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一人称視点版@あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
27/52

おまけ:あたしのものは○○○のもの

 神隠しの(うわさ)のお陰かしら。道中では人に遭遇しなかったわね。でも町が近づいてきたわ。やっぱり注目は浴びるわよね。気が重くなるわ。

 アルフったら後ろ向きに歩き出したわよ。おまけに手を頭の後ろに組んでいるわ。前を見て歩かないと危ないわよ。


「ティアラ狙いの賊が出るのは確実だろうしさ。マアマと、対処手順をまとめておいたほうがいいんじゃね」


 話すためにこっちを向いたのね。街道なんだから先導しなくてもいいわ。下がってくればいいのよ。まぁいいわ。提案には同意よ。


「そうね。基本は今までどおり。仲間をまとめて拘束かしら」

「おっけー」


 拘束後はケースバイケースね。今までのケースと同じであればそのまま適用よ。

 町なかの賊なら警備兵に引渡せばいいわ。道中のゴブリンのような、更生を望めない者は夜まで(ろう)ね。


「あとは拘束後だな。特に道中の賊。(ろう)をつくって時間で解放はダメだろ。更生する可能性があるし」


 道中の賊を捕えた経験はなかったわ。


「そっか。町から遠いと、警備兵のみなさんを釣ると迷惑をかけちゃうわよね」


 道中の賊は、警備兵への引き渡しも、バリアの(ろう)で幽閉もダメなんだわ。厄介ね。


「それは近くても迷惑だと思うけれども。まぁいいか」


 道中の賊をどうするかよねぇ。賊だけを町に放り投げたら警備兵が混乱してしまうわ。だからといって、あたしたちが一緒に町へ飛んでしまっては、移動のやりなおしになってしまうわね。

