タウンハウスにて
今日も読みに来ていただいて、ありがとうございます。
買い物も無事終えて、ハーゲン家のタウンハウスへ帰る前に何か手土産を持って行こうとレインハルト様が言うので、午前中に食べたアップルパイを買って帰る事にした。タウンハウスには家令のオットーとアンナ、お母様の3人しかいないので、3人分買って帰る。
タウンハウスに着くと、アップルパイを家令のオットーに渡し、書類を持ったレインハルト様と共にお母様の部屋へ行く。お母様はなかなかに辛そうだったが、笑顔で私達を迎えてくれた。
「はじめましてハーゲン子爵婦人。レインハルト·フォン·ヴァイスリヒトと申します。この度はお嬢様のローレライ様に婚約を申し込み、受けていただけました。どうか私達の婚約を認めていだきたく、体調が悪い中申し訳ありませんが、うかがわせていただきました。」
と、深々と頭を下げ、レインハルト様が口上を述べる。
「ベットのままで申し訳ありません。ヴァイスリヒト様、我が家と縁を結べても、ヴァイスリヒト家には何の得もありません。その上で娘と婚約したいということよろしいのですか?」
真剣な眼差しでお母様はレインハルト様を見つめる。
「はい、私は2年前からずっとローレライ様を想っていました。子爵令嬢でも構いません。両親にも既に了承をいただいています。そして私はローレライ様を深く愛しております。必ず幸せにしますので、どうかこの婚約をお許し下さい。」
もう一度レインハルト様は頭を下げる。
お母様は次に私の方に顔を向けて
「ローレライ、あなたはどうなの。それでいいの?」
「はい、それで構いません。私もレインハルト様の事を好ましく想っております。」
うわ、初めて『好ましく想っている』とか言っちゃった。
隣でレインハルト様が小声で『ローレライ様が私の事を好ましく想っているて言った!』て感動してるし。
ちょっと照れるからやめて欲しい。
ふふふ、とお母様は笑うと
「わかりました。2人がそれで良いなら私にも異議はありません。この婚約、認めましょう。」
「ハーゲン子爵婦人、ありがとうございます。」
レインハルト様は、ではさっそくと書類を出し始める。あとはお母様のサインだけで済むようにバッチリ準備された書類を見て、お母様、ちょっと引いてる。
「随分と用意がいいのね。」
と、苦笑いだ。
「はい、1秒でも早く婚約したかったのです。明日の朝一番で王家にこの書類を提出します。」
と、ウッキウキのレインハルト様。お母様が引いてるの分かってる?
サインが済むとレインハルト様が学院の寮まで送って下さると言うが、少しお母様と2人で話しがしたいと伝えると、では待っているとの事なのでアンナにお茶の用意をお願いして応接室で待っててもらう。
「お母様、ありがとうございます。レインハルト様が美味しいアップルパイをお土産に下さったのよ。具合がいい時に食べて下さいね。」
ベットのそばにイスを持ってきて、座りながら言う。
「ふふふ、ほうら、やっぱりデートだったじゃない。それも婚約申し込みの。
すごいわねえ。ヴァイスリヒト侯爵家嫡男様に2年も想われていたなんて、さすが私の娘はやるわね。
ロリー、あなたは本当にこれで良かったの?」
「えーと、ずっと素敵な方だなとは思ってはいたのよ。この3日間、接してみて可愛い方だなて思えてしまって『この方だったら婚約してもいいかな』て思えたの。」
「あら、殿方を可愛いと思えたのならそれは本当の恋ね。良かったわね、想い合える相手に巡り会えて。」
うわ、お母様まで前世の同僚と同じ事を言うよ。
「それにしても、婚約申し込みと同時に書類まで完璧に揃えてあったのには、ちょっとびっくりしたわよ。」
ええ、ええ、それには私もびっくりしましたよ。
「絶対にあなたを逃さない気まんまんね。」
あはは、と笑ったあとで、すぐにキツそうに顔を歪める。
「お母様、私はもう行くので、ゆっくり休んで下さい。」
「そうね。そうするわ。それにしてもあなたの事は安心したわ。あとはマティアスね。」
領地に残してきた4歳下のマティアス。可愛い私の弟。
まだ12才だが、お母様と私と手紙でやり取りしながら領地経営をしてもらっている。苦労ばかりかける弟だ。
「ああ。そうだ。マティアスから手紙が来ているわ。持って帰って読みなさい。また、ゲオルグが押しかけて困らせているようなのよね。あの方にも本当に困ったものねえ。」
ゲオルグ叔父様はお父様の弟で、領内の中で一番裕福な商家に婿養子で入った方だが、お母様が病に倒れて王都に居を移してからは、たびたび領主館に押しかけて来て、領地経営を助けてやると言ってきかないのだ。
押しかけて来るたびに、なんとか男の使用人数人がかりで追い返しているのだが、かなりしつこく、口汚いそうだ。
お母様亡き後、上手くすれば自分が子爵になれるかもしれないと邪推しているようだ。
確かにお母様が亡くなったら、弟はまだ12才の未成年。私はかろうじて成人しているが(この世界の成人は16才)、小娘などどうとでもでもなるとと思っているようなのだ。ハーゲン家も綱渡りだ。
「ねえ、ロリー、婚約したばかりでかなり図々しいのは承知だけれども、ヴァイスリヒト家にマティアスが成人するまで後見人になってもらえないかしらねえ。そうすれば、さすがのゲオルグも引くと思うのよねえ。」
困ったように母は言う。
うん、それは確かにそうだ。でも、
「さすがにハーゲン家の家内争いに力を貸してもらうのは気が引けるわ。でも考えておく。」
「そうね。この件はあなたに任せるわ。
レインハルト様をお待たせしているから、もう行きなさい。ふふふ、死ぬ前にあなたの幸せそうな姿を見ることができて、本当に良かったわ。」
苦痛を耐えながら、無理して母は笑う。
私はうなずくと、ではと礼をして部屋を去る。
その後、寮まで送っていただいて、とおーっても濃い一日は終わった。




