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一人称視点版@あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
42/52

おまけ:ふつうの娘になりたい

 なによあの町は。けばげばしいわね。壁や地面が、派手な彩色で塗りたくられているわよ。絵になっているのかしら。隙間なく描かれていて、よくわからないわね。

 町の入口も変よ。奇妙な生物が踊っているわ。見覚えのない種ね。近くに人もいるみたいだから、危険ではなさそうよ。


「なんだありゃ。町だよな」

「見るからに怪しい町ね。避けるのも手だわ。でも、もう夜だしねぇ」


 こんな町じゃ、期待のベッドも、不気味な装飾になっていそうよ。げんなりするわ。

 それに夜通し騒いでいそうよね。安眠できるのかも怪しいわ。


「拠点を登録してから、王都に飛んで泊まるのもありじゃね」

「そうね。入って出るくらいなら問題もないか」


 とりあえず、この奇妙な生物はスルーでいいわよね。


「よぉお~こそ! わぁ~れらが仮装の町へ~♪」


 え。これ、人だわ。仮装しているのね。なにに仮装したつもりなのよ……


「こ~の町で~わっ! す~べての人に、かっそ~をた~のしんでい~ただきまっす~♪」


 話し方にまで仮装をしているのかしら。聞き取り辛いわよ。


「すべてって。俺たちもか」


 踊るのをやめたわ。こっちを凝視しているわね。アルフの反応が気に入らなかったのかしら。

 あら。大きく(うなず)いたと思ったら、再び踊りだしたわ。


「ベ~ルタ一行の! かっそ~ですねぇ~~おっみ~ごとでぇす~♪」

「いや。仮装じゃなくて、そのベルタ一行なんだけれども」


 ぶ。ティアラの光の(うわさ)のせいで、あたしの名前が出るのはわかるわよ。でも、あんたまでが肯定しないでよね。


「ちょっと。どうして、あたしの旅みたいな扱いになっているのよ。あんたの旅よね」


 少なくともあんただけは、アルフ一行だと指摘して然るべきだわ。


「お前が一番目立っているんだから仕方がないだろ」


 ハァ。そうだったわ、アルフは気にしないのよ。(うわさ)なんて気にするだけムダだと、普段から言っているものね。


「な~りきっておい~ででぇすね~~おぉおおおおいに結構! どうぞおはい~り~く~ださい~♪」

「まぁいいか」


 全然よくはないわよ。この姿が仮装だってことになっちゃうわ。

 でも相手にはしたくない話し方よね。誤解されたまま、スルーをしておくのが得策かしら。

 あたしたちが(だま)したわけじゃないものね。きちんと説明をしたわ。納得しなかったのは相手の責任よね。


 町の中は、いっそう派手だわ。そこいら中をスポットライトで照らしているわね。ノリのいい音楽も流れているわ。

 それにここでは、みんなが仮装をしているのよね。あたしたちが、まったく目立たないわ。


「ベルタには、いい町じゃね? 久しぶりに注目されずに町を歩けるじゃん」

「注目されないのはいいわ。でも、落ちつかないわね。町というよりイベント会場よね」


 アナウンスが流れるみたいよ。


「テーマ別・仮装コンテストを開始します。参加者はステージのほうへお集まりください」

「イベントもやるみたいだな。うるさいだけだし王都へ行くか」

「そうね。こんな状況でやるようなイベントはどうでもいいわ。拠点はどこかしら」


 おかしな飾りが多すぎて、なにがどこにあるのやら、わかりづらい町だわ。


「最初のテーマはベルタ一行です」


 な? 今のアナウンスは――


「拠点ねぇ。警備兵がいれば聞けるんだが。警備兵も仮装しているのか? 全然わからねぇな」

「それどころじゃないわよ」


 アナウンスを聞いたわよね。放っておけるイベントじゃないわよ。


「へ」