 ん~む。あ、そうよ。周囲の力を借りてでも、最良の手を模索しなければならないのだったわ。


「うーん。幾らでも賊を受けいれてくれるような、施設でもあれば楽なのにねぇ」


 マアマさんに距離は関係がないから、送り先を1か所に特定できれば便利なのよ。協力してくれるところがあればいいのよね。


「だったら次の町から、一度王都へ飛んでみるか? 次の町を記録しておけば、すぐに戻れるだろ」

「王都か。そうね。あそこなら、どれだけ送っても大丈夫とは思うわ。でも、また王様が飛んできそうね」


 広くて施設が充実しているとなれば王都以上のところはないわ。おまけに王様とも面識があるのよね。

 あたしも提案には賛成よ。とはいえ問題もあるのよね。

 ガルマさんは無論のこと、マアマさんを手にしたあたしが王都に入れば、即座に魔アイテムで検知されるわ。

 また必死の形相で王様が駆けていらっしゃることは容易に想像できるのよ。国のために身体を張られている王様を、必要以上に煩わせたくはないわ。


「だったら俺だけ行くか。見覚えのある警備兵だったら、説明すればわかってくれるだろ」


 む。アルフだけが王都にですって。王都にはノーム様がいらっしゃるのよ。


「ずるーい。あたしだってノーム様にお会いしたいわ」


 抜け駆けは許さないわよ。むしろあたしだけがいくべきね。


「おいおい。目的忘れるなって。お前が行ったら、また王やノームが挨拶にくるから先方に迷惑じゃね」


 またしても呼び捨てにするだなんてね。何度言えばわかるのかしら。


「ノーム様よ!」


 ん。ノーム様といえば……


「……あ。マアマさんから、ノーム様にお願いはできるかしら?」


 ウンディーネ様とお話できたのなら、ノーム様ともお話できるはずよね。


「おっけー」


 マアマさんから王様に直接話していただくことには不安があるわ。でも、ノーム様を介していただければ差配を期待できるわね。


「助かります。言わなくてもわかっておられるのでしょうが。一応説明しますね」

「あい」


 あたしの思考はマアマさんに筒抜けだわ。口頭で説明する必要はないのよね。

 とはいえ、マアマさんの口調や、遊びで協力されていることを考慮すると、念のためにも伝えたい部分を明確にしておくべきなのよ。


「道中で捕らえた賊を、刺客のときのように拘束して、すべて送りつけたいので許可をいただきたいと」


 こんなもんよね。


「承知いたしましたベルタ様。刺客はすべて更生しました。今後の賊もそうなのでしょう。喜んでお受けします」


 ……マアマさんが王様のまねをされたのかしら。声も話し方もそっくりよ。どうして突然にそんなまねをされるのかしら。


「へ?」

「は?」


 ……きっと新しい遊びなのよね。でも妙な反応だわ。意図を確認するべきかしら。


「マアマさん。王様の声になっているわよ」

「は。マアマ様を通して、ベルタ様と会話できる、と伺いましたが?」


 ぶ。まさか、本当に王様なのかしら。

 どういうことなのよマアマさん。あたしはマアマさんからノーム様を介していただくようにお願いしたわ。


「そんな話は聞いていないわよ!」

「こ、これは申しわけありません」


 ちょ。ち、違うのよ。マアマさんへのつもりが王様に怒鳴りつけちゃったわ。


「あ、すいません。王様じゃなくて、こっちの話です」

「そ、そうですか」


 やばいわね。マアマさんに話しかけると、そのまま王様へ届いてしまうのだわ。


「それで。賊はどこへ送ればいいでしょうか」


 まずは王様とのお話を済ませてからよね。


「闘技場を、常時空けるようにしておいてもよいのですが」

「ノーム様の障壁の? それはもったいないです!」


 送るかどうかもわからない賊専用にするだなんてね。ノーム様からの恩恵はみんなで享受すべきものなのよ。


「は。では…… 刺客を捕らえていた(ろう)に、直接送っていただくことは可能でしょうか?」


 更生するまで(ろう)に入れるべきだし異論はないわね。でもあたしは(ろう)に行ったことがないのよ。それでもマアマさんにはわかるのかしら。


「マアマさん。刺客が捕らえられていた(ろう)ってわかる?」

「わかるー」


 わかるのね。本当に世界中のすべてを認識しておられるのだわ。


「では(ろう)に直接送らせていただきます。事前連絡なしで送りこんでも大丈夫でしょうか?」


 送る頻度がわからないのよね。送るたびにお手間を取らせたくはないわ。それに(ろう)ならいきなり放り込んでも大丈夫だと思うのよね。


「はい。刺客のときのように、拘束していただけるのであれば、被害が出ることはないでしょう」


 拘束は当然ですね。そこはマアマさんなら完璧のはずよ。


「了解しました。ではお手数をおかけしますが、よろしくお願いします」


 了承していただけてよかったわ。これで賊の対処手段は一段落――


「ところで。お渡しした小切手を使われておりませんよね。やはり御不満でしたか」


 あちゃ。やっぱり使わないと気になるわよね。


「とんでもないです。とっておきってことで、いざというときに備えて温存しております」


