おまけ:光を運ぶ風
本当に美しい森ねぇ。動物の気配も多いわ。でも、襲ってくるような獣の気配はないわね。
青々とした瑞々しい植物が、これでもかといわぬばかりに茂っているわよ。
「しっかし、ここは雲の上だろ。だったら雨も降らないよな。よく森を維持できているな」
「自然を魔法で管理しておる」
そうよね。浮いているのだから地熱もないはずだわ。
ノーム様だけはでなく、ウンディーネ様やイフリート様からの恩恵も減っているはずなのよ。
自然の営みの多くを魔法で補助しているということなのね。
「大陸を丸ごと恒久的にかよ。浮かせているだけじゃないんだな。ものすごい魔力だ」
「シルフの眷属である、エルフの力の根源は風。風を阻むもののない天空においては無尽蔵に近い」
四大元素精霊様の恩恵を、魔法で代替しているのだものね。無尽蔵でもなければ続くわけがないわ。
「おー。魔力で浮かせることが、魔力の供給にもつながっているのか」
「シルフ様の領域って、そういうことだったのか。ノーム様から距離を取ること以外にも、熟考した結果なのね」
つまりここにいるエルフは、最も力をみなぎらせた状態にあるということなのだわ。
「そういやエルフは、人よりも強いと感じるのか」
「微妙にはね」
ひと回り大きい程度でしかないわ。最適な環境でも、この程度なのよね。
なるべくは意識をしないようにしているわ。
「あれでも微妙なのか」
もちろん、素のあたしからみれば、文字通り雲の上の存在よ。でもガーゴ様の感覚だと誤差でしかないわ。
「困っちゃうわよね。自分よりすごい方々が弱く見えちゃうなんて」
無意識にも失礼な態度をとってしまいそうで不安になるわ。
「誰にでも平等に接したいと思うんだろ。だったら、みんなが同じ程度に見えることは、ちょうどいいんじゃねぇの」
「あんたは本当にポジティブでいいわね」
たしかに、みんなが同じに見えるのであれば、いいのかもしれないわ。
自分よりは遥かに弱く見えてしまうことが問題なのよ。
「逆に、みんなが強く見えたら、お前が怯えるだけだろ」
「う。それも無論困るわ」
対処すべき課題からも、しり込みすることになりかねないわよね。適正に見えることが望ましいのよ。
「弱い者虐めが好きなやつだったら、やばいけれどもさ。お前は優しく接しようとするから、問題はないと思うな」
「そうだといいわねぇ」
その評価は嬉しいわ。でも、塔で化け物に対してとった態度が、気になって仕方がないのよね。
あれがあたしの本性だと思うと哀しくなるわ。
怒りは本当に危険よ。今まで以上に、怒りを抑えることを意識しなければならないわね。
森の中に妙な装置があるわよ。
一風変わったトランポリンという雰囲気かしら。
「なんだありゃ」
「エルフの遊具だな。乗った者を空中に撃ち出す」
へぇ。魔法で転移し放題なのに、そんな微笑ましい遊具もあるのね。
あら。精霊様がなにかを伝えようとされているわ。
「おぉ。なんかおもしろそうだな。とりゃ」
すかさず遊具に飛びこんだわよ。精霊様から伝わる感覚では、やめたほうがよさそうなのにね。
まさに撃ち出されたわ。すごい勢いよ。
空中に設置された、花のようなクッションに当たっては弾き飛ばされているわね。
む。エルフが近くに転移してきたわ。気配を殺しているわね。どういうつもりかしら。
邪な感じはしないわ。今はアルフのほうが気がかりね。
「……大丈夫なのですか。あれ」
待っていても、アルフが降りてくる様子はないのよ。
「転移や飛翔魔法で抜けられる者用の遊具だ」
「なるほど……」
ん?
