おまけ:愚行の代償
殺風景な荒地ね。ところどころに草も生えてはいるわ。でもほとんどが岩場よ。
おまけに、妙なにおいが漂ってきたわ。金網の柵が見えるわね。その中に小さな山がいくつもあるわ。
「くっさー。なによこれ。ゴミのにおいだわ。あの山ってゴミを積んでいるの? どうして焼却しないのよ」
「施設の敷地の中に積んであるみたいだな。どっかに施設の説明があるんじゃね」
看板があるわね。不燃物廃棄場と書かれているわ。
拠点から次々とゴミが運びこまれているように見えるわね。
「燃やせないなら埋めるべきだと思うわ。これじゃ不衛生よ」
見るからに汚い液体が土壌に流れこんでいるわ。酷いにおいがするから、よくないものが風にとばされていそうよ。荒れ地になっているのは、一帯の生物が死滅してしまったからなのかもしれないわね。
「これだけ運びこまれ続けているんだったら、埋める手間をかけられないのかもな」
「処理できないとわかっていても、ゴミをつくり続けちゃうほどバカなのね」
自然に還せないようなものをつくるべきではないわ。いずれは世界がゴミで埋まっちゃうわよ。
「町がきれいなのは、ここのおかげか。まぁそこら辺に捨てられるよりはマシじゃね」
「ゴミを出した人の家に全部戻してやりたくなるわね」
マアマさんにお願いしてみようかしら。ゴミを出した人に責任を取らせるだけならば、驕りにもならないわよね。
「宿屋のベッドもゴミまみれになりそうだな」
ぐぬ。宿屋は多くのゴミを出しているわ。でもそれは宿屋のせいではないのよね。宿泊客がつくったゴミなのよ。あたしも例外じゃないわ。そのゴミを、家の親父に押し付けるのは理不尽よね。それに、戻したところで処理できるわけじゃないのよ。
「……戻しても捨てなおすだけよねぇ」
困ったものよ。ゴミをつくることが問題だと認識しつつも、つくらずに済ませる方法がないのよね。あたしが生きている間だけならば、マアマさんにお願いして消すことも可能なはずよ。でもそれじゃ根本的な解決にはならないのよね。
しばらくはこの敷地沿いに進むのかしら。マアマさんに、においを消してもらいたくなるわ。
不自然ね。物陰の入口を塞ぐかのように置かれた荷車が見えるわ。
「人がいるな。話を聞いてみるか」
「でも、なにか変な人ね。柵を乗り越えて出入りするなんて。おまけに荷車で見えづらくしているし」
まるでゴミを運び出そうとしているかのようよ。普通の施設で見かけたなら、盗みだと思うところだわ。でも、ゴミなんて盗む価値もないわよね。利用価値がないからこそ捨てられたものなのよ。
「んじゃ俺だけ行ってみるわ」
そうね。大したことではないだろうし、任せておくわ。
……随分と話し込んでいるわね。時折こっちを見ているようだわ。なんだか怯えだしたようにも見えるわよ。
アルフったら、人様をおちょくったりは、していないわよね。心配になってきたわよ。あたしもいくわ。
「どうしたのよアルフ。こっちを見ながら話していたみたいよね。なにかあったの」
「いや。まだ使えるゴミを拾おうとしていたんだってさ」
「なんだ。いいことだわ」
再利用できるのであれば、ゴミもゴミではなくなるわね。有益な物資になるのよ。ゴミ削減に貢献する、すばらしい活動だわ。
「ただ今の法じゃひっかかるからコソコソしていたと」
「なるほど。法にも欠陥があるからねぇ」
捨てられたものにも所有権はあるのよ。違法なものや危険なものだってありえるわ。だからゴミの持ち出しを法で規制するのは当然なのよね。
でもこの人は、再利用可能なゴミがあるというのよ。それもひっくるめて規制するのはもったいない話よね。再利用するための法整備をするべきだと思うわ。でも手間やら費用やらを考えると難しいのかしらね。今のところは融通の利かない法で規制されているはずなのよ。
法を守るべきとはいえ、法の趣旨を考えれば、この人の行動は正しいと思えるわ。あたしは法の番人ではないし、口出しをする筋合いではないわね。
わ。どうしたのよ。いきなり、すがりついてきたわ。
「み、見逃してくれ」
「へ。あたしは警備兵じゃないですよ。ひっかかる法とやらも知らないから通報しようもないですし」
あら、へたりこんだわ。恐怖から解放されて安堵した、と言わんばかりの顔ね。そんなに通報されるのが怖かったのかしら。
