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夢だったら良かったのに

女子寮まで送ってくださったレインハルト様にお礼を言い、別れを告げてから自室に戻る。

まっすぐ鏡の前に行き、改めて自分の姿を見る。


青味がかった銀のブルーシルバーでストーレートの豊かな髪

アイスブルーの瞳

その髪色と瞳からはパッと見た目 冷たい印象を与えるが、

やや、たれ目がちの優しい顔立ちから

よく見ると、美人というよりは ほがらかな少女に見える。

どのパーツも大好きなお母様ゆずりだ。

私はお母様と瓜二つなのだ。それが単純に嬉しい。


貴族女性にしてはたくましい体つきは

自然豊かな領地をかけまわって育った名残りだ。

そんな体でも引け目は感じていない。

むしろ健康的で良いと、お母様がよく言って下さった。


ああ、私は本当にローレライになってしまったんだわ。

鏡の中の私の輪郭をなぞる。

ショートボブの黒髪、黒目の亜希とは大違いの姿かたちにつくづく再確認させられる。


亜希としての心残りは案外ない。

独身アラフォー売れ残り女として仕事に邁進していたが、

別にそんなに特別仕事が好きだった訳ではないし、

好きだった男がいたわけでもない。

亜希としての生活に不満があったわけではないが

だからといってさして執着もなかったので、異世界転生にびっくりはしたが、

前世に執着もない。

むしろ再び若さを手に入れ、人生をやり直せる事に案外わくわくしていたりもする。


そう、ここが<誘惑の花園>の世界でさえなければ。だ。


私は鏡から離れて、ベットによろめき倒れ込み頭を抱える。


おそらくだが、まず間違いなく<誘惑の花園>の世界であろうと思われる。

主人公ローレライの姿かたち、その生い立ちの記憶。

ヒーローであるレインハルト様の容貌。

それらは私に『間違いありませんよー』とビシバシ伝えてくる。


<誘惑の花園>それは亜希の弟がドハマりしていた成人指定のギャルゲーだ。

亜希は晩酌しながら弟のヲタトークを散々聞かされていたのだ。

だから知っている。

このままのほほんと過ごしていれば、襲いかかってくる

不本意なR18のあんな事やこんな事。

それらを泣く泣くこなした後でやっと訪れるレインハルト様とのハッピーエンド。


神様、なんでよりによってこのゲームなんですか!

異世界転生といったら普通、乙女ゲームなんじゃないんですか?

なんなら流行りの悪役令嬢物とか色々あるじゃないですか。

しかも、魔法も精霊も妖精もない世界だし、

今のところ、私になんのチートもなさげ。

テンプレの転生の時に神様との邂逅もなかったし。


これ実は夢だったりする? 

はあああ。夢だったらどんなに良かったか。

ベットの上で頭を抱えて転げ回る感覚がリアルで

否が応でも ここは夢ではなく現実世界なのだと実感させられる。


ここが現実世界で、ゲームのストーリーに沿って進んでゆくとしても

不本意なあんな事やこんな事は絶対避けたい。

前世アラフォーなので乙女ではないし、色々体験済みだが、不本意なのは論外だ。

レインハルト様はローレライの不本意なあんな事やこんな事を全て知った上で、

それでもとローレライを望んでくる有難いヒーロー様だ。

ありがたや、ありがたや。


しかし、どうせハッピーエンドになるにしても

不本意な事を避けられるものなら避けたい。

前世、亜希は 初めての男と結ばれて結婚する。生涯その男しか知らない。

というのもなかなかロマンチックではないか?と結構妄想した事があるのだ。

どうせ転生して新しい人生を歩むのだ、それを望んでもいいんじゃないか?と思う。

となると、目指せレインハルト様一択だ。


そして、問題は不本意なあんな事やこんな事だけではないのだ。

1周目では紳士的で優しかったレインハルト様が

2周目ではヤンデレ監禁男になるのだ。


1周目ではプレイヤーは複数いる悪い男の一人を選び、

ローレライに無体なあんな事やこんな事をして楽しむのだが、

2周目はプレイヤーはレインハルト様となる。

2周目のレインハルト様は愛、激重ヤンデレ監禁男となってしまい、

ヤンデレ監禁プレイを存分に楽しむという作りになっているのだ。

現実では果たせない男の願望をその好みのプレイで満たせる

マニアに人気のゲームだったのだ。


と、なるとレインハルト一択という選択もどうなのよ??と思ってしまう。

今、現在、私はレインハルトを好きでも嫌いでもない。

遠くから愛でて楽しんでいるいる見目麗しい王子様て感じだ。

そして接点もない。

あ、今日抱きついて、お姫様抱っこされて、初めて口きいたわ。

接点できました。


それはともかく、この後、ゲーム通りに進めばレインハルト様と思い合える日が来るのだが、

愛、激重はまあいいとして、ヤンデレ監禁はなぁ。

現実世界でヤンデレも監禁も嫌だわ。

でも、あくまでもゲームでの2周目での話しでしょ?

現実世界で2周目はないからなぁ。

あんまり心配しなくていいのかなぁ?

いやー、でも、レインハルト様にそのけ

気が全くないとは言い切れない。

何かの拍子に目覚めてしまう、という可能性はゼロではないであろう。


そして、今の時点で肝心のレインハルト様が私をどう思っているのか不明なのだ。

氷の君と陰で呼ばれている彼が特段美人でもない私を2回もお姫様抱っこしてくれたという事は

少なくとも嫌われてはいない?のかな? 

いや、でも何回もしかめっ面してたなあ。

やっぱ嫌われてる?

うーん、この状態から一体どーやって私ラブ♡になるんだ?

だめだ。情報が少なすぎる。

レインハルト様については、今現在の事は全くわからん。

これからの事を含め、状況把握してまわらないとドツボにはまってしまう。



と、そこまで思考がたゆったところで、

今日、レインハルト様との思わぬ接点ができたきっかけの

大きな心配事を思い出したのだった。


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