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今日も僕はまた死んだ  作者: 宍戸 耀


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第25話 またやろう

授業が終わった。


教室の中が、急に騒がしくなる。


椅子を引く音。


鞄を閉じる音。


部活へ向かう生徒たちの声。


僕もタブレットを鞄に入れた。


肉牛について調べていた画面は、もう閉じてある。


それでも、昨日の牛のことは頭に残っていた。


十桁の番号。


生まれた場所。


育てられた場所。


最後まで、生きようとしていたこと。


考えながら、教室を出ようとした。


「宍戸」


後ろから名前を呼ばれた。


振り返る。


小林だった。


鞄を肩にかけている。


その後ろには、同じクラスの男子が二人いた。


「もう帰るの?」


「うん」


「俺たち、ちょっとサッカーするけど」


小林が窓の外を指した。


校庭には、まだ部活が始まる前の生徒たちがいた。


「宍戸もやらない?」


僕は、すぐには答えなかった。


サッカーは、ほとんどしたことがない。


体育の授業で、ボールを蹴ったことがあるくらいだった。


どこへ走ればいいのかも分からない。


「僕、できないけど」


「別にできなくてもいいよ」


小林は、すぐに言った。


「遊びだから」


後ろにいた男子も言う。


「人数、多い方がいいし」


断る理由を考えた。


家に帰る。


それだけだった。


帰っても、特にすることはない。


夜までの時間が、長くなるだけだった。


「少しなら」


僕が言うと、小林が笑った。


「じゃあ行こうぜ」


それだけだった。


何か特別なことを言われたわけではない。


上手そうだと思われたわけでもない。


ただ、人数の一人として誘われた。


それが、少し嬉しかった。


校庭の端へ行く。


小林たちのほかにも、別のクラスの男子が何人かいた。


ボールは一つだけだった。


鞄を地面に置く。


上着を脱ぐ。


二つに分かれようとしたけれど、人数が合わなかった。


途中から来る人もいた。


先に帰る人もいた。


誰がどちらのチームなのか、僕にはよく分からなかった。


「宍戸、こっち」


小林に言われた方へ行く。


それで始まった。


最初は、何をすればいいのか分からなかった。


みんながボールの方へ走る。


僕も少し遅れて走った。


誰かが蹴ったボールが、目の前を通り過ぎる。


追いかける。


追いつかない。


方向を変える。


また違う方へ蹴られる。


体だけが、無駄に動いている気がした。


しばらくして、ボールが僕の方へ来た。


急だった。


何も考えられなかった。


足を出す。


ボールは靴の端に当たり、横へ転がった。


相手のところへ行った。


「あ、ごめん」


僕が言うと、小林は走りながら答えた。


「大丈夫!」


怒られなかった。


相手がボールを蹴る。


小林が取り返す。


また試合が続く。


失敗しても、止まらなかった。


夢の中では、失敗したあとも、死ぬまで続いた。


でも、これは違う。


失敗しても、次のボールが来る。


また走ればよかった。


息が苦しくなった。


足も少し重くなった。


それでも、嫌ではなかった。


考える暇がなかった。


昨日の牛のことも。


今夜、また死ぬかもしれないことも。


走っている間は、ほとんど考えなかった。


また、ボールが来た。


今度は少し時間があった。


小林が前にいる。


僕は、小林の方へ蹴った。


まっすぐではなかった。


少し弱かった。


それでも、小林の足元まで転がった。


小林がボールを受け取る。


「ナイス」


すぐに前を向いて走っていく。


ナイス。


僕に言ったのだと思う。


僕は、また走った。


そのあとも、何度か失敗した。


空振りもした。


一度、足を滑らせた。


誰かに笑われた。


でも、嫌な笑い方ではなかった。


僕も、少しだけ笑った。


どれくらい続けたのか分からない。


部活の生徒が校庭へ集まり始めたところで終わった。


「そろそろ帰るか」


誰かが言った。


僕は息を整えながら、上着を着た。


汗をかいていた。


制服の背中が、少し気持ち悪い。


足も重い。


それでも、体の中には、走る前とは違う軽さが残っていた。


校門を出る。


小林たちと途中まで同じ道を歩いた。


「宍戸、意外と走れるじゃん」


小林が言った。


「そう?」


「全然動けないかと思ってた」


「僕も、そう思ってた」


小林が笑った。


僕も少し笑った。


しばらく歩くと、道が分かれた。


「じゃあ、俺たちこっちだから」


小林が足を止める。


「うん」


「そうだ。宍戸、スマホ持ってる?」


「持ってるけど」


「連絡先、交換しようぜ」


小林は鞄からスマートフォンを取り出した。


「次やる時、グループで連絡するから」


次。


またやることが、もう決まっているみたいな言い方だった。


断る理由はなかった。


僕もスマートフォンを取り出す。


小林が見せた画面を読み取ると、すぐにグループへ招待された。


名前は、二年三組とだけ書かれていた。


参加しているのは、小林たちだけではなかった。


クラスの男子や女子の名前が、いくつも並んでいる。


その中には、佐倉の名前もあった。


僕の知らないところで、みんなは前からつながっていたらしい。


参加する、を押す。


すぐに画面が切り替わった。


『宍戸耀が参加しました』


小林が、その下に文字を送る。


『今日から宍戸も入った』


隣にいた男子が、すぐに返した。


『よろしく』


もう一人も、短いスタンプを送ってきた。


僕は何を返せばいいのか分からなかった。


少し迷ってから、文字を打つ。


『よろしく』


送信する。


自分の名前と、自分の言葉が、ほかの人たちと同じ場所に並んだ。


「これで、次やる時に連絡できるから」


小林が言った。


「またやろうぜ」


「うん」


考える前に答えていた。


「じゃあな」


「また明日」


僕も小さく手を上げた。


小林たちが歩いていく。


一人になる。


スマートフォンが震えた。


さっき入ったグループに、小林から新しいメッセージが届いている。


『今度は宍戸に一点取らせる』


すぐに誰かが返す。


『無理だろ』


小林が返す。


『練習すればいける』


僕は画面を見たまま、少しだけ笑った。


何か返そうかと思ったけれど、言葉が浮かばなかった。


代わりに、笑っているスタンプを一つ送る。


すぐに既読がついた。


僕はスマートフォンを鞄にしまった。


歩きながら、自分の返事を思い出す。


またやろう。


サッカーが好きになったわけではない。


上手にできたわけでもない。


ゴールもしていない。


ただ走って。


何度かボールを蹴っただけだった。


それでも、また誘われたら、今度も断らなくていいと思った。


少し重くなった足で、僕は家へ向かって歩いた。

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