「ハァ。てっきり、もう食われるものかと」
「へ。食うってなにを」
あたしはゴミなんて食べないわよ。失礼しちゃうわね。
ちょ。アルフったら引っ張らないでよ。なにを慌てているのかしら。
「あー。人を食ったようなやつって噂になっているみたいだぞ。邪魔しちゃ悪いし行こうぜ」
ゴミを食べると思われていたわけではないのね。
とはいえ、その噂とやらも問題だわ。
「えー。あたしは人をバカにしたりはしていないわよ」
「さっきも、処理できないゴミをつくるのはバカって言っていたじゃん」
「それは意味が違うわよ。人を食ったようなっていうのは、相手をからかうような――」
「う・わ・さ。噂だからな。化けたり尾ひれがついたりするんだよ」
「そりゃそうね。でも、噂になるほど言っているかしら」
バカという発言は多いかもしれないわね。反省の余地があるわ。とはいえ、そんなことで、人を食ったようなやつだなんて噂がたってしまうのかしら。腑に落ちないわ。
「ごく一部のゴミでも再利用されているんだったら、ここも一応は役に立っているのかな」
「いやいや。やっぱりゴミをつくらないようにしないとねぇ」
あの荷台に山ほど積み上げて再利用しても、誤差にしかならないわ。それほどここには大量のゴミがあるのよ。おまけにすごいペースで増え続けているわ。
「むずかしそうだな。肉を食っても骨や皮は残るし」
「そうね。自分が食べる分だけなら埋められても、お店じゃすごい量になるわよねぇ」
簡単に解決できるのであれば、こんな施設がつくられることもなかったのよ。
「ここにゴミを集めているのは、大人の娯楽の町とやらと同じ発想か」
「なくせないなら、せめて1箇所にか。窮余の一策なのかしらねぇ」
ゴミを集めたところで、問題の先送りにしかならないわ。周囲への被害抑制を最優先にしているのかしら。
今度はこっちに向かって歩いてくる人がいるわね。
「これは…… ベルタ様御一行ですか」
ただの村娘を、様呼ばわりしないでほしいわね。この人も変な噂を聞いたのかしら。
とりあえずは受け流しておくわよ。
「はい。施設の方ですか」
「は。この施設の警備のひとりです」
ちょうどいいわ。ゴミ処理の今後の方針について聞けるかもしれないわね。
でも、施設管理じゃなくて警備と言ったわよ。ここにはゴミしかなさそうよね。
「ゴミの廃棄場にも警備が必要なのですか」
なにを守っているのかしら。さっきのゴミ再利用の人とかを捕えるためだとしたら、この施設への警備兵の配置はもったいない気がするわね。
「拠点がある以上は悪用される可能性がありますし、滞在時間は少なくとも来る人は多いですからね」
「そっか。あと、担当が違うとは思いますが、この施設についてお伺いしても宜しいですか」
拠点の警備兵じゃ、ゴミ処理の方針とは無関係かしら。一応は聞くだけ聞いてみるわよ。
「は。ベルタ様への協力は最優先にと、王より全国営施設に触れが出ております」
ぶ。顔から火が出る思いって、こういう感覚のことなのね。
様呼ばわりされる原因が、よもや王様だったとは参ったわ。それにしても全国営施設にって、どんだけよ。
「……大げさな王様ねぇ」
「はは。ですので、答えられることには、すべてお答えします」
国営施設のってことであれば、警備兵でも国策に詳しいかもしれないわね。
「では、ゴミは野ざらしにするしかないのでしょうか。不衛生ですし、もう少しどうにかしたいですよね」
「おっしゃるとおりです。国を挙げて取りくんではいるのですが、いまだ解決できずに溜めている現状です」
根本対策が見つかるまでの暫定措置ということよね。
「国の直轄ということですか。検討はされているのですね。それはよかった。でもむずかしいのですね」
「はい。消滅させてしまってはいずれ資源が枯渇するでしょうし、再利用の方法を模索しております」
ここでいう再利用とは、要は土に還して資源に戻すということよね。
「埋めて分解するなら、ノーム様にお願いするわけにはいかないのでしょうか」
ノーム様のお力であれば、たやすいはずだわ。国策となれば、いずれ王様が代わっても、ノーム様に引き継いでいただけると思うのよ。
「王が否定しております。これ以上、人の尻拭いを押しつけてはならぬ、われわれで、なんとかしようと」
「ごもっともですね…… ありがとうございます。よくわかりました」