 ここは社交辞令で答えておくしかないわよね。

 うそはいけないと思うわ。でも、相手を傷つけるとわかっている事実を告げることは避けたいのよ。この件なら、うそでも迷惑をかけたりはしないしね。

 きれいサッパリと忘れていました、なんて正直には言えないわ。


「でしたらよかった。てっきり、リュックの底に放りこんで忘れてしまわれたのではないか、と不安でした」


 図星すぎて冷や汗が流れるわ。


「あ、あはは。まさか。そんな」


 マアマさんが王様に漏らしている可能性も0ではないのよね。


「では。ほかに御用がなければ、執務に戻らせていただきたいのですが。よろしいでしょうか」


 ほ。漏らしてはいなかったみたいね。

 やっぱり小切手の使い道は考えるべきかしら。ていうか、うそから出たまことにすればいいわよね。いざというときに使えばいいわ。


「はい。突然お願いして申しわけありませんでした。失礼します」

「おしまいー」


 つ、疲れたわ。


「ハァ。マアマさーん。ノーム様にお願いって言ったのに~」


 これじゃ不意打ちですよ。王様に怒鳴りつけちゃうだなんて酷いことをしてしまったわ。


「ノームのところにいたー」


 王様がノーム様と御一緒していらしたということかしら。


「あぁ。それでノーム様が、直接話せと差配なされたのね。それならそれで教えてほしかったです」


 状況は理解しましたよ。でもひとこと説明が欲しかったわ。


「あはははは」


 とはいえ、これでまたひとつ学べたわね。言伝を頼まなくても、誰とでもあたしが直接に会話できるんだわ。


 さて。ほかに検討漏れはないわよね。賊対策はこれで万全かしら。


「これで今後はどこでなにが出ても、拘束して(ろう)へ送るだけで完了か。準備しておくと気楽ね」

「だな」


 ここまで準備できたのはアルフの提案のおかげよね。やっぱりアルフは成長していると思えるわ。


「あんた。普段から結構考えるようになっていない? 能天気卒業かしら」


 自覚はしているのかしらね。


「そうかな? 単にパターン化しているからかな。考えなくても思いついているだけじゃねぇかと」


 たしかに似たようなことの繰り返しだものね。そもそも能天気は簡単に卒業できるものではないはずだわ。


「なるほど。でも嫌なパターンよね。抜け出したいわ」


 さぁて。ついに町へ着いてしまったわよ。

 あまり活気のない町ね。行き交う人の数はそれなりなのに、明るさがまったく感じられないわ。


「辛気くさい町だな」

「そういうことは思っても口に出さないの。それに一晩泊まるだけなのよ」


 男の人が向かってくるわ。活気のない町の雰囲気に合わない満面の笑みね。下卑た笑いで嫌悪感を覚えるわ。裕福なのかしら。肥え太った様相で、異常に派手な服を着ているわ。


「はじめまして。私は商いをしている者です。突然ですが娘さん。よろしければ、その額のティアラを」


 まだ町に入った直後よ。どんだけ目ざといのかしら。


「これは売りものではありません」


 まぁ交渉したいだけなら断るまでよ。


「そこをなんとか。どうしても、ということであれば力ずくにならざるを」


 やっぱりそうなるわよね。


「早速きたな」

「ハァ。マアマさんお願いね」


 打合せ済みだから振るだけだわ。ほいっと。

 結構な数を捕らえたわね。商人だから傭兵(ようへい)を隠れさせていたのかしら。

 想定していたとはいえ、町へ入って早々に襲われるとは気が滅入るわ。マアマさんの発光時でも、賊が襲ってきたのは町を出てからなのよ。

 先が思いやられるわね。


「さて。あんたたち」


 とりあえずは説明をしてあげないとね。

 って、高貴そうな婦人が近づいてきたわ。まさかこの人もかしら。


「そこの娘。よい品を身に着けておるな。私に差し出すがよい」


 人ってここまで高慢になれるものなのね。


「これは譲れません」


 と言っても引き下がるタイプじゃないわよね。


「ほぉ。奪い取られたいと申すか」


 やっぱり言うだけムダだったわ。


「マアマさんお願いね」


 次々に面倒だわ。ほいっと。

 今度は従えていた人たちだけみたいね。貴族ぽいし私兵かしら。

 それにしても商人の次は貴族だなんてね。表向きは賊ですらないわよ。それがいきなり町なかで立て続けに襲ってくるだなんてね。血の気が多すぎるわよ。


「さて」


 じゃあ、まとめて説明するわよ。

 ん。いつの間にか背後に誰かが立っているわ。顔を隠して刃を構えているわね。


「娘。そのティアラを差し出せば命までは盗らぬ」


 まったくもう。ほいっと。

 ようやく賊らしい賊がきたわね。これまた結構な数よ。とはいえ(うれ)しいわけがないわ。

 この町がおかしいのやら、ティアラの魅力が高すぎるのやら、うっとおしいわね。


「あぁもう。説明している暇もないわ」


 説明しようとすると新手が湧いてくるのよ。もう説明する気が起きないわ。


「いいんじゃね。説明なんて。更生するまで拘束が解けないってくらいだろ。向こうでやってくれるさ」


 そうよね。マアマさん、まとめて(ろう)へお願いしますよ。ほいっと。


