朝から大変だ。
いつも読みに来て下さって、ありがとうございます。
翌朝、目が覚めてからふと思う。
昨日のレインハルト様とのあれやこれやは全て私の都合のよい夢だったのではないかと。
右手をあげて、耳たぶに触れる。そこには確かにピアスがあった。鏡まで起き上がって移動して見てみると、金色に輝くゴールデントパーズのピアスがついている。
夢じゃなかったんだ。私、本当にあの氷の君、レインハルト様と婚約したんだ。
枯れたアラフォーオバサンだと思っていたが、自分が思っていたよりも自分はチョロい女だった。
だって、あのレインハルト様にあんなに必死に愛をささやかれてしまったら、よろめいてしまうわ。
16才男子の一途さに見事に参ってしまった。
昨日見せてくれた嬉しそうな笑顔。付け合ったピアス。手を繋いで街を歩いた事。昨日1日でレインハルト様の色んな面を見ることができた。一人称が僕だったりもしたな。かわいかったな。
それらを思い出すと胸のあたりがポカポカしてくる。元から憧れのアイドルではあったけど、この3日間ですっかり恋に落ちてる。
実際のところ、お母様の痛み止めの件、領地の屋敷に押しかけてくる困ったゲオルグ叔父様の件など、未解決の問題は残っている。この2つは本当に頭が痛い問題だ。しかも薬代の件は喫緊の問題だ。
つい三日前まではそれらの事で暗たんとしていたのだが、現金なもので、とりあえず今は、あの、足元に真っ暗な大きな穴がぽっかりと開いているような感じは飛び去った。
大丈夫、また前を向ける。そう自然に思えた。
「ま、とりあえずは朝食よね。」
ささっと着替えて身支度を整えてから食堂に行った。
食堂には既に友人のエルマが着席していた。エルマはハーゲン領の隣にある伯爵領の娘で、領地が隣だったため、子供の頃から交流があった。今や学院で一番の仲良しだ。
エルマは私を見つけるなりハイテンションで手を振る。『朝から元気だわね。』と思いながらエルマの隣に座る。
「ちょっと、ロリー、一体どういう事!あなた金曜日に氷の君にお姫様抱っこされていたって聞いたわよ。何がどうなっているのか聞かせてもらうわよ!」
ああ、あれを目撃されたのね。それは朝からハイテンションになるわ。もし、エルマと立場が逆だったら、私もエルマにガッツリ尋問します。
そして、どうもこうも一気に婚約までしたんだけどね。我ながら信じられないけど。
「ああ、何から話せばいいのかな…」
と、とりあえず足がもつれてけつまずいて抱きついてしまった事、そしてその後気絶してしまい、お姫様抱っこで保健室まで運ばれた事。目が覚めた後もお姫様抱っこで寮まで送ってくれた事なんかを朝食を食べながら話す。
「ええー、あの氷の君、レインハルト様が女性に対してそんな紳士的な対応を??それだけですごい事よ。ねえ、みんな!」
と、おもむろにエルマは回りを見回す。すると私達のまわりの女性達はみんなコクコクと深くうなずいているではないか。みんな、興味津々で耳ダンボだったようだ。女性て、怖い。みんな、話しが回るのが早い。
「それで、それで、その後は何かなかったの!」
エルマが食い気味にたずねてくる。
「続きは休み時間にね。」
と、返すと
「ええー、やっぱり続きがあったのね。今聞きたあい。」
と、口を尖らす。そんなエルマに後でねと言いいったん部屋へ戻り、クラスへ向かう準備をする。
鞄を抱えて部屋から出ると、何やらみんながざわめいている。
「レインハルト様よ、レインハルト様がいる。」
「氷の君が」
「キャー、朝から眼幅」
どうやら女子寮の門にレインハルト様がいらっしゃるようだ。
私…だよね? 私目的…だよね?
