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一人称視点版@あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
31/52

おまけ:きれいだから斬る

 (にぎ)やかそうな音がわずかに聞こえるわね。左手の坂上に町があるのかしら。(やぶ)で見えないわ。この街道がつながっているわよね。今晩はベッドで眠れそうだわ。


「おぉ? お前は、もしやベルタか?」


 すれ違いざまに飛び下がったわね。知らない男の人よ。驚いているかのようだわ。でも驚いたのはあたしのほうよ。


「はい? どちら様ですか」


 知らない人から名前を呼ばれる機会が増えた気がするわ。

 まぁ、隣国にまでティアラの(うわさ)が広がっているみたいだものね。この光がある以上は、誰でも一目であたしのことがわかる状態なのかしら。

 む。失礼ね。人を指さすのはマナー違反よ。


「ついているな。俺は無名の冒険者だ。手っ取り早く名をあげたいんでな。お前に一騎打ちを申しこむ!」


 ……いい大人が小娘に向かって一騎打ちだなんて、なにを考えているのよ。


「お断りします」


 ばかばかしいわね。先へ進むわよ。


「なに。逃げるのか」


 ガルマさんですら、もめごとは瞬間帰還器で避けておられたわ。ムダに争う意義なんてないのよ。


「はい」


 あら回り込んできたわ。


「いやちょっと待て。無名の俺から逃げるとか堂々と言うなよ。恥ずかしくねぇのか」


 ……小娘に挑むことは恥ずかしいと思わないのかしら。


「不戦敗てことで結構ですよ」


 あたしはただのかよわい乙女なのよね。一騎打ちってなによ。そんなのを受けたらそれこそ恥だわ。


「だー! そんなことを言っても誰も信じてくれねぇよ」


 ふむ。あたしに勝てれば名があがると思っているのよね。


「じゃぁどこかで敗北宣言でもしましょうか?」


 不戦敗なら恥ずかしくもないわ。かよわい乙女としては当然の選択よね。


「恥ずかしいのでやめてください」


 あら。膝をついちゃったわ。

 小娘に挑むのは平気でも、不戦勝は恥ずかしいのね。よくわからない基準だわ。


「兄ちゃんさ。名をあげたいんだったら、ベルタに挑むよりは迷宮攻略でもしたほうが楽だぞ」


 それ、あたしじゃなくてマアマさんに挑む場合の話よね。あたしとの一騎打ちならマアマさんを頼れないのよ。


「簡単に言うな。すぐに名が売れるくらいの迷宮ともなれば、抜けるのに何日かかるやら」


 ふむ。無名と言いながらも腕には自信がありそうね。名が売れるほどの迷宮攻略でも、問題視しているのは時間だけみたいだわ。


「ベルタだったらどんな迷宮でも一撃で消滅するぞ」


 どうして余計なことを口にするのかしらね。


「変なことを言いださないでよ。それに、そんなことを言っても理解できるわけないわ」


 あたしだって相手の立場なら理解できないわよ。


「お前はアルフってやつか? バカだとは聞いていないが、バカなのか」

「ほら」


 アルフのことも(うわさ)に含まれているのね。ならガルマさんが同行されていることも当然に含まれているはずだわ。それなのに絡んでくるのね。

 (うわさ)のお陰でガルマさんが避けられなくなっているとしたら(うれ)しいことよ。でもあたしが避けられる機会が増えている気がするのよね。狙われるのはわかるとして、避けられる理由がわからないわ。


「否定はしないけれども。兄ちゃんには事実しか言ってねぇぞ」


 事実ほど理解しがたいものなのよ。あたしもガルマさんのお陰で学んだわ。


「うーむ。とにかくだ。一騎打ちを受けてくれるまではついていくぞ」


 どうぞご勝手に。

 ……本当についてきているわ。


「おもしろい兄ちゃんだな。襲ってはこないんだな」


 おそらくは悪気のない冒険者なのよ。挑んできても襲ってはこないものね。


「別についてくるのは構わないわ。でも、結構危険な旅になってきているし。巻きこみたくはないわねぇ」


 時間を気にしているから、事情があるのだと察するわ。さっさと諦めさせることが良策なのかしら


「要は力の差を教えてやれば納得するんじゃね」


 それは一騎打ちを受けろということかしら。


「あたしは一騎打ちなんて嫌よ。マアマさんに頼るなら一騎打ちですらないし」


 一騎打ちを受ける乙女だなんて、それだけで妙な(うわさ)になりかねないわ。おまけにマアマさん抜きならあたしなんて一方的にやられて終わりよ。力の差を教えるどころじゃないわ。