「あたしたちがテーマって、なによ」


 へ、じゃないわ。他人事じゃないのよ。


「同名の別人かもよ」

「今まで(うわさ)で接触してきた人って、全部あたしで合っていたわよね」


 そもそも、この町の入り口でも、あたしたちがベルタ一行の仮装だと間違えられたわ。別人だなんてありえないわよ。


「そうだっけか。まぁ仮装するくらいだったらいいんじゃね」

「よくないわよ。あたしってどんなイメージなのよ。見ておかないと」


 あぁ、もう。ステージとやらの場所もわかりづらいわ。

 もしも変な格好の人が受賞をしたら、おかしな(うわさ)が立ちかねないのよ。場合によっては名乗りを上げてでも、イメージを矯正しなければならないわ。


「みんな妄想で仮装しているんだからマジになんなよ。興醒めするぞ」


 あたしで妄想するから問題なのよ。興醒めしたくないなら別のテーマにするべきよね。勝手にあたしで盛り上がろうとしている人たちの自業自得よ。興醒めしたところで、あたしのせいじゃないわ。

 ようやくステージを見つけたわよ。

 ステージ付近はすごい人ごみね。人気があるコンテンストなのかしら。


「では1番の方~」


 ちょうどコンテストが始まったところね。

 出演者はステージの後方に並んでいるみたいだわ。進行を待たなくても全員を見ることができそうよ。


「みんなリュックとモーニングスターとライトを背負っているだけって感じの娘だよな。問題ないだろ」


 ……問題ない、ですって? 冗談にもならないわ。どこを見て言っているのかしら。


「大ありよ! なによあの血糊(ちのり)。肉を(くわ)えている人とか、人形をいくつか積んで背負っている人もいるわよ」


 わけがわからないわ。あたしがいつ、あんな格好をしたというのよ。


「返り血を浴びたり、食事で肉を食ったりするだろ。人形は救護で運んでいるイメージとかじゃね」


 返り血って、料理で肉をさばいたときとかよね。あんなに浴びるほどは被らないわよ。肉は口に入る大きさに切ってから食べているわ。(くわ)えた覚えなんてないわよ。救護のときは人を背負うわ。でもあれ、荷物みたいに積み上げているわよ。死体の運び方だとしても扱いが酷いわ。


「どう見ても違うわよ。凶暴なイメージしか伝わってこないわ」

「落ちつけって。これも精神鍛錬だ。変に見えるのは、仮装が下手なだけだって」


 そ、そうだったわ。感情を抑えなければならないのよ。


「ぐ。あんたの仮装は気にならないの?」

「みんな俺より格好いいじゃん。剣だけは俺のほうが格好いいかな」


 まったく気にしていないわね。そもそもアルフの仮装には、それほどひどいものが見当たらないわ。


「あたしの仮装はおかしいと思うよね? 思うわよね?」

「だから落ちつけって。ガルマさんの仮装も酷いけれども、当人はなにも言わないだろ」


 そっちは酷いといっても、似せるのがむずかしいだけに見えるわ。あたしの場合は、似せようとしているイメージ自体がおかしいとしか思えないのよね。


「そりゃガルマさんは気にされないわよ。でも――」

「まだ哀しみとか怒りへの耐性が低いんだろうな。ちょうどいい機会だと思ってしっかりと耐えておけ」


 おそらくは図星だわ。アルフって、こういうところは鋭いわよね。


「う。それは自覚しているわ。でも、嫌な鍛え方ね……」

「そうか? 本当に哀しい思いをして鍛えるよりは、誤解されて哀しいって程度のほうがマシだと思うぞ」


 ……まさにそのとおりよね。誰かが傷つくような哀しい事件がなくとも精神鍛錬ができるのよ。ありがたい機会といえるわ。


「うぅ。我慢我慢我慢我慢……」


 みんなの仮装が下手なだけなのよ。気にしちゃいけないわ。落ち着くのよ。


「さぁテーマベルタ一行の最優秀賞は…… 3番の方!」


 3番て…… よりにもよって、血まみれで肉を(くわ)えた仮装のチームだわ!