あまりにも平然とお答えになるから、大丈夫なのかしらと錯覚しかけたわ。
「って。ダメですよね。マアマさんお願い」
「どかーん」
アルフをここへ釣って救出をお願いしますね。ほいっと。
ふらふらになっているわよ。倒れこんだわ。
「ちょっと。大丈夫?」
「俺は大丈夫だが、世界が回っているぜ。お。収まったか」
脳が揺さぶられて平衡感覚を失っていたのね。ティアラの光のおかげで、すぐに回復したみたいよ。
「飛びこむ前に、どんな遊具かくらいは確認しなさいよね」
「いや、遊具って聞いたら、ふつうは飛びこむだろ」
胸を張って言わないでよ。
問題があるのは遊具のほうだといわんばかりね。
「少しは警戒しなさいよ。人の国じゃないから。精霊様があたしを止めていたわけだわ」
「だったら先に言えよ」
あたしに断りもせず飛び込んだのはあんたよね。あたしのせいじゃないわ。
それに精霊様が止めていたのは、あたしだけなのよね。
「アルフには勧めていたのよ」
「ひっでぇな」
本当にね。精霊様のお考えはわからないわ。
「でも遊具はこれだけ? 遊技場ってわけではないのかしら」
森の中に、ポツンとひとつだけ置かれた遊具は、あまりにも不自然よ。
「遊具に適した地形に散在しておるな」
「……そっか。転移魔法で移動するから、1箇所にまとめる必要はないのね」
やっぱり、できることが違うから、発想も根本的に違うのだわ。
慣れるまでには時間がかかりそうね。
それはさておき、このエルフは一体なんなのよ。
アルフに密着して観察をしているみたいだわ。
姿を消しているのね。アルフはまったく気づいていないみたいよ。
「あのぉ。どちらさまでしょうか」
「へ」
む。あたしのことは無視しているわ。
「なにか御用でしょうか」
「……なにを言っているんだ」
聞こえていないのかしら。アルフの言動に、嬉しそうに反応しているわ。
「突然近づかれると、ちょっと怖いのですが」
「ベルタ? まさかお前も記憶が消えたのか? こんな突然?」
おっと。アルフが慌てだしたわ。
すぐに返答があると思っていたから、説明を後回しにしたのはまずかったわね。
「違うわよ。アルフを間近で観察しているお姉さんがいるのよ」
ようやく姿を現したわ。
「あはは。悪い悪い。人の子を見かけるなんて久しぶりでさ。可愛くて見にきちゃった」
「うぉ。姿を消せるのか」
突然、目と鼻の先に美女の顔が現れたら、アルフでなくても怯むわよね。
「うんうん。まさか見つかっちゃうなんてね。あははは」
謝りながらも楽しそうだわ。
「おどろかさないでくださいよ。邪気がなくても、無言で近づかれては警戒せざるをえません」
「旅の邪魔をしても悪いと思ってさ。ちょっと見たらすぐに帰ろうと思っていたのよ。ね」
こっちは不安だったのに軽い調子ね。でも動機が分かって、ほっとしたわ。
邪気がないうえに、言動には筋が通っているのよ。疑う余地はないわね。
タイミングで考えれば、アルフの救出に来てくれた可能性もあるわ。自力では遊具から抜けられない状態だったものね。
うは。
世界を覆うかのような、まぶしい光に包まれたと思った直後に、鶏の鳴くような声が響き渡ったわ。
鶏にしては、とんでもなく大きな声よ。
「どわ。なんちゅう大声の鶏だ。ん? 雲がないのに雷が見えるぞ」
「あれは不死鳥だね」
お姉さんは平然と答えているわね。いつものことみたいだわ。
「死なない鳥なんているのか。というか鳥なのか。雷が溜まっているようにしか見えねぇ」
「うるさいし、まぶしいよね。あはははは」
難点を挙げながらも、アルフの反応を楽しんでいるようだわ。
そうよね、1000年以上も生きているのよ。きっとアルフのことは、可愛い赤子のように見えているのだわ。
「笑い事なのかよ。エルフだったら不死相手でも、魔法でなんとかならねぇのか。鳥だったら食えるんじゃねぇの」
慣れでどうにかなるとは思えないほどの、すさまじい声よね。
それが突然響き渡るのだから傍迷惑というほかはないわ。
倒せずとも捕らえて声を抑えることくらいはできそうなものよ。
「無理無理。どんな魔法も矢も、かすりもしないよ」
「なんだそりゃ。霊の類ってことか」
霊ではないわね。というか、特別な存在という感じでもないわ。この感覚は……
「……とんでもなく大きくて強いし、金色の身体をしているわ。でも…… 鶏みたいよ」
あの鶏の強さは、誤差って程度じゃないわよ。ガーゴ様の相手にはならないとはいえ、一目瞭然の強さがあるわ。
「まて。魔法も矢も当たらなくて、雷みたいに光っていて、死なないんだぞ」
「うん。聞いていたわよ。あたしには雷というよりも太陽に近いと感じるわね」
放射し続けている光は、雷とは比較にならない規模よ。あれじゃ半端な攻撃は、届く前に消滅させられるわね。
「いやいやいや。それを鶏と呼ぶのはおかしいだろって話。俺も最初は、声で鶏だと思ったけれどもさ」
「ねぇ。たしかに、鶏とは呼びがたい能力よね。でもガーゴ様の知覚だと鶏なのよね」
おそらくは、種の因子が鶏なのだわ。鶏の亜人みたいなものなのかしら。亜鶏?
