おまけ:毒ガスへーき
な~んにもない草原よね。こんな辺鄙なところなのに長蛇の列ができているわ。
どこへ続いているのかしら。あぁ、町らしきものが見えるわね。かなり遠いわよ。
「なんだこりゃ。あの町に入るには何キロメートルも並ばないといけないのか?」
「これに並ぶくらいなら瞬間帰還器を使うわよ。なにか理由があると思うわ」
行列最後尾の人にでも聞いてみようかしら。アルフが行ったわ。
「おっちゃん。これは、なんの行列なんだ」
「町への入場さ」
「瞬間帰還器は使えないのか」
「使えるさ。けれども拠点でのチェックのほうが、時間がかかるそうだ。だから並んだほうがいいって聞いたのさ」
拠点でのチェックねぇ。重大事件でも発生したのかしら。
「なんだそりゃ。チェックが厳しい町なのか? それとも人気が高い町なのか?」
「両方かな。兵器を販売している町なんだ。商人も職人も学者も役人も軍人も、み~んなから需要があるのさ」
うへ。
この国では罠アイテムや瞬間帰還器が普及しているわ。人々はかなり安全に保護されているのよ。
にもかかわらず兵器に需要があるというのかしら。嘆かわしいわ。
「嫌な人気だな。おっちゃんもそのひとりなのか」
「俺は小さな村の村長さ。厄介そうな大型獣を近くで見かけてね。それで使えそうなものを探しにきたのさ」
そっか。人は逃げられても、村は逃げられないのよね。
「あぁ。罠アイテムで対処できないやつに対して欲しいってことか。軍隊は呼べないのか」
「頼んだけれども、いつ対応できるかはわからないってさ。で代わりにここを紹介してくれたのさ」
やっぱり軍隊は忙しいのよね。一般人で対処する流れになっているのだわ。大型獣などの脅威に対する兵器の需要は必然なのね。
「へぇ。自衛させようって国の方針なのか。それはいいかもしれないけれども一般人に兵器って物騒だな」
そうね。賊が兵器を悪用しようとすることは目に見えているわ。
でも変ね。心配性の王様が、そんなことを見過ごすわけはないわ。
「俺も最初に聞いたときは、とんでもねぇって断ったんだけれどもさ。対象に特化した安全策を施してくれるそうだ」
「なるほど。悪用対策はしっかりとしているのか」
「うろ覚えだけれどもさ。俺の場合だと、人の近くでは使えないとか、指定区域でしか使えない制限がつくってさ」
「ありがと。すげぇ助かったぜ」
随分と都合のいい制限ね。やっぱり兵器も魔アイテムなのかしら。
興味深い話ではあったわね。でもあたしたちに必要な町とは思えないわ。
ムダに入ろうとすれば、行列を長くして迷惑をかけるだけよね。
「ということなんだが。この町はパスでよくね」
「そうね。この行列に並んでまで泊まりたいとは思わないわ。兵器にも興味はないし」
さぁ、いくわ…… よ?