「ちょっと待ちなさいよ! どうしてその娘なのよ!」

「鍛錬鍛錬」


 あー! 拍手と歓声とアルフがうるさいわね。あたしの抗議がかき消されちゃうわ。


「あんなのが選ばれるなんて、ありえないわよ」

「みんな(うわさ)で聞いただけなんだろ。お前を見たこともないのだろうから仕方がないって」


 見たことが無ければ、あんな姿になるというのかしら。おかしいわよ。(うわさ)で広まっている特徴なんて、光っている娘というくらいのはずよね。


「だからって、あんな格好はしたことがないわよ。どんな(うわさ)になっているっていうのよ」

「チーム制だからな。俺やガルマさんの仮装が評価されたのかもよ」


 あのチームのアルフとガルマさんて、どんなのだったかしら――


「ベルタの仮装が真に迫っていると、特に高い評価を受けました!」


 やっぱり、あたしのイメージがおかしくなっているわよ。ここで矯正するしかないわ。


「ふー!」

「もしここで乱入してみろ。いっそう荒くれ者のイメージが大きくなるぞ」


 うぐ。

 ……あの、とんでもないイメージが裏付けされることになりかねないのね。


「じゃぁどうしろっていうのよ」


 黙っていても、あの姿があたしだってイメージは広がっちゃうわ。


「耐えろって。精神を鍛えたいんだろ」

「……こんな思いをしながら耐えなきゃいけないなんて。泣けてくるわ」


 あたしは、かよわい乙女なのよ。覚えのない凶暴な姿だと他人から思われるだなんて耐えがたいわ。お嫁にもいけないわよ。あんな娘を迎えようだなんて人はいないわよね。あたしの将来は絶望的だわ。こんなにつらいのなら――


「目の前で惨劇が起きて、怒りや哀しみに()まれたらどうなると思う。マアマを握っているんだぞ」

「! そうよね。これくらいは笑って見過ごせなきゃ本当に危険なのよね…… でも、あー!」

「べるたー。よしよし」


 今のあたしに、甘えは許されないのよ。もし感情に()まれて、いっときでも世界の消滅を願ったりすれば、現実に消滅させかねないわ。

 わかっているわよ。でも、こう、こらえがたい、なにかがこみあげてくるわ。これが愚かさなのよね。わかってはいても、抑えがたいのよ。


「次のテーマは動物です」

「あとは見なくてもよさそうだな」

「もう精神力のげんかーい」


 あー。疲れたわ。ぼーっとするわね。もうどうでもよくなってきたわ。

 みんな仮装なのよ。まやかしなのよね。なにが見えてもスルーすべきなのだわ。


「では一番の方~」


 大型獣の足音のような地響きがしたわねー。


「おぉ? なんだ」

「大型獣にでも仮装してきたのかしらね」


 動物がテーマだとか言っていたのよー。


「どうやって。できるわけねぇだろ」

「だってほら」


 ステージの屋根の上で、大型獣に仮装した人が足を上げているわー。


「あれ本物だ! やばいぞ」

「え」


 ほ、本物?