さすがは王様だわ。反論の余地がないわね。ノーム様にゴミ掃除をさせようだなんて、もってのほかだったわ。
そうよ、あたしたちが解決しなければならない問題なのだわ。
「は。では見回りを続けさせていただきます」
うーむ。今の話だと、解決のめどはたっていないみたいよね。この先も検討を続けるだけで、進展しない可能性が高いということよ。あたしたちで解決すべきとはいえ、あたしたちだけでどうにかするのが最善の手だとも思いがたいわ。
「王様らしいとはいえ、力及ばぬときは頼ることが、正しい選択だと思えるわね」
「天災とかだったら頼るだろうけれども、人がつくりだした問題まで頼るのは別なんじゃね」
最善の手があるとしても、責任を取るべき者が、無関係な者に丸投げするのは、おかしいということかしら。
「……そうよね。自分に責任があることまで頼っちゃダメよね。やっぱあたしは、まだわかってないわ」
「ダメってほどでもないとは思うけれども。型にはめて考えすぎるのも、どうかと思うぞ」
ふむ。無関係な者を頼るのであれば、納得してもらえるだけの対価を用意すればいいということかしら。
なんらかの形で、最終的な責任を取ればいいということよね。
「むー。あんたみたいに、いろいろと思いつかないのよ」
考えれば考えるほど、どうすべきなのかが、わからなくなるわね。
「考えこむと視野が狭まるからな。それでも俺みたいに考えなしよりは、いいと思うぜ」
「あたしも最初はそう思っていたわねぇ。でも、あんたを見ていると、能天気になることも大切かしらと思えてくるわ」
あたしが考え抜いて出した答えよりも、アルフの思い付きのほうが、正解に思えることが多いのよね。
「おぉ。俺を参考にするんだったら飯にしようぜ」
「どういう理屈よ。さすがにここは不衛生だし、くさすぎるわね。もう少し進んでからね」
「だな」
ゴミから出る有害物質のせいで環境汚染が広がっているみたいよ。
暫定措置の状態が、長期間続いてしまっているのだと思うわ。
「なんか植物は枯れているし、気味の悪いカビみたいなのが、はびこっているな」
「こんな状況だと動物にも影響がありそうよね」
直接の影響は移動で回避できても、食物連鎖で体内に有害物質が蓄積するわ。
「食べたらこっちにも影響しそうだな」
「どうにかしたいわ。でも、惨状を人にわからせるには放置しないといけないのよね」
今積まれているゴミであれば、すべて消滅させることも、マアマさんには容易なはずよ。
でも下手に解決してしまっては、問題がないものと誤解されかねないわ。
驕りは禁物よね。今は、あたしが手を出すべきではないのよ。
「なんか騒がしいぞ」
前方から激しい爆音が轟いているわね。軍隊が戦闘をしているみたいだわ。
「こんなところに大型獣が出たのかしらね」
軍兵が通行を規制しているわ。随分と憔悴しているみたいね。苦戦しているのかしら。
「ベルタ様御一行ですか。この先は危険です。通行はお勧めできません」
それでも進まなければならないのですよ。お邪魔だとは思いますが通してもらいますね。
一応は状況を聞いておくべきかしら。
「なにがあったのですか」
「は。化け物が出没しまして、討伐作戦を遂行中です」
「化け物? 大型獣じゃなくて? 妖怪の類ですか」
未知の相手ということよね。対応手段がわからずに苦戦というところかしら。
「いえ。その。ゴミの有毒物質の影響で生まれた生物のようで。獣とは呼べぬ姿をしております」
ゴミのせいで生まれたですって? あたしたちが捨てたゴミのことよね。
「……つまりは人がつくりだしてしまった化け物ということですか」
なによそれ。最悪だわ。あたしたちのせいで化け物として生まれてしまったのよね。それをあたしたちが滅ぼそうとしているというのよ。ありえないわ。傲慢にもほどがあるわよ。赦されるわけがないわ。
ゴミは増え続けているのよ。このままじゃ、この先も哀しい生物が生まれ続けてしまうということよね。でもゴミを出さずに生活するなんて、できないと思うわ。どうすればいいのよ。
言い訳なんてしている場合じゃないわね。軍隊に攻撃されているという化け物を助けなければいけないわ。謝らなきゃ。会って償わなければいけないのよ。
見えたわ……
