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一人称視点版@あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
13/52

おまけ:物理魔法少女

 すれ違う人から不自然に避けられるのは、いつもどおりのことよ。

 でもやっぱり、以前とは別の違和感を感じるわ。


「最近、ガルマさんだけじゃなくて、あたしが避けられている気がするのよね」


 以前にはなかった視線を感じるのよ。


「自意識過剰ってやつ?」


 意図的にあたしを挑発しているのかしら。


「あんた、それ言ってみたかっただけよね」


 今は避けられることが哀しくて、挑発に乗る気分じゃないのよね。


「その肩口から見えているオレハルコンの武器のせいじゃね? 輝いていて目立つし」


 オレ・ハル・コン?


俺春来ん(オレハルコン)て、あんた自分で言っていて哀しくならないの? オリハルコンよ」


 でもこれ、一見しても武器にすら見えないわよね。

 まさに芸術品よ。遠目にはバラの花に見えると思うわ。


「俺の頭ん中は、年中春らしいぞ」


 春の意味も通じないんだわ。まぁアルフには食欲しかないものね。


「年中真っ盛りだったわね。武器は本来の目的である威嚇効果が高すぎって感じかしら」


 避けている人たちみんなが、これを武器だと認識しているとは思いがたいのよね。

 でもたしかに、ほかには思い当たる要素がないわ。

 とりあえずは納得しておくわよ。


 気になることはまだあるのよね。

 ここは山道とはいえ整備されていて景色もいいわ。

 でもその割には人通りが少ないのよ。

 往来があるからこそ整備したんだと思うのよね。

 寂れているのは、この不快感のせいかしら。


「ふぅ。なにか暑いしにおうわね」


 整備したあとでにおいだしたとすれば、寂れた原因としては納得できるわ。


「言いだしっ()はベルタだな」


 言われてみれば似たにおいね。

 でも、そんな()れ衣を受けいれるわけにはいかないわ。


「乙女になんてことを言うのよ。そんなのアルフ以外に出す人はいないわ」


 ガルマさんもされないでしょうしね。


「でもこれは俺じゃねぇな」


 そもそも、おならみたいな一過性のにおいじゃないわ。

 このあたりの空気がくさいのよ。


「硫化水素のにおいだな。火山地帯故、硫黄が多いのだろう」


 やっぱりそうですよね。

 って、火山地帯なのですか。火山を目指しているのかしら。


「まさか、アルフの進路に噴火口なんて、ないわよね」


 ガルマさんがおられるからといって、さすがに溶岩はシャレになんないわよ。


「あれ、噴火口なのか?」


 あれって…… 洞窟みたいね。どれどれ。

 真っ暗だわ。内部がどうなっているのかは、さっぱりわからないわね。


「洞窟自体は違うわ。でも、中が噴火口につながっている可能性はあるわよね?」


 もわ~っとした蒸気や熱気は少し感じるのよね。


「そっか。つながっていないといいな」


 軽い返事ね。あたしの言っていることが理解できているのかしら。

 いくら能天気でも、これは警戒しないと命がいくつあっても足りないわよ。


「いいなって、そこに入るの?」

「おお」


 肯定しないでよ。洞窟から呼ばれているわけじゃないわよね。


「あっちって、空じゃなかったの?」


 星とか雲とか言っていたわよね。


「あっちに空があるかは知らね」


 ふーむ。空というより、特定の方角ということなのかしらね。

 まぁ、これは問い詰めてもムダだとわかっているわ。

 問題はこの先に溶岩があるかどうかよね。

 とりあえずは進んでみて、溶岩を確認したら引き返せばいいかしら。


「……わかったわよ、行けばいいのよね。でも真っ暗よ、ここ」


 探検じゃなくて旅なんだから、明かりの類は持ってきていないわよ。

 着火アイテムじゃ手元しか照らせないわよね。

 って、アルフはためらわずに洞窟の奥へ歩いていくわ。

 危険だと言っているのに、どうして真っ暗な洞窟の中を平気で進めるのよ。

 へ。突然見えなくなったわ。いくら真っ暗とはいえ――


「うおぉぉぉぉぉ……」

「アルフ?」


――不気味な着水音がした。


「え? ポチャンって、まさか。アルフ? アルフ、返事して!」


 うそ、まさかすぐそこに、溶岩へ落ちる穴でもあったというの?