なにかしら、あの砂煙は。
人だわ。行列の先から、全力疾走という雰囲気の3人が駆け寄ってくるわね。
デジャブを感じるわ。
「馬車ではないけれども王様を思いだす」
「そうね。兵器の町だから、こんな遠くまで警戒しているのかしら」
目の前に到着するなり跪いたわ。もう慣れ過ぎて、驚く気にもならないわね。
「ベ、ベルタ様、ゼェゼェ、お、お待たせして、申しわけありません、ブハァ。私めが、施設長です」
施設長? 町長ではないのね。あれは町ではなくて施設だというのかしら。
でも行列に並んでいる人は町だと言っていたわよ。まぁどちらでもいいかしら。
「へ。待っていないですよ。行列に並んでいる方とお話をしていただけです。もう去りますよ」
「え。施設の御視察にいらしたのではないのですか」
ぐ。視察ってなによ。あたしが何様だというのかしら。というか、どうしてガルマさんやアルフじゃなくてあたしなのよ。
あんたたちは、あたしたちのことを、王様から聞いているのよね。なら噂に惑わされているわけがないわ。
「……あたしは旅をしているだけの村娘なのですよ。視察なんてする立場にありませんよ」
「王様はどんな説明をしたんだろうな」
まったくよ。過剰に持ち上げられても対処のしようがないわ。あたしが視察をして、なにがわかるというのよ。
「そうですか。旅の邪魔をする気はございませんが、もう日も暮れますし町へお泊りになってください」
「そう言われても。並んでいる人をおいて先に入るのは気が引けますし」
この人たちは日が暮れるまでに入れないわよね。並んだまま一夜を過ごす気なのかしら。
「いえいえ。国の関係者は別の入口を使っておりますし、ベルタ様方はその遥か上であらせられるので――」
そうですかと言いながらも、全然わかっていないわね。
「ただの村娘ですってば」
「も、申しわけありません」
その態度じゃ、まだわかっていないわよね。反射的に謝罪の言葉が出ているだけだわ。
ハァ。いかに力説しても、ガルマさんのおそばに立っていては説得力が皆無なのかしら。
「いいんじゃねぇの。進化できれば上になるわけだし。町を見てほしいというんだったら優先されてもいいだろ」
「さすがに進化すればって理屈はちょっと。まぁ見てほしいというなら、わからないでもないわね」
町から呼ばれたというのであれば、行列を飛ばしても文句は出ないかしら。
とはいえ、見るものなんてないのよね。この人が納得するだけのことかしら。
「はい。ここでみなさまに去られましては、私めが御機嫌を損ねたとみなされましょう」
「御機嫌て。あたしたちの機嫌なんて関係ないでしょうに。まぁいいわ。アルフも泊まる気みたいだし」
町への興味は低いアルフが、わざわざ仲裁してきたのよね。ここは折れておくわ。
「は。ではこちらの瞬間帰還器で御案内させていただきます」
最寄りの拠点なら、手持ちの瞬間帰還器で飛べるわよ。
うわ。瞬間帰還器で飛んできた人たちが、次々と待機所に誘導されているわね。たしかに、外の行列よりも多勢の人が待っていそうだわ。
「おぉ。町っていうより工場って感じだな」
「殺風景ね」
訪れた人を楽しませるような要素は皆無だわ。町としての最低限の機能を、工場に付加しただけという感じかしら。
「申しわけありません。直ちに外観の変更を――」
「しなくていいです。施設長さんならお忙しい立場なのでしょう。職務に戻ってくださいな」
さすがにこれは、うっとうしいわ。愚痴も言えないわよ。遠回しにお帰りを願うわ。
「は。最優先の職務は、ベルタ様の御意向を伺うことになっております」
あたしの意向は、あんたに立ち去ってほしいということなのよ。空気を読んでよね。
「……この人、王様より毒されてない?」
あたしを気にかけ過ぎよ。まるであたしが暴君みたいだわ。
「いいんじゃね。見てておもしろいし」
「あんたねぇ。ならせっかくだから、この町について聞いておきましょうか。見て楽しめる品もなさそうだし」
いったんは諦めるわ。しばらくは施設長さんとやらのお相手をするしかないわね。