「んじゃ、こういうのはどうだ。兄ちゃんの動きを1時間封じる。その拘束を破れるかどうかの勝負」


 一騎打ちじゃなくてマアマさんを含めた勝負ということね。


「なるほど。1時間も身動きできないなら、確実に負けるって納得してもらえる…… か……」


 マアマさんで拘束するだけなら、傍目にはあたしが関わっていないように見えるわ。あたしが勝負をしただなんて(うわさ)にはならないはずよ。

 そのうえで、冒険者にも納得してもらえるということね。それなら大丈夫なのかしら。うーむ。


「その辺の山をふっ飛ばしてもいいんだけれども。お前は嫌だろ」


 どうしてそうなるのよ。


「当たり前だわ!」


 やればいいのよね。1時間拘束する程度なら気も(とが)めないわ。


「兄ちゃんよ。勝負してもいいが条件がある」

「お。でも金ならないぞ」


 お金なんていらないわよ。とはいえ冒険者を名乗りながらもお金がないだなんてね。腕には自信がありそうなのに、普段はなにをしているのかしら。


「いや。まず一騎打ちは無理だ。ベルタの武器には実質神が宿っている。つまり神も相手になる」

「おもしれえ。精霊使いに精霊を使うなとは言えねぇ。まったく問題ないぜ」


 精霊使いですって。精霊様もマアマさんのように武器に宿れるということかしら。

 それを承知で受けるということは、精霊様に勝てるほどの自信があるということよね。

 でもあいにく、マアマさんは精霊様よりも(はる)かに上なのよ。と言っても納得はしてくれないわよね。


「次に時間制限をつける。1時間以内に倒せなければ終わりだ」

「1時間もあるなら十分だ。それで倒せなければ諦めるさ」


 相手も了承と。ならやるしかないわね。


「んじゃ早速」

「いやいやいや。こんなところで勝っても名はあがんねぇって。まず町で公認してもらって、それから」


 それはあたしが困るわ。あたしがやったって(うわさ)になっちゃうわよ。


「まぁ1回やってみな。それで勝負になったら付き合ってやるからさ」

前哨戦(ぜんしょうせん)てわけか。いいだろう。そういうことならやってやるぜ」


 剣士なのね。構えるとまるで人が変わったかのような雰囲気だわ。

 剣先がまったくぶれていないわよ。呼吸すら止めているかのように微動だにしないわね。素人目にも達人だと思わせる様相だわ。


「んじゃベルタも準備はいいか」


 いつでもいいわよ。常にマアマさんを握っているものね。


「仕方がないわ。こういうのが頻発しなきゃいいわね」


 冒険者の正面に立って、マアマさんを構えればいいのかしら。……こう振りかぶればいいのよね。

 あら。構えを解いちゃったわ。頭を抱えているわよ。どうしたのかしら。


「おいおいおい。そんな荷物を背負ったまま俺とやろうってぇの? 哀しくなってくるぜ」


 あぁ。ふつうは荷物をおろしてから始めるのね。あたしは一振りするだけだし、この程度の荷物はあってもなくても一緒なのよ。


「やってみりゃわかるよ。んじゃ始め!」


 じゃあマアマさん、1時間の拘束をお願いしますね。ほいっと。


「しゃあねぇな。ではお手並み拝見…… へ? なんだ。身体が全然動かない」


 はい、おしまいよ。


「だろ。ベルタ相手じゃ勝負にもならないんだって。1時間もがいて諦めろ」


 あたしじゃなくてマアマさんだってば。とはいえ説明が面倒になるかしら。


「金縛りの術か。たしかにこれを破れずして勝利などありえんな。やってやるさ! ぬがぁあああ」


 金縛りの術とやらなら破れるのかしら。でもそんなちゃちな術じゃないのよ。1時間がんばって諦めてね。


「というわけで。飯にしようぜ」


 へ。まだ勝負の最中よ。


「1時間もとったのは、それが目的だったのね」


 こんなときにまで食事のことを考えていたとは(あき)れるわ。徹底しているわね。


「なんか熱血漢て感じだしさ。それくらい頑張らないと諦めそうに見えないし」


 まったくもう。アルフったら飯飯と歌い出したわ。

 獣なら近場にいるのかしら。マアマさん焼肉をお願いしますね。ほいっと。

 まぁ1時間は暇なわけだし、あたしも食べておきますか。


