おまけ:うそで染まる世界
これは神殿跡なのかしらね。かなり長い間、廃墟と化したままのようだわ。人影はないし殺風景よ。
アルフはまるで荒野を行くがごとくね。周囲を気にも留めずに先導しているわ。あたしは神殿が廃れた理由が気にかかるわね。
「廃れてしまっていますが…… ここは竜神様を祭る神殿だったのでしょうか」
こんなになってしまってはガルマさんもお寂しいのではないかしら。
「いや。妄想の神を祭っておったようだ」
え。妄想の神ですって。
さすがにそれはありえないと思うわ。あまりにもバカげたお話よ。いかに人が愚かとはいえ、存在しないものを神として祭るだなんてね。
「いもしない神を祭っていたのですか」
信じがたいとはいえ、ガルマさんがおっしゃる以上は事実なのよね。
「おると信ずる者どもがおったのであろうな」
ならば、いると信じた根拠があるはずよね。でも妄想に根拠など存在しないはずだわ。ということは…… 虚偽の根拠で信仰を広めようとした者がいたということかしら。
「広めた側は、いないことを知っていたのですよね」
意図的に妄想の神を祭り上げていたのだと解釈するほかないわ。
「そうであろうな」
目的がわからないわ。妄想の神に、なにを祈るというのよ。祭れば恩恵が得られるとでもいうのかしら。
「そんなことをして、なんの意味があったのでしょうね」
時間のムダしかないわよ。しかも自分があがめるだけならともかく、無関係な人にまで妄想を吹き込むだなんてね。はた迷惑にもほどがあるわ。
「寄付金を集めたり。権力闘争に利用したり。道を違えた者にとっては大きな意味があろう」
あぁ、そういうことですか。道を違えた者、ね。
信者であれば、神の啓示だというだけで、なににでも従うはずだわ。その神が妄想であれば、信教を広めた側で、幾らでも都合よく啓示を捏造できるものね。
「神を騙った詐欺ではないですか」
あたしは、神に相当するガルマさんやマアマさんに同行していただいているのよ。直接にも恩恵を授かっている身としては許しがたいわね。
「善意と称して祭られたものもおるぞ。人は弱いゆえに、なにかに頼らねば生きてゆけぬ、とかな」
なによそれ。詐欺行為を善意などと、詭弁にもほどがあるわ。
頼れもせぬ妄想の神に頼ったところで、結局は生きてゆけぬことに変わりはないわよね。努力する機会を奪われるだけだわ。
「そんなの善意じゃありませんよ」
なにかに頼らねばというのなら、自分が頼られる存在になればいいわよね。妄想の神を祭り上げることは神への責任転嫁でしかないわ。
「人が勝手に善だと称しておるのだ。我は知らぬ」
ハァ。そうだったわ。善悪は人が勝手に決めているだけなのよね。実質的に、善悪とは妄想の神と同じなんだわ。善悪もただの信仰にすぎないとおっしゃっているのよね。
でもよりにもよって、神を騙るなどという行為が、神に許されてもいいわけがないわ。
「偽の神が祭られているなんて。本物の神として、竜神様はお怒りにならないのですか」
それこそ粛清すべき対象だと思いますよ。
「偽の神に騙されるのは当人の問題だ。自身で考えて判断することを怠った結果だ」
ぐ。たしかに騙される側にも非はあると思うわ。少し考えれば誰にでもわかることなのよ。
とはいえ、それでも問題の根源は騙すほうよね。
「騙す側は放っておくべきではないと思います」
騙される側にも問題があるとはいえ、騙す側さえいなければ発生しない問題なのよ。神を冒涜するような者を放置しても、害にしかならないはずだわ。
「そう考えた者が対応すればよい。それこそが成長の機会」
あ。そういうことですか。
偽の神への信仰は、竜神様から赦されているというわけではないのね。成長の機会とするための苦難として、人が自ら対処するまでは放置されているのだわ。
意図は理解できるわね。でも神殿跡の規模から見ると、相当数の信者がいたはずよ。こんなに成長してしまった信仰に、個人で対抗なんてできるのかしら。
「騙す側が上手で勢力を持ってしまうと、騙されない側は抵抗できなくなりませんか」
