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一人称視点版@あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
36/52

おまけ:任意収容所

 うわぁ。(にぎ)やかな町ね。さすがに王都ほどではないわ。とはいえ、先進の施設が立ち並んでいる感じよ。

 でもなんだか雰囲気がおかしいわね。この違和感はなにかしら。

 ……あぁ、町の人々の容姿が両極端なのよ。妙に身なりのいい人か、ゴロツキのような人ばかりなのよね。ふつうの容姿の人がほとんどいないわ。他の町とは逆なのよ。


(にぎ)やかだけれども、なんか変だな。生活に活気があるんじゃなくて酔っ払いが騒いでるだけなのか」

「きれいな町だわ。でも、嫌な雰囲気ね」


 話しかけてみる気になるような人が見当たらないのよ。活気はあっても、さわやかさがないというか、近づきがたい雰囲気の人ばかりなのよね。必死というか、投げやりというか。歩いている人も、お店の人も、形相や動きが偏っている感じなのよ。

 そういえば子どもの姿が見えないわ。それに通行人は男の人ばかりで、お店の人は若い女の人ばかりみたいよ。見れば見るほど、おかしな要素が目に付くわね。どうなっているのかしら。


「おねぇちゃん、ヒック、そんな大きな荷物背負って、ヒック、どこ行くの」


 まだ明るいのに酔っ払いよ。こっちに向って千鳥足で歩いてくるわ。いい大人がだらしないわね。


「あれ。急に酔いが覚めちまったぞ。ちっ、()みなおすか」


 あら。どこかへ去っていくわ。


「ティアラの光は、酔い覚ましにも効果があるみたいだな」

「よく見たら、お店が酒場とか賭場ばっかりよ。なによこの町」


 酒場くらいは、たいていの町にもあるわ。でも賭場なんてないのよ。それに酒場も探さなければ見つからない程度だわ。

 この町は酒場と賭場ばかりが密集しているから雰囲気がおかしくなっているのよ。


「でっかい闘技場みたいなのが見えるぜ」

「歓声が聞こえるわね。行ってみるわよ」


 まともな施設だといいわね。遠目には王都の闘技場に似ているわ。


 着いたわよ。随分と大きいわね。ものすごい人ごみよ。

 なんの施設なのかしら…… ハァ。競馬場と書かれているわ。


「これも賭場だったか」

「町ごと堕落しているみたいね。またダメ領主なのかしら。警備兵にも警戒しないとね」


 警備兵をも買収して、配下においていた領主がいたのよ。ここも同じなのかもしれないわ。


 む。(わな)アイテムが作動したような音がしたわよ。


「ちっ。子どものクセに盗賊避け持ちかよ。しくったぜ」


 アルフを狙ったスリが拘束されたのね。意図的に子どもを狙うだなんて、どこまで腐っているのよ。


「スリも博打気分かよ」


 うは。遊び感覚で犯罪に及ぶだなんてありえないわ。

 警備兵が向かってくるわね。スリを引き取りにきたのかしら。


「スリの捕縛協力に感謝します」


 よかったわ。警備兵はまともみたいね。


「兄ちゃん。この町って酒場や賭場ばかりでおかしくねぇか。領主がおかしいのか?」

「いや。ここは大人の娯楽の町だからだ。沿革については、そこの案内板でも見てくれ」


 ふむ。ダメ領主というわけではないのかしら。店の異常な偏りは、大人の娯楽の町という目的に沿った結果だというのよね。

 警備兵はスリを連行していっちゃったわ。案内板を見てみようかしら。町の地図と説明が記されているわね。

 あら、隣の建物から女の人が向かってくるわ。この建物は…… 案内所と書かれているわね。


「お探しの施設がありましたら、こちらで御案内しますよ」

「探しているのは宿屋なんだけれども。その前にこの町のことを聞いてもいいかな」


 そういえば宿屋を探す必要もあったわね。まともな店が見当たらないから、歩いて探すと苦労しそうだわ。


「はい。町の説明についても、こちらで承っております」

「なんでこの町はこんななの」


 質問が大雑把すぎるわよ。それじゃ聞きたいことが伝わらないと思うわ。


「あはは。大人の息抜きが目的の町なので、あなたにはまだわからないかもね」


 あら。伝わっているみたいね。察してくれたのかしら。


「大人のって言うけれどもさ。金持ちか浮浪者かって両極端だぞ。ふつうのやつがほとんどいねぇ」


 そうよね。店の偏りはわかるとしても、客の偏りがおかしいのよ。