「賊がくるとは思っていたわ。でも、商人や貴族まで。町なかで、どうどうと襲ってくるとは思わなかったわよ」


 3回も相手をしているのに警備兵も見かけないわよね。どうなっているのかしら。こんなに治安が悪いのなら巡回を増やすべきだわ。


「完全にティアラに気を取られていたな。ガルマさんにも気づいていなかったみたいだ」


 たしかに魅入られるほどに美しいのよね。周囲が目に入らなくなる気持ちはわかるかしら。


「欲深き者ほど、強く魅了される。命がけでも奪いにこよう」


 魅了ねぇ。マアマさんが光っておられたときとは違って、恐怖で(おび)えているわけではないのよ。ならまだマシに思えるかしら。

 とはいえ命がけでくるだなんてね。奪えたところで死んでしまっては手放すしかないのよ。理解しがたいわね。


「精神鍛錬の効果を見る方法なんてないと思っていたわ。でも今は鍛えられていることを実感する思いよ」


 精神ストレスが半端ないのよね。猛烈に暴れたくなるわ。


「まだマアマがいるだけマシだと思うぞ。いなかったら、どうなると思う」


 それはぞっとするわね。

 マアマさんがいなかったら、即座に瞬間帰還器で逃げるしかないと思うわ。おそらくは逃げた先の町でも、すぐに同じ状況に陥るわよね。詰みだわ。


 って、また近づいてくる人がいるわね。

 今度は警備兵を連れているみたいよ。これならまともな人なのかしら。身なりのいい男の人ね。


「娘よ。われはこの辺りの領主である。どうだ。そこの豪邸と、額のティアラを交換してやろうではないか」


 萎えるわ。結局中身は同じなのね。


「お断りします」


 まぁ警備兵を連れているくらいなら横暴なまねはできないわよね。


「この町では警備兵でもわれに従う。おとなしく交渉に応じるほうが得策だぞ」


 警備兵が敵ですって。困ったわね。


「ハァ。警備兵まで拘束しちゃうとなぁ。この町の治安がまずいわねぇ」


 町の人たちを危険な目に合わせるわけにはいかないのよ。


「いいんじゃね。こいつの言いなりの警備兵なんて。治安を悪化させているだけだろ」


 それもそうね。ここはもともと治安が悪いのだわ。あたしが絡まれている間にも警備兵はこなかったものね。


「官憲の腐敗かぁ。せっかくガルマさんが、今の人を評価してくれていたのに。ダメな人はダメすぎなんだわ」


 町へ入る前に王様とお話したばかりなのにね。上に立つ者として、理想ともいえる姿勢を貫いておられる王様よ。

 その直後にコレは効くわ。怒りを通り越して(あき)れ返るわね。

 地方領主の地位にあるにもかかわらず、嘆かわしい行為に及ぶ下卑た存在だわ。しかも人を護るべき官憲を悪用しているのよ。こんなモノが上に立つだなんて、あってはならないわ。


「なにをごちゃごちゃ言っておる。われは忙しいのだ。さっさと差し出すがよい」


 ここまで堕ちては、もはや人としては扱えないわよね。魔物と変わらないわ。

 それでも一応は犯行に及ぶことを確認してから拘束するべきかしら。


「領主まで捕らえるとなると。先に王様にお願いしておいたのは大正解だったわ」


 こうして挑発したほうがさっさと終わらせられるわよね。


「われを捕らえる? 王だと? 小娘がなにをほざきおるか。もうよい。警備兵よ。こやつらを捕らえよ」


 はい確定よ。ほいっと。

 これまた大量に捕らえたわね。数える気がおきないほどよ。警備兵以外にもいっぱいいるわ。

 あとは(ろう)へ送るだけとはいえ、やっぱり警備が気になるわね。送る前になにかを聞き出したりする必要があるのかもしれないわ。


「さぁ。どうしようかしら。警備兵の代わりを考えないと」


 んーむ。一番手っ取り早くて確実なのは王様に頼むことよね。でも、この程度の些事(さじ)を相談すべきお方ではないわ。

 警備兵の補充を要請すべきなのかしら。とはいえ警備兵の派遣もとなんて知らないのよね。大型獣と同様に、軍隊に頼るべきなのかしら。


「もしかしたら。考えなくてもいいかもな」


 やっぱり能天気が治ったわけではないのね。先を考えないにもほどがあるわ。


「なにを言っているのよ。町の人たちが危険にさらされるわ」


 犯罪者はほかにもいるはずよ。賊や獣が町を襲ってくる可能性だってあるわ。


「その町の人たちを見てみろよ。なんかおかしくね?」


 へ。町の人たちがどうかしたの……


「げ。なによこれ。マアマさんが光っていたときでも、ここまで酷くはなかったわ」


 ひとり残らず立ち止まって、あたしを凝視しているみたいよ。かなり気味が悪いわ。

 すぐに襲ってくる様子はないわね。でもあたしを見つめる雰囲気は、捕らえた連中と同じ感じだわ。

 というか。あんな遠くから、こんな小さな宝石に魅了なんてされるものなのかしら。見えているのかどうかすら怪しいわよ。


「ティアラは直接ウンディーネがつくった品だ。加えて武器ではなく装飾品だ。魅了の度合いが違う」


 マアマさんの発光時よりも、やばい状況だとおっしゃるのですか。魅了が恐怖に匹敵、もしくはそれ以上の危険な状態ということよね。そこまで魅了させるだけの力がこのティアラに……