「ある武器があれば殺せるらしいけれどもね」
「不死でも殺せる武器って――」
マアマさんのことかしら。
「手に入れるには、あいつの尻尾が要るんだってさ。あははは」
違うみたいね。
それにしても、鶏が先か卵が先かのお話みたいな、おかしな条件よ。
「その武器で殺せるかどうかを、どうやって確認したんだよ。矛盾していねぇか」
「ただの言い伝えだからねぇ。尻尾をどうすればいいのかもわかんないし」
わからないと言いながらも、まったく困った様子はないわね。ニタニタしたままよ。
よっぽどアルフの反応が可愛く見えるのかしら。
「手の打ちようがねぇのか。少しは悩めよと思うけれどもな」
「役にも立っているからね。狩ろうと思うほどでもないのよ」
アルフの頭を撫で始めたわ。やっぱり、人が赤子をあやしているときのような雰囲気ね。
「おぉ。ありがたい存在なのか」
「あいつのおかげで、夜でも明るいだろ。おまけに邪霊を祓ってくれる光なんだ」
へぇ。邪霊を祓う力なんてあるのね。それは気づかなかったわ。
……つまり、ここにも邪霊がいるということなのかしら。
「邪な者の進入を転移紋で阻んでいても、邪霊はいるのですね」
「いるねぇ。どっから湧いてくるんだろうね。あはははは」
今度はあたしを見て笑っているわ。バカにしている感じではないわね。本当に楽しいのだわ。
懐かしんでいるような目かしら。昔は、あたしと同じような疑問を抱いていたのかもしれないわね。
「明るい姉ちゃんだな」
「そっか? 最初の100年も生きれば、たいていのことには遭遇して慣れちまうからかな」
これでも1000年以上を生きてきたはずの方なのよね。悩むようなことは悩みつくして、疾うに久しいのだわ。
「邪霊のもとを断とうとかは思わないのか」
「あたいは神様じゃないからねぇ。邪霊をすべて祓うなんてできないよ。あんたらに任せよう! あはは」
あら。急に笑うのをやめたわよ。気まずそうにしているわ。
「結局、随分と旅の邪魔をしちゃったわね。あんたたちはどこへ行く気なの」
あぁ、急ぎの旅かもしれないと思ったのかしら。邪魔をしないように隠れていたらしいものね。
「急ぎじゃないから気にすんな。あっちから呼ばれているんだ。あっちになにがあるかは知らねぇけれどもな」
「おっけー。遅れた分は、お姉さんが埋めてあげよう」
1回転してポーズを決め――
「うぉ」
「きゃ。なに」
身体が浮きあがったわ。
「転移しないってことは、散策もしたいってことでしょ。なら飛んでいくのが楽よ」
緩やかな風に乗せられたみたいな感じよ。ふわふわと運ばれていくわ。
「おー。なんか、こんな遊具の話もあったな」
くるくると回転しながら空を移動しているわ。
はた目には飛んでいるというよりも、明らかに飛ばされている姿勢よね。
こんな遊具は聞いたことがないわ。
「あれは浮いたりはしないわよー」
アルフが言っているのは、地上で回転移動する遊具ではないかしら。
似ても似つかないと言わざるをえないわ。
「中空で、回転しながら景色を見たほうがわかりやすいだろ」
動かずとも周囲を見渡せるのは楽かもしれないわね。
優雅に回って見えるわ。とはいえ、移動速度はどんどん上がっているわね。
「絶景ではあるな」
「楽しいとはいえ落ちつかないわね」
ガルマさんも一緒に飛ばされてクルクルと回っておられるわ。
何事でもないかのように平然とされたままであることが、かえって滑稽に見えるわね。
「……ガルマさんをも飛ばしているのか。竜人様が怖くはねぇのか」
「へ? 飛ばされるのが嫌なら魔法を無効化するだけでしょ。怖がる要素なんて、なにもないわよ」
