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お薬代

「お母様の薬!」

思い出したように叫びながらベットから起き上がる。


お母様は3年前から体調を崩しがちになり、

2年前からはずっとふせっていた。

領地の医者ではらちが明かず、私の王立学院進学にあわせて一緒に王都のタウンハウスに移り、

王都のお医者様に診ていただいている。


わがハーゲン子爵家は貧乏子爵なので、王都で一番の医者

というわけにはいかず、貴族相手でも下の方の医者にかかっている。

それでもさすがは王都の医者だけあって、

辺境領地の医者とは比べ物にはならないレベルだった。


そして、王都に来てから分かったのは、お母様の病名はクレスプだと判明した事だ。

病名さえ分かれば、対処法もあるはず! と、当初期待をしたのだが、

クレスプとは日本語で言うと 治らない腫瘍 という意味だ。治らないのだ。

多分、癌のようなもをイメージすればよいのだろう。

この、中世ヨーロッパみたいな設定の世界で、癌の外科手術があるとは思えないし、

実際に外科手術の話しなんて聞いたことがない世界なのだ。


治らない。という事実を知った時には4つ下の弟と私は2人で泣き明かした。

私達兄弟のお父様は私が7つの時に馬車の事故で亡くなっている。

私達に残されたたった一人のお母様までをも私達から奪い取られてしまう。

その事実に打ちのめされたのだ。


そしてせめて、生きている間は苦しまないようにと、痛み止めが欠かせなかった。

はじめの頃は痛み止めも良く効いていた。

それがここ数ヶ月、効きが悪くなってきていてお母様も大分辛そうにしている。

正直、みていてつらい程だ。

お医者様が言うには、もっと高価な痛み止めを使わないといけないそうだ。

高価な痛み止めはお値段に比例して、効きも良いという。

もちろん、それをお母様に使ってあげたい。


しかし、ハーゲン子爵家はしがない貧乏子爵家。

それでも、はじめのうちの病名が分かる前は

なけなしのお金をつぎ込んで治療した。


ハーゲン子爵領は国の北方に位置する寒村地帯だ。

お父様とお母様が結婚してすぐに、お母様の発案で酪農を手掛け始めた。

これが案外上手くいくようだと分かり始めたのだが、いかんせん元が貧乏領地。

酪農を大々的に拡大する資金も無かった。

細々と、しかし確実に年月をかけながら

酪農の規模を大きくし、やっと軌道に乗り始めてきた所でのお母様の病気。

私と弟は酪農の規模を落とさない程度にしか、お母様にお金をかけてあげられなかった。

やっと細々と現金収入が手に入るようになってきた領民の生活を落としたくなかったからだ。

お母様ももちろん大事なのだが、領民の生活も同じくらい大事だった。


子爵領は貧しかった為、私達家族は領民との距離が大変近かった。

なんなら私も弟も領地の畑や牧草地をかけまわり育ってきたのだ。

領民とも親しく口をきいていた。顔なじみの領民も多いのだ。

あそこの畑のオバチャン。

牛飼いのオジチャン。

パン屋のオネエサン。

一人ひとりの顔が思い浮かぶ。

みんな、、貧乏にめげずに明るく生きていて、

私達にも、優しくあたたかく接してくれた。

そんな領民のみんなの生活がやっと上向いてきた所なのに、

お母様のためだけに全てのお金をつぎ込むわけにはいかなかったのだ。


酪農拡大政策などの領地経営には関わらない、ハーゲン家で自由に使えるお金の範囲内で

なんとかやり繰りをしてきたのだが、正直、楽ではなかった。

私は学院のかたわら、仕事斡旋事に足げく通っては

繕いもの、縫い物などの内職を請け負って、薬代の足しにしていた。

幸い私は手芸系は大好きで得意だったので縫い物系の内職は苦にならなかった。

反対に言えば、そのような仕事しか私にはできなかった。そしてたかが知れていた。


そんな中での、今までより高価な薬代の出費だ。

もう、今までのような繕い物では支払いが追っつかない。

今までのお薬代だって、ようやく払っていたのだ。

もう、ハーゲン家にはこれ以上の余裕はない。カツカツだ。


どうしょう? どうしたらいいの?

頭の中はそれらの言葉でいっぱいだった。

目の前が真っ暗になったような感覚におそわれて、

学院の廊下をフラフラ歩いていたら、

なんにもない廊下でけつまずいてレインハルト様に抱きつくという失態を犯してしまったのだ。

しかし、お陰で前世の記憶を取り戻せて良かったと言えるのかな?


お金、お金が欲しい。

この、よみがえった前世の記憶の知識を使えば、使える知識がある。

しかし、それはあくまでもここが<誘惑の花園>の世界であったらば。だ。

おそらくそうであろうなと腑に落ちている私もいるのだが、

100%そうだと言い切れもしない。


その一つがレインハルト様だ。

前世、亜希の弟いわく、レインハルト様は甘々なヒーローだそうだが、

今のところ甘々な雰囲気ゼロだ。

いや、さっきファーストコンタクトしたばっかりだから、甘々もくそもないのかもしれないが。


一体どうやってレインハルト様と恋仲になり、甘々にされたのが?

そのへんの細かいシチュエーションは晩酌しながら、聞いてたからか記憶にない。

私のバカー。お酒呑みながらじゃなくて、きちんどシラフで聞いておけばよかったと反省はするけど、

まさか、異世界転生するとは思わないじゃない。しかも男性向けのギャルゲーだ。

そんなのゲームやラノベやマンガの世界でしか、ありえないと思ってたもん。ぐすぐす。


とりあえず、<誘惑の花園>の世界であるけれども、100%ゲーム通りに進むわけではない場合もあり得る。と、思い、行動した方が良さそうだ。

それもテンプレだよね。


ああ、そんな事よりお金ー。

幸い今日は金曜日。明日、あさっては土日で学院はお休みなので

とりあえず仕事斡旋所に行ってみよう。

もう、今日はなんか、色々と怒涛のようにあって疲れました。


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