「さすがはウンディーネ様。って喜んでいる場合じゃないわね」


 これほどまでに魅了してしまう魅力というのは問題だわ。


「お主を変だと言うほど適合者がいなかったのだ。おそらくは出会う人のほぼすべてが魅了されるであろう」


 うはぁ。ほぼすべての人ですか……

 この町の人々を見れば疑いようがないわね。今後行く先がすべてこうなるのかしら。


「精神鍛錬どころじゃないわね。出会う人すべてを犠牲にするわけにはいかないわよ」


 ウンディーネ様の力は、人には強力過ぎたんだわ。ティアラを置いていかれたのもやむなしだったのですね。


「今の話だと。魅了の力は光じゃなくて、ティアラ本体にあるんだよな。だったら帽子でも被って隠せば?」


 まぁ、魅入られるような美しさがあるのは正面の宝石だけね。


「ウンディーネ様のティアラを隠すなんて…… うぅ。でもほかに手はないかぁ」


 ティアラを隠す意図を、ウンディーネ様には誤解されたくないのよね。見た目が気に入らないから隠している、だなんて絶対に思われたくはないのよ。


「もともと、外して持ち歩く予定だったんだろ。しまっていれば、隠しているも同然じゃん」


 大切にしまうならともかく、装着しておきながらも隠していては誤解されかねないわ。効果が欲しくて装着しつつも、見た目が気に入らないから隠しているだなんて思われかねないのよ。


