佐倉は。


「痛かった?」


そう聞いた。


父さんや母さんや姉さんみたいな顔は。


しなかった。


僕はベッドに座る。


別に二人に会いたいとか。


学校が楽しみだとか。


そういうことではない。


たぶん。


でも、前より。


学校へ行くことが。


どうでもよくはなくなっていた。


少しだけ。


行く理由が増えた。


そんな感じだった。


明日になれば、また教室へ行く。


小林と話すかもしれない。


佐倉とも。


それ以外は。


多分、いつも通りだ。


そう考えると。


休みが終わるのも。


前ほど嫌ではなかった。


……いや。


そもそも。


前も嫌だと思ってはいなかった。


どうでもよかっただけだ。


その違いが。


自分でもよく分からない。


僕はタブレットを開く。


動画を一つ再生する。


少し見て、次を見る。


また次。


気づけば。


さっきより時計の針が進んでいた。


まだ昼までは時間がある。


今日は連休の最後の日。


何かしたいことがあるわけでもない。


でも何かしたい気持ちはあった。


それに、外へ出ようかとも思った。


けれど。


姉さんに家にいろと言われている。


別に従う必要もない気はする。


でも。


出かける理由もなかった。


僕はそのままベッドに横になる。


天井を見る。


猫の夢は。


まだ少し頭に残っている。


でも。


さっきよりは遠くなっていた。


夢を見る。


起きる。


調べる。


考える。


最近は。


それを何度も繰り返している。


答えが分かることもある。


分からないこともある。


今回も。


全部は分からなかった。


母猫が僕を食べた理由。


それは。


たぶん。


ずっと分からない。


でも。


分からないままのことがあるのも。


少しずつ。


慣れてきた気がする。


時計を見る。


もう少しで昼になる。


昼を過ぎれば。


姉さんの友達が来る。


僕には関係ないはずなのに。


なぜか。


家にいろと言われた。


どうして僕までいないといけないのか。


それは。


まだ分からなかった。

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