「は。ではまずセキュリティについて。拠点を含め、町への入場には厳重なチェックがあります」
ということは、行列が常態化してしまっているのね。やりすぎだと思うわ。
「チェックは要るだろうけれども、あんな行列にはならないようにしないとな」
「申しわけありません。国に要請はしているのですが、ゴミ対策とやらで人手不足でして、当面むずかしいです」
え……
ゴミ対策って、不燃物廃棄場の件かしら。王様に対策をお願いしたのよね。
そういえば、あれはあたしが要請したわ。軍隊の人が悲壮な顔つきで報告に行っていたわね。心配性の王様が、過剰な対策を始めたのかもしれないわ。それであたしが視察って誤解になっているのかしら。
「お、おぉ。そりゃ仕方ねぇな」
「ゴミ対策って…… やっぱアレよね」
つまり…… この町への出入りが渋滞している原因の切っ掛けは、あたしの一言なのだわ……
みなさん、ごめんなさい……
「次に、町の中からの瞬間帰還器の使用を、魔法封じの結界で封じております」
「封じなくても、飛び先で捕らえればいいんじゃねぇの」
そうよ。拠点の警備は厳重だわ。だからこそ、警備がない村には拠点を置けない制約があるのよね。
「一般の警備兵にも見せるべきではない品や技術も取り扱っておりますゆえ」
秘匿された技術があるのね。どおりで物々しい雰囲気だわ。飾り気がないのも、人を呼び集める意図がないからなのね。
「なるほど。それにしても魔法封じの結界って実在するんだ。前に賊が張ったとぬかしてはいたんだが――」
「効果がなかったのですよね。魔法封じとはいっても低位の魔法しか封じられないからでしょう」
そういうことだったのね。あのときの賊がマヌケすぎるだけかと思っていたわ。
とはいえ、あのときには虫除けの魔アイテムが効いていたはずなのよね。やっぱり結界はなかったと思うわ。
「あくまで瞬間帰還器を使った持ち逃げ対策ってことなんだな。で、この町ではなにをやっているんだ」
瞬間帰還器で出られないということは…… 町から出るときも行列なのよね、きっと。申し訳ないかぎりだわ。
「は。ここでは軍隊用の兵器から、個人の護身用武器まで、兵器全般を取り扱っております」
「罠アイテムで対応できない状況用ってことだよな」
今思えば、そういう状況って結構あったわね。そのたびにガルマさんやマアマさんのお世話になっていたわ。ほかの人が兵器を求めるのは当然なのよ。
「はい。研究・開発・生産・販売を行っております。販売時は個別のカスタマイズも行っております」
「安全策を施すってやつだな。行列に並んでいる人から聞いたとおりじゃね」
「そうね。この人が王様と似た感じだし、安全策は徹底していそうよね。やっぱり気にすることはないか」
認識していたとおりの説明だったわ。なにも問題はなさそうよ。
「俺は少しあるな。罠アイテムを超える性能ってことは、やっぱり魔アイテムなのか」
軽々しく魔アイテムとか口にしないでよね。この人は秘匿する側みたいだから大丈夫だとは思うわよ。でも、あんたの場合は考え無しで口に出していそうなのよね。怖いわ。
「はい。生産をここで行っていると申しましたが、魔法は王都で付与しております」
「罠アイテム自体を強化するわけにはいかないのか」
どうせ提供するのであれば、罠アイテムを強化すればいいということね。そうすれば、ここまで買いに来る必要もなくなるわ。
「罠アイテムは、いかなる状況でも使われます。効果を高めるには、個別の制限が必要とみなされました」
「あぁ。人の近くで使えないなんて制限を罠アイテムにつけたら使い物にならないか」
「おっしゃるとおりでございます」
利便性を犠牲にしなければ、強化は危険なのね。護りを優先した判断なのだわ。
「こないだ軍隊が砲台を使っているのを見たけれども、あれにも制限が入っているのか」
「はい。軍隊も無敵ではありませんので、略奪などに備えて数々の制限を施しております」
略奪どころか、砲台を残して退却するところを見たわよ。
「使用区域制限じゃ不便だよな。使えるやつを制限するとかになるのか」