「ほい時間切れ。納得したか」


 1時間も諦めずにがんばり続けたのね。疲労困憊(ひろうこんぱい)という様子よ。


「ハァ、ハァ。負けは認める。剣技には自信があったんだがな。自惚(うぬぼ)れだったと痛感したぜ」


 空を見上げて呆然(ぼうぜん)としているわね。仕方がないわよ。仮にどれほど腕が立つとしても、人では神の相手になりえないわ。


「そう悲観すんな。相手が悪すぎただけだ。名なんて後からついてくるから焦るな」


 そうね。慌てることはないわ。構えの雰囲気からして、名をあげるだけの実力はありそうよ。


「それじゃ間に合わないんだ。無名だと武術会に参加できねぇ。もう残り3日しかないんだ」


 それで時間を気にしていたのね。3日じゃ迷宮攻略どころか、迷宮に到着できるかも怪しいわ。


「武術会なんて毎年やるんじゃねぇの?」


 そういえばそうよね。やっぱり慌てる必要はなさそうだわ。


「それがな。今年の優勝者で町の領主が決まるんだ」

「へ」


 武術会の賞品が領主の座ってことよね。すごい町だわ。なにを考えているのかしら。必然的に、荒くれ者が領主になりそうよ。治世に長けているとは思いがたいわ。


「領土争いが続く土地なんだ。今回、平和的に武術会でけりをつけようってことになったんだ」


 なるほど。領主候補が雇った人を参加させるということかしら。


「領主同士の争いだったら放っておけばいいんじゃね」


 そもそもそんな目的の武術会であれば、領土争いをしている人たちにしか参加資格がないはずよ。


「それがなぁ。領主の代表者限定、と書かずに公布しちまったもんだからさ。えらいことになってんだ」


 ぶ。誰でも勝てば町の領主になれちゃうのね。


「無関係なよそ者まで、領主狙いで参加してきたってわけか」


 それはたしかに放っておけないわね。下手をしたら賊が領主にもなりかねないわ。


「いい町なんで今の領主に任せたいんだが。無名じゃ参加資格がねぇんだ。危険すぎるってな」


 気持ちはすごくわかるわ。領主が酷いと町がどうなるかは見てきたものね。協力してあげたいわ。


「そういうことなら。町で公認? してから負けてあげてもいいわよ」


 町の運命がかかっているのなら、変な(うわさ)が立つことくらいは我慢してあげるわ。


「勘弁してくれ。八百長なんてする気はねぇ」


 わお。清廉潔白な人みたいね。町が心配でも恥ずかしい真似はできないんだわ。それでも小娘に挑める神経は謎ね。なにかを誤解されている気がするわ。


「ん~。ベルタの名が売れているんだったら、ベルタが兄ちゃんを推薦すれば参加できないか?」


 そんなことができるのなら理想ね。


「ベルタの推薦ともなれば、危険すぎるとは言えなくなる…… か。だが勝負にもならなかった俺を」


 勝負にならないのは誰でも一緒だから気にしなくてもいいのよね。簡単に説明する方法はないのかしら。マアマさんも人の世界では無名だからむずかしいのよね。


「いいじゃん。ベルタに挑んだ勇気は本物だし。実力が足りなければ勝てないんだから八百長でもない」


 うんうん。そもそも参加資格は実力で判断すべきなのよ。名が売れているかどうかなんて基準がおかしいのよね。推薦で飛ばせるのなら、すっ飛ばして然るべきだわ。


「効果は期待できないとはいえ推薦ならするわよ。自分の町の問題に自分で挑めないのは理不尽だしね」


 問題はあたしごときの名に効果があるかよ。ティアラの光で有名なだけなのよね。そんなあたしが推薦したから危険はないなんて道理が成立するとは思えないのよ。


「……恩に着るぜ。ここは頼らせてもらいたい。ベルタ…… さん」


 うんうん。推薦が通るかは運よ。でもその運をつかむための努力はするべきだわ。


「んじゃ兄ちゃんの町へ行くか。ところで勝てる自信はあるのか」


 今までの話ぶりからして大丈夫だと思うわよ。


「さっきまではあったんだけれどもな。消し飛んじまった。まぁ全力でぶつかってみるさ」


 あらら。マアマさんじゃなくてあたしにやられたと思っているのよね。マアマさんのことを説明できれば自信も回復できるはずなのよ。自信を取り戻させるなにかがあればいいのよね。