 目が覚めたわ。ステージ付近の人たちが危ないわね。救出をお願いしますよマアマさん。ほいっと。

 うわ、危なかったわ。釣った直後にステージが踏みつぶされたわよ。


「間に合ったぁ。ありがとうマアマさん。心を読まれていることも、こういうときには助かるわね」

「あはははは」


 さて、大型獣をどうにかしないとね。ステージを踏みつぶした状態で止まっているわ。人的被害は出ていない様子ね。


「こんな町なかに来るまで警報も出さないなんて。警備兵はなにをやっているんだ」


 そうよね。大型獣に町へ侵入されてしまうことは、それほど珍しくはないわ。でも侵入される前に警報を出すのが当然よね。


「とにかく被害が出る前にどうにかしないと。拘束しても、ほかの人が怖がるだろうし消しちゃうべきか」

「いや。どうせだったら焼肉にしようぜ」


 く。この状況でも食事につなげるのは、どうかと思うわ。


「あんたはねぇ。まぁこれだけ人がいれば食べきれるか。マアマさんお願い」

「どっかーん」


 ステージの上に積まれた焼肉をイメージして…… ほいっと。

 あいかわらず、お見事ですよマアマさん。ステージの復元も完璧だわ。

 観客は騒然としているわね。別に説明する必要はないかしら。


「あぁ~? 僕のペットがぁ。消えちゃったぁ」

「へ」


 あたしはペットなんて消していないわよ。

 叫んだのは、あの人よね。取り押さえられて、泣き叫んでいる声が同じだわ。

 取り押さえているのは警備兵よね? 仮装していてわかりづらいわ。それらしい装備はしているわね。

 アルフが行ったわ。そっちは任せるわよ。


「どういうこと」

「こいつが大型獣を仮装だと言い張って町に連れこんだんだ」


 どこからつっこむべきか迷う説明ね。


「いや。見ればうそだって、わかるだろ」

「そうなのだが。大型獣に話しかけると返事をしたんだ。それで強引に押しきられた」


 話せる大型獣ですって? そんな希少な個体を焼肉にしちゃったのかしら。でもあの状況では仕方がなかったわよね。


「大型獣が返事?」

「へへへ~。腹話術さ。うまかっただろぉ」


 つまんないオチね。警備兵がそんなのに(だま)されないで欲しいわ。

 今まで泣き叫んでいたのに、もう笑っているわよ。頭のネジが抜けている感じね。


「お前が大型獣を調教したというのか」


 それはないと思うわよ。獣使いさんならともかく、こんな人にできるわけがないわ。遭遇した時点で食べられて終わるはずよ。

 でもペットとして、ここまで連れてきたというのよね。となると調教されてはいたのかしら。もし獣使いさんから盗んできた個体だとしたら…… やっぱり焼肉にしたのは、まずかったかしら。