「額にしまっているって言い訳? 無理筋だと思うわ。でも、わかっていただくしかないみたいね」


 実際に見た目の問題とはいえ、その問題が魅了の力にあることを、伝える手段が欲しいのよ。


「魅了されることも自業自得」


 そうはおっしゃいますがこのままでは、人の社会でははた迷惑ですよ。

 とはいえ、ガルマさんはそんなことを問題視されないのかしら。


「そうなのですがねぇ。賊ならまだしも、襲ってこない人にまで影響してはつらいのです」


 ガルマさんのおっしゃる意図は、あたしにも理解はできるわ。

 ティアラが無差別に魅了しているわけではないのよ。我欲に駆られた人が、勝手に魅了されているだけなのよね。

 とはいえさすがに、ほぼすべての人が対象になるのは厳しすぎるわ。影響を抑える対策が必要よ。

 ん。ほぼすべての人が対象なのよね。アルフは魅了されないのかしら。


「そういえばアルフ。あんたは平気なの?」


 初めてこのティアラを見たときからずっとよ。平然としているわよね。


「俺? きれいだなって思っているぞ」


 ふむ。要はあたしと同じなのかしら。


「魅了されない、ということは。あんたも変なのね」


 たしかに食欲を除けば、我欲といえるような言動に覚えがないわ。


「そうかもしれない。でも違う気がする」


 どっちなのよ。もう少し具体的に言えないのかしら。


「なにがよ」

「俺の場合。ベルタのものは、俺のものって感じ。だから気にならない、みたいな?」


 ちょ。とんでもない屁理屈(へりくつ)がきたわ。ティアラは既にアルフのものも同然だ、と豪語しているわよ。

 たしかに、そう思っているのであれば魅了されないのかもしれないわね。でも、そんな屁理屈(へりくつ)で納得するわけにはいかないわ。


「なによそれ! あたしのものは、あたしのものよ」


 一緒に旅をしているからといって、持ち物の所有権までもが一緒にはならないわ。


「いや。そうなんだけれども。俺の荷物も全部持ってくれているし。お前のものは、俺にも使ってくれているし」


 む。実質的に一緒になっているということかしら。


「……言われてみれば。どっちが持っていても同じような状況ね」


 実質的に専用となっているものは装備品くらいかしら。ほぼすべてのものをあたしが運んでいるのよね。

 あたしの装備品であるティアラもアルフに恩恵を与え続けているわ。マアマさんへの要望も、変なことでなければあたしが拒むことはないのよ。

 なるほどね。アルフの感覚では、すべてが自分のものも同然なんだわ。


「だから俺が魅了されないことは、参考にならないのかも」


 たしかにね。アルフがティアラを装着しても害になる可能性があるわ。なら欲しいとすら思わないのかもしれないわね。


「となると帽子かぁ。麦わら帽子ならあるわ。でも…… やっぱ動き回るなら。これよね」


 手拭いを鉢巻にするわ。畑仕事のときには、いつも巻いていたから手なれたものよ。


「いいんじゃね。明るいままだから、光は透過しているぽいし。癒しの効果も感じる」


 あら本当だわ。周囲の明るさは変わっていないわね。


「この光は透過しちゃうのか。どうしよ。寝るときに邪魔よね」


 装着している間は勝手に光っちゃうのよ。


「光といってもまぶしいわけじゃねぇし。月明かりみたいな感じだろ。大丈夫じゃね」

「そっか。あたしのせいでごめんね」


 寝るときには暗くするのがマナーよ。そんなことすらできなくなっちゃうだなんてね。アルフには旅が終わるまで迷惑をかけ続けることになっちゃうわ。


「気にしなくていいと思うぞ。むしろ光の効果で快眠できそうだ」

「あはは。だといいな」


 寝るときには布団をかぶれば発光を遮ることができると考えていたわ。でも鉢巻をしても光が減衰したようには見えないのよね。布団でも同じはずだわ。

 今回もアルフの言葉通りに、快眠できることを祈るしかないわね。


「町の人たちも大丈夫そうだな。光が出ているから目立ってはいるが、魅了は解けていそうだ」


 みんな歩き出しているわね。よかったわ。


「怖い雰囲気はなくなっているわね。問題のひとつは解決か」


 まだあたしのほうを気にしている人もいるにはいるわ。とはいえ、魅入られたような不気味な雰囲気はないのよ。おそらくは発光が気になっているだけだわ。

 光っているから注目は浴びるのよ。だから精神鍛錬の効果は期待できるわね。


「まだなんかあるのか」


 大ありよ。目の前に捕らえている連中のことを忘れないでよね。


「警備兵よ」


 まだ(ろう)へ送っていないのは、その問題が解決していないからなのよね。


「あぁ。襲ってくるような連中は捕まえた後だから、大丈夫だとは思うけれども」


 そんなに楽観はできないわ。だから警備兵の補充方法を検討している途中だったのよ。

 あら。(うわさ)をすれば影、と言わんばかりに警備兵が寄ってきたわ。

 不審者を見るように怪訝(けげん)そうな顔をしているわね。まぁこの状況を見れば不審に思うかしら。


「お前たち。そこでなにをしている。通りに大勢で寝転がってなにを…… げ。クソ領主」


 あたしたちじゃなくて、捕らえた連中に寄ってきたのね。

 あたしがやったと知らなければ当然かしら。道端に大勢が寝ているのだものね。警備兵としては不審に思うはずだわ。

 あたしたちをただの見物人だとでも思っているのかしら。領主のほうだけを見て首をかしげているわね。


「お。捕まっていない警備兵もいるじゃん」


 うんうん。警備兵が全滅していなかったのは救いだわ。


「今クソ領主って、おっしゃいましたよね? この方たちの腐敗をご存じなのですか」


 捕らえられていない時点で、領主の仲間ではないわ。

 ……答えづらそうにしているわね。


「……あぁ。警備兵のほとんどが金に釣られて、逆らえないのだがな」


 あちゃ。ほとんどなのね。やっぱり補充は必要そうだわ。


「でも捕らえられていないってことは。おっちゃんは釣られていないんだな」


 ……おっちゃんというのは可哀想かしら。どんな顔をすべきか困っているみたいよ。こんな言い方をされたら怒るべきか笑うべきか悩ましいわよね。


「おっちゃん言うな。お兄さんと呼べ。どうも話が見えない。お前たちが捕らえたのか? 一体どうやって」


 やっぱりそうきますよね。これが一番面倒なのよ。


「説明がややこしいので、察してくださると助かるのですが。領主とその仲間を捕らえています」


 目線を送るだけでもガルマさんに責任転嫁されかねないのよね。いつもそれじゃダメなのよ。なんとか自力で説明したいわ。

 とはいえ、マアマさんについて説明するのはかなり手間なのよね。官憲の腐敗を知っているのであれば、状況から察してくれないかしら。


「状況からして事実を言っているとは思う。だが非現実的すぎてな。法的にどうしたものか」


 察してはもらえたみたいね。でも警備兵の立場としては説明の材料が必要ということかしら。まぁ当然よね。

 困ったわ。マアマさんについての説明をするしかないわよね。実演して見せるのが早いかしら。それだと妙な兵器だと誤解される可能性もあるわよね。誤解を生まないように言葉で説明するのってむずかしいのよ。