 そんな――


「ぶは! ちょっと熱いかも」


 生きていたわ。ちょっと熱い、ということは温泉なのかしら。


「ハァ。心臓に悪いことやめてよね。温泉じゃなくて溶岩だったかもしれないのよ」


 やっぱり能天気は正さないとダメね。命がいくつあっても足りないわ。


「マジカ?」

「マジヨ!」


 洞窟へ入る前にもしっかりと忠告したわ。いまさら驚いてどうするのよ。


「ベルタたちも来いよ~」


 まったく懲りていないわね。


「来いと言われても。見えないところを落ちるなんて危なすぎるわよ」


 アルフが落ちてから着水までの時間を考えれば相当の深さよ。

 でも、その割には声が近いのよね。岩で反響するせいかしら。


「落ちるんじゃなくて滑るんだ。そこ滑り台になっているぞ」

「へ?」


 天然の滑り台ということかしら。それはそれで危険だわ。

 途中で岩が出っ張っていたりしたら大けが、下手したら死ねるわよ。


「廃棄済みのアトラクションのようだ。看板や照明が撤去されてこうなったようだ」


 人がつくった滑り台ということよね。ハァ。

 せめて立ち入り禁止にして、説明くらいは書いておきなさいよ。


「紛らわしいわね! 人騒がせすぎるのよ」


 まぁ、こんなところに入る物好きなんてアルフくらいのものかしらね。

 でも廃棄済みとなると、安全とはいえないはずだわ。


「見たところ安全性は確保されておるようだ。滑っても問題はなかろう」


 ぐぬぬ。頼んでもいないのに、ご確認ありがとうございます。

 ガルマさんには暗闇なんて関係がないのですね。


「ハァ。ガルマさんのお墨つきなら信じますよ。でも、あたしの思っていた旅とはなにか違うのよね」


 慎重に足元を探りながら…… ここからが滑り台ね。んじゃいきますよ、とぉ。

 ひえー。こっわー。安全とは聞いていてもねぇ。

 真っ暗闇の中を高速で滑り降りる恐怖は半端じゃないわ。ガボッ。


「ぶは! 温泉て、落ちついて浸かるところなのよ。これはダメだわ」


 つくった人のセンスを疑うわね。これじゃ廃れて当然よ。

 まだ水しぶきが降ってくるわ。随分と水柱が高く上がったのね。

 あぁ、背負っている荷物のせいかしら。

 それにしてもアルフったら、周囲を確認もせずに呼びつけたのね。

 まったく能天気なんだから困っちゃうわ。


「なによ真っ暗だわ。こんなところへ呼んでどうする気よ。どうやって出るのよ」


 ……ん? 返事がないわね。


「アルフ聞いているの? アルフ?」


 あ。明るくなったわ。ガルマさんの魔法ね。


「ありがとうガルマさん。アルフったら、なに隠れて…… え」


 隠れていなかったわ。湯船に浮いているわよ。

 ……気絶しているみたいね。なにがあったのよ。

 タイミングから考えると、あたしが着水したときに吹っ飛ばされたのかしら。

 とりあえずは持ち上げないと溺死しかねないわね。よいしょ。


「なによあんた、呼んでおいて避けていなかったの? って真っ暗じゃ無理か」


 能天気にもほどがあるわね。

 呼吸はしているみたいだし、しばらくは洗い場へ寝かせておくしかないかしら。


 で、結局ここはなんなのよ。

 ん~、見渡したところ、かなりの大浴場ね。

 壊れるどころか、それほどには汚れた様子もないわ。


「温泉も廃棄されているんですかね。それともお休みなのかしら」


 廃棄しなければならないような、欠陥があるようには見えないわね。


「備品など撤去されておるし廃棄であろうな」


 ハァ。つまりは誰もいないということですよね。


「廃棄済みの温泉に呼ばれるとか、わけがわからないですよ」


 誰もいないんじゃ話も聞けないわ。なにをどうしろというのかしら。


「溶岩湖ではなかっただけマシではあるな」


 うぇ。今回はそうだったわ。でも……


「この先、ありえなくもないですよね」


 落ちたあとのアルフの様子は、まったく懲りていなかったものね。


「我にも予想できぬ。が、今のところは危険を回避しつつ進んでおるようにも見える」


 未来がわかるガルマさんに、予想をできないというのも変な話ね。

 未来を知るための条件でもあるのかしら。

 それはさておき、そもそもどうしてここへ呼ばれたのかということよ。


「せめてここにアルフの記憶のヒントでもあればいいわね」


 でも…… それらしいものは特になにも見当たらないわ。打つ手なしね。

 アルフが目覚めないと出発もできないわ。とりあえずは休憩しようかしら。


「せっかくだし、アルフが目を覚ますまで湯浴みでもしておきますか」


 暑かったから汗はかいていたのよね。ここが温泉だったのは不幸中の幸いかしら。


「うむ。疲れを癒しておくとよかろう」


 って。同意をされたのに出口へ向かわれているわよ。


「あら? ガルマさんは温泉が嫌いなのですか?」

「必要ではないだけだ。出口を確認しておく」

「申しわけありません。お願いします」


 今までのお話からすれば、疲れも汚れもしないのでしょうね。

 でも温泉の気持ちよさがわからないとしたらもったいない話よ。

 あ~、いいお湯ねぇ。廃棄するなんて、もったいない温泉だわ。

 あんなアトラクションがなくても、お客さんは集まりそうよね。

 なにがあったのかしら。


「お、動いたー」


 あら。目覚めたみたいね。でも口調も発言も妙だわ。


「アルフ、目覚めた? 頭打ったみたいよ。大丈夫?」


 これで記憶が戻っていたりしたなら、呼び主グッジョブよ。

 とはいえ、そう甘くはないわよね。


「お。おいらが見えているみたいだな! おいらとあそぼー」


 ……おいら? 見えている? あそぶ?


