このドキドキとは
私は誰?
亜希?ローレライ?
うん、どっちも私。
亜希は日本という国でアラフォーの独身ビジネスウーマンだった。
それなりに男性とお付き合いした事はあったが、
誰とも結婚には至らず。
実家住まいの子供部屋オバサンてやつだ。
実家には4つ下の弟もいて、弟との仲は大変良好だった。
弟は仕事後、疲れているだろうにギャルゲー三昧で、
よく私にプレイ中のゲームの話しをしてくれた。
特に彼がハマっていたゲーム、<誘惑の花園>というゲームの主人公が
ローレライで、うん、多分私。
でヒーローがレインハルト様。
ん、多分うちのクラスのレインハルト様だな。
あー、そうか、ここは<誘惑の花園>の世界なんだな。
なんかストンと納得した。
という事は 私は転生しちゃったの?
亜希は死んじゃったの?
死んだ記憶はないんだけどな。
でも、私がローレライであるなら亜希は亡くなったんだよね。
アラフォー独身で死亡なんて悲しすぎる。
せめて新たな人生は
大恋愛などとは言わないから
穏やかでハッピーな結婚をして、
穏やかな人生を歩みたい。
ハッピーな結婚カモーン!
と、力んだ所で 薄らぼんやりと目が覚める。
見慣れない白い天井。そして私はどうやらベットに横になっているらしい。
それに、何やら隣から険しい視線を感じるので、
視線を隣にずらしてみると、ベットの脇にはレインハルト様が
麗しいご尊顔をしかめて座っていた。
なにゆえ私は知らぬベットで寝ていて、
なにゆえレインハルト様はそんなに顔をしかめているのか?
ふと、自分の右腕が ガッツポーズしているのに気づいた。
もしかして私、ハッピーな結婚カモーン!とか腕振り上げて叫んじゃった?
あれ?無意識で叫んじゃってたの?恥ずか死ぬ。
それはいくら冷静で私のヒーローである(はず)レインハルト様でも顔をしかめるだろう。
なんだこの女ですよね。
そもそも、まだ私とレインハルト様とは何も始まってはいないのだ。
言葉もわかしていないただのクラスメイトに過ぎない。
不審な女過ぎるでしょう。
嫌な汗が背中を伝うが、とりあえず今、この状況確認だ。
「えーと、申し訳ありませんが、いったい何がどうなっているのでしょうか?」
もそもそと起き上がりながらレインハルト様にたずねる。
「ここは保健室で、あなたは廊下で突然私に抱きついてきて、突然気を失ったのだ。
仕方ないので、保健室まで運んで少し様子をみていた。」
そう言われてみれば、何もない廊下でけつまづいてレインハルト様に抱きついてしまったのを思い出す。
あの時、一気に亜希としての記憶がなだれ込んで来て容量オーバーになったのだった。
そうか、レインハルト様は律儀にそんなアホな私を保健室まで運んでくれて、様子を見ていてくれたのだな。優しいなあ。さすがはヒーロー。まだ何も始まってないけど良い人。ヤンデレだけど。
「ご迷惑をおかけしました。心配事に気を取られてけつまづいてしまいました。
保健室まで運んでいただいて、本当にありがとございます。
とりあえず、もう、寮に戻る事にします。お礼は後日でよろしいですか?」
今日はもう、さっさと寮の部屋へ戻り心を落ち着けよう。それがいい。
なんせ、まだちょっと2人分の記憶が統合されてなくて、プチ混乱中だ。
するとレインハルト様は
「そうか、大層な心配事だったのだろうな。
まだ無理はしない方がいい。寮まで送ろう。」
と言うがいなやするりと私をお姫様だっこをして歩き出した。
もう、そのご尊顔はしかめっ面ではなく、いつものクールな表情に戻っていた。
ギャー、ギャー
「レ、レインハルト様、重い、重いですから私。」
焦る。
ヤバイよヤバイよ。私の人生でこんな事があるなんて思いもせず、食事を毎日もりもり食べていたわ。
この重さ、百年の恋も一瞬で冷めるというやつだわ。マジピンチ。
私達、まだ何も始まってないけど、始まる前に終わる。
慌てふためく私をよそにラインハルト様は平然と歩き続け
「このくらい大丈夫だ。保健室に運ぶ時もこうだった。」とのたまう。
「ひょえっ」またもや変な声が出た。そうだ運んでもらったんだわ。
「ひょえ?」
さっきまでクールだったレインハルト様の表情がまた険しくなる。
今日、私は何回レインハルト様の険しい表情を見たことだろうか。
私、嫌われてる?いやいや、本当に嫌われていたらお姫様だっこなんてしてくれないだろう。
では、アホの子と思われて呆れられてる?
レインハルト様はローレライのヒーローだけど、こんな状態からどうやってドキドキわくわくモードになだれ込むのだろうか?
それはとりあえず置いておくとしても、
ローレライとしての人生で弟以外 男性とこんな密着するのは初めてでドキドキが止まらない。
亜希として生きていた時は複数の男性とそれなりのお付き合いをしていたし、
別にこのくらいの密着で今更ドキドキするようなたまでもない。
でも、それは、あくまでも亜希として。のであって、
まだまだ清いローレライとしては初めてのフレッシュな体験だ。
全体としてはローレライの感情の方が優勢なのかもしれないわ。
あー、アオハルだわ。
しかしこのドキドキが異性を意識してのドキドキか、
体重を知られたヤバさからくる焦りのドキドキか自分でも判然としない情けなさ。
もしかしてローレライて女子力低い?
いや、女子力低いのは亜希か。
女子力高かったら 付き合ってた男のどれかと結婚していたに違いない。
うん、これはローレライの異性を意識したフレッシュなドキドキとしておこう。
それがいい。
などど、しょうもない事を考えているうちに女子寮に着いたのだった。