この騒ぎ、どうしてくれよう。この後のエルマ達の追及が怖い。が、それよりも気恥ずかしく思う。
昨日はなんだかんだ2人の世界だったが、今日はギャラリーが沢山だ。いや、これからの学院生活、ギャラリー沢山が標準なんだよね。今ここでうだうだしていても仕方ない。心を決めるんだ、私。
よしっ、と寮から出るとレインハルト様が穏やかな顔をして寄ってきた。
「今朝もあなたに会えて嬉しく思う。良かったら一緒にクラスまで行かない?」
うわ、金色のサラサラヘアーに金色の瞳が朝日に輝いて眩しい。思わず目を細めてしまうのを許して欲しい。そして、ここで嫌ですなんて言えるわけない。ギャラリーさえいなければ決して嫌ではないし。
もちろんギャラリー達は
「ギャー、今朝も会えて嬉しいとか言われてる。」
「今朝もて事は昨日は?昨日は何があったの?」
「なんでいつの間にロリーがレインハルト様と?」
「氷の君が微笑んでる!」
などなど叫びながらバタバタと倒れ伏している。
レインハルト様にもガッツリ聞こえているはずなのだが、まるっと聞こえないふりをしてその手を私の手に添える。
「手、繋いでいい?」
今更?昨日もおとといも有無を言わせず繋いでましたよね?と思いつつコクリとうなすく。
するとスルリと指と指を絡めてくる。『ギャー、恋人繋ぎだ。ローレライの人生初の恋人繋ぎだ。』昨日告白されて、次の日にはもう恋人繋ぎ?早い。手が早い。さすが成人指定ゲームのヒーロー
それに何?今朝も会えて嬉しい?いや、毎日クラスで会ってたじゃん。なんか朝から色々甘すぎる。
頭のてっぺんまで血が登ったような感覚に襲われる。きっと、今の私の顔は真っ赤っ赤だ。
寮の出入り口の方からも悲鳴が聞こえる。
「ロリーと手を繋いでいるわ。」
「恋人繋ぎよ!」
「この週末にレインハルト様とロリーの間に何があったの!」
「羨ましすぎる。私もレインハルト様と手を繋ぎたい。」
などなど、ああ。後が怖い。夕方、寮に帰ったらきっとみんなに尋問される。
◆◆◆◆◆◆
「ピアス。ちゃんと付けてくれているんだね。嬉しいよ。」
「ふふふ、レインハルト様も。ですね。私も嬉しいです。昨日は色々な表情のレインハルト様を見ることができて嬉しかったですよ。」
と、話した途端にレインハルト様が固まった。え?私何か変な事を言ったかしら??途端に不安になる。
ギギギギギという擬音が聞こえそうな動きでレインハルト様は私の方を向く。
「昨日はすっかり浮かれてしまって、あなたの前で、だらしない顔をしてしまったかもしれない。」
その顔色は真っ青だ。
「え?ちっともだらしなく無かったてますよ。むしろ普段見ることができない笑顔などが見れて、私は嬉しかったですよ。その……笑顔が素敵過ぎて私の心臓がマラソンしていたくらいですよ。」
「ローレライ様、あなたは優しいのですね。私のだらしない笑顔をそう言ってくれるなんて。」
なんかちょっと涙ぐんでるし。やたら『だらしない笑顔』と連呼しているし。これは
「もしかしてレインハルト様は御自分の笑顔がだらしないと思っていらっしゃるのですか?だからいつも氷の表情なのですか?」
「思っているじゃなくて真実だろう。」
当然のように言う。これは根が深いな。
「でも私は好きですよ。レインハルト様の笑顔。
好きなので、私の前でだけでいいから笑ってみませんか?」
「ローレライ様!ローレライ様は私の笑顔に幻滅しないでいてくれて、しかも受け入れてくれるのですね。私はあなたの前では笑っていいのですね。」
繋がれた手をぐっと強く握られる。励ますように私も強く握り返す。
「もちろんです。沢山笑って下さい。」
ニコリと微笑みかけると、潤んだ瞳で笑い返された。
ぐはっ!破壊力すごいわ。超イケメンのうるうる笑顔ヤバイ。
私の前で笑って下さいとは言ったが、これ、私の心臓がもつのだろうか?
開けてはいけない扉を開けてしまったのかもしれない。と、思いながら教室へ向かうのだった。