「はい。軍隊の中でも砲兵にしか扱えませんし、軍隊の管理下を離れれば自動的に溶解されます」
知識があっても、砲兵として登録されていなければ使えないということね。
廃棄物処理場での退却は、砲台を悪用される懸念がなかったからなのだわ。
「魔法は、なにがこめられているんだ」
「対象に応じてさまざまです。最も使われているのは爆裂魔法です。あとは転移・溶解・凝結が多いですね」
え。砲弾に魔法が込められているということよね。アルフがどうしてそんなことを知っているのよ。現場を見て気づいたのかしら。だとしたら、魔法が秘匿されていないに等しいわよね……
「転移? 大砲で撃たれたらどっかに飛ばされるのか」
「はい。戦闘に不向きなところもありますゆえ。捕獲したい場合もありますね。砲弾の射出にも使います」
なるほどね。下手に転移させても戦闘区域を広げるだけよ。でも、戦闘をしたくないところに対象がこもっている場合もあるわよね。
重要施設の近くであったり、対象が回復してしまうようなところであったり、倒しても邪魔になるところが考えられるわ。
「砲弾の射出で転移? 砲台から飛び出したように見えたけれども転移させているのか?」
「砲弾で貫通させたい場合は、砲台に空気を転移させて爆発的に内部圧力を上げることで射出しています」
転移魔法でも、使い方次第では別の用途に使えるのね。
「なるほど。貫通不要の場合は対象まで砲弾を転移か」
だーかーらー。それだと、魔法を使っていることがばれちゃいそうよ。つっこむべきかしら。
「はい。ですが動く対象への転移は至難です。大型獣が相手の場合は射出が主になっている現状です」
砲弾の転移もしているみたいな言い方だわ。ばれないのかしら。
考えてみれば、砲台を使うのは一般人を避難させてからよね。見られる心配はないのかもしれないわ。
「射出で当てるのもむずかしくね?」
気持ちはわかるわよ。あんたの弓は当たらないものね。
でも魔法の場合は、当てる以前の問題がありそうよ。
「位置を決めてからの詠唱に相当する時間が問題なのかもしれないわ」
「瞬間帰還器はすぐに発動するぞ」
む。瞬間帰還器も転移魔法だったわね。しかも緊急避難に使えるほどに瞬時発動だわ。
「そういえば。瞬間帰還器のほうが不思議ね。位置を決めてからじゃないと準備できないと思うわ」
「瞬間帰還器の場合は、拠点の位置があらかじめわかっているので、準備完了状態で待機しているのです」
そっか。登録済みの拠点と、最後に通った拠点と、最寄の拠点のみなのよね。
「おぉ。飛べるところが3種類しかないのは、瞬時発動の目的もあるからか」
「襲われてから準備していたんじゃ、緊急避難には使えないしね」
思ったよりも詳しい方だったわ。でも、ほかには聞くようなこともないかしら。
「サンキュ。これで俺も聞きたいことは聞けたわ」
「では。ありがとうございました。あたしたちは宿をとって休みますね」
「は。どうぞごゆるりと」
ほ。ようやく帰ってくれるようだわ。あちらも満足したわよね。
さてと。宿を探しながら町を散策するわよ。
「どうしたんだ? もうベルタの意向とやらは聞いただろ。まだなんか用があるのか」
へ? どうしたのよアルフ。
うわ、まだいたわ。
「いえ。なにかお気づきになられたら即お伺いできるようにと」
ほとんど病気ね。まさか寝室にまでついてくる気なのかしら。
「やめとけおっちゃん。ベルタは一応、娘だぞ。それ以上ついてきたらストーカー扱いされるぞ」
「こ、これはとんだ無礼を。では、なにかありましたら近くの警備兵を通じてお呼びくださいませ」
今度こそ帰ったわね。それはそれとして……
「アルフ、ちょっと聞きたいことがあるわ」
「どうした」
「一応、娘ってなによ。れっきとした娘よね」
「そんな細かい言い回しを俺につっこむなよ」
ちょ、待ちなさ――
「うわぁあああ。突然どうしたお前たち。落ちつけ」
ひ? なによ、なにごとよ。
前方の店からかしら。慌てた声が聞こえるわね。
事件かしら。怖いくらいに、すさまじい量の虫の羽音がするわ。
「あ。ベルタ。離れてやれ」
へ。あたし?
