ピアス
いつも読みに来ていただいて、ありがとうございます。
「「あの、」」2人の声が重なる。
「レインハルト様、お先にどうぞ」
「いや、ローレライ様こそ先にどうぞ。」
譲り合っていても仕方ないので、では。と話し出す。
「あの、何故、このタイミングで婚約話しが出たのかなあって。流れ的にちょっと唐突だったようにおもえまして。」
本当にすみません、ロマンチックな流れをぶった切る発言で。空気読めないオバサンです。でも、気になるじゃない?
「ああ、実はさっきも告白したように、入学したその日にあなたを見てからずっと恋焦がれていたんだ。何度婚約の申し込みをしようと思ったか。しかし、侯爵家から子爵家へ婚約の打診をしたら、普通、、子爵家では断れないだろう。あなたと強制的に婚約するのは嫌だった。出来れば私の思いを受け止めてもらって、あなたも同じ想いであって欲しかった。
何度あなたに話しかけようとしたか。でも、なかなか勇気が出なくて、そのまま2年が経ってしまった。友人のエミールからは『ヘタレ』とバカにされる始末で。」
と、しょんぼりした様子になる。
「でも、おととい、あなたが私の胸に飛び込んできてくれて、あなたを抱きしめたら、もうこの気持ちを抑えられなくなってしまったんだ。でも勇気を出して告白して良かった。あなたに受け入れてもらえて本当に嬉しいんだ。それと、あなたのお母様の話しを聞いて婚約すればうちから援助ができると思ったんだ。」
「ああ、それでこの流れで婚約申し込みになったのですね。理解しました。
ええと、お母様への援助は少し考えさせていただけませんか?家族とも相談しなければなりませんし、
それに恐らくですが、侯爵様ご夫婦からの婚約の了承もまだですよね?我が家のような貧乏子爵家相手ではいい顔をなされないのではありませんか?」
そうなのよね。いくらレインハルト様自身が良くても、ご両親が納得していなければ婚約は出来ない。下手したら侯爵家嫡男をたぶらかした下位貴族の娘と凶弾されても仕方ないくらいだ。
しかもレインハルト様のお家はこの国で1.2を争う大商会を経営している。そんなお家にド貧乏子爵家の女が突然現れたら警戒されるよね。
だがレインハルト様はびっくり仰天な、事をおっしゃった。
「ああ、その点は心配いらないよ。もう、両親には許可をいだいている。
今日は絶対に婚約の申し込みをするって決心していたから、実は婚約の書類もそろっている。あとはあなたのお母様にサインをいただくだけなんだ。だから、今日用事が全て終わったらサインをいただきにあなたの家に寄らせてもらってもいいかな。」
えっ、早っ! というか、私に断られるという事態は想定していなかったのだろうか?
さすがは王立学院イチのイケメン。自信が違う。
あ、でも2年も告白できなかったヘタレでもあるんだよね。
まあ人間、相反する所があるものだが、振り幅が随分大きいな。しょせんまだ16才なのだ。中身アラフォーの私は大きく包みこんであげなければな。
それにしても、やるとなったら本当に手配が早い。これにはオバサンびっくりだよ。そして、ちょっとだけヤンデレの片鱗が見えた気がして少し怖くなりもした。
「というわけだから安心してね。
それでね、私の話しなんだけど、実は…」。
とレインハルト様が顔を赤くしてもじもじしだす。今度は何?その表情、しぐさ、可愛い過ぎる。そんな表情もするんですね。キュン死しそう。
彼はお互いの色のピアスをつけ合いたいと言う。好きな相手が出来たらそうするのが憧れだったそうな。それだけではなく、お揃いの物も何か身につけたいと。
「ね、お願い。ずっと僕の憧れだったから。」
と、切ない瞳でまっすぐ私の目を見つめられたら、かあっと身体中が熱くなった。ヤバイ、その瞳、それ反則。
私はもう、いっぱいいっぱいでコクコクうなずくしかなかった。
しかし、頭の片隅で、この人、普段は一人称は私なのに、素は『僕』なんだな。とかちらっと思う。
いつもは完璧イケメンで隙を見せない人だけれど、私に対しては素を見せてくれているのかと思うと、何故かうれしくてキュンとする。私、チョロ過ぎる。
連れてこられた宝飾店は王都イチのお店だった。本来はこんな簡素な服装で来ていい場所ではない気がするので気が引ける。
「お待ちしておりました。ヴァイスリヒト様」
従業員がうやうやしく出迎える。
え?お待ちしておりましたって言ったよね。もしかして、ここももう予約してあったの?