 大人の中でも、極端な層しか見当たらないわ。


「そうですね。真面目に働いている方は、ここまで息抜きにくることもないでしょうね」

「働いているやつが来ないんだったら息抜きになってねぇよな」


 まったくよ。働いてもいない人に息抜きは必要ないわ。町の目的が果たせていないわよね。


「受け皿として用意はしているけれども、利用されていない感じですね」

「だったら施設を変えたほうがいいんじゃねぇの」


 うんうん。目的に合わせて運営方針を変更するのが筋よね。現状じゃ不健全なだけの、意義のない町だわ。


「これはこれで国への貢献になっているのよ。利用者にも好評なんですよね」

「へ。酒()んで博打していれば国に貢献できるの?」


 目的を果たせずとも、別の意義があるということよね。とてもそうは見えないわ。

 この町は人を堕落させているだけよ。それが国への貢献だというのかしら。おかしいわよ。


「はい。収益の2割は国が徴収しています」


 なるほど。国の財政を潤す役割があるのね。


「2割ってえげつねぇな。それじゃ博打するやつって確実に損するんじゃねぇの」


 運営費やら施設の利益は別に引かれるのよね。最終的には半分も還元されないと思うわ。


「お金もうけを目的とするなら、ごく1部の例外の方を除けば、みなさんが損していますね」

「ここにいるやつは皆バカなのか」


 バカだとしか思えないわね。ほぼ確実に損するとわかっていながら集っているのよ。理解しがたいわ。


「バカな人もいるでしょうけれども、みなさんがそういうわけでもないですよ」

「なんかメリットがあるの?」

「ひとつには娯楽として楽しまれる場合。たとえば競馬の観戦料と思えば少量の賭け金は価値あるでしょう」

「ここで稼ぐ必要のなさそうな金持ちが来るのはそういうことか」


 ふむ。その程度であれば理解できるわ。僅かとはいえ、増えて戻ってくる可能性まであるものね。


「あとは夢を買うってことですね。損する可能性は高いですが、運さえよければ大もうけですから」

「なるほどな。夢を買った対価と思えば妥当ってことか」


 幸せな夢を見ていられる時間を買うということね。いっときの幸せに価値を見出すのであれば、多少の対価は納得がいくわ。有料の遊具で楽しむのと同じようなものよ。

 それなりに、この町の存在意義を理解できてきたわ。


「娯楽として楽しまれるには優れた施設なのですが。人生を賭けてしまわれる方は残念ですね」


 やはり理性の弱い人は散財しちゃうのね。


「ありがと。すっげぇよくわかったぜ。んじゃ宿屋を教えてくれるかな」

「はい。合わない人向けの区画があります。そちらの宿屋がこの道の500メートルほど先にあります」

「合わない人向けの区画? なんでそんなのがあるの?」


 合わないなら来なければいいわよね。それなのにわざわざ専用の区画を用意するだなんて、わけがわからないわ。


「たとえば御家族でいらして、奥さんと子どもは公園で遊ばせたいような場合ですね」


 お酒や博打に溺れた人が、こんなところに家族まで連れてくるのね…… なにを考えているのかしら。


「いや。それ家族は連れてこなくていいだろって思うけれども。需要があるんだな」

「御家庭の事情はそれぞれですしね」


 そうね。あたしにはわからないような事情もあるのかしら。この町の意義も、説明されるまではわからなかったものね。


「ありがと。気遣い助かったぜ」

「たちの悪い大人が多いから気をつけてね」


 やっぱり堕落した人が多いのね。合わない人向けの区画とやらへ、さっさと行ったほうがよさそうだわ。


「ダメ領主ってわけではないみたいだな」

「雰囲気がおかしいのは利用する側の問題ってことか。理性が低い人は利用制限すべきだと思うわ」


 ここは堕落を助長しちゃっているものね。国の利益になるとはいえ、なるべくなら堕落させないようにするべきよ。


「理性が低いんだったらここだけ制限してもダメじゃね。むしろここに集めたほうが全体としてはいいかも」


 どうせ散財するなら国の利益になってくれたほうがいいということかしら。

 あぁ。ほかの町でだらけていれば、周囲の人への悪影響が出ると言いたいのね。この町に集めるだけでも意義があるということだわ。


「その考え方も酷いわね。ダメな人の収容所みたいだわ。でも、自分の意思で来るのなら問題はないのかしら」


 この町が人をダメにするとしたら、多少の利益が出るとしても国の損失になるわ。