騙す側は信者を自由に動かせるのに対して、騙されない側が結束しているとは限らないわ。個別に排除されてしまいそうよ。
「そのときには導きが示されよう。人の世界は滅ぶことになる」
……やっぱり、そういうことだったのね。
人の世界を何度も滅ぼしてきた、とガルマさんから聞いてはいたわ。でも、おかしいとは思っていたのよ。道を違えた人がいるからと、世界ごと滅ぼしてしまうだなんてね。まともな人も残っていたはずだもの。
でも今の説明でわかったわ。滅ぼされた世界は、まともな人が残らない状況にまで、陥ってしまっていたということなのよね、きっと。道を違えた人の手によって、まともな人が淘汰されてしまっていたんだわ。
「そうならないようにしてほしいのですがね……」
「そうならないようにすればよいのだ」
ガルマさんの言い分はごもっともだわ。でもあまりにも重いのよ。
たしかに、人が自ら勝手に選んだ破滅への道なのよね。竜神様が指し示したわけでもないのに、どうにかしてくれと思うのは筋違いだわ。自業自得なのよ。
でも、もう少しやりようがないのかしら。ハァ。
神殿跡を抜けると墓場が広がっているのね。
アルフはまったく気にせずに先導を続けているわ。あたしたちの会話を聞いてはいないのかしら。少なくとも興味はないようね。
ここにはきっと、妄想の神を信じていた人たちが眠っているんだわ。
「いない神を信じて葬られた人たちの霊は浮かばれませんよねぇ」
死後の救済を願って信仰していたのではないかしら。でもいざ死んでみれば、迎えてくれるはずの神はいませんでしたよと。酷い話だわ。
「人の死霊などおらぬ」
「へ」
身体を破壊されても問題ないはずの、竜に連なる者であるガルマさんがおっしゃると違和感を感じるわ。身体を破壊されたシイタ様とかは、霊のようなものではないのかしら。
「墓など、屍を埋めたところの目印にすぎぬ。屍は土に還るゆえ、なんの意味もない」
お墓には御先祖様が眠ると聞かされてきたのよ。それは誰も疑う余地のない常識だわ。
「では、人は死んだら完全に消えてしまうのですか」
常識ですら、不正確で半端な知識だとおっしゃるのよね。
「うむ。生前に代替の身体を用意すれば、生き続けることは可能だがな。先日のホムンクルスのように」
つまり死んだら消えるというのは、今の身体が死んだらという意味ではないのね。じゃぁ死ってなにかしら。なにか矛盾を感じるわね。
「……それって、身体と意思が別に存在するから、意思を移せるってことではないのですか?」
「そのとおりだ」
ただ肯定をされてもますます矛盾は強く感じるわ。
「ならば、身体が死ねば、意思が霊になるのではありませんか?」
霊というのは身体を持たない意思なんですもの。
「人は記憶や感覚のすべてを身体に依存しておる。ゆえに身体を失うと、意思は自我を失って霧散するのだ」
つまり、あくまでも人の場合のお話なのね。
記憶のすべてを失っては考えることすらできないわ。身体が死んだ時点で生存本能すらないのよね、きっと。刺激を受ける感覚も、行動しようとする本能もなにもなく、ただエネルギーを消費して消え行くだけということなんだわ。
「……人の死霊はいない。でも、生霊はいるってことですかね」
あたしの解釈が正しければ、自我を維持するための身体が生きていれば、人でも霊になれるはずよ。
「うむ」
転生や記憶の移植が可能なのは、そういうことなのね。身体に刻まれた記録をなにかに残せば霊にはなれるんだわ。
物理的な身体を持たない精霊様や、竜に連なる者が存在される以上は、物質以外に記録を残す方法もありそうね。
ハァ。あたし、村のお墓では御先祖様の霊に話しかけていたのよ。
「村にいたころはお墓参りによく行っていましたが。まさか無意味だったなんて」
事実を知っている者から見れば滑稽よね。
「偽の神と同じことだ。自身で考えて判断した結果だ」
むっ。そうはおっしゃいますが、人として育った身では仕方のない状況だったのですよ。
「お墓に御先祖様が眠っておられるというのは常識でしたからね。疑う余地なんてありませんでしたよ」