「へ。あんた、なに言ってんのよ」


 記憶が戻ったという感じではないわよね。

 でも、いつものアルフとは様子がまったく違うわ。


「おいらはここに住んでるマアマさ。あそぼー」


 マアマってなによ。自分がアルフだという認識すらないのかしら。


「アルフ? やば、あたま強く打ちすぎて、いかれちゃったの?」


 自分が別人だと思い込んでいるみたいだわ。

 記憶喪失だけでも厄介なのに、どうしてこうなるのよ。


「ん~? アルフって、この身体の名前かなー? 使っていなかったみたいだから借りたー」

「へ」


 落ちつけ、あたし。アルフが目覚めてからの言動を整理するのよ。

 アルフにしてはおかしな発言を続けていたわ。

 だから頭がおかしくなったと思ったのよ。

 でも、アルフの身体を借りたと言いだしたわ。

 要するに、マアマとやらにアルフの身体が乗っ取られた、ということかしら。

 仮にそうだとすれば、発言の不自然さはなくなるわね……


 ふ・ざ・け・な・い・で。


「なんてことするのよ! アルフの身体から出ていきなさい!」

「ひ」

「ひ?」


 見慣れた(おび)えの顔だわ。アルフに身体を返したのかしら。


「びえぇええええええええええ!」


 ぶ。アルフの身体を勝手に乗っ取っておいて、泣き出すなんてどういうことよ。


「ちょ、どうして泣くのよ! 泣きたいのはこっちだわ」

「びえぇええええええええええ!」


 人の身体を乗っ取るなんて異様な力だわ。でも幼い子どもみたいな反応よね。

 ならばそれに見合った対応をするべきなのかしら。


「わかったわよ、話くらい聞くから泣き止みなさい」


――話を聞いてみた。


 わけがわかんない内容だったわね。妄想としか思えないわ。

 でも実際にアルフの身体を乗っ取るなんて真似ができているのよ。

 否定もしがたいわね。とりあえず整理をしなおしてみるわよ。


 まずこの子の名前はマアマで、太古からここに住んでいたということね。

 太古からということは、ガルマさんみたいな長命種ということだわ。

 それだけ長生きをしておきながら、その口調とか、すぐに泣きだすとか、つっこみどころが多すぎて信ぴょう性が皆無よ。

 でもそこはとりあえず置いておくわ。


 で、最近この地に人が来て開拓されて、温泉ができて大勢の人で(にぎ)わったのね。

 楽しそうだったから仲良くしたいと話しかけたのに、人にはこの子の存在を認識できなかったと。

 仕方がないので物を動かしたりして存在をアピールしたら、それが気味悪がられて温泉は廃業になったらしいと。

 ふーむ。信ぴょう性がないとはいえ、筋は通っている…… のかしら。


「それでアルフの身体を使ったのね」

「あい」


 まぁ、お話を信用すると前提すれば、事情は理解できたわ。

 だからといって、納得するわけにはいかないのよね。


「でもその身体はアルフのなのよ。あなたにあげるわけにはいかないのよね」

「びえ」


 やば。とりあえずは話を続ける意思表示をしなきゃ。


「まちなさーい」

「ひ」


 どうしたものかしら。アルフの身体から出ていけと言うと泣き出すのよね。

 代わりに使える身体があればいいのかしら。とはいってもねぇ。


「使ってもいい身体なんてないわ。でも…… 人の身体じゃないとダメなの?」


 獣とかでもいいなら捕らえられるのよね。


「昔の人は、身体なんかなくても、おいらとあそんでくれたんだけれどもなー」


 あら。身体が欲しいんじゃなくて遊び相手が欲しいということなのかしら。


「そうなの?」

「うん。3000万年くらい前だったかなー」


 ……桁がおかしくて想像しがたいわ。でも今の人の歴史よりは(はる)かに以前よね。

 つまりは滅ぼされてしまった人のことかしら。

 おそらくは、今の人とは違って特殊な能力があったということよね。


「あはは。あたしたちとは違う人みたいね」


 身体なしで遊ぶには、そういう能力がおそらく必要なのよ。

 ならやっぱり今は身体が必要なんだわ。振りだしに戻っちゃったわね。


「お!」

「ん?」

「これ! オリハルコンはおいらと相性いいー。これに宿っていいなら、こっちの身体は要らないー」


 ぐは。それ、もらったばかりの超お気に入りの武器なのよ。

 よもやアルフの身体との引き換え条件にされちゃうなんてね。


「えー。それ、あたしの宝物なのよ……」


 ハァ。武器屋さんになんて言えばいいのかしら。


「でもアルフの身体には代えられないわね。いいわ。あげるわよ、それ」


 アルフに勝手をさせると、本当にろくなことにならないわ。

 縄でもつけておかないとダメかしら。

 また同じようなことになったら、次も手持ちのもので済むとは限らないものね。


「いや、もらっても困る。宿らせてくれー」


 なにを言ってんのよ、こいつ。会話が通じないわね。

 やっぱりアルフがとぼけているのかしら。

 でもそんなことをする動機がないわよね。


「へ? だから、あげるから好きに宿れば?」


 武器屋さん、恨むならアルフを恨んでね。譲りたくて譲るんじゃないのよ。


「ちがーう。もらっても、おいらあそべなーい。これはお前が使うー。おいらは宿るー」


 あたしが使うですって?