 でも元からダメな人を隔離するのであれば、国の利益といえるのかしらね。

 うーん…… それでいいのかしら。


「頼む! 金を貸してくれ。少しでいいんだ」


 ちょ。変な男の人が、アルフに突然すがりついたわ。


「へ。あんた誰だ」


 突拍子がなさすぎよね。赤の他人の、それも子どもに対して、借金を懇願するだなんて非常識にもほどがあるわ。


「必ず返す。すぐに倍にして返すからさ」


 無茶苦茶ね。アルフの問いにも答えずに、ひたすらお金を無心しているわ。

 必ずだとか、すぐに倍返しだなんて言われてもねぇ。名乗りすらもしない人が、返せる根拠も示さないのよ。誰が信じるというのかしら。


「言葉が通じないのか?」

「助けると思って。頼むよ」


 アルフが子どもだからと、なめているのかしら。考えなしのゴリ押しを続けているわね。


「貸すわけねぇだろ。少しは頭使えよ」

「絶対。絶対返すからさ」


 まともな受け答えもできないのね。相手にしていても、きりがなさそうよ。警備兵がみえるから呼ぶわ。


「こらこら。他人に迷惑をかけるな」

「俺はただ頼み事をしているだけだ」


 警備兵に逆切れしているわ。アルフからの問いを無視したのに、警備兵には答えるのね。答えなければ捕縛されることが、わかっているからかしら。


「断られたんだろ。それでもつきまとうならストーカーだ」

「考えなおしてもらおうとしているだけなんだ。なにも強制していないし」


 脅せば犯罪になるから、懇願だけを続けていたということかしら。あれでも考えてはいたんだわ。


「お前の相手を強制させられているだろうが。明確な犯罪行為だ」

「いやだから強制じゃなくて頼み事をだな……」


 (らち)が明きそうにないわね。ここは警備兵に任せていくわよ。


「早速きたな。たちの悪い大人とやらが」

「警備兵が見えるところでやるなんて、犯罪意識がないみたいね。ある意味すごいわ」


 この町は警備兵が多いのよ。おどしたり奪ったりすれば、即座に犯罪行為として捕まるわよね。それでさっきの手口を使うようになったのかしら。

 でも進路妨害をしたり、つきまとったりするだけでも犯罪なのよね。知らないとは思いがたいわ。ごまかし通せるとでも思っていたのかしら。


「頼む! 金を貸してくれ。少しでいいんだ」

「またか」


 さっきとは違う人ね。でも言動が完全に同じだわ。

 マニュアルでもあるのかしら。内容はともかく、言い回しまでが同じだなんてね。


「必ず返す。娘が病気なんだ。治療費が必要なんだ。助けてくれ」


 娘さんが病気ですって。

 ……おそらくはお金をだまし取るためのウソよ。でも、もし本当だとしたら……


「お。さっきのやつよりは頭を使っているな」

「なんの話だ。俺は本当のことを――」


 放ってはおけないわ。本当だとしたら、こんな親に治療費を稼げるとは思えないものね。あたしがどうにかするしかないのよ。


「案内してください」

「へ」


 へ、じゃないわよ。

 あぁ、説明しないとわからないわよね。


「娘さんのところへ案内してください。病気ならこの光で癒せると思います」


 ティアラの光による癒しは、どんな治療よりも効果が高いはずよ。


「い、いや。すごい難病なんだ。特別な薬しか効かないんだ」

「ウンディーネ様のお力が、人の薬に劣るわけがないでしょう。いいから案内してください」


 難病であるほど、あたしが行ったほうがいいはずよ。人では完治させられない病だとしても、治せる可能性が高いわ。


「え、えーと。そう、感染するから隔離されているんだ。一般人は近づけないんだ」

「光で護られているので大丈夫です。医者だろうが役人だろうが説得します」


 他の人に感染するほど危険なら、一層放ってはおけないのよ。たとえ力づくでも近づいて治療するわ。


「ここからじゃ、すげぇ遠いんだよ」

「問題ありません。ここに戻るのは瞬間帰還器で一瞬ですし、呼ばれているのはアルフだけですから」


 ガルマさんはアルフの旅に同行されているわけだから、こっちにはきてくださらないわよね。でもマアマさんがおられるし、(わな)アイテムもあるから大丈夫よ。


「え。俺放置かよ」


 情けない顔をしないでよ。娘さんを治療してくる間だけだわ。


「方向さえ聞いておけば、あんたの足なんてすぐに追いつくわよ」

「それもそうか」


 いざとなったらマアマさんにお願いすればいいだけだしね。心配する要素はないわ。

 