あたしはなにもしていないわよ。あたしのせいじゃないわ。
あ。虫除けの魔アイテムのせいかしら。
「いっけない。虫を扱っている店もあるのね。て、ここ兵器の町よね。まさか暗殺虫?」
「俺が見てくるわ」
暗殺虫は、王様を狙う刺客が使っていたのよ。そんな特殊で強力な暗殺手段を、国直轄の施設で扱うとは思いがたいわ。
とはいえ、虫を扱う店なんてのも聞いたことがないのよね。気を付けてよ。
……随分と話し込んでいるわね。でもあたしが近づくわけにはいかないのよ。大丈夫なのかしら。
ようやく戻ってきたわ。説明をしてくれるみたいね。
まずは暗殺虫についてよ。
ふむ。保護措置を前提に扱っているのね。保護措置というのが、瞬間帰還器による自動回収と、毒…… えぐいわ。回収できなかったら死ぬように服毒させておくのね。おまけに、派遣した蟲使いに扱わせるから、契約以外の使い方はできないと。それなら安全といえるかしら。
あとは虫の需要についてね。
迷路や、人が入れない狭い場所の捜索で使われますよ、と。うん、それは有益な使い方ね。
「へぇ。蟲使いって、刺客専用職かとも思っていたわ。でも、一般的なのね」
「言われてみれば便利だわな。殺傷能力がない虫でも、ロープや瞬間帰還器を運ばせて救助にも使えるし」
うんうん。もっと普及して、しかるべきだと思うわ。
「たしかに。使いこなせればいろいろと便利そうね。そういうのはふつうの町でも扱えばいいのに」
蟲使いのお話なんて、まったく聞かないのよね。どうしてかしら。
虫のイメージの問題かもしれないわね。苦手な人が多いのよ。あたしも害虫は苦手だわ。
「この町も思っていたよりはおもしろいものがあるのかもな」
「そうは言っても兵器として使えることが前提のものなのよね」
探せばありそうよ。でも、散策を楽しむにはあまりにも殺風景だわ。
「そういや、魔法封じの結界があるはずなのに、虫除けは効いていたな。高位の魔法ってことなのか」
むむ。そうよね。ここの結界は確実に有効なはずだわ。機密保持が目的なのよ。漏れがあるわけないわ。
「もしかしたら隣国の盗賊に襲われたときも、瞬間帰還器は封じられていたのかもね」
あんなマヌケな賊に扱える結界だとは思えないわ。でも隣国の王の差し金だったものね。可能性はあるのかしら。
あら、横の店から見覚えのある人…… いや、サイボーグが出てきたわ。誰だったかしら。
「これはベルタ様御一行ではありませんか。ご無沙汰しております」
「ん? おぉ増幅器の研究者さんか。久しぶり。こんなところで知り合いに会うとは思わなかったな」
「え…… あぁ、あの凍結騒ぎのときの。声がふつうになっていますね」
かつてはおかしな発音しかできなかったのよ。
「あのときは失礼しました。いざというときの会話に不便なので、ここで発音装置も変更しました」
「ここで? 兵器の町だぞ」
今出てきた店の看板は…… サイボーグ魔改造します、と書いてあるわね。
「魔改造って発音装置のことを指すのか……」
「発音装置はおまけですね。主目的は自爆装置のパワーアップです」
……そういえば、あのときにも自爆がうんぬんと言っていたわね。研究の機密を秘匿するための最終手段だったかしら。
「待て。研究はもう王都でやっているんじゃねぇのか」
そうよ。王都で研究するのであれば自爆せずとも、最悪の場合はノーム様が呑みこんでくださる手はずだわ。
「はい。おかげ様で研究に没頭する幸せな日々を送っております」
「だったら自爆する機会なんてないだろう」
話がかみ合ってないわよね。自爆装置なんて、もう外すべきなのよ。強化してどうするのかしら。
「自爆はロマンです!」
「……」
この方は生真面目な性格だったはずよね。性格までもを魔改造しちゃったのかしら。
「失礼。ロマンは冗談です。王都の外で私が拉致されて、メモリを悪用されるなどの危険がありますので」
「お、おぉ。それだったら自爆以外にも手がありそうだけれども、つっこまないほうがよさそうだな」
「目が輝いていたものね」
冗談と言われても、冗談には見えない迫力だったわ。
「そういやサイボーグの機械部分も魔アイテムなのか。その身体自体が機密だらけぽいな」
