男を可愛く思えたら…
読みに来て下さる方、いつもありがとうございます。
「ローレライ様の用事が残っているけれど、時間も時間だし、先にお昼を食べてからにしない?何か食べたいものはある?」
うーん、特にないかな。特別に好き嫌いもないし。という旨を伝えると、では、と案内されたのはそれは立派な御屋敷だった。看板もなく、何も知らなければ、ここがお店だとは誰も思わないであろう。
御屋敷に入ってゆくと、すぐに支配人らしき壮年の男性が近寄ってきた。
「これはレインハルト様、本日はどのようなどのようなご要件でございましょう。」
「ああ、彼女と食事をしようと思ってね。部屋は空いてる?急だけど、食事は用意出来そう?すぐ出来る軽いものでいいんだけれど?」
「はっ、部屋は空いております。食事は何が用意できるか厨房に確認してまいります。とりあえずお部屋へどうぞ。」
と、一つの部屋へ案内された。豪奢だが、上品な個室だ。席につくとすぐ、紅茶が出された。
「ここはね、ヴァイスリヒト家で経営しているお店の一つで『ハウス·デア·ホフヌング』というんだ。、私が任されているお店の一つでもある。多少の事なら融通がきくから気楽にして。」
と、さらっと言う。だが、私は知っている。ここは日本でいうところの高級料亭みたいなお店なのだ。高級貴族や政治家が大事な話しをする時に使うお店なのだ。大商人達も大切な取り引きの際に使用したりもする。だから、全部個室。大事な話しがダダ漏れにならないように全個室。
もちろん、お料理もお酒も一級品。基本フルコースだ。ハーゲン家は貧乏だった為、ローレライは大変慎ましく育ったので、高級フルコースなんて体験したことがない。一応マナーだけはお母様に叩き込まれているが、なんか口から魂が出そう。
そしてここは、ゲームの終盤にちょろっと出てくるお店なのだが、私と弟の人生にとって大事なターニングポイントになる場所だ。まさか、こんな早い時期から縁があるとは思わなかった。いずれこれはきっと使える。ここR18には関わらない場所なのでゲームや中では扱いの優先度が低かったのだが、ストーリー的には大事な場所なのだ。だがまあ、とりあえずは食事だ。
そうこうしている間に支配人?がやってきてレインハルト様にすぐ用意できるメニューを伝えている。
レインハルト様は適当に何品かア・ラ・カルトで選んで指示を出した。
「好き嫌いがないというから、すぐ出せるものから適当に選んでしまったけど、良かったかな?」
「大丈夫ですよ。なんでも食べられますので。」
「お酒は大丈夫?飲みたいならワインとかも用意できるけど。」
「果実水がいいです。お酒はまだ飲んだ事がないんです。」
では果実水を2つと伝えると支配人?はかしこまりしたと頭を下げ退出した。
すぐ食べられる物をと注文しただけあって、そんなに待たずにお皿がサーブされる。果実水を飲みながら叩き込まれたマナーを確認するように緊張しながら食べ進める。緊張しているから味なんて分からないかなと思いきや、しっかり味わえて、自分の図太さに改めて感心する。いや。だってめちゃくちゃ美味しいんてますよ。ローレライにとって、学食や寮のご飯すら美味しく感じるのに、当たり前だがここの料理はそのはるか上をゆくレベルの味なのだ。人気のお店だけある。これを味わわないなんてすごい損だ。私はマナーに気を配りつつ、しっかり味わった。
「ここはね、大分前に没落した侯爵家の別邸だったんだよ。それをうちが買い取り、改装してお店にしたんだ。今までこういうタイプのお店がなかったからかお陰様で多くの方々にご贔屓いただけている。」
ふむふむ。そこまではゲームで語られなかったから知らなかった。
レインハルト様は話題も豊富で、あれやこれや話しながら食事は滞りなく進んだ。私はマナーの失敗もなく終えられてホッとしつつ食後のコーヒーを飲む。
「女性はあまりコーヒーを好まない方が多いが、あなたは平気なのですね。」
あー、亜希の記憶が戻る前までは紅茶一辺倒だったけれど、残業の合間に気合いを入れ直す為に飲んだコーヒー、朝、目を覚ます為に飲んだコーヒーの味を思い出したら、飲みたくなったのだ。
「いつもではないですけれど、コーヒーも好きですよ。」
と、ほほ笑み返す。
するとレインハルト様は途端に頬を染め
「あなたのほほ笑みは反則だ。」
と、片手を目に当ててうつ向く。
ズキュン!レインハルト様のそんな様子も反則ですよ。私ごときのほほ笑み一つでそんな反応して下さるなんて、なんか可愛いすぎる。レインハルト様、カッコイイだけじゃなくて可愛いくもあったのですね。
亜希の同僚が『男を可愛く思えたら、それは本気の恋よ』とのたまっていたのを思い出す。私、本気の恋の沼にはまってしまったのだろうか?早すぎない?