「じゃぁ病気だけじゃなくて、怪我もしているってことで」


 ハァ。やっぱりウソだったのね。じゃぁ、ってなによ。思い付きの、でまかせだと自らばらしているわよね。もしかしたらという懸念が吹き飛んだわ。

 本当に怪我をしているとしても、病気の治療を拒む理由にはならないわよね。娘さんが心配なら、さっさとあたしを連れていこうとするはずよ。

 娘さんがいるというのもウソであってほしいわね。病気は治せても親は変えられないのよ。

 やっぱりこういう人の相手はするだけムダね。警備兵を呼ぶわ。


「こらこら。他人に迷惑をかけるな」

「俺はただ頼み事を……」


 さっきと同じパターンぽいわね。行くわよ。


「なんか笑えるほどにバカだな」

「同じような手口が蔓延(まんえん)してそうね。押しきられちゃう人がいるのだと思うわ」


 こんな手口が広がっているということは、お金を出してしまう人がいるのよ、きっと。


「どっちも迷惑だな。これだけ警備兵だらけなんだから一声かけるだけですむだろうに」

「頼むだけじゃ、通報するほどの犯罪にならないと思って、ためらうのかもねぇ」


 心理的に通報しづらくする手口なのよ。頼まれただけだと、通報の理由として説明しがたいものね。


「犯罪者の肥やしみたいなやつだな」


 肥やしといえるかしら。犯罪者が悪いのはたしかよ。でも、犯罪を助長するかのように、お金を出す被害者も悪いのよね。毅然(きぜん)とした態度で更生を促すべきなのよ。

 この町では悪循環が構成されてしまっているみたいだわ。


 なにかしら、警備兵が近づいてくるわよ。


「この辺りは不審者が多いのでお気をつけください」

「おぉ。さっきから絡まれっぱなしだわ」


 あたしたちが子どもだから注意喚起にきてくれたのかしらね。

 でも、それにしては挙動が妙だわ。まるでアルフを品定めするかのように見ているわよ。


「む。そのレイピアは盗難届けが出ていますね。こちらで預かります」

「へ? 盗品だったら、俺を逮捕するべきだろ。これは俺のだ。詰め所に付き合うから、届けを確認しようぜ」


 アルフのレイピアは武器屋で購入したものよ。だから似たような品が出回っている可能性はあるわ。疑われるだけなら仕方がないわね。でも、盗品だと断定していたわよ。これはアルフでなくても怒るわよね。