酷い。なんて酷い姿なのよ。まるで大型獣のゾンビね。自ら噴き出す体液で、肉が爛れ落ちているみたいだわ。骨が露になってしまっているわね。鳴き声というよりも悲鳴をあげ続けているわよ。爛れ落ちた箇所には、新たな肉がぶくぶくと湧き出てみえるわ。延々と自傷行為を続けているというのかしら。
痛いわよね。苦しいわよね。もがいて、助けを求めて。それなのに、加害者である人から襲われるだなんて、あんまりすぎるわ。
あたしたちが捨てたゴミのせいなのよ。あの子は被害者なのよ。どうしてこんな仕打ちができるのよ。
「撃てー」
この人たちは、人を護るために、仕方なくやっているのよね。赦されない行為とはいえ、大義はあるのよ。
軍の攻撃は、あの子には効いていないように見えるわ。肉が飛び散ってもすぐに湧いているもの。骨にまでは衝撃が届いていないみたいだわ。
あの子の攻撃は強力ね。歩いた跡が腐食しているみたいだわ。バリケードや砲台を軽くなぎ払っているわね。食べられている兵までいるわ。
この兵力じゃ、倒すどころか、進行を止めることすらできないと思えるわね。
「策を練りなおす。いったん退却。防衛隊は残って後退しつつバリケードの追加。無茶はするな」
動機はさておき、攻撃の中止は賢明よ。被害者を攻撃するだなんて、もってのほかだわ。
「お嬢ちゃん危ない。こっちへ避難して」
……避難ですって。やりたい放題やっておいて、そのせいで生まれた被害者を足蹴にしておいて、どの面さげて、どこへ逃げようというのかしら。すべての責任はあたしたちにあるのよ。
「なんだこの娘は。全然動かせない。誰か手伝ってくれ」
「その方はベルタ様だ。なにかお考えがあるはずだ。お前たちは退却しろ」
「え。し、失礼しました」
しっかりと見なくちゃ。でも涙でよく見えないわ。近くで見ると一層酷いのよ。全身大やけどなんて言葉が生ぬるいくらいだわ。ただ生きているだけで、全身を溶かされ続けているのよ。激痛なんて言葉じゃ言い表せない苦しみよね。あなたを、こんな目にあわせてしまったのは、あたしたちなのよ……
あなたには、どんなに償っても償いきれないわ。せめてその傷をウンディーネ様のお力で……
ダメだわ。まったく効果が見えないわね。どうしてよ、あたしはこの子を護りたいと思っているわ。
そうか。今の痛々しい姿が、生まれたときからの本来の姿なのよ。ここからは治しようがないのだわ。あたしには、この子の苦しみを和らげることすらもできないのね。あたしはなんて無力なのよ。
え。あたしを無視して移動を始めたわ。そっちはバリケードよ。軍と争う必要なんてないわ。
「待って!」
止まってくれたわ。言葉が通じるのかしら。
ならば、直接聞いてみるわよ。
「あたしはどうすればいいの。あなたを助けてあげられないの」
……答えてくれないわ。身動きもしないわね。話す手段がないのかしら。
動きだしたわね。大きく振りかぶって…… こっちに飛び掛かってきたわ。
あたしに恨みをぶつけようというのね。いいわよ、当然の報いとして受け取るわ。
残念ながら、マアマさんがおられる以上は、あたしを傷つけることはできないと思うのよ。でも、あたしがあなたを護りたいと思っている以上は、マアマさんがあなたを消すこともないはずだわ。まずは気が晴れるまで、あたしを攻撃してちょうだい。そのあとで、償い方を相談させて――
な? 消え…… た? あの子がいないわ。接触すると思った瞬間に消えたわよ。
「え…… マアマさん?」
「……」
うそ…… よね……
あたしはあの子を助けたいと思っていたわ。
あたしが護りたいものなら、マアマさんは護ってくれるはずよ。
でも、今の消え方は、どういうことなの。
マアマさんは、どうして答えてくれないのよ。
「マアマを責めるな。あやつが選んだ結末だ」
たとえガルマさんのお言葉でも、そのような理不尽な選択は理解できません。
「自ら消滅を望んだと、おっしゃるのですか」
そもそも、あたしを襲えば消滅させられるだなんて、あの子にはわかるわけがないわ。そんな選択はありえないのよ。
「あやつは不死だった。死にたくとも死ねなかった。だから消えられる手段を教えてやったのだ」
「そんな」
ガルマさんは、どうしてそのような提案をされたのですか。あたしはあの子を助けたかったのですよ。
「消される瞬間、あやつはお主に感謝しておったぞ」