 武器は今までどおりにあたしのものでいい、ということよね。

 ただ武器に宿らせてくれ、ということみたいだわ。

 論理的な矛盾はないわよ。でも、自分で言っていることがわかっているのかしら。


「身体の代わりってことは、武器にあんたが宿るのよね。その状態であたしが殴っていいの?」


 あなたの身体を、いろいろなものに(たた)きつけることになるのよ。


「そう! それ! いつもそうやって、あそんでたー」


 自分が宿った状態で殴りつけられても平気だといっているのよね。

 理解しがたいわ。


「よくわからないわ。でも、それでアルフの身体を返してくれるなら、いいわよ」

「おっけー」


 え。武器の色が変わ…… ちょ。発光しだしたわ。

 いやいや、これ光じゃなくて煙かしら。違うわね、燃えているかのようだわ。

 薄紫の炎に包まれているように見えるわね。

 もともと、きらめいていてきれいだったのが、発光でさらにきれいに見えるわ。

 でも、これ、怖すぎるわよ。


「えぇ? 燃えているわよ。こんなの熱くて持てるわけないわ」

「熱くないよー」


 とてもそうは見えないわ。まぁ手を近づければ熱はわかるわよね。


「そりゃあんたは熱くないかもしれないわ…… あれ? 本当に熱くないわね」

「えへん」


 熱そうに見えるだけなのね。威嚇には使えそうだわ。

 でも今度こそ、ふつうの人にまで避けられちゃうわよ。

 アルフや武器を失うことに比べればささいなこと、とはいえつらいわ。


 そういえば。もう武器に宿っているのよね。

 それなのに今までどおりに話せているわ。なんだかすごいわね。


「あんた、口がなくても話せるのね」


 きっと、この武器を震わせて話しているのよね。

 でも握っていても、振動はまったく感じないわ。


「空気振動できるところならー。前に岩を使ったら、みんな大騒ぎして逃げていったー」

「あはは。そりゃ岩が突然話しだしたら、びっくりして逃げるわよね……」


 ホラーそのものだわ。下手をしたらトラウマで岩に近づけなくなるわよ。


「じゃぁ、あそぼー」


 遊ぶのが嫌というわけではないわ。でも、武器と遊んだことなんてないわよ。


「遊ぶって言われてもねぇ。これでなにかを(たた)けばいいのかしら? 痛くない?」


 (たた)いてから怒られても困るのよね。

 アルフの身体を乗っ取れるくらいだから、切れたらなにをされるのかがわからなくて怖いわ。


「大丈夫ー。どかーんといこー」


 どかーんね。でもここは私有地なのよ。


「廃棄されているとはいえ、温泉を壊すのはよくないわよね。とりあえずは素振りするわよ」


 じゃぁ天井を狙う感じで振りぬいてみますか。ほいっと。

 ふむ。振り回した感じは変わっていないわね。あたしは問題なく使えそうよ。

 でもこの子は大丈夫かしら。結構勢いよく振り回しちゃったわ。


「こんな感じでいいの?」


 光ったままだから放り出されてはいないはずよね。目を回してはいないかしら。


「ずばーん! あはははは」


 大丈夫そうね。これなら本当に殴っても大丈夫なのかもしれないわ。


「振りまわすだけで満足してくれるなら問題ないみたいね」


 見た目の問題は別途考えるとして……


――床に光の帯ができた。


「あら? ガルマさんが照明つけてくれたのかしら」


 ちょうど天井を狙って素振りした直後につくなんてまるで……


