第六章「真っ白な灰と、最強の小3女子」
白く燃え尽きた灰のように、すべてを忘れてしまったコーワード。 時間の怪物を飲み込み、廃人同然となった彼を救える者は、現代にはもう誰もいないはずでした。
しかし、高橋家にはもう一人の「異能」が隠れていました。海人の姪、小学3年生の結衣。 大人が眉をひそめる彼女の「よく解んないモード」こそが、時間の不規則性に共鳴する、コーワード以上の超適合体質だったのです。 「おじちゃん、あそぼ!」の一言が、時空の壁をぶち破る。涙と笑いの救出劇、開幕です!
現代、二〇二六年の地下室。 海人は、モニターに映る「真っ白」になったコーワードを見て、絶望に打ちひしがれていた。 母・美智子は救われた。歴史は改変され、彼女は健やかに老後を謳歌している。だが、その代償として、コーワードの精神は時の彼方に置き去りにされ、抜け殻となってしまった。
「……ごめん。僕のせいで、君は……」
海人が拳を握りしめたその時、背後の扉がバターン!と勢いよく開いた。
「おじちゃーん! アイス買ってー!」
現れたのは、海人の姪である小学3年生、結衣だった。 彼女は今、学校でも家庭でも手に負えないと言われる「よく解んないモード」の真っ最中だった。 右足に長靴、左足にサンダル。頭にはザルを被り、手には自作の「魔法のステッキ(ただの枝)」を握っている。
「結衣! 入っちゃダメだって言っただろ、ここは危ないんだ!」
「やだ! おじちゃん、変なテレビ見てるー! この白いおじさん、だれ? 魂がどっか行っちゃってるよ?」
結衣はズカズカと装置の中央へ歩み寄ると、コーワードが映るモニターを指さした。 海人は息を呑んだ。結衣の瞳が、虹色に明滅している。 「……まさか。結衣、お前……見えているのか?」
海人は瞬時に理解した。 コーワードの適合理由が「ずぼら」なら、結衣の適合理由は「純粋な支離滅裂」だ。 子供特有の、脈絡のない思考。昨日の夢と今日のおやつが等価値で、宇宙の真理よりも「セミの抜け殻」に価値を見出すその精神構造は、いい加減な時間の性質と**100%同調**していた。
「このおじさん、迷子だね。結衣が連れてきてあげる!」
「待て、結衣! タイムワープは遊びじゃない! 脳が焼き切れるんだぞ!」
「だいじょーぶ! 結衣、今『最強モード』だから!」
結衣は迷わず、海人が止める間もなく『マザーズ・リベンジャー』の円環に飛び込んだ。 警告音が鳴り響き、地下室に凄まじい磁場が発生する。海人の計算では、子供が耐えられる負荷ではない。だが、結衣はキャッキャと笑いながら、次元の壁をすり抜けていった。
「うわあ! すべりだーい!」
——二十年前の町田市。 公園のベンチで、真っ白な顔をして動かなくなったコーワードの前に、突如として空からザルを被った少女が降ってきた。
「とーちゃく! はい、おじさん、起きて!」
結衣は、魂の抜けたコーワードの頬をパチン!と叩いた。 時間の怪物が、新手の侵入者である結衣を排除しようと襲いかかる。だが、結衣の「よく解んないモード」は最強だった。怪物が恐ろしい牙を剥いても、彼女には「大きなワンちゃん」にしか見えない。
「めっ! 静かにしてて!」
結衣が枝を振ると、時間の濁流が困惑したように勢いを弱めた。 論理が通じない相手に、時間は無力だった。
「おじさん、帰るよ。お母さんが、晩ごはんハンバーグだって!」
コーワードのうつろな瞳に、微かな光が宿る。 廃人となった彼の脳内に、結衣のデタラメで、温かくて、何の裏付けもないエネルギーが直接流れ込む。 「……ハン、バーグ……? ……デミグラス、か?」
「そうだよ! 早くしないと、結衣が全部食べちゃうもんね!」
コーワードの手を、結衣の小さな手がぎゅっと握った。 その瞬間、真っ白だったコーワードの世界に、再び「色」が戻り始めた。 現代の地下室。 光の柱が立ち昇り、中から二人の影が現れた。 ザルを被ったまま誇らしげな結衣と、その後ろで、相変わらずシャツのボタンを掛け違えたまま、頭を掻きむしる男。
「……たく。死ぬかと思ったぜ。お坊っちゃん、あんたの身内はどいつもこいつも極端すぎるんだよ」
コーワードの声だ。 海人は、崩れ落ちるように泣き笑いした。
「おかえり、コーワード。……そして、ありがとう、結衣」
「おじちゃん、アイス! 3個ね!」
世界は書き換わった。 母は生き、救世主はアイスを頬張り、ろくでなしの男は再び適当な日常へと戻っていく。 歴史改変という名の壮大な親孝行は、こうして、一人の少女の「よく解んない力」によって、大団円を迎えたのである。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました! まさかの救世主・結衣ちゃんの登場により、コーワードも無事に帰還することができました。 「理論」を「ずぼら」が超え、最後は「無垢」がすべてを救う。そんなハチャメチャな物語を楽しんでいただけたなら幸いです。
もし、海人とコーワード、そして結衣ちゃんの活躍に「最高だった!」と感じていただけましたら、ぜひ感想や評価をお願いいたします! 皆様の応援のおかげで、最高の結末に辿り着くことができました。 また別の物語でお会いしましょう!
と、あれ?終わったはずが、なんだこれは、まだ続くって、私のところまで時間の改変が~~!!