考えようとする切っ掛けすらありませんでしたからね。騙されていたとしても、あたしのせいじゃないと思うわ。不可抗力よ。
「広めた者を罰したいか?」
ガルマさんのおっしゃりたいことはわかるわ。偽の神の信者と同じような状況に、あたし自身がおかれていたのよね。さっきは、竜神様が放置すべきではないと怒ったところなのよ。理屈のうえでは、あたしが動くべき状況のはずだわ。
「……自分でも変なのですが。そうは思いませんね。御先祖様を敬う機会にはなっていたかも」
たしかにあたしは騙されていたわ。でも、理屈のうえでは湧くはずの怒りが、なぜか湧いてこないのよね。
「偽の神とはそういうものなのだ」
騙された当人が不快だと思わないゆえに、騙す側が放置され続けるということなのね。その結果として被害は拡大し続けるんだわ。
今の世界をガルマさんが評価してくださっているとはいえ、滅びの種は残っているということなのよね。
ハァ。鬱になるわ。
「思ったよりも、すごく厄介そうですね……」
理屈と感情は別なのよ。これが愚かさというものなのよね。わかってはいるのよ。でもどう克服すればいいのかしら。
「ここで飯にしようぜい。地面はべとべとしているしさ」
アルフが座っているところって、巨大な円卓みたいね。こんな墓場にどうして…… って、それ墓石だわ。
「あんた。墓石の上に座るなんて罰当たりすぎるわよ。それに墓場で食事なんて」
なに墓石をペンペン叩いているのよ。亡くなられた方が眠って――
「アルフは騙されておらぬようだな」
「ぐ」
がぁ。そうだったわ。お墓はただの目印でしかないのよ。理屈のうえでは、あたしが間違っているとわかるわ。
でも、でも、今までの常識がぁああああ。
「嫌だったら無理にとは言わないさ。ただちょうどいいところがあったと思っただけだしさ」
墓石からは降りてくれたのね。また先導を始めているわ。
「ごめん。頭ではわかっているつもりよ。でもしばらくは無理そうだわ」
これが固定観念というものなのね。恐ろしいわ。理屈では分かっていても納得がいかないのよ。
そういえば、学ぶよりも拓くことを選択された小人さんに、ガルマさんが感心されていた趣旨をよくわかっていなかったのよね。
たしかに自力で拓くことの意義は大きいわ。でも独力では限度があるものね。先人の知恵を学ぶことも、自力で拓くことに劣らぬ重要なことだと思っていたのよ。
でも今、わかった気がするわ。
先人の知恵の代表とも言える、常識ですら誤っていることがあるのよ。しかも下手に誤りを学ぶと、固定観念として刷りこまれてしまうわ。それは自身にとって、祓いがたいほどの大きな障害となってしまうのよ。
今までは、自分で考えて判断するなんて当然のことだと思っていたわ。でも常識まで含むとなると、これはむずかしすぎないですかね……
「道を違えぬことは重要だ。だが違えぬことはむずかしい。違えたことに気づけたなら正せばよい」
固定観念は簡単に正せそうにもないから葛藤しているのですよ。それなのに、正せと軽くおっしゃってもね。つらいわ……
「……はい。常に気づければいいのですがね」
ガルマさんにとっては簡単なことなのだと思うわ。あたしはどう対処すればいいのかしら。
「常に自身で考えて判断することだ。容易とは言わぬ」
あら。簡単に正せぬことは御存知だったのですね。わかっていただけているのであれば、気分的にはまだ楽かしら。
でもガルマさんがお認めになるほど、むずかしいことなんだわ。
「ガルマさんが容易とは言わぬって厳しそうですね…… でもやるしかないんですよね」
最近はほめられることが多かったから気楽になっていたのよ。道の険しさというものをあらためて思い知ったわ。長老様の葛藤もこんな感じなのかしら。
墓場も抜けたわね。アルフはうろうろとして、どうしたのかしら…… あぁ、食事によさそうなところを探しているのね。
「グルルル……」
今の音は…… アルフの腹の虫ではないわよね。
抑えてはいるのに大きい、という感じのうなり声だわ。声というより、なにかが鳴る音にも感じたわね。