「剣技とか言っていたよな。どんな技を使えるんだ」


 む。そうね。すごい技があるのなら称賛できるかもしれないわ。


「ん~。今となっては見せるのも恥ずかしいが。自慢していた技はこんな感じだ」


 え。小石を拾ったわ。まさかガルマさんみたいな……

 いや、10個ほどまとめて遠くへ投げたわね。

 うわ。投げた小石が全部空中で消えたわ。ここから遠くの小石を斬ったのかしら。それらしい雰囲気を感じたとはいえ、剣技自体は見えなかったわ。


「うぉ? 投げた石が落ちずに消えたぞ。なにをやったんだ」


 剣の間合いじゃ到底届かない距離だったわね。


「だから剣技だって。剣戟(けんげき)で真空波をつくって飛ばしたんだ」


 ふえぇ。見えないほどの速度なら真空波もできるのかしら。

 お世辞を考えるまでもなかったわね。手放しで称賛できるわ。


「今までに見た体術の中では最高ですね。あなたほどの人が無名だなんて信じられない」


 危険なのは、ほかの参加者だわ。有名な人ですらも相手にはならなそうよ。


「ベルタさんにそう言われると少しは自信も戻るな。無名なのは修行ばかりしていたから仕方がないかな」

「おぉ納得。本当に強いやつって無名なのかもな」


 なるほどね。どんなに強くても人に見せなければ無名のままだわ。そして強い人ほど修行に明け暮れているから無名のままになりやすいのね。

 考えてみれば、王様が驚くような魔アイテムをつくったホムンクルスや、人をきわめしとまで言われた錬金術師も名を聞いていないわ。どの分野にでも無名のすごい人がいそうよ。


「はは。負けた後で言われても皮肉にしか聞こえないが。既知の武術会参加者には勝てると思うぜ」


 そうね。あなたに勝てる人がいるとしたら、同じように無名の達人しかいないと思うわ。人ならね。

 人の武術会なら獣人とかは参加しないはずだわ。その気なら武術会を無視して町ごと制圧しちゃうはずだものね。うん、大丈夫なはずよ。


「冒険者というより剣闘士て感じだな」

「あぁ。剣士としてきわめるにも、稼がないと食えないだろ。だからたまに依頼を受けているのさ」


 それでお金もないのね。その気になればすぐに稼げそうなのに、そんなに修行が好きなんだわ。


「貴様ベルタだな。武術会に参加しにきたか」


 むぅ。今度はいかにも賊って感じの巨漢ね。


「またですか。知らない人に名指しで呼ばれることがふつうになってきちゃったわね」


 あたしが避けられる機会は増えているのに、こういう輩には絡まれることがうっとおしいわ。ガルマさんが手を出されないことも(うわさ)で知られているということなのかしら。