理屈ではそのとおりね。それでもふつうは怖がるのよ。
万が一にもお気に障るようなことがあれば、ただじゃすまないものね。
「へぇ~。王や皇太子だけじゃなくて、エルフすべてが賢い感じなのかな」
「そんな大層なことかい? 神様が狭量なら、こんな世界はとっくに滅んじゃっているわよ。あはははは」
「そりゃそうだな」
エルフが賢いというよりも人が愚かなのよね。
あまりにも当然の簡単なことを理解できないのが人なのだわ。
む。
あたしが理解していない、当然の簡単なことって、これ…… じゃないわね。
でも、こんな感じで理解できていないことがあるのだわ。ヒントにはなったかしら。
「そろそろ降ろすわよ」
数分の間に10キロメートルほど進んでいるわね。
雑談で遅れた分以上に進めているわよ。
「ここは歩いたほうがいいと思うわ。なるべく静かにね。それじゃ楽しい旅を~」
キスを投げてから後方に跳躍したわ。ここでお別れなのね。
「おぉ。サンキュ」
「あ。どうもありがとうございました」
すごいわね。軽く跳躍しただけに見えたのに、あっという間に視界外へと消えたわよ。お礼の言葉が届いたとは思えないわ。
去りゆく動きは、まさに羽の生えた風の妖精を彷彿させたわね。
ここはちょうど森を抜けたところよ。野原になっているわ。
「慌しい方だったわね。性格も風なのかしら」
風のように現れて、風のように去っていくという比喩そのものだったわ。
性格にも風のごとき気持ちよさを感じたわね。
「むしろ、みんなあんな感じになれたら、いい世界になると思うけれどもな」
「否定はしないわ。でも、落ちつきそうにないわね」
あたしも好感を持ってはいるわ。とはいえ、王子様のように静かな風を感じさせる方のほうが接しやすいと思えるかしら。
「そういえば、静かに歩いたほうがいいって言っていたわよね。言動に似合っていなかったのが気になるわ」
「なんかいるってことか」
アルフが観察を始めたわね。ならば、あたしはガーゴ様の知覚で……
「お? 光る虫? 虫除けの魔アイテムが効いていないのか」
「きゃー。虫じゃないわよ。妖精さんよ。すんごくいっぱいいる! すっごーい」
無数の小さな存在に気づいてはいたわ。でも、少し変わった精霊様であろうと思っていたのよ。
アルフに言われて視認して、ようやく妖精さんだと気づいたわ。
「鉱山で見たやつよりも、さらに小さいのか。不死鳥といい、コイツらといい、ここでは光ることが流行りなのか」
生えている草によじ登って、手を振ったりしているわ。
人に見られることを拒まない種なのね。
「やっぱり妖精さんは可愛いすぎる~」
あたしの指にも登ってくれないかしら。うりうりうり。
風が――
ちょ。妖精さんが一斉に舞い上がったわ。
まさに無数よ。万という単位では到底きかない数だわ。見渡すかぎりの範囲で飛んでいるように見えるわね。
「おぉ。これはきれいだ。俺にも見える妖精でよかったぜ。安全な火の粉が舞っているみたいだな」
花より団子のアルフですらも見惚れているわ。雄大な美しさね。
「ス、ステキだわ。でも、妖精さんは大丈夫なの。吹き飛ばされているのよ」
あたしも無論、感激はしてはいるわ。とはいえ指先の妖精さんが、吹き飛ばされて舞いあがる様子を目の当たりにしたのよ。不安だわ。
「風の妖精だ。風に乗って、種子や花粉など、いろいろなものを運びよる」
「やっていることは、やっぱ虫みてぇだな」
妖精さんの役割については知らないのよね。鉱山の妖精さんは採掘をしていたらしいわ。ふつうの生物と同じようなことをしているのかしら。