「我がやった、ということにしておけ」


 あ。見かねて助けてくださったのね。お優しいわ。


「げ。竜人…… 様。聞いていたよりは随分と優しい粛清だが。竜人様の差配となれば説明は可能だ」


 一発で納得してもらえたわ。

 ありがたいとはいえ、やっぱり毎回これじゃダメよね。


「ガルマさん。毎度申しわけありません」

「よい」


 甘える気はないのですが、いい手が見つからないのですよ。あたしの説明では時間をムダにしているだけなのよね。


「王都だけでなく、現場での説明の簡略化も考えておくべきだったな」


 そうなのよ。むしろこっちのほうが重要だったわ。

 あら。納得したはずの警備兵がまだ悩んでいるみたいよ。ほかにも問題があるのかしら。


「しかし領主を裁こうにも最高権力を持っている。どう処分したものか」


 やれやれだわ。領主は司法までをも懐柔していたというのね。


「あぁ。更生するまでは動けないぞ。放っておけば自分から裁かれにくると思うぞ」


 うんうん。既にマアマさんが裁きを下したあとなのよね。いまさら司法の裁きは形のうえでしかないわ。


「なにをバカな…… とも言えぬ状況か」


 理解しがたいとは思うわ。でもこれから理解してもらうわよ。

 そもそもあたしは、始めからこの地の司法に任せる気なんてないのよね。今まで領主をのさばらせていた司法なのよ。ここにまとめて捕らえているはずだわ。


「領主ともなれば。やはり王様に、直接裁いてもらったほうがいいわよね。送ります」

「へ」


 マアマさん、また(ろう)へお願いしますね。ほいっと。


「き、消えた」


 呆然(ぼうぜん)としているわね。まぁ説明されていても驚くのは仕方がないかしら。

 それでも、これで理解もできたわよね。


「王都の(ろう)へ送りました。王様には説明済みです。あとはこの町の警備の補充をお願いします」


 聞こえているのかしら。固まっているわよ。突っついたら気づくかしらね。うりうり。


「あ、あぁ。クソ領主さえいなくなったなら、どうにでもなる。ありがとう。感謝するぞ」


 正気に戻ったみたいね。()き物が落ちたような笑顔だわ。

 お礼を言いたいのはあたしもよ。警備兵が全滅していては今後の対処に困っていたのよね。


「こちらもあなたが残っていてくれて助かりました。警備兵がいなくなっては町が心配ですし」


 来てくれなかったら軍隊を呼び出していたかもしれないわ。


「大丈夫だ。2割くらいの警備兵は金に釣られていないはずだ。後のことは心配しないでくれ」


 8割くらいが釣られていたのね。たしかにほとんどだわ。よくも今まで耐えてきたわね。


「2割で大丈夫ってか。にいちゃん、かっけーな」


 本当にね。自信に満ちあふれているかのように見えるわよ。なにか根拠があるのかしら。


「今までは、領主と8割くらいの警備兵が敵だったんだぜ。余裕で任せろって言えるぜ」


 あぁ。そりゃそうよね。

 本来は頼りになるべきはずの味方が、敵であったのよ。表向きは味方なんだから、攻撃することもかなわないわ。明確な敵を相手にするよりも、(はる)かに厄介だったわよね。

 それがいなくなったのだから、むしろ警備は強化された状況だといえるわ。


「どの町も、そんな感じなのか」


 む。ここだけの問題だと考えるほうが不自然よね。鬱になるわ。


「いや。俺も詳しくは知らない。だがよその腐敗は聞いていないな」


 あら。そういえばここは異様に活気のない町だったわね。ティアラのせいだと思って気に留めていなかったわ。とすれば腐敗はここだけの問題なのかしら。

 それなら、よその町に救援を要請すればよさそうよね。どうして我慢を続けていたのかしら。

 いや。8割も懐柔されるようなら、救援にきた人たちまでも懐柔される危険があるわ。被害の封じ込めを優先したのかしらね。


「ここはたまたまか。ティアラをもらって即ここへ来るなんてな。ついているのか、いないのか」


 あはは。解釈次第でどっちにもとれるわ。


「まったくよね。それにしても。結果的には町を救えたのよ。さすがはウンディーネ様――」

「それは、もういいから」


 どうにもアルフには感謝の気持ちが足りないわね。これほどの力を目の当たりにしておきながら…… 

 あ。そうだわ。アルフは記憶を失ってからの半年でガルマさんに同行していただいているのよ。むしろ強大な力を見ることがふつうになっているのよね。ウンディーネ様の偉大さがわからなくても仕方がないのかもしれないわ。