「貴様に参加されるとまずいかもしれん。おとなしく立ち去るか、ここで消えるかを選べ」


 あたしは参加しないわ。と言っても納得はしないわよね。


「今度は賊か。勝てば領主ともなれば変なのも集まるわな」


 まぁ、あたしとしては賊相手のほうが慣れているし手間もかからないわ。

 (おご)りにならないように、ここで拘束して一味を確認するわよ。


「ここは俺に任せてもらえませんか。修行ばかりで実戦経験が少なくてね。武術会前に練習しておきたい」


 あら。あたしを狙ってきたのに代わってくれるだなんて助かるわ。


「お。兄ちゃんかっけー。いいんじゃね。兄ちゃんだったら大丈夫だろ」


 うんうん。さっきの腕を見るかぎりは余裕だと思うわ。


「そうね。ムダに捕まえるよりは練習相手になってもらいましょうか」


 一応は保険でマアマさんを構えておくわよ。どうせ隠れている賊もいるはずだわ。


「それじゃありがたく…… っと。こんなもんか」


 ……あたしの気のせいじゃないとしたら、今一回転する間に賊を殲滅(せんめつ)しちゃったのかしら。

 回りながら剣戟(けんげき)を繰り出しているみたいだったのよね。速すぎて見えてはいないわ。でも繰り出していそうなタイミングで打撃音もしていたのよ。

 そういえば斬った音じゃなくて殴ったような音だったのよね。どういうことかしら。


「お? やらないのか」

「終わったよ。町へ向おうぜ」


 坂上の茂みから、なにかが転がってくるような音がするわ。


「きゃ」


 人よ。大勢の人が転がり落ちてきたわ。おどしてきた男も倒れたわよ。転がってきたのはきっと仲間の賊よね。隠れている賊までをも察知していたんだわ。


「おぉ。死体が転げ落ちてきた」


 えぇ。殺しちゃったのかしら。


「殺してねぇよ! 人聞きの悪いことを言わないでくれよ。当身で気絶させただけだ」


 それで打撃音だったんだわ。でも当てに行ってもいないわよね。それなのに当身とはこれいかに。おそらくは真空波の応用よね。器用だわ。

 あら。賊を放置したままで先導を始めたわよ。


「こいつら、ここに放置でいいのか?」

「あぁ。今はこういう輩が増えていてな。警備兵がときどき巡回にくる」


 ……警備兵には賊だとわからない気がするわよ。介抱するだけだと思うわ。


「こんなんで練習になったのか?」

「加減の練習にはなっているかな。失敗しても心が痛まないのは気楽でいい」


 ……加減に失敗って、死なせちゃうってことかしら。いやいや。怪我程度よね。


「おお。そういう練習かよ」

「まともなやつならこんなところで襲ってこねぇよ。来るのは自信のないカスだけだからな」


 ……こんなところで挑んできた人が言っても説得力に欠けるわ。


「武術会まで3日なのですよね。手加減の練習など必要なのですか」

「全力は出すけれども殺したくはないからな。手加減というより殺さずに倒す方法の練習と言うべきか」


 領地をかけた真剣勝負ともなれば、相当の実力者との死闘になるはずよ。それでも冒険者は相手を殺さずに勝とうとしているのだわ。


「殺したくないんだったら、なんで剣の修行なんかしてんだ」


 そうよね。人を斬るために剣を振るうのが剣士よ。らしくない考え方だわ。


「そりゃきれいだからに決まっているだろ。軌跡も切り口も音も、極めるほどに()()れする美しさになる」


 ……剣を抜いてうっとりと眺めているわね。人を斬るためではないということかしら。


「なるほどな。人を斬っても血脂で汚いだけってか」

「まったくそのとおりだ。人を斬ろうなんてやつはただのアホだな」


 真顔で言っているわよ。本気でそう思っているみたいね。


「どっちがアホかはさておき。そういう考えは好きだぞ」


 武器屋が聞いたら泣きそうよ。でも好感の持てる趣味だわ。


「あはは。本当ね。あなたなら胸を張って推薦できるわ」


 参加目的と強さで推薦に値するとは思っていたわよ。剣術を磨く動機までが面白いとは思っていなかったわね。


「え。笑うところじゃないと思うんだけれども。まぁ推薦してもらえるならいいけれどもさ」


 町に着いたわ。 

 派手さはないわね。でも、明るい活気にあふれているわ。いい町であることは一目でわかるわね。

 冒険者の言うとおり、町にとってはいい領主なのだと思うわよ。


 それにしても普段以上にあたしへの視線が多いわね。

 みんな、あたしが参加すると思っているのかしら。ただ光って目立つというだけの(うわさ)よね。かよわい乙女を目の当たりにすれば、参加するわけがないとわかりそうなものだわ。不思議ね。