――天井に走った亀裂から太陽が見えた。


「へ?」


 亀裂? 太陽? さっき素振りをしたときにそんなものは……


――亀裂はどんどん広がっていった。


「……はい?」


 現在進行形で伸びているわよ。今、できた亀裂なんだわ。


――亀裂から徐々に溶けて蒸発していくかのように天井が消えていった。


 いやいやいや。裂けるだけならともかく、消えていくなんてありえないわよね。

 まさか…… まさか、まさか、まさか。


「ちょっと、ちょっとマアマさん! あれ、あんたがやったの?」


 夢よね? 幻覚よね? 触れてもいないのよ。どうして消えていくのよ。


「やったぜー」


 そこは否定してほしかったわ。


「ダメよ! 危険すぎるわ! こんなんじゃ、とても使えないわよ」


 まさかこんなとんでもないことをしでかすだなんて。素振りをしただけなのよ。


「大丈夫ー」


 アルフの能天気を持ってきたんじゃないわよね。

 大丈夫の一言で納得できる問題じゃないわよ。


「大丈夫じゃなくて! こんなの使ったら、みんな消えちゃうわよ」


 なにも壊す気なんてなかったわ。壊したくなかったからこそ素振りをしたのよ。

 それなのに天井が消えちゃったわ。

 こんなのを賊に向けたりしたら…… 冗談じゃないわよ。


「暗いとか外に出られないとか、言っていたから消しただけだよー」


 たしかにそれは、アルフに対して言った覚えがあるわね。


「……本当にきちんと加減できる?」

「大丈夫ー」


 いや、どう考えても大丈夫じゃないわよ。

 暗いとか出られないとか言っただけで、天井を丸ごと消しちゃうだなんて、とんでもないわ。

 ガルマさんに相談するしかないわね。早く戻ってきてくださらないかしら。


「あつつ。なんか全身ぶつけたみたいに痛ぇぞ」


 これは。本物のアルフの口調だわ。


「アルフ、気がついたの。よかった」

「アルフー。よかったー」


 身体を乗っ取っておいてよく言えるわね。

 でも、使っていなかったみたいだから借りた、と言っていたわ。

 アルフが気が付けば返していたのかしら。今となってはわからないわね。


「お? ベルタ、腹話術覚えたのか」


 目覚めて早々に能天気がさく裂ね。

 あたしが腹話術を覚えたら天井が消えるとでも思っているのかしら。


「……ハァ。ならよかったわねぇ」


 そんな平和な展開なら、どれだけ気が救われることかと思うわ。


「おいらマアマ! よろしくなー」

「お? おぉ、なんかわかんねぇけれどもよろしくな!」


 能天気同士の相性は抜群みたいね。少しは警戒してほしいわ。

 天井はないし、武器は光っているうえに、しゃべっているのよ。

 これでどうして怪しまずにいられるのかしら。


「アルフも正気に戻ったか」


 待っていましたよガルマさん。


「ガルマさん。ちょっと、とんでもないことになっちゃって相談したいのですが」

「ガルマー」

「相変わらずだなマアマよ」


 ……へ。

 ガルマ? マアマ? お互いを呼び捨てですって?


「え。お知り合いですか」


 ようやくガルマさんが戻られたのに、猛烈に不安が増した気がするわ。


「案ずるな。マアマは加減を弁えておる」


 加減、て。さっきのあたしとマアマさんとのやりとりの話よね。


「え。説明しなくてもお見通しですか……」

「まぁ、な」


 さすがはガルマさんだわ。

 ガルマさんのお墨付きなら、加減の問