「感謝? あんな姿にしてしまった人である、あたしをですか? ありえない。そんなの間違っている」
信じられないわ。ガルマさんが、うそをつかれないことは、わかっているわよ。きっとあの子がなにか誤解をしていたのだわ。
「人が苦しみを与えた。だがお主が現れたおかげで苦しみから救われたのだ」
「苦しみを与えた時点で、感謝されるいわれなどありません」
典型的なマッチポンプよ。加害者が償うのは当然だわ。それなのに、償うどころか、被害者を消してしまったのよ。どこに感謝される要素があるというのかしら。
「苦しみはあらゆる者が与える。世界を創造した竜神はもとより、弱肉強食の世界なのだ」
う。たしかに。あたしたちへ苦しみをもお与えになる竜神様に対し、あたしは感謝をしているわ。
「でも。苦しみしかない生涯なんて」
「それをお主が救済したから感謝したのだ」
あたしたちは、あの子に苦しみを与えてしまったわ。そのうえで、苦しみから逃れる手段を与えていなかったのよ。あの子は不死として生まれてしまったがゆえに、死という逃げ道すらも塞がれていたのだわ。あたしがその道となったから、感謝されたのだとおっしゃるのね。
理屈ではわかるわ。不死の身で、苦痛に苛まれ続けるあの子にとっては、消滅こそが救いとなりえたのかもしれないわね。でも、仮にそうだと判明しても、あたしにはあの子を消すだなんて選択はできなかったはずよ。だからガルマさんは、あたしを襲うように提案されたのだわ。償いたいと思っている、あたしに償わせるために。
やっぱり、苦しみを与えてしまった人であるあたしが、感謝されるだなんて納得はできないわ。でも、苦しみから逃れられたことへの感謝は理解できるわね。あの子の姿は、それほどまでに辛い状態だったと思えるもの。
我ながら矛盾を感じずにはいられない感情よ。でも、マアマさんのおかげで、あの子が苦しみから救われたことは間違いないと思うわ。
「……マアマさん。ありがとう」
「べるたー。いいこー」
軍の指揮官らしき人が戻ってきたわ。
なによ、こんなときに、その嬉しそうな顔は。少しは空気を――
「ベルタ様。化け物を退治していただき、国に代わって感謝を申しあげます」
……なんですって……
アルフ以外の人に対して、これほどの怒りが湧いたのは初めてかしら。身体が震えて止まらないわよ。
あたしがあの子を退治したですって? さらにはそれを感謝ですって? 暴言にもほどがあるわよね。
あの子がどれだけ苦しんだ末に消滅を選んだのか、想像もできないわよ。あんたは、一体どこまでエゴの塊なのかしら。
あの子があんな姿で生まれたのは、あの子が苦しみ続けなければならなかったのは、あの子が自らの消滅までをも望んだのは、すべてはあたしたちのせいなのよ。
「王様にお伝えください。このような哀しい生物が2度と生まれないよう、対策を最優先にお願いしますと」
これ以上暴言を続けるのなら…… あたしも我慢しきれないわよ……
人がそこまで愚かなら…… 滅ぼしてしまっても…… あたしのせいじゃないわよね……
「は、は! たしかに拝命いたしました。直ちに帰還して報告して参ります」
ようやく悲壮な顔つきになって飛んだわね。少しは、あたしたちの立場を理解したのかしら。
あたしもダメね。恐ろしいことを考えていたわ。いまだに怒りを抑えられないのよ。本当に愚かだわ。
愚かさかぁ。自然に還せないゴミなんてものをつくりだすのは人だけなのよね。それだけじゃないわ。人が誇る文明の多くが、自然を破壊することで成り立っているのよ。人だけが、この世界に迷惑をかけ続けているのよね。
人は幾度も滅ぼされてきたわ。それは、滅ぶべき存在になり果ててしまったからよ。自業自得なのよね。今回も同じ――
「こういうのも進化すれば解決できるのかね」
「大願を果たすほどの進化であれば造作もなかろうな」
……そっか。解決方法は、初めから示されていたのだわ。すべては大願につながっているのよ。
「のんびりしては、いられないのよね。本当に。先を急ぎましょ」
「え。飯……」
聞こえているわよ、アルフ。食事も大切よね。でも少しだけ待って。今は進まないと気が済まないのよ。
あたしたちがこうしている間にも、犠牲は増え続けているはずだわ。人の愚かさは、深刻な犠牲を生み続けているのよ。一刻も早く、進化を目指さなければいけないわ。