そんなこんなしている間にコーヒーも飲み終わり、お店を出る。
「それでローレライ様はどちらに用事があるの?」
「すみません、お店は決まっていないのです。実を言うと、おとといレインハルト様に助けていただいたお礼に何か小物を用意したくて、お店をぷらぷら見て歩こうかと思っていたのです。レインハルト様同伴でなんですが。」
と、申し訳なさそうに伝えてみる。だって、お礼したい本人と一緒に選ぶて何よ?恋人同士か?
あ、婚約者同士になったんだったわ。どちらにしても気恥ずかしい。そして、侯爵家嫡男に見合う程の物を買う予算もない。本当にささやかな小物しか買えない。そういう意味でも恥ずかしい。
私がもじもじしていると、レインハルト様は嬉しそうに
「僕へのお礼!?ローレライ様が僕に!!嬉しい。すごく嬉しい。」
あ、また一人称が『僕』になってる。可愛いい。
「さ、行こう。ローレライ様」
レインハルト様は再び手をつなぐと馬車に乗り街の手前まで行き、馬車を降りて街歩きを始める。
レインハルト様は私の懐具合を理解しているのか庶民向けのお店を選んで歩いてくれる。優しい人だ。相変わらず手を繋がれながら、あーでもない こーでもないと言いながら色々なお店を2人で見て回るのは楽しかった。そのうちの一軒の女性向けの小物屋さんが気になり入ってみる。女性向けのお店だからレインハルト様向けではないが、私がいたく気になってしまったのだ。
買えはしないが、あれこれ目移りしていて、気づいたらレインハルト様が固まっていた。
はっ、こんな女性向けのお店にレインハルト様を長時間待たせるなんて、私ったら気が利かない。と、反省して、レインハルト様に声をかける。
「あの、もう出ましょうか。」
すると
「私向けのプレゼント、私が選んではだめだろうか?」
と、振り返った。彼の手には両端に石のついた組み紐が握られている。
「これ、一方の石が黄色で、もう一方に青の石がついている。これ一つであなたと私の色が一緒になってるんだよ。剣の訓練をする時に髪を結ぶのにこの紐がいい。」
レインハルト様は食い気味に語り出す。石は正直ちゃちかった。しかし、これなら予算的にオーケーだ。私でも買える。レインハルト様も気に入っているようだし、これに決めよう。
「はい、構いませんよ。ではそれにしましょう。買ってきますね。」
組み紐を受け取る時にお互いの手と手が触れ合う。今日さんざん手を繋いでいたというのに、なんだか改めて照れる。触れ合った指先が熱くなるような気がした。
お会計を終えてから
「レインハルト様、おとといは助けていただいて、ありがとうございました。どうかこちらを受け取って下さい」
と向き合って組み紐を渡す。
「わざわざありがとう。あの時、あなたが私の胸に飛び込んできてくれてくれなかったら、私は多分まだヘタレていて、今のこの状況ではなかったと思う。こちらこそお礼を言いたい。本当にありがとう。そしてローレライ様、あなたが私にくれた初めてのプレゼント。一生大事にする。とても、とても嬉しい。」
いや、そんないいものじゃないので普通に使って欲しいです。という事をオブラートに包んで伝えると
「ではさっそく使ってみようかな。」
とテレテレしながら髪を結いた。
あなたと私が今ここで一つになってる。嬉しい。とか結いた紐を触りながらブツブツ言ってるし。
紐一本でそんな大袈裟な。そしてちょっと怖い。絶対この人ヤンデレのけがあるよ。2周目ヤンデレルートは伊達じゃなかったかも。しかし、そんなレインハルト様も可愛いと感じてしまうあたり、私も恋愛沼に沼っているのかもしれない。




