お母様の過去
いつも読みに来て下さってありがとうございます。
ハウス·デア·ホフヌングでの通訳の仕事もようやく見習いを卒業して、独り立ちとなった。
若い女性の通訳は私だけのせいか、珍しいがられ、指名してくれるお客様もポツポツいらっしゃる。
ありがたや、ありがたや。
指名してもらえると、指名料が入るのよね。
その中でも、来店するたびに指名してくれるのが、前ローゼンベルク公爵のギルベルト様。
ギルベルト様は私と同じ青味かがった銀髪に、アイスブルーの瞳のイケオジだ。
初めて会った時にはギルベルト様は大層驚いた顔をなさっていた。
何故なら、ブルーシルバーの髪とアイスブルーの瞳はローゼンベルク家特有のものだから。
まあ、ぶっちゃけ私のお祖父様なので当たり前なのだ。
お母様はギルベルト様の娘で公爵令嬢だったのだ。
お母様は大層優秀て、語学にも堪能で、商才もあった。
ローゼンベルク公爵家は国内でも有数の鉱山をいくつも所有しており、
ヴァイスリヒト家とはまた違った意味で大商会を経営している。
ローゼンベルク家とヴァイスリヒト家の2つが国内1、2を争う大商会を経営しているのだ。
お母様には弟もいたのだが、ギルベルト様は息子より、才能あふれる娘におおいに期待し、
公爵家を継がせる気でいた。(わが国は直系なら女でも爵位を継げる)
お母様もその気でいた。
のだが、あるパーティで2人は出会ってしまったのだ。
もちろん、お母様とお父様である。
2人は初めて会ったその時に雷に打たれたかのようにお互いに激しい恋に落ちてしまった。
公爵家を継がせるつもりだったのに、商売も任せるはずだったのに、
ド貧乏子爵家の嫡男との結婚なぞギルベルト様は認められず、大反対した。
だが、こういう事は反対されれぱされる程燃え上がるもので、
お母様はギルベルト様の猛反対を振り切り、お父様の元に走った。
親の期待を裏切った馬鹿娘に怒り狂ったギルベルト様はお母様を公爵家の籍から抜き、勘当した。
お母様は最低限の身の回りの物だけ持って、一人で子爵家へ走ったのだ。
(換金できる宝石類を出来る限り持ち出して、領地経営に使ったお母様には尊敬しかない。)
そんな訳で、私も弟もローゼンベルク家特有の髪色と瞳を受け継いでいるのだ。
お母様は大好きなお父様に2人共似てなくてがっかりしていたが、お父様は大好きなお母様に2人共そっくひなので喜んでいた。
初めてギルベルト様に会った時、ギルベルト様は目を見開いて、息をのんだ。
うん、そりゃーびっくりするよね。なにせ私の顔はお母様に瓜二つだから余計に、だ。
恐らくだが、私が何者かはすぐ察したはずだ。
これは一悶着あるかな?と一瞬焦ったが、初回に戸惑いを見せただけで、
次回からはまるで孫娘に対するように優しく接して下さる。
いや、本当の孫娘なんだけどね。
そして来店するたびに指名して下さる。ありがたや。
私はまだ、その辺の事情を知らない事になっているから、
何も知らないふりして、にこやかに接客している。
果たしてギルベルト様は私の事をどう思いながら指名して下さるのか不明だ。
◆◆◆◆◆◆
ま、それはさておいて、学院生活も少し波風が立っている。
嫌がらせにあまり動じない私に我慢できなかったのであろうフレイヤ様が再び突撃を始めたのだ。
学食でいつものようにレインハルト様とランチを分け合って食べているところに
「レインハルト様ぁ、わたくしもご一緒させて下さいまし。」
と、フレイヤ様がレインハルト様の隣に座った。
レインハルト様はフレイヤ様を無視して
「ロリー、これおいしいよ。ほら、あーん。」
と、にっこり笑ってフォークを差し出す。
レインハルト様の笑顔が眩しい。学食で、皆の前で<あーん>は激しく恥ずかしいが、
これ絶対フレイヤ様への嫌がらせだよね。
それならば私ものりましょう。
パクっ。もぐもぐ。
「ええ、レイン、本当においしいですね。」
私もにっこり笑って返す。
「ロリー、あなたの笑顔はいつも私を幸せにしてくれる。ありがとう。」
ひゃー、あーんのあとの甘い言葉に、なんかお腹一杯になりそうです。
フレイヤ様はそんな私達を見て、顔を引きつらせながら
「レイン様、こちらもおいしいですわよ。はい、あーん。」
と、負けずにレインハルト様にフォークを差し出す。
レインハルト様は氷点下の瞳で
「フレイヤ、君に愛称呼びを許可した覚えはない。馴れ馴れしく呼ぶのはやめてくれ。」
と、冷たく言い放つと、再び私へと顔を向ける。
その顔はフレイヤ様への氷点下の瞳ではなく、柔らかな、とろけた表情だった。
フレイヤ様はその落差に目を吊り上げ、怒りで体を震わせていたが、私もレインハルト様も無視した。
もちろん、お昼だけでは終わらなかった。
放課後のカフェテリアでの勉強会の時もフレイヤ様はやってきた。
「レインハルト様ぁ、わたくしもお勉強会に混ぜて下さいまし。」
と、一緒の机に勝手に座る。
あくまでも私とレインハルト様は無視を決め込むが、フレイヤ様も負けじとなんやかんや話しかけてくる。
「レインハルト様、ここがわからないのです。みっちり詳しく教えて下さい。」
甘えた声でフレイヤ様はレインハルト様にしなだれかかる。
レインハルト様はペッとフレイヤ様を払って、チラと開かれた教科書を見て言う
「フレイヤ、そこは教科書をちゃんとよく読めば分かる所だ。教科書をちゃんと読め。」
「でもレインハルト様に教えて欲しいですわ。わらかないんですもの。」
「君は教科書を読む事すらできないのか?一体何をしに学院に通っているんだ?」
それはそれは冷たい表情で言い放つ。
「レインハルト様はずるいですわ。その貧乏女には勉強を教えているくせに、わたくしには教えられないと言うんですか!」
はじめは甘えた声と甘えた仕草だったが、今や目が釣り上がっている。
うーん、フレイヤ様は猫かぶれない人だよね。
「フレイヤ、君は何か誤解しているようだ。私がロリーに勉強を教えているのではない。
私がロリーに勉強を教わっているんだ。ロリーが学年首席だと知らないのか?
本当に何をしに学院に通っているんだ?これ以上、私達の勉強の邪魔をしないでくれ。」
フレイヤ様は顔を真っ赤にして怒りに震えている。
と、まあこんな事がここ数日の間、繰り返れている。
イジメは効果ないと悟ったらしく、今回はフレイヤ様もしつこい。あきらめない。
これ、一体いつまで続くのかな?