「すごいだろう。家来にやらせたんだ。大型獣の巣から卵を盗んできて孵化(ふか)させて育てたんだぞ~」

「大型獣が卵から(かえ)るとは知らなかったな。それでこいつを親だと思ったのか」


 獣使いさんが関係なかったのは、よかったわ。

 でも、こんな人でも大型獣を操れる手段があるということよね。これは危険すぎるわ。


「そうだ僕の子だ。隠したのは誰だぁ。どこに隠した。次のコンテストこそ、うまくやるんだぁ」

「全然反省してねぇなこいつ」


 うまくやるって、どういうことかしら。大型獣を使役させるようなコンテストではないわよ。


「ステージに立たたせて腹話術を使えば最優秀賞も確実なんだぁ」


 ……もしかして、ステージを踏みつぶそうとしたのではなく、ステージの上に立たせようとしたのかしら。そして腹話術で、大型獣の仮装だと言い張るつもりだったとか……


「お前はわかってんのか。人を大勢、殺すところだったんだぞ」


 ステージの背後には壁があったわ。この人からは出演者が見えていない可能性もあったわね。

 でもコンテスト中のステージに人がいないわけがないわ。

 仮に大型獣の入場が認められていたとしても、見えなかったですまされる問題ではないのよ。


「そんなのはパパがなんとかしてくれるもーん」

「は?」


 えーと。そんなの、というのは、無差別大量殺人のことかしら。

 だとしたら、あまりにも常軌を逸した発言よね。正気とは思いがたいわ。なにか誤解をしているのかしら。

 警備兵が説明をしてくれるみたいだわ。うんざりした様子ね。


「こいつは富豪の嫡男なんだ。問題を起こすたびに捕らえるのだが、すぐに金で解放されてしまうんだ」


 つまり、さっきの言葉は本気だったというのかしら。誰を何人殺しても、なんとも思わない輩だということなのよね。


「ハァ。やっぱり、ほかにもクソ領主もどきがいたか。ベルタ任せた」

「どうしようかしら。たしか保釈や示談の制度があるから、お金で解決することも違法ではないのよね」


 クソ領主のときとは違うのよ。司法権限を侵食したり、警備兵を懐柔しているわけではないわ。

 法に則って、お金で解決しているのであれば、王様でも処罰できないわよね。


「へ。放っておくのか」

「まさか。富豪の関係者全員にするか、富豪親子だけにするか、対象の絞り方に迷うのよ」


 ガルマさんが、人の法を軽視されるのも当然よね。穴だらけにもほどがあるわ。

 とはいえ、あたしが法を破る気はないわよ。法治国家に生きる人として、法を遵守するわ。あたし自身はね。

 法で裁けないのであれば、法の上に立つお方にお願いするまでよ。

 ただ、お金で雇われて、家事や雑務をこなしているだけの人までもを罰するべきかは、判断に悩むのよね。


「ここじゃ有名なバカみたいだし。そんなのに協力しているやつは、まとめて処理でいいんじゃねぇの」

「それもそっか。一応はここに、いったんまとめますか」


 警備兵の目の届かないところへ…… って策を、前に相談して決めたわ。でもこの状況じゃ無意味よね。拠点を探すことすらも困難な町であるうえに、イベントで大勢が集まっているのよ。無関係を装って、とぼける策は使えそうにないわ。

 かといって、こんなのを野放しにはしておけないわよね。なるようになるしかないのかしら。

 仕方がないわね。マアマさん、お願いしますよ。ほいっと。

 うは。イベントで人ごみがすごいのに、200人ほど釣ったわよ。邪魔ね。それに目立ちすぎだわ。注目を浴びているわよ。


「なんだ。武装したやつが結構いるぞ」


 物騒ね。半数以上が、軍隊にも匹敵しそうな装備をしているわよ。なにをしていたのかしら。


「な…… なぜここに突然、富豪の関係者が。武装しているのは私設軍隊の連中だ」


 警備兵には説明をしておくべきだったかしら。混乱させてしまったみたいだわ。考えていた策を使えなくて、あたしも混乱気味なのよね。


「軍隊て…… クーデターでも起こす気だったのかよ」


 警備じゃなくて軍隊と言ったわね。公然と武力制圧でもしていたのかしら。そうだとしたら無茶苦茶だわ。


「これはどういうことなんだ。まさかお前たちの仕業だとでもいうのか?」


 警備兵が切れそうだわ。確証がなくても、あたしたちの仕業だと思える状況よね。今からでも正直に説明をしておくべきかしら。


「こんなまねを人にできるわけがねぇだろ。神の裁きじゃね」

「!」


 ……正直な説明というには微妙ね。間違ってはいないわよ。でもマアマさんは、あたしのお願いを聞いてくださっただけなのよね。だからその言い方には語弊があるわ。まぁ、あたしが説明したところで大差はないかしら。

 警備兵は絶句しているみたいね。なにを考えているのかは想像がつくわよ。信じられないとはいえ、ほかには説明がつかないってところかしら。


 拘束した連中に、ちょっかいを出す人が現れているわね。富豪一味と因縁でもあるのかしら。

 このまま放置していては、別の事件に発展しかねないわ。さっさと片づけるわよ。

 主犯の富豪とやらは…… 目の前の人かしら。衆目にさらされたくらいで動揺しているぽいわね。胸倉をつかんで()り上げれば落ち着くかしら。よいしょっと。


「断っておきますよ。お金で(ろう)から解放されても、拘束は解けませんからね。しっかりと更生してください」


 ではマアマさん。いつものように、王都の(ろう)へお願いしますね。ほいっと。

 人ごみの中に、広い空間ができたわ。これはこれで目立つわね。あたしたちと警備兵が、観客に囲まれている感じだわ。まるで見世物よ。


「な。なにをした!」


 震えているわね。やっぱり警備兵にはきちんと説明をしておくべきだったわ。神の裁きだなんて、アルフの説明じゃ怖くもなるわよね。


「王様のところへ送っただけですよ。彼らの状況が知りたければ、王様に聞いてください」

「なにを言っている。そんなことをできるわけがないだろう」


 論より証拠よね。今、目の前でやってみせたわ。送られたことを確認する方法として、王様に聞けばいいことも伝えたのよ。それでも信じられないというのなら、どう説明をすればいいのかしら。