「似たようなものだ。集まれば竜巻を起こしたりもする」
「いや。それ全然似てねぇから」
個々の力は小さくても、やはり能力としては特殊なのね。
「日も落ちてきたし、今日はここに泊まるわよ」
まぁ、今が朝だったとしてもここに泊まるわね。異論は認めないわ。
「おぉ。妖精も、食事によさそうなところとかを教えてくれるのか。って、ここがいいところか」
「食事にも寝るにも、うってつけよね。さすがに風の妖精さんだけあってシルフ様を感じさせる風だわ」
あまりにも心地いい風よ。ずっと身を委ねていたいわ。
「歩いたほうがいいって、こういうことか」
「ここを飛んで過ごしちゃうなんて、たしかにありえないわね。さすがによくわかっているわ」
お姉さんの意図を理解できたわね。大満足よ。
あたしたちが転移をせずに歩くわけは、こういう機会を逃さぬためであろうと察してくれたのね。
「そういえば、ここで狩るのは初めてだよな。獣も襲ってこなかったけれども、食うものはあるのか」
「エルフのみなさんが狩っていたのと同じ動植物にしてみましょうか。マアマさんお願いします」
「どかーん」
味付けはいつもどおりでいいかしら。オーソドックスに焼肉と木の実をお願いしますね。ほいっと。
「サンキュ。さてとお味は…… うーん。やっぱそうか」
「どうしたの。おいしくない?」
マアマさんの料理を食べたにしては珍しく微妙な反応ね。
「いや。マアマの料理だし無論すごくうまい。ただ地上にくらべると素材の味が薄いというか微妙だな」
「あんた、料理の評論家みたいね」
おいしければいいわよ。それこそ気にしなくてもいいことだと思うわ。
「魔法で肥やしているといっても、ノーム様の恩恵が遠過ぎるのかな」
「エルフの魔法が幾らすごいといっても、ノーム様との直接比較はさすがにね。不満なら地上のを狩る?」
たとえ天空に浮いていても、ノーム様のお力は届いているはずよ。
とはいえ、その恩恵は著しく弱まるわよね。作物の旨みも損なわれているはずだわ。
「いや。これはこれで珍味としてはありだ。未知の味に遭遇するかもしれないしな」
うんうん。地上には劣るというだけで十分においしいのよね。
あぁ~、漂う妖精さんを眺めながら食事ができるだなんて、まさに至福だわ。
それにしても…… やっぱりこれ気のせいじゃないわよ。
「なにか、妖精さんたちの光が弱ってきたわね」
「寿命が短いのか」
それはあたしも懸念したわ。でもガーゴ様の知覚では、妖精さん自身の強さに変化はないのよ。
「明るさ以外に変化はなさそうに見えるのよねぇ」
おっとぉ。
まさに大気の震える声よ。不死鳥の声が轟いたわ。
声の皮を被った衝撃波と呼ぶべきかしら。ほとんど凶器よね。
「またかよ! 心臓に悪いわ」
「あ。妖精さんたちが明るくなった」
不死鳥の声に反応したかのようね。妖精さんの光は強さを取り戻しているわ。
「不死鳥の光をもらっているのか? 明るくなるメリットでもあるのかね」
タイミング的に考えれば、妖精さんの光は不死鳥から受けとったものだと思うわ。
なんのために受けとって光るのかしら。意図がつかめないわね。妖精さんの役割があると考えるなら……
「ん~。たとえば、陰になっているところに光を運ぶとか? 邪霊を祓う光なのよね」
光は不死鳥から直線状に放射されているのよ。当然陰はできるわ。
風であれば、陰となったところにも吹きこめるのよ。
「なるほど。そういや光に、邪霊を祓う効果があるって言っていたな」
除霊の様子を確認してみるわね。
「さっきのお姉さんが言ったとおり、光で邪霊は祓われているわ。でも次々に地中から湧いてくる感じね」