「いや。逮捕は見逃してやるから、レイピアだけ渡しなさい」


 警備兵が逮捕を見逃すという発想がありえないわ。偽物確定ね。警備兵に(ふん)する手口もあるのだわ。


「見逃してもらう必要はねぇっちゅうの。それとも詰め所に同行できない理由でもあんのか」

「俺は好意で言っているんだぞ。拘留されて前科なんてつけたくないだろ」


 発言がどんどん警備兵にあるまじき内容へとずれていくわ。地は隠せないものね。


「警備兵が盗賊に好意を示してどうすんだ」


 もういいわよね。本物の警備兵を呼ぶわ。


「どうかされましたか」

「こっちの警備兵の言動がおかしいのですが。本物ですか?」

「げ。やば」


 偽物がダッシュで逃げ出したわ。


「あ。追わねばならぬので失礼します」


 本物が追っていったわ。よろしくお願いしますね~。


「今のは少しマシだったか? そうでもねぇか」

「装備をまねる辺りは手がこんではいたわね」


 警備兵の姿で安心させたうえ、国家権力で言いなりにさせようとしたのよ。卑劣な悪知恵はあったわね。

 でも見抜かれたときの対処まで考えられるほどの知能はなかったわ。


 少しずつ手のこんだ手口になってきているわね。次はどんな手でくるのかしら。


「よう。久しぶり。俺だよ、俺」


 ハァ。気を引き締めて警戒したところなのに、なによその気の抜けた声は。あたしたちを虚仮にしているのかしら。そんなマヌケな手を使わないでよね。

 相手をするのもバカバカしいわ。問答無用で警備兵を呼ぶわよ。


「待てや。俺は、なにもしてねぇだろ」

「で。お前は誰で、なんの用だ」


 警備兵も、この手の相手には慣れているみたいね。


「あ~人違いだったわ。んじゃな」


 ごまかして立ち去ろうとしだしたわ。


「待ちなさい。君は何者だ。彼を誰だと思ったんだ」

「うるせぇな。ただの人違いだって。なにもしてねぇんだから放っておけよ」

「そうはいかない。不審者には職務質問をするきまりだ」

「うぜー。俺は…… えーと……」


 人違いだと言ったわよね。ならあたしたちには無関係だわ。行くわよ。


「これだけ頻度が高いんだったら、最初から警備兵についてきてもらったほうがいいな」

「警備兵どころか、ガルマさんがいるのにねぇ」


 アルフしか眼中にないみたいな感じよ。ガルマさんはおろか、あたしにすら見向きもしないのよね。


「バカだから竜人を知らないんじゃね」

「さすがにそれは。本物の竜人様だと思っていないのかしら」


 それにしても、ここではアルフばかりが狙われているわ。どうしてかしら。賊や腕自慢の人は、あたしを狙っていたわ。目立つ装備や(うわさ)が原因だったわね。詐欺やスリの場合は、狙う理由が別にあるということかしら。

 おそらくは、アルフのほうが狙いやすいということよね。アルフがひとりで先を歩いているせいかしら。アルフは先導しているから勝手に離れるのよね。アルフの体格が情けないせいもあるかしら。戦闘になっても勝てるとか、犯行がばれても逃げきれると思われているのかもしれないわ。