「今見ていただろ。神の力じゃなければなんだっていうんだ」


 またアルフったら。あんたの言葉で、警備兵は動揺しているのだと思うわよ。


「お、俺は秩序を守る警備兵として、ほ、法にもとづいて判断しなければ」


 震えたまま、つぶやきだしたわよ。怖くても警備兵としての立場を維持する姿勢は立派だわ。あたしも見習うべきね。

 とはいえ、説明を続けても(らち)が明きそうにないわ。


「やっぱ面倒くせぇな。わりぃ、ガルマさん頼む」


 あう。結局はこの方法しかないのかしら。ガルマさんを頼らなくてすむように策を練っていたのにね。大衆に注目された状況までは想定していなかったわ。


「毎々すみません……」

「うむ」


 ガルマさんが警備兵の前に歩み出られたわ。

 でもおかしいわね。警備兵の様子が変わらないわよ。竜人様に、人の法が通用するだなんて思ってはいないわよね。


「竜人に仮装した者か。お前がなんだというのだ」


 あぁ。さっきのコンテストのせいね。ガルマさんに仮装した人だらけなのよ。まさか本物が混じっていただなんて思わないわよね。


「ハァ。お前、ガルマさんが仮装に見えるのか」

「え…… よく、できてはいるが…… ま、まさか?」


 青ざめちゃったわ。ようやく状況を理解できたみたいね。ガルマさんをお前呼ばわりした人は、そうはいないと思うわよ。


「富豪を処理したときに察しろよ」

「し、失礼しました! 竜人様の差配ということで処理させていただきます!」


 ほかの警備兵に連絡を取り始めたみたいね。これで一段落かしら。


「あれ本物だって」

「なんか(うわさ)と違ってふつうよね」

「でもあの光は不思議」


 観客にも、あたしたちの正体がばれたみたいね。普段よりも注目を浴びているわ。


「結局こうなるのよね。さっさと王都へ行きましょ」


 まずは拠点を探すのだったわね。警備兵がいるから聞けばわかりそうよ。


「いやいや。これはお前にとっては絶好の機会じゃね」


 アルフったら、どこへ行くのよ。そっちはステージだわ。

 ……焼肉を食べ始めたわね。あんたにとっての、絶好の機会にしか見えないわ。


「なにがよ」

「ここでふつうの娘らしくしていれば、次のコンテストではふつうの娘が選ばれるんじゃね」


 な。

 いつもの食い意地かと思えば、あたしのことを考えていてくれたのね。


「アルフ天才! そうよね。傍目には、あたしはなにもしていないから、ふつうに見えるわよね」


 大型獣を消したことも、富豪一味を捕えたことも、あたしがマアマさんにお願いしてやったこととは、わからないはずなのよ。それどころか、さっきの警備兵への説明があるから、ガルマさんの仕業だと思われているはずだわ。


