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スルーは得意ですが…

いつも読みに来ていだだいて、ありがとうございます。

それは、フレイヤ様襲撃の翌日から始まった。


 エルマとおしゃべりしながら廊下を歩いていた時の事だった。

ふいに片足の靴が脱げて、思いっきり床につんのめった。とっさの事で手が間に合わず、思い切り顔面を打ち付け、鼻血を吹いてしまった。痛い、結構な痛さだ。

「あいたた。」

と、のろのろ顔を上げると、

「クスクスクス。なんてザマなのかしら。みっともないわね。」

と、数人の女性が笑いながら通り過ぎてゆく。


 エルマが保健室に連れて行ってくれた。

鼻血もわりとすぐおさまったので、その後はいつも通りすごしたが、

それからはちょくちょく同様の事がおこるようになった。そう、後ろから靴の踵を踏まれていたのだ。

彼女達は決まって数人連れなので、誰がやったのかは分からない。

「いつまでも調子にのってるんじゃないわよ。」

「なんて鈍臭いのかしら。」

「まあ、惨めな格好ね。」

などと捨て台詞を残して笑いながら去ってゆくのがお決まりだった。


 あー、これ絶対にフレイヤ様のお取り巻き達の仕業だわ。いよいよ嫌がらせが始まったのだな。

前世、伊達にアラフォーまで働いていたわけではない。同期の中では一番に課長になった私に嫉妬は沢山あった。『女のくせに生意気だ』とか陰口は散々言われてきたので捨て台詞くらいでは今更動じないが、

靴踏んづけは靴も傷むからやめて欲しかった。貴族学校にあるまじき貧乏女学生では、そうそう靴を買い替えられない。地味に痛い攻撃だ。

靴を踏んでる方もまさか、それが一番私に効いているなんて思いもしていないであろう。


 それに、踏まれると分かってさえいれば、案外慣れてくるもので、若さもあり、すっと手が出るようになり、鼻血吹くような下手を打つことは初めだけだった。


 いくらやられても、私がケロンとしているのが憎々しかったのか、段々と攻撃が過激になってきた。

すれ違いざまに突き飛ばされる事が多々あるようになってきた。

さすがに突き飛ばされると勢いがついて、ぶざまに床に這いつくばる。

勢いもついているだけあって、腕や肘が常に痛い。これ、いつまで続くのかな?私とレインハルト様が別れるまでかな?そんな未来は来ないけどね。

エルマも腹を立ててくれていた。いっそレインハルト様に相談しよう。と言ってくれたが、明確にレインハルト様がらみと分かっている訳ではないので、イマイチ相談する気になれない。


 うーん、何か私からアクションを起こした方がいいのだろうか?

二十年近くの社会人生活で、受け流す事は得意になったけど、受けて立つ事はしてこなかったなあ。つまり、受けて立つスキルはゼロなのだ。

ここで私が怒っても、泣いてもフレイヤ様を喜ばせるだけだろう。

そして何より肝心のフレイヤ様自身は直接手を下していないのだ。ズルいよねー。


 などと考え込みながら授業を受けている。今はマナーの一環でダンスのレッスン中。

ダンスのレッスンは男女一緒に行う。そして、婚約者同士が優先でペアを組むのだ。

と、いうわけで私の相手はレインハルト様。

ダンスは弟相手にお母様に仕込まれたので、そこそこ踊れる。はず。

なにせ、弟以外と踊るのは初めてなので、ちょっと緊張する。弟と違ってレインハルト様相手だと目線が随分違う。すらっと背が高いのよねレインハルト様。


 そして音楽が流れ始めてダンスの実習が始まる。

レインハルト様のリードは流れるようでとても上手い。しかし、ダンスて、何気に腕を伸ばしたり曲げたりと意外と腕を使う。ここ最近、万年腕と肘が腫れているので、地味に辛い。


 我慢はしてたはずだったけれど、うっかり顔に出てしまったのだろうか、ダンスの途中でレインハルト様が止まってしまった。

「ロリー、もしかして腕が痛いの?ちょっと見せて。」

と、私の腕をつかみ、制服の袖をまくる。

そこには痛々しく肘まで赤く腫れた腕があった。レインハルト様の顔が青ざめる。

「保健室で手当てをしよう。」

授業と先生を無視して、私の手を強く繋いで引っ張り、歩き出す。


 「レイン、大丈夫。大丈夫だから、授業中だから。」

「全然大丈夫じゃないよ。いつからこんなだったの。」

「うん、まあとりあえず授業が終わってからにしましょうよ。それくらいは大丈夫だから。」

なんとかかんとかレインハルト様をなだめて、ダンスの授業を終えた。


 もちろん、それで誤魔化されるはずもなく、ダンスの授業後にレインハルト様から詰問される。

「いつからこんなだったの?一体何があったの?とりあえず保健室に行こう。」

ぼぼ強引に保健室に連行されながら、エルマがレインハルト様に『実は…』と話し出す。

エルマ、言わなくてもいいのにー。話してもどうにもならなそうだもんね。でも、エルマも相当怒っていたみたいで、怒りを含んだ語気で訳を話している。

話しを聞いたレインハルト様も怒っている。


 「2人共、私の為に怒ってくれてありがとう。でも誰が実行犯かはっきりとは分かっていないし、何が気に食わないからなのかも分かってないしで、ちょっと対処しようがないのよね。」

まあ、私とレインハルト様への嫉妬なのだろうけど。そして十中八九、フレイヤ様がからんでる。

「ちょっと腕が痛いくらいて、大した実害もないから、ほっておけぱそのうちに飽きるでしょう。」

久しぶりにレインハルト様が顔をしかめ声を震わせて言う。

「大した実害もない?これが?十分大した実害だよ。僕のロリーにこんな事をするやつは許せない。」

しかし、レインハルト様がいない時を見計らってどつかれるのだ。レインハルト様が怒っても犯人は挙げられない。と伝えると

「ちょっと考えさせて、絶対に何か対策を考えるから。

でも、その前に、これからは何かあったら、すぐに私にも話してほしい。こんな状態になるまでほっておかないで。少しは私にも頼って欲しいんだ。」

レインハルト様は私にも怒っているようだった。うん、ちょっと反省。

「わかりました。今回は黙っていてごめんなさい。」

素直に謝ることにした。


「あなたを謝らせたかったわけではないんだ。ごめん。でも本当に隠し事はなしにして欲しいだけなんだ。」

心配そうに優しく抱きしめられた。

ああ、この優しい人に心配をかけてしまった。これからは、自分一人で対処できない時は相談しよう。

というか、相談していいのだな。相談できる相手がエルマだけではなくなったのだな。と、思うとすごい安心感に包まれた。

好きだ。私もレインハルト様の事が好きだ。素直にそう思えた。

それでその日はそれで終わった。


 それにしてもレインハルト様があんなに怒ってくれるとは思わなかった。

相変わらず私は彼から気持ちをもらってばかりだ。告白しようと決めたけど、まだできていないし。

私から彼に何か出来る事はないだろうか?いやもちろん告白もするけど……

と、考えながら内職の刺繍をしていて、ハッと気づいた。

そうだ、私、刺繍が得意じゃないですか。ヴァイスリヒト家の家紋を刺繍したハンカチを作って渡すのはどうだろう?きっと喜んでくれるよね?

それで、渡す時に告白する。私も好きです。あなたがとてと大切な人です。と。

うん、いいと思う。よし、それでいこう!

さっそく明日、図書室へ行って、家紋を調べてくることにしたのだった。



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