「動力炉は電撃魔法の魔アイテムですが、ほかは電気で駆動させています」
電気ね。習った覚えはあるわ。でも必要がないから廃れたというお話だったかしら。照明とかで使われているところもあるらしいのよね。
「全部魔アイテムにしてはいないのか。やっぱ機密を詰めこみすぎるのは、よくないってことか」
あら。首を横に振っているわよ。
「電子精密機器はエクスタシー!」
「俺、お前を誤解していたみたいだわ」
生真面目というよりも、ひょうきんという認識のほうが正しそうね。でも、前はこんなんじゃなかったと思うわよ。
「またまた失礼。魔法がなければ主流になっていたであろう技術です。なかなか楽しいのですよこれが」
「なるほど趣味か。まぁ研究者らしくはあるか」
ふむ。趣味のお話になると興奮して機械部分がおかしくなるのかしら。
「よろしければ私めの趣味の作品の数々をお見せしますよ」
「俺はそういうのは苦手だからいいや。今はなにを研究しているんだ。機密だったら言わなくてもいいけれども」
なにって、増幅器よね。数百年も研究をしていたというお話だったわ。消されたとはいえ、今更ほかの研究はできないわよね。
「みなさまに隠し事をすると王に叱られてしまいます。現在は分子分解装置を研究しております」
「増幅から分解かよ。なんとなく正反対ぽいイメージだな」
あちゃぁ。研究の続行が不可能になっちゃったのかしら。でも資料までは消していないと思――
「はい。なんでも、ゴミを分解する技術が至急必要になったとかで、研究者が総動員されております」
うわちゃ。思った以上に大事になっているみたいだわ。
「こっちもか。お前の一言で総動員だってよ。すげぇな」
「ありがたいわ。でも、本当に大げさなのよ。下手に要望もできないわね」
周囲に迷惑をかけ過ぎているわ。ゴミ処理は重要な課題よ。でもそれだけをやればいいというものではないわ。
「研究者さんはそれでいいのか。増幅系の研究をやりたいってことはないのか」
「いえ。現代社会に生きる、われら研究者の喫緊の課題として、実にふさわしいと満足しております」
研究をも趣味にしているような方だものね。没頭できる研究対象さえあれば満足するのかしら。
「ハァ。その言葉はせめてもの救いですね」
とりあえず、喜んでいるみたいでよかったわ。罪悪感が少し減ったわよ。あたしとしても、こんなにすごい方が研究してくれているのなら期待できるわね。
「いけない、その会議の時間が近いのでした。まだお話したいことはありますが失礼させていただきます」
「おぉ。がんばれよ。期待しているぜ」
「研究の成功を信じています」
やっぱり瞬間帰還器は使えないみたいね。町の外へ歩いていったわ。
さすがに、行列には並ばずに町を出られる立場みたいね。
「兵器の町と聞いて警戒していたけれども、それほどでもない気がしてきたな」
そうかしら。今ので気が抜けたとはいえ、自爆装置のパワーアップに来ていたのよ。やっぱり兵器の町だと思うわ。
「兵器以外はおまけ程度なのよね」
宿屋があったわ。ここも工場の1区画という感じね。王都で泊まるべきかしら。
いや。ここに泊まらないと、夢にまで施設長が嘆願しに来そうな気もするわ。王都は諦めるわよ。
「よかった。ふつうに気持ちよさそうなベッドだわ」
ベッドさえよければ、ほかが殺風景なのは許容範囲かしらね。
「問題は飯だな。周囲が平原だったけれども、長い行列が襲われないくらいに獣もいなかったし」
「軍隊用の携帯食料とかを楽しめるのかもよ」
いつも新しい味を求めているみたいだし、あんたにはちょうどいいと思うわ。
「そういうのは要らね。食いものはやっぱ素材の鮮度が重要だぜ」
「ベッドがふつうだったし心配するほどでもないと思うわね。行ってみましょ」
さてと。宿の主さんから給仕された料理はおいしそうね。食べてみるわよ。
「おぉ。これ王都の食材じゃね? うめー」
「本当だ。食材は王都から仕入れているのかしら。食材を納入する村とかは近くにないのかしら」
「兵器の町ですので。搬入ルートも厳選されているのです」
予想外のおいしさで手が止まらないわ。期待が低すぎたものね。