「そうそう。焼肉が冷めちまうから、さっさと食おうぜ」

「う。肉を(くわ)えたイメージは消したいのよね」


 コンテスト最優秀賞の姿と被るのよ。あの姿を思い出させるような行動は避けたいのよね。


「みんなー! これはさっきの大型獣の肉だ! もったいないから食おうぜ」


 何人かは寄ってきて食べ始めたわね。でも肉の量に対して少なすぎるわ。

 イベント会場の喧騒(けんそう)の中なのよ。アルフが叫んでも、届く範囲がしれているのよね。


「司会の姉ちゃん。アナウンスしてくれ。焼肉無料配布だ」

「え。ステージの上のあれ? 食べても大丈夫なんですか。突然現れて怖いんですけれども」


 目の前でアルフが食べているのよ。安全性はわかるわよね。


「さっきの騒ぎを見ていただろ。神様のお手製料理だぞ」

「えーと、そのぉ…… なんの肉なんですか?」


 アルフが叫んだのを聞いていなかったのかしら。そういえば、声をかけるまでは(ほう)けていたみたいだったわね。

 焼肉を司会の目の前に突き出したわ。あんたが口を付けたものなのよ。その人に食べさせる気じゃないわよね。


「さっき襲ってきた大型獣だ」

「おぉー。てっきり人の、いやなんでもないです。まずステージを空けないとだしね。了解しましたー」


 ……今もしかして、人の肉と言いかけたのかしら。どこからそんな発想が湧くのよ。

 あ。富豪一味が消えたように見えたからかしら。やっぱり説明をしないと誤解を生むわね。

 でも焼肉が現れたのは、富豪一味を送る前よ。おかしな誤解はしないで欲しいわ。

 おかしな(うわさ)って、こういう誤解から生まれているのかしら。


「みなっさーん! 本物のベルタ一行から、大型獣の焼肉の差し入れだそうです。頂いちゃいましょう!」


 大勢集まってきたわ。これなら食べきれそうね。


「今晩はここに泊まるか。ふつうのベルタを見せつけておこう。宿屋に行って飯にしようぜ」

「う。今日は食事はいいかしら。焼肉をお腹いっぱい食べてきなさいよ」


 肉を(くわ)えるだなんて、した覚えがないのに、あんなイメージが広がっていたのよね。食事をしているところを見せたら、また新たに変なイメージが生まれかねないわ。


「ふつうに食事をするところも見せておいたほうがいいぞ。空腹で凶暴な顔つきになったらどうするんだ」

「ならないわよ! でもそうね、ふつうに食事をするってイメージの上書きは必要よね」


 既におかしなイメージが広がっている以上は、それを変えておく必要があるのだわ。変なイメージを生みかねない行動に気を付けながら食べるしかないわね。


「すまんなマアマ。焼肉はうまかったけれども、今回はみんなにごちそうしておくわ」

「おっけー」


 そっか。焼肉はマアマさんにお願いして、つくっていただいたものなのよ。食べないのは失礼にあたるわ。


「あ。お願いしておいてごめんなさい。その、あたしのイメージがですね――」

「あはははは」


 慌てて取り繕ってもムダだったわ。マアマさんには心を読まれているのよ。説明の必要はなかったわね。


 宿屋もやっぱり派手よ。でもこの宿屋は、妖精の姿をあしらった明るい雰囲気がいいわ。ここにするわよ。

 まずは夕食よね。あたしのイメージを、未来をかけた食事なのよ。ごくふつうに…… いやお上品に? どう食べればいいのかしら。


「ふつうにって意識しすぎなんじゃね。食べ方が、ぎこちなくなっているぞ」

「そうなのよ。じれったいわね」


 自然に振るまおうと意識するほどに、ぎこちなくなるのよ。

 ふざけた(うわさ)を訂正する貴重な機会なのよね。まさに全身全霊で挑む心情よ。思わず力んでしまうわ。


「意識しなければ、ふつうになるんじゃねぇの」

「簡単に言うわね。でも、それがむずかしいのよ」


 あんたには簡単なのかしら。(うわさ)も気にしていなかったものね。あたしには、気にしないということがむずかしいわ。

 考えこんでいるみたいよ。アルフにとっては、なにがむずかしいのかを理解できないのかもしれないわね。


「そういや富豪の一味を送ったときの話だが。警備兵の視界の外でマアマを振るべきだったな」

「それね。前に打ち合わせをしておいたのにごめん」


 忘れていたわけではないのよ。ただ状況が違い過ぎたのよね。警備兵が容疑者を取り押さえた状態は想定していなかったのよ。本来なら、そんな状態なら警備兵に任せておけばいいものね。とっさに応用がきかなかったわ。