 いずれにしても、あたしのせいじゃないわね。こういう連中を避けるためにした武装も、逆に引き寄せるエサになっていたわ。身体を鍛えようとしないアルフの自業自得かしら。


 ようやく合わない人向けの区画とやらに着いたわ。たった500メートルが随分と長く感じたわね。

 酒場や賭場は見当たらないわ。広々とした公園に休息所が点在してるわね。閑静で健全なつくりになっているわ。

 それでいて、警備はより厳重になっているみたいよ。酔っ払っている人が入場を拒まれていたわ。


「こっちの区画は、ほかの町よりも治安がいいくらいの感じね。人も施設も両極端だわ」

「まぁたしかに、ふつうに働いている人は、空いた時間にやりたいことも多いだろうし。ここには来ねぇわな」


 教えられた宿屋はここね。

 うわぁ。あたしたちが浮いてしまいそうなくらいに上品な雰囲気だわ。とりあえずはロビーに入ってみるわよ。

 内部も豪勢なつくりねぇ。でも周囲を見回しても、従業員らしき人たちしか見当たらないわ。お客はどうしたのかしら。


「なにか場違いな感じがするわ。この区画の宿屋って、みんなこんな感じかしら」


 誰かがこっちに向かってくるわね。雰囲気からして、宿屋の主かしら。


「どうか御気になさらず。雰囲気を楽しんでいただけると幸いです」


 つぶやきが遠くまで聞こえちゃったみたいね。あまりにも静かなのよ。


「失礼かもしれませんが、お伺いします。料金はふつうみたいだし、経営的にまずくはないのですか」


 醸し出す雰囲気に応じて、維持費がかかっているはずよ。それなのに、提示されている宿泊料は高くないわ。

 まさか(わな)ということはないわよね。ここは犯罪者だらけの町なのよ。宿屋も加担している可能性はないのかしら。


「町のもうけが大きいので、助成金が出ているのですよ」


 笑顔で即答されたわ。よく聞かれる質問なのかしら。


「あっちの恩恵が、こっちにもまわっているのか」

「あっちの大事な御家族をお迎えするところですからね。蔑ろにはできません」


 なるほど。それでこの区画の警備が厳重なのね。


「では夕食と一泊をお願いします」

「かしこまりました。お部屋へ御案内します」


 宿屋に問題はなさそうね。じゃぁ荷を置いて食堂へ繰り出すわよ。


 一応はほかのお客もいたわ。でもやっぱり、広くてきれいな割りに客数が少ないわね。ムダ遣い感が半端ないわ。


「お金も、余っているところには余っているもんねぇ」

「人生を投げた連中の血でできた金だな」


 きっつい言い方ね。実際、娯楽で楽しんでいる人は、それほどお金を使っていないはずよ。

 この町が潤っているということは、それだけ散財した人がいることを示しているのよね。


「変なことを言わないでよ」

「本望じゃねぇの。誰かの役には立っているわけだし」


 おそらく本望だと思ってはいないわ。さっきあんたを(だま)そうとしていた人たちが、その成れの果てだと思うわよ。


「寄付したと思える人ならいいのよねぇ。でも、そんな人が人生を投げたりはしないと思うわよ」


 料理がきたわ。

 値段の割りに上質だし、量も十分ね。これも助成金とやらのお陰なのかしら。


「この町に住むのも悪くはないんじゃね」

「この区画に住むのならお得な感じよね。それだけに土地代もすごそうだわ」


 これだけの好条件で、人気がでないわけがないのよ。


「だろうな。飯は格安でうまいのに、人が少ないし。なんか制約はありそうだ」


 まぁ住めるとしても、あたしは農家をやりたいから、ここに住む可能性はないわね。


 たっぷり食べたし、部屋に戻るわよ。


「最初はダメな町だと思ったわ。でも、ちょっと見ただけじゃわからないものね」

「酔っ払いとか変なのが多いのはたしかだけれどもな」


 ダメな部分があっても、全体的に見れば意義があったわ。考えてみれば、何事もそんなものなのよね。理屈ではわかってはいても失念しやすいわ。それを実感させてくれる町ね。

 でもダメな人に存在意義はあるのかしら。堕落した人が多すぎるわよ。


「せっかく与えられた自由を無為に過ごすなんて、もったいないと思わないのかしら」

「生まれつき自由だと、自由のありがたみがわからないとか、お前が読んでくれた本に書いてあったような」


 ふーむ。堕落しても生きていける社会の甘さが害になっているのかしら。


「恵まれすぎているのも問題ね。幼いうちに野生を経験させるべきなのかしら」

「死ぬって。経験させるんだったら野生じゃなくて不自由だろ」


 あら。そうね、野生は不便なだけで自由だわ。


「不自由か。戦争があったころは、兵役とか奴隷制度とかあったらしいのよね」

「それも違うくね」


 あくまでも例えよ。経験させるべきだというわけじゃないわ。


「うん。問題だから廃止されたわけだしね。ありがたみを教育で自覚させられればいいのよねぇ」


 拘束される制度があれば、自由のありがたみを理解することはできると思うわ。でも学ぶ機会として適しているとはいえないものね。


「痛い目を見るまで理解できないのが人だ、とも書いてあったな」

「ここは痛い目を見ても理解できない人だらけよね」


 散財しても学べずに犯罪に走っているわ。


「バカは死ぬまで治らないってな」

「ウンディーネ様のお力でもダメだもんねぇ。本当に救いようがないわ」


 絡んできた犯罪者は、ティアラの光を浴びても更生しなかったのよね。病は治せてもバカは治せないのよ。

 あの情けない姿は、反面教師として脳裏に刻んでおくわ。あんな大人にだけはならないようにね。


「この町で得るものはなさそうだ。さっさと寝て明日は早くに出ようぜ」

「そうね。ここじゃマアマさんも退屈そうだし。でもベッドがすごく快適そうなことは(うれ)しいかも」


 静かだし、ベッドは上質だし、犯罪者の相手で疲れているから、よく眠れそうだわ。おやすみ~。


 思い通りに早起きできたわ。でも早朝から犯罪者だらけね。合わない人向けの区画を出てから、次々に絡んでくるわよ。いちいち相手にするのは面倒だからガン無視でいくわ。

 ようやく町の出口よ。ここまで付いてきたのも結構いるわね。まとめて警備兵に引き渡すわ。


 異質な町だったわね。勉強にはなったわ。物事は考えようで、よくも悪くもなるのね。

 とはいえ、あたしが学ぶべきは、善し悪しじゃなくて正邪なのよ。ここにとどまる理由はないわ。先へ進むわよ。


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