ここでは、ガーゴ様は休んでおられるのかしら。
手を出されるまでもないみたいね。不死鳥の光には確実に除霊できる力があるみたいよ。
「発生源は地中か。ノーム様がいないと湧くってことなのか」
違うわね。この大陸よりも下からきているわ。追ってみるわよ。
「……湧いてくる方向を追っかけてみた感じだと、地上から浮いてきているみたい」
「おおう。発生源は地上かよ。そりゃいるわな。こんなところまで飛んでくるのか」
地上には、邪を祓えない人だらけなのよ。その影響を受けて発生する邪霊も多いはずだわ。塔の守護精霊様のようにね。
それが地上を漂うだけではなく天空にまで到達しているのだわ。
「エルフのみなさんなら、邪霊が入りこめないような結界も張れそうなのよねぇ」
邪霊が入れる状態のままで放置していることは、むしろ不思議に思えるわ。邪な者の入国を転移紋で拒んでいるほどなのにね。なにか意図があるとしか思えないわ。
「だよな。まぁこっちの地表に出た時点で不死鳥の光に祓われるんだから、どうでもいいのかもだけれども」
ナイスアルフ。きっとそれだわ。
「あ~。もしかしたら意図的に集めて祓おうとしているのかもねぇ」
「それだったら納得がいくな。エルフはみんな性格がよさそうだったし」
邪霊の侵入を防げないのではないわ。世界の邪霊を減らすために、わざと集めているのよ。
「でもそうだとしたら、秘密の国策とかなのかしら。さっきのお姉さんは知らなかったみたいだし」
「あの姉ちゃんだったら、聞いていても忘れていると思うぞ。尾羽の使い方とか、肝心な部分は忘れていたし」
考えてみれば、不老とも噂されるほどにエルフは長命なのよね。どうでもいいことまでは覚えていられないのかもしれないわ。
「邪霊が湧くことも笑っていたしねぇ。気にしていないなら忘れるか」
「人は邪を祓えないのに、地上の邪霊はそれほど溜まっていない。俺もベルタの推測通りだと思うな」
うんうん。初めて邪霊を見たときは、その多さに驚いたわ。とはいえ、強力なのは守護精霊様くらいしか見ていないのよね。おそらくは成長する前に祓われているのよ。
「そうよね。ちっちゃい邪霊はいっぱいいるとはいえ、騒ぎにもならない程度だしね。エルフに感謝しなくちゃ」
「こんな離れたところで、黙って人の尻を拭いていてくれたんだな。かっけー」
ぶ。やめてよね。思わず吐き出しちゃったわ。
「そうだとはいえ、どうしてそう汚い言い方をするのよ。まだ食べているのに」
「おぉわりぃ。でも尻を拭くって言葉で、具体的な姿まで想像するのか……」
しなくても言わないものなのよ。
ごちそうさま。
「食事は微妙だが、風が気持ちよすぎて気分は最高だな」
「ねー。このまま寝ちゃいそう」
――おっとぉ。
不死鳥が朝を告げたのかしら。
「うぉ。朝か。朝なのか。朝が襲ってきたのか」
「あははは。おはよ。気づいたら寝ていたわ。この声も目覚ましにはいいわね。アルフでも1発よ」
どれだけ熟睡していても確実に目覚めるわね。逆にショックで永眠する可能性はあるかもしれないわ。
「いやマジで、本当に心臓に悪いって。焼き鳥にして食ってやりたくなるな」
「味はわからないわ。でも、アルフの歯よりも硬そうな肉よ」
マアマさんなら柔らかくもできるのかしら。少しだけ興味はあるわね。とはいえ試すわけにはいかないわ。
「役に立たねぇ鳥だな」
「食用以外の役割を果たしてくれているわよ」
さてと。ステキなところとはいえ、いつまでも居座るわけにはいかないのよね。
舞いあがる風の妖精さんに囲まれて、いざ旅を再開よ。