「気をつけて。獣の声がするわよ」
声からして大型獣かもしれないわ。気を引き締めて――
「おぉ。肉か」
ハァ。気を緩ませないでよね。
さて、どこにいるのかしら…… 墓場のほうに、なにかがいるわ。巨大なゴリラのような影が向ってくるわね。
「なによあれ。獣人じゃないわよね」
形は似ているわ。でも大きさや歩き方が全然違うのよ。
「亜人にしてはでかすぎじゃね。いや巨人て線はあるのか」
あんな動きのシルエットには見覚えがないわ。人型ではあるわよ。でも、あまりに大きく屈強そうだわ。直立すれば5メートルくらいは身長があるのかしら。
「グールだな」
ガルマさんは、なにが現れても動じたりはされないのよね。だから雰囲気からは、グールとやらの危険性を読み取れないわ。
「なんですかそれ」
え……
どうして即答されずに、あたしを見据えて間をおかれるのよ。
この雰囲気は…… まさか、あたしを観察しようとされているのかしら。でもそんなの、いまさら過ぎるわよね。
「主に人の死肉を食らう鬼だ」
ひ。し、心臓が飛び出すかと思ったわ。
鬼って、数々の物語に登場する凶悪な怪物よね。実在するとすら思ってはいなかったわ。物語の描写が正しいとすれば、大型獣よりもやばいわよ。
「鬼? し、瞬間帰還器で」
む。手にはマアマさんを握っているから取り出せないわ。いったん背中に…… いや、違うわよね。
「あ…… そうだったわ。マアマさんの力を借りてどうにかしなきゃね」
「あそぶー」
でも今までにガルマさんから頂いた助言を思い返すと、自力での努力をギリギリまで怠ってはならないのよ。
これも成長の機会とするためには、できるだけ自分の力で戦う必要があるんだわ。
「あたしが殴るから、マアマさんはグールの攻撃を防いでちょうだい」
「あい」
落ち着いて。マアマさんに関する説明を思い返すのよ。
マアマさんに護られていれば、なにが相手であろうと傷ひとつ負わされる心配はないわ。あたしはひたすら攻撃に専念すればいいのよ。
……とはいえ、グールの巨体を目の前にすると恐怖感が半端ないわね。
「あ、あたしだって成長してみせるわ」
こうなったらやぶれかぶれよ。力のかぎり叩き潰してみるわ。どりゃぁああああ。
「グァアアアア」
あ、当たったわ。手負いになれば一層狂暴になるわよね。早く仕留めなきゃ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
グールだって殴られたら痛いわよね。でもあたしも必死なのよ。許してとは言えないわ。でも、ごめんなさい。このままやられてください。えい、えい、えい……
「もうよい。ミンチになっておるぞ」
「あ……」
……ピクリとも動かなくなっているわね。既に勝負がついているんだわ。やったわよ。
「お主はどうも誤解しておるようだな。我は周囲の活用を促したが、戦えとは言っておらぬぞ」
「……へ?」
なにをおっしゃっているのかしら。苦難を乗り越えるとは、戦って打ち勝つことのはずよね。あたしはそれを、なしとげたのよ。なのにガルマさんからは残念そうな雰囲気を感じるわ。どうしてかしら。
「戦いを選択したことを責めておるのではない。それはそれでよいことだ」
「では?」
いい選択をしたとおっしゃるのよね。それなのに誤解をしているとおっしゃっても、わけがわからないわ。
「お主は戦士ではない。ここを守る必要もない。逃げることを選択しても、なにも問題はない」
「えー」
要は、最良の行動を考えて選択することが重要なのであり、その答えが戦闘であるとは限らないとおっしゃるのよね。
苦難に挑むことと、苦難を選ぶことは、まったく別のことだとおっしゃっているんだわ。
誤解の意味はわかったわよ。でも苦難に挑むって、あえて戦闘を選んだりすることではないのかしら。
「マアマでグールを粉砕するも、行動不能にするも自由だ。戦って倒すことにこだわる必要はない」
……言われてみれば、戦士でなければ進化できないと考えるのもおかしな話よね。戦い以外の方法で苦難を乗り越える道もあって当然なんだわ。