「なるほど。村人を装った変なやつが、変なものを持ちこんだり、持ち出したりするかもか」
「こっちの特産品を味わえないのは残念だわ。でも、仕方がないわね」
機密を扱っている町なのよ。それに、この辺りの特産品なんて、あるのかすらも怪しいわ。
「ここの特産品ってさっきの虫とかか」
「やめてよ。虫は店で扱っているだけで、近くで採集したわけじゃないと思うわよ」
「ここは特になにもないからこそ、この町がつくられたようなもんですわ。兵器のテストもしやすいですし」
やっぱりないのね。ならノーム様の恩恵を授かるのが最良といえるわ。
ふぅ。ごちそうさま。
「空き地の有効利用か」
「耕作しようにも水源が見当たらなかったし。できて放牧か。わざわざここでやる必要はないわね」
兵器工場にはうってつけの場所だと思うわ。遊ばせておくにはもったない広さだものね。
「兵器のテストねぇ。お、このにおいは毒ガスじゃね」
なんですって! のんきに物騒な発言をするわね。事故で漏れたのかしら。
この場にいる人はティアラの光で護られているから大丈夫よ。でも町の人々が危険だわ。
「え! 大変、警報を出さなきゃ…… って、これおならのにおいよ。あんたすかしたわね」
「俺の屁気だ」
あー…… 宿の主さんが固まっているわ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
「お願いだから人前でそんな恥ずかしいことを言わないでよ」
もういや。力が抜けていくわ。
「え。あ、あはは。では食器をお下げしますね」
「いろいろすいません。ほら、部屋に戻るわよ」
「え。一服…… ぐほ」
問答無用よ。これ以上は余計なことを口にしないように、肩に担いでいくわね。
部屋に着いたわよ。アルフをどこへ降ろそうかしら。ベッドの上にぽいっと。
「あ~死ぬかと思った。マジで背骨がやばいぞ今のは」
「うつ伏せだとお腹を圧迫しちゃうわ。食後だから仰向けのほうがいいかしらと思って」
まさに顔から火が出る思いをさせられたのよ。それくらいの報いは当然よね。
「勘弁してくれ。兵器と屁気は受けると思ったんだけれどもなぁ」
「あの瞬間、この世界から色が消えて見えていたわよ」
白けるという言葉の意味を痛感したわ。
「センスのないやつだ」
ハァ。センスがないのはどっちよ。親父とタメを張れ……
そういえば、錬金術を使えば若返りは可能よね。おまけに、アルフの記憶はないわ。
「あんた、子どもに見えるとはいえ、実はオヤジだったりするのかしら」
「否定できる根拠はねぇな。まぁどっちでもいいけれども」
自分のことなのに、本当にどうでもよさそうに言うわね。
まぁ仮にオヤジだったとしても、今は子どもなのよ。他人からは子ども扱いしかされないのよね。
「どっと疲れたわ。お風呂に入って寝ましょ」
「おやすみ~」
寝心地は悪くなかったわね。工場でしかない町にしては上出来だったわ。
早速町を出るわよ。って、警備兵がなにかを配っているわね。立札に整理券と書いてあるわ。
あぁ~。町を出るための行列がないと思ったら、整理券方式にしたのね。町なかでの行列が邪魔になったからかしら。
「こりゃ下手したら夕方まで町の見物かな」
呼ばれている番号からして、とんでもない数の人が待っていそうだわ。
「昨日は夜が近かったからここに泊まったのに意味がないわね」
「まぁしゃあない」
そうね。なんといっても渋滞はあたしが原因なのよ。文句を言える筋合いはないわ。
「兄ちゃん。町を出たいから俺にもくれ」
「は。ベルタ様御一行は即座にお通しするように通達を受けております。どうぞこちらへ」
ほかの人からすれば酷い話だわ。本来なら、あたしが一番待たされるべきなのよね。
「ありゃ。助かるけれども気が引けるな」
「渋滞の切っ掛けもあたしの一言だしね。でも虫を連れた人がきたら迷惑になるし、お言葉に甘えましょ」
本当にきっついわね。どうして一言がこんな大事になるのかしら。
ガルマさんのおそばにいることの自覚が足りないのかしらねぇ。これでも十分に意識をしているつもりなのよ。
今後は一層気を付けるしかないわね。済んだことは気にしていても仕方がないわ。旅を続けるわよ。