「あちゃぁ。今日の受けつけは終わっちまっているな。今晩泊まれるかい?」

「もとよりそのつもりだ。町に寄ったら宿の飯を味わうべきだろう」

「あたしたちは宿に滞在しておきますので、明日受けつけが始まってから呼んでいただけますか」


 ちょうどそこに宿があるわ。武術会受付の近くだし行違うこともないところよ。


「承知した。本来ならうちに泊めるべきなんだろうが。客を呼べるようなところじゃなくてな」

「お気になさらず。宿のほうがこちらも気楽ですしね」


 もともとこの町の宿に泊まる予定だったのよ。気遣いなしにベッドで眠れたほうがいいわ。


「心配はないと思うが一応警戒してくれ。警備は増えているが、今は変なやつが増えすぎているんでな」


 さっきの賊みたいな連中のことよね。町中でも襲ってくるというのだわ。


「おぉ。兄ちゃんも参加が決まったら狙われるだろうから気をつけろよ」

「はは。むしろ狙ってくれると練習になってありがたいな。まずは明日の参加申しこみ頼むぜ」


 襲われることがありがたいのね。ものは考えようだわ。


「はい。ではまた明日に」


 さて。早速宿をとって食堂へと。

 む。(にぎ)わっていたのに急に静まり返ったわよ。


「ベルタだ」

「あれが? マジで小娘じゃん」


 ひそひそ話のつもりかしら。静まり返っているせいで明瞭に聞こえるわ。


「……これはダメそうね。お店に迷惑かけちゃいそうよ」


 襲われかねないと忠告されたばかりなのよね。


「えー。飯は」


 既に注文もしてあるのよね。うーむ。


「宿の主に相談して部屋に運んでもらいましょ」

「おぉ。食えるんだったらどこでもいいぜ」


 よかったわ。部屋での食事を受け入れてもらえたわよ。

 宿屋としても食堂で騒ぎを起こしたくなかったみたいね。喜んでいたわ。


「本当に有名になっちゃっているのねぇ。ウンディーネ様、偉大すぎるわ」


 ここまで名指しで呼ばれるとなると、光で目立っているというよりも(うわさ)で知られているとしか思えないわね。


「お、おぉ」

「なにどもってんのよ。オリハルコンも目立つとはいえ、マアマさんが発光を抑えてくれたから影響は低いわ」


 賊はともかく、一般の人なら気づきもしないと思うのよ。圧倒的にティアラの光のほうが目立つものね。


「ソウダネ」

「それにしても変よね。ティアラの光が目立つからって、武術会とは関係ないわ」


 まるで、(うわさ)ではあたしが強いことになっているかのようよ。


「そりゃ武器は強そうだし。筋力ありそうな体格だし。警戒はするんじゃね」

「武術を(たしな)んでいる人が、その程度で小娘を警戒するのねぇ」


 マアマさん抜きなら、あたしなんて初戦敗退確定よ。

 そもそも光っているだけで(うわさ)になっている小娘の武器が強そうだからって、みんながあんなに警戒するのはやっぱり変だわ。


「ガルマさんがそばについていることを忘れていねぇか」

「あぁ。そこからいろいろと想像するのか。それならアルフにも行けばいいのねぇ」


 ガルマさんから手ほどきを受けているであろうという推測をしたのなら、あたしでもおそれられる可能性があるわ。実際に加護を授かってもいるから的外れでもないのよね。ようやく納得がいったわ。

 それにしても武術会に参加するような武術家が、(うわさ)だけをうのみにしてこんな小娘を警戒するだなんて冗談みたいよ。これも妄想の神と似たようなものかしら。自分で確認もせずに信じちゃうのはどうかと思うわ。


「よくねぇよ。俺とお前の体格を比べれば、俺なんか眼中にねぇだろ」

「そうね。覚悟はしていたわ。でも、お店に迷惑をかけるのはつらいなぁ」


 注目を浴びたり、町の外で襲われる程度ならさておき、店内でも襲われるのはさすがにねぇ。


「ここは血の気の多いやつが集まっているから特別だって。今まで大丈夫だったろ」

「うん。間の悪いときに来ちゃったもんだわ」


 宿の主が早速に夕食を運んできてくださったわね。

 え。この短時間の間に、顔に少し怪我をしているわよ。


「おっちゃん顔どうした。忙しいからって、ぶつけるなよ」

「いやぁ。お客様の料理に変なものを入れようとするバカがいましたんで、ちょいとぶん投げてきました」


 あちゃあ。懸念していた最中にも迷惑をかけてしまっていたのね。


「投げたって武術会の関係者をか? おっちゃんすげぇな」

「申しわけありません。あたしが狙われているみたいで御迷惑を」


 困ったわね。キャンセルしようにも、ここが冒険者との待ち合わせ場所なのよ。


「いやいや。警備兵がいるんで任せてもよかったんですが、腹に据えかねて参加しただけです。はは」


 ぶ。巻き込まれたのではなく参加したのですか。


「狙いはベルタだけじゃないだろうしな。客商売は大変そうだ」


 あぁ。知名度の高い人はみんな狙われるのね。あたしたちだけがキャンセルしても状況は変わらないのだわ。


「お気遣いありがとうございます。お客様の安全は絶対に護りますので御安心ください。では御堪能あれ」


 頼もしい宿屋だわ。武術会を開くような町だとこういうものなのかしら。


「警備兵だけでなく主まで強い宿って安心できそうだな」

「そうね。少しは気が楽になったわ。あたしがいなくてもここは大差ないのね」


 店で起こる騒ぎがあたしのせいじゃないのはよかったわ。おそらくは敵対するような参加者全員を狙った騒ぎなのよね。


「そういうこと。そもそも迷惑かけているのはお前じゃなくて狙っている側だ。気にすんな」


 じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうわよ。おやすみ~。


 いい朝ね。でも窓から外を見ると通りが荒れているわ。寝ている間にも騒ぎがあったみたいね。気づかない間に片付いたってことは警備が厳重で治安が保たれているのだわ。やっぱり領主がしっかりとしている町はいいわね。