「なんて徒労……」
まったくの無駄骨だったとおっしゃるのかしら。
「苦難に挑み乗り越えることは貴重な糧となろう。だが最良の手を考えることは、さらに大きな糧となる」
ぐは。無駄骨どころじゃないのですね。これだけ怖い思いをしておきながら、得られるはずの糧を減らしてしまったのですか……
「あれ。人がいるぜ」
「おーい。そこの人たち。この辺りはグールが出るんで危ないですよ」
「これから俺たちが狩るんで避難…… ひ?」
「グ、グールを食っている?」
「まさかたった3人でグールを倒したのか?」
「いや返り血浴びているのはひとりだけみたいだぞ」
「やべぇぞこいつ。いったん町に戻って対策立てなおすぞ」
はっ。人が騒ぐ声がするわ。
「え?」
どうやら放心してしまっていたみたいね。ショックが大きすぎたわ。
でも今の、大勢の人たちはなにかしら。気づいて顔を上げたら、瞬間帰還器で飛んだみたいなのよね。
うぇ。あたしったらグールの骸に顔を近づけた状態で放心していたんだわ。自分でやっておきながら言っちゃ悪いとはいえ、ぐちゃぐちゃで気持ち悪いわね。
「近くの町はスルーしたほうがいいみたいだな」
「ベルタは妙な噂をつくる運命でも背負っておるのか」
なにを言っているのかしら。あたしが放心中に、さっきの人たちと、なにかがあったということよね。どうせいつものように、ガルマさんを見て逃げ出したとかだと思うわ。あたしは放心していたぽいから関係がないはずよ。
まぁ、済んだことを悔やんでいても仕方がないわよね。
「でも、いいか。逃げられないときもあるだろうし。今の経験は活かせるかもしれないわ」
少なくとも度胸はついたと思うのよ。
「うむ。お主にとって、この経験は貴重な糧となろう」
よしよし。ガルマさんから貴重な経験とおっしゃっていただけるほどなのよ。糧を得たことに変わりはないわ。今回はそれで満足しておくわよ。
「とりあえずは、その格好はマアマになんとかしてもらったほうがいいと思うぜ」
格好って…… うぇ。グールの返り血で全身がべとべとになっているわ。また気分が悪くなってきたわね。
「うぇぇ。マアマさんお願いしますー」
「おっけー」
では、きれいな姿をイメージして…… ほいっと。
うん。服やリュックに染みついた血痕まで一掃されているわ。さすがはマアマさんよ。
「マアマさんがいなかったら町にも寄れないところだったわね」
「あはははは」
この旅は水場が見つかるかすらも運任せなのよ。
「町には当分寄らないけれどもな」
む。聞き捨てならないわね。あたしは町巡りをしたいわ。
「えー。どうしてよ」
町が見えても避けるってことよね。既に町が必要ではないとはいえ、避ける意図がわからないわ。
「これでもお前に気をつかってんだぜ」
……要領をえない返答だわ。でも、あたしのためらしいわよね。まぁ、ずっとじゃなくて、当分という話だから折れておくわ。
「なんのことよ。全然わからないわ」
アルフが気をつかうだなんて喜ばしいことよ。ここは受け入れるべきだわ。でも、あたしを気遣うがゆえに、あたしに言えないようなこと、なんてあるのかしら。
「とりあえずは。あんなもん見た後じゃ食欲も飛んじまったし。もう少し進んでおくか」
え。……聞き間違いじゃないわよね。かなり衝撃的な発言だったわよ。
「アルフの食欲が飛ぶなんてことがあるのね……」
この旅でなにが起こっても、それだけはないと思っていたわ。
「1時間ももたないだろうけれどもな」
それを聞いて安心したわ。おかしくなったわけではなさそうよ。
「そうよねぇ。じゃあ、のんびり進みながら景色のいいところでも探すわよ」
それにしても、よくあたしの攻撃がグールに当たったわね。殴られるまでグールが待っていたとも思いがたいわ。あたしが小さいから、攻撃が効かないと思って避けなかったのかしらね。次の機会ではしっかり考えないといけないわ。
一段落したというのに落ち着かないわね。今日は衝撃的なことが多すぎたわ。しばらくは平穏な日々が続かないと釣り合いが取れないわよ。