という顔をレインハルト様に向けるとコクと嬉しそうにうなすいた。
いや、なんでそこで嬉しそうなのよ。あまりの手配の早さにちょっと引くよ。
私達は豪華な個室に案内された。
「すぐに身につけたいからオーダーじゃなくて既成ので構わない。お互いの色のピアスをいくつか見繕って欲しい。ああ、でもちゃんとしたのも別に欲しいから良い石も見せて欲しい」
と、お願いすると、しばらくして温かい紅茶が出された。口をつけているとほどなくして従業員が何点かピアスと石を持ってきた。
「すぐご用意できる金色のピアスはゴールデントパーズか石ではなく金のピアスになります。ブルーのお色はこちらのアクアマリンがお嬢様のお色に近いかと。」
とりあえずなので、ゴールデントパーズとアクアマリンでという事になった。すぐつけたいとレインハルト様は言う。では、と私がゴールデントパーズを手に取ろうとすると
「違うよ。あなたはこちら。お互いにつけ合おう。ね、私につけて欲しい。」
と、期待に満ちた表情でアクアマリンを差し出す。ひえーっ、つけっこですか?お店の人の目もあるのにこっ恥ずかしい。ただでさえこんな高級店に入るのも初めてでガチガチに緊張しているのに、更に人前でこんな羞恥プレイをしなくちゃいけないんですか?
「ね、お願い。」
甘い声で懇願される。
あああああー、だめだ勝てる気がしない。甘い声、期待に満ちた表情、私にはこれを無下にはできない。
私はうなずくと、アクアマリンのピアスを手に取り、レインハルト様の耳へとつける。
顔、顔が近い国宝級の顔だ。お肌きれい。髪の毛サラサラ。こんな綺麗な人が私の色をまとうなんて。あっていいのだろうか。手が震える。
レインハルト様はそんな私の様子にクスッと笑う。
なんとか両耳つけられた。
次はレインハルト様の番だ。ゴールデントパーズのピアスをつけてくれる手は私同様震えていた。
レインハルト様も緊張しているのだろうか?
「夢みたい。嬉しくて身体中震える。」
レインハルト様はつぶやいた。あ、緊張じゃなかったんですね。
これはオーダー品が出来上がるまでのとりあえずで、別にきちんとした物を注文する為に石を選ぶ。
アクアマリンサンタマリアとイエローダイア、と石はすぐ決まったが、問題は大きさだった。
レインハルト様はみんなにはっきりと分かるよう大き目がいいと言う。
私は何を着ても合わせやすいように控え目がいいと思う。
2人の意見は平行線だったが、お店の人が『では中間の大きさではどうでしょう』と助け舟を出してくれた。ここでいつまでも揉めても仕方ないので、お互いそれで良しとなった。
もう、ここまででぐったり疲れてしまったが、まだあるのだ。そう、お揃いの物だ。
こちらもいつも身につけられるようにペンダントか指輪がいいというのがレインハルト様の望みだ。指輪は私はうっとおしくてあまり好きではないので、ペンダントにしてもらった。
石はレインハルト様が『情熱の赤がいい』とのことでルビーか、ガーネット、あと赤ではないが、こちらも人気があるとピンクサファイアをお店の人が見繕ってくれた。
情熱の赤と言えばルビー一択かなとは思うが、見せていただいたピンクサファイアは可愛くてドキュンと来た。しかし、お支払いはレインハルト様だ。私が払うのではない。ワガママは言えない。
「レインハルト様はどれが良いと思いますか?」
そう、彼の好み優先だ。しかし、レインハルト様はほほ笑むと
「これ、ローレライ様は気に入ったのでしょう。」
と、ピンクサファイアを指さす。うっ、バレバレだったのか、恥ずかしい。かあっとなりもじもじしてしまうり
「ピンクサファイアにしようね。どうせいつも身につけるのなら気に入った物がいい。上品にメレダイアを加えてもらおう。」
そしてこちらもオーダーしてもらう事になった。
「ねえ、ハートの形にカットしてもらうのはどうかな?」
とかとんでもない事を言い出す。いやいやいや、そんなのつけあっているのをみんなに知られたら、恥ずか死ぬ。。百歩譲って私がハートのペンダントつけてるのはいいが、レインハルト様がピンクのハートのペンダントてどうよ?イメージ丸つぶれだよ。
「レインハルト様、私は普通のが好みです。」
「そうか、それじゃ仕方ないね。」
あつさり引いてくれて良かった。レインハルト様のイメージは保たれた。しかし、予想以上にロマンチストなのね。
ペンダントも決まったのでお店を出る。
レインハルト様はそっと手をのばし、手を繋ぐ。もうクタクタだと思っていたけれど、繋がれた手がらレインハルト様の熱が伝わってくるその感触に私の心臓は再び早鐘を打つ。今日の私の心臓、大回転だわ。まだこんな元気が残っていたのね。
しばらく歩いてからレインハルト様はふと立ち止まると、私に向かい合い
「ローレライ様、本当にありがとう。小さい頃から、思いあった相手とお互いの色をまとい合うのが憧れだったんだ。あなたのお陰でそれがかなった。」
と、私の耳に手を近づけ、夢みたいだと言いながら愛おしいそうにピアスをそっとなでる。
この人、2年もヘタレだったわりには動き出したら爆走しちゃうタイプだったんですね。
あまりの甘さの爆走ぶりに、元アラフォーの余裕なんてふっ飛ばされちゃって、私はただ赤くなって固まってしまうしかなかった。