「まぁ人目が多かったし、警備兵に引き渡してから送ることは想定していなかったしな。次からだな」

「しっかりと更生するかしらねぇ」


 富豪の嫡男とやらは、完全におかしかったわよ。法を遵守しようとする意識すらもなかったわよね。


「バカすぎて更生を理解できないかもな」

「それ、まずくない」


 更生できなければ、拘束されたままで死ぬしかないのよ。


「大丈夫だろ。親が更生したら、その場で学ばせるだろ」

「一緒に送ったから大丈夫か」


 当人も、親がどうにかすると言っていたし、その親の言葉なら聞くわよね。きっと……


「世なおしの旅をしているわけじゃないんだけれどもな。巻きこまれて放置はできないわな」

「そうね。本来なら町の人たちで、どうにかすべきだったのだと思うわ。でも、私設軍隊はないわぁ」


 一般人で対処できる域を超えてしまっているわよ。協力せざるを得なかったわ。


「警備兵を懐柔できなくて、つくったのかな。だとしたら、ここの警備兵はまともだな」


 そうね。震えながらも法を遵守しようとしていたわ。信頼に値すると思うわね。


 あら。いつの間にか全部食べ終えちゃったわ。


「ふぅ。ごちそうさま」

「ふつうに食えたな。これで変な(うわさ)も訂正されるかもな」


 そうよ。ふつうに食べようと苦慮していたのだったわ。


「あ。本当だ。雑談で意識を逸らしてくれたのか」


 まったく気づかなかったわ。そういえば、雑談に入る前に少し考えこんでいるみたいだったわね。ふつうに食べることを、意識しなくてすむ方法を、考えていてくれたのだわ。


「精神の(もろ)さっていうのは、気にしすぎるところから来るのかもな。気楽にいこうぜ」

「言っていることはわかるわ。でも、簡単そうでむずかしいのよ」


 肉体的な苦痛を除けば、見なかった聞かなかったと忘れてしまえば、ほとんどの感情は抑えられるということよね。

 意識することは大切だわ。でも、感情に()まれてはいけないのよ。()まれない程度に自制する必要があるのよね。


「この町は、こんなもんでいいだろ。今日は寝て、明日さっさと出よう」

「そうね。つらかったとはいえ、経験としてはよかったのかしら。でも、もう十分だわ」


 さぁ、寝るときもふつうに…… って意識しながらも眠れるかしら。


 ハッ。朝だわ。ふつうに眠れたわね。ティアラの光のお陰かしら。

 あとはふつうに町を出るわよ。って、宿の主に呼び止められたわ。


「よろしかったらこれをどうぞ」


 アルフに袋を渡したわね。仮装セットと書かれているわ。


「なんだこれ」

「この町を訪れた思い出にと、旅の方に配っている粗品です。お手軽に仮装を楽しめますよ」


 仮装はもう、こりごりよ。思い出したくもないわね。


「へぇ。ありがと。おぉ角とかあるな。ベルタによさそうだ」


 怒ったときに着ければ似合うってことよね。


「わかっているわよ。似合わないようになれって言うのよね」

「おぉ。すげぇ。怒らないのか。昨日だけでかなり成長してねぇか」


 怒らせるつもりで言ったみたいね。テストのつもりだったのかしら。


「昨日の今日だからかもね。まだ身についてはいないと思うわ。でも、意識してみるわ」


 昨日は精神的に疲れすぎて、本当にどうでもよくなったのよね。今は多少のことでは怒る気にもならないと思うわ。


「気にしすぎも注意な」

「あー。バランスがむずかしすぎるわよ……」


 意識しすぎてもダメ、しなくてもダメなのよね。どのくらい意識すればいいのよ。先が思いやられるわ。

 でもマアマさんと共にある以上は、感情を抑えることが喫緊の課題なのよ。要は、感情に()まれない程度に意識するのよね。やってみせるわよ。

 この町でのあたしのイメージは矯正できたはずだわ。おかしな(うわさ)をすべて矯正するためにも先へ進むわよ。


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