 ちょうど朝食を終えたところで迎えがきたわ。では推薦に行くわよ。

 武術会の受付までくると注目度がさらにすごいわね。みんなが凝視してくるわ。


「武術会への参加を申しこみたい。俺に知名度はないが、ベルタさんが推薦してくださるとのことだ」

「推薦ですか。規約にはないので、主催者に問い合わせて参ります。少々お待ちください」


 ダメならどうすべきかしら。町の命運がかかっている以上はマアマさんに頼ることもやぶさかではないわ。でもそれは(おご)りになっちゃうのかしら。


「参加は認められました。組み合わせは当日会場にて抽選が行われます」


 うわお。あたしごときの推薦が通るのね。


「おっしゃぁああああ」

「まるで優勝したみたいだな」

「おめでとうございます」


 優勝したも同然かもしれないわね。相手になるような人が参加しているとは思いがたいわ。


「はは。ありがとう。俺にとってはここが最大の難関だったからな。これでもう思い残すことはない」


 知名度なんて実力には関係しないものね。あたしの知名度を譲りたかったわ。


「本番はこれからだっていうの」

「冗談だ。ベルタさんのおかげで自惚(うぬぼ)れは消えた。せっかくもらった機会。必ず生かしてみせる」


 (おご)りも油断もなさそうね。心配する要素が見当たらないわ。


「頑張ってください。あたしもここはいい町だと思います。領主さんを支えてあげてください」

「おう。ベルタさんたちも旅の無事を祈るぜ。また近くに来たらぜひ寄ってくれ」

「はい。ではまた」


 さすがにここはさっさと出たいわ。視線が異常過ぎるのよね。ほらほら行くわよアルフ。


「本当にあたしの推薦で受けてもらえたわね。有名といっても、目立っているだけなのに変なの」


 主催者までもがあたしの強さを勘違いしているのかしら。


「お、おぉ。ベルタの推薦だったらガルマさんも認めているみたいに思われているんじゃね」


 なるほどね。そういう誤解の仕方もありえるわ。


「あはは。無言の圧力か。ガルマさんならそれくらいの影響はありそうね」


 あたしの言動はガルマさんの御意向を反映していると思われかねないのだわ。一層の注意をしないといけないわね。


「思うんだけれどもさ。今までの旅の流れからいって、ベルタが武術会に参加すべきだったんじゃねぇの」


 苦難であれば挑戦すべきだったのかもしれないわ。でも武術会はあたしの苦難じゃないわよね。


「えー。さすがにそれはないわ。真面目に戦おうって人たちをマアマさんで蹂躙(じゅうりん)しろっていうの?」

「あはははは」


 あたしへの攻撃はマアマさんが防いじゃうのよ。先手を取られようが気にせずにマアマさんを振るだけで終わっちゃうわ。苦難でもなんでもないわよ。


「そうだな。マアマ抜きじゃ、あの冒険者のほうが強いだろうしな」

「手が届く前に斬られちゃうわね」


 それこそ逃げるのが最善の選択となる苦難だわ。

 どっちにしても、あたしが武術会に参加する意義はないわね。


「あれだったら何人相手でもすぐに片づきそうだ」


 大勢の賊ですらいつの間にか倒していたものね。賊よりは格上の相手だとしても、ひとりづつならまったく問題がないと思うわ。


「町が好きなら自分で領主やればいいのにね」

「修行したいんじゃね」


 あぁ。領主の仕事に追われて、修行の時間がなくなっちゃうのかしら。


「あはははは。そうよね。それに違いないわ」


 いい町にしようとするほど、領主としての仕事も忙しくなるのよ。あの冒険者には耐えられそうにないわ。

 さて。あたしはあたしの道を、進化への道を目指さなきゃね。旅を再開よ。


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