パートタイマー
いつも読みに来ていだだいて、ありがとうございます。
タウンハウスの使用人アンナから手紙が届いた。
内容はお母様の事で、ここ数日、いつもより痛みがかなり辛いらしいとの事。
やはり、お高い痛み止めが必要なのだな。レインハルト様からの婚約申し込みやら、イジメやらでちょっと私の中で棚に上げてあったけれど、もう猶予がない。お金が必要だ。
イジメの件でレインハルト様に助けてもらったばかりで、またすぐレインハルト様を頼るのもどうかと思うが、一刻も早く良い痛み止めをお母様に処方してあげたい。
授業が終わって、放課後のいつもの勉強会をしているカフェテリアに2人で向かう途中、
ズシャアーと、私はレインハルト様に土下座をした。
びっくりして固まるレインハルト様。
「え?何?どうしたのロリー。」
「レイン、お願いがあります。
私をハウス·デア·ホフヌングで働かせて下さい。」
ハウス·デア·ホフヌングとはレインハルト様との初デートで昼食を食べた、ヴァイスリヒト家が経営している高級料亭だ。
ヴァイスリヒト家はここルーメンブルクで1、2を争う大商会を経営しているのだが、このホフヌングもその中の一つ。食事やお酒を楽しみながら商談かできる料亭で、必要に応じて通訳をつける事もできる。もちろん守秘義務もしっかり守るので、近年人気の料亭だ。
「ん?何がどうしてホフヌングで働きたいの?ちゃんと聞かせて。
とりあえず立って。カフェテリアでお茶を飲みながら話そう。」
と、うながされ、とりあえずいつものカフェテリアへ行く。
席につき、温かい紅茶を一口含むと、少し落ち着いたので訳を話す。
「………と、いうわけで、お母様の痛み止めの薬代が必要なのです。今やっている内職では、とても追いつかなくって。放課後か土日にハウス·デア·ホフヌングで働かせていただきたいのです。」
「そっか。話しは分かった。でも、それ、前も伝えたけれど、うちからの援助じやダメなの?」
「実は、お母様はもう、あまり永くないそうなのです。お父様が亡くなってから、ずっと一人で領地を守り、私達姉弟も育ててきてくれたお母様に、私がしてあげられる事はそうないのです。
だから、せめてお薬代を私の手で購入したいのです。」
「うーん。気持ちは分かったけれど、あそこで働くってお給仕さんでいいのかな?お給仕さんだとそんな高価な薬が買えるほど給金は高くないよ。」
「いえ、通訳として働きたいのです。」
「通訳て、………あそこの通訳は大陸共通語の他に、隣国アイゼンガルド語の両方に長けていないと務まらない。特にアイゼンガルド語はわが国ルーメンブルクの言葉と似ているようで違うから、案外難しいんだよ。」
「できます。両方とも。経済系や貿易系の単語もバッチリです。一度、テストしてみて下さい。」
レインハルト様はびっくりして私をまじまじと見つめる。
「それはびっくりだ。2カ国語を操れて、経済、貿易の単語まで知っている人はそういないよ。
どうしてそこまで語学に堪能なのか聞いてもいいかな?」
「はい、わがハーゲン領では近年酪農に力を入れていまして、ハーゲン領はわが国の王都に出るより隣国アイゼンガルドに出る方が近いのです。それでお母様がいずれ絶対アイゼンガルド語が必要になるからと、子供の頃からアイゼンガルドの新聞片手に叩き込まれたのです。
同じ理由から大陸共通語も叩き込まれました。なので私も弟も両方堪能なのです。」
「たいした母上だな。そしてそれで2カ国語をマスターしてしまうあなた達姉弟もすごいな。
理由は分かった。でもホフヌングで通訳として働くにはテストを受けてもらう必要がある。いいね?」
「はい、よろしくお願いします。そして、出来るだけ早くにお願いしたいのです。」
「そうだね、理由が理由だしね。じゃあ善は急げだ。今日の勉強会はお開きにして、ホフヌングに行って、いつテストか出来るか聞いてみるよ。一緒に来てみる?」
「はい、ぜひ。」
という事で2人で侯爵家の馬車に乗り、ハウス·デア·ホフヌングに向かった。
ホフヌングで、訳を聞いた支配人は私のような小娘が本当に2カ国語を操れるのか半信半疑のようだった。
幸い、ちょうどその時、テスト役を引き受けている通訳さんが、時間が空いているというので、すぐにテストに突入した。
結果は、
「いや、すごいね。彼女の語学力は。これならどんな会合ても、商談でも大丈夫ですよ。」
と、太鼓判を押してくれた。お陰で即採用となった。パートタイムで。
通訳か必要な会合は毎日決まってあるわけではない。近年はアイゼンガルドとの交易が盛んなので、やりとりのお客様自体はそこそこある。
なので夕食を交えての会合がある平日か、土日に会合がある日を含めて不定期に週3-4日働く事になった。
そして、辻馬車を頼むと言ったのだが、レインハルト様が送迎をしてくれる事になった。
レインハルト様に申し訳ない。
「いいんだよ。どうせホフヌングは私が任されている所だし。ロリーが通訳をしている間に私もここでの仕事をしてしまえるよ。」
と、笑ってくれた。
「でも、本当にありがとうレイン。」
そしてレインハルト様はいくばくかの金貨が入った袋を私に差し出した。
「これは支度金。ここは制服があるわけではないからね。華美ではなく、きちんとした服装が何着か必要になる。明日の放課後、一緒に買いに行こう。残りのお金でお薬を買えばいい。
このくらいは、心おきなくもらってね。」
細やかな心遣いに涙がこぼれそうになる。そうだ。服も必要なのだ。このくらいは遠慮なくもらっておこう。
コクンとうなずいて、袋を受け取ったら、レインハルト様はホッとしたような表情になった。