 この件については後々じっくりと教えてあげることにするわよ。


 官憲の腐敗が世界に蔓延(まんえん)しているわけではなさそうよね。それだけは幸いよ。今までに通った町では活気があったから、おそらくは大丈夫なのよね。


「では俺はほかの警備兵に状況を説明しに行く。いい旅路を」

「おぉ。がんばれよー」

「ありがとうございました」


 警備兵が歓声をあげているわ。スキップを混ぜながら走り去ったわよ。よっぽど(うれ)しかったのね。お陰でこっちの気も少しは晴れたわ。


「さて。賊を捕らえた後の説明方法を考えておきますか。とはいえ、いろいろな状況があるだろうし……」


 いろいろな状況を想定して説明のパターンを用意しておくべきかしら。面倒ね。


「いっそ、捕らえるところを(ろう)にしちまえばよくね。説明の必要がなくなるだろ」


 おおう。簡略化は能天気の基本なのかしら。アルフが頼もしいわ。


「あはは。それでいいか。面倒だし。官憲の仕事は、あたしたちの責任じゃないものね。丸投げしますか」


 そうよ。賊に襲われることはあたしのせいじゃないわ。襲ってくる賊が悪いのよ。それに対処すべきは官憲だわ。

 あたしは賊に説教をしたいわけではないものね。初めから(ろう)へ拘束する案には大賛成だわ。


「じゃあマアマさん。今後は賊を捕らえたら、そのまま(ろう)へお願いします。更生可能な人の場合だけね」

「おっけー」


 ようやく町に入ってからの騒動が片づいたわね。

 既に辺りは暗くなっているわよ。ティアラの発光で視界は確保されているから気づかなかったわ。

 あれ。考えてみるとおかしいわよ。

 光が透過するのなら、反射はしないはずよね。周囲を照らし出すことはできないはずだわ。逆に、透過せずに反射しているとしたら、出ているはずの影が見えないわよ。

 透過していても、していなくても、説明がつかないわ。どういうことよ。


「今晩は、この町が一番安全だろうし。宿を決めようぜ」

「そうね」


 光の透過の謎については後回しでいいかしら。喫緊の課題ではないし、アルフたちを待たせておくわけにもいかないわ。

 ちょうど近くに宿があるわよ。そこでいいわよね。


「今晩は。3人の夕食と1泊をお願いできますでしょうか」

「お。もしかして。クソ領主を退治してくれたのは、あんたらかい。警備兵が触れ回っていたぜ」


 宿の主はご機嫌ね。あたしたちを待っていました、とばかりの様相だわ。


「あはは。クソ領主に退治って酷い言いようですね。みなさんにとって害獣みたいな存在だったのですか」


 領主に強い不満があったのは、警備兵だけではなかったみたいね。


「あぁ。クソ領主というのは、あいつの固有名詞だと思うぜ。ははは」


 そうであって欲しいわ。あんなのには二度と遭遇したくないわよ。思い出しただけでも気分が悪くなるわ。


「更生するまでは戻ってこれないから、安心していいぜ」


 そういえばさっき王様とお話したときに、刺客が全員更生したとおっしゃっていたわよね。更生するまで拘束する方針で間違いはなさそうだわ。とりあえずは死人が出ていなくて一安心よ。


「お。頼もしいな。礼と言っちゃなんだが、今晩はおごるぜ。好きなもん注文してくれ」

「おぉ。肉。肉を出してくれ」

「ははは。まかせとけ。とびっきりの肉を食い放題だ」

「ウンディーネ様ばんざーい」


 アルフったら、ここでようやくウンディーネ様なのね。今までずっと光の恩恵を浴びてきて、この町を救われるほどの力を見てきたにもかかわらずよ。


「アルフは食事が絡まないと感謝しないのね」


 町のあちこちから歓声が聞こえるわ。


「これだけ喜んでもらえるなら。町に入るときはティアラを隠さないほうがいいのかしら」

「かもな」

「でも。一時的にでも、ふつうの人まで魅了しちゃうのはよくないわよね」

「かもな」


 適当な返事ね。食べるほうに夢中なのかしら。あたしにとっては大切な話なのにね。


「どっちがいいのよ」

「俺に聞くなよ。俺たちは世なおしの旅をしているわけじゃねぇ。好きにしていいんじゃね」


 ふむ。そうね。今回はたまたま救えただけなのよ。


「うーん。不意に魅了されると事故を起こしたりもするだろうし。やっぱり隠すべきかぁ」

「かもな」


 仕方がないわね。寝ながらひとりで考えるわ。

 あぁ悶々(もんもん)とするわね。ティアラを隠すべきか否か、明確な答えが…… 出な…… くぅ。


 あら。……朝なのね。

 アルフの言うとおり、ティアラの光の効果ですぐに眠れたみたいだわ。睡眠を妨げなくて本当によかったわよ。光の範囲が広いし遮れないから周囲の部屋にも影響しちゃうのよね。


 町は朝から(にぎ)やかよ。あそこの宴は昨晩にも見たわね。夜通しで開いていたのかしら。

 町が活気づいたのはよかったわ。あたしも懸念をいくつか解決できたし結果オーライね。さぁ旅を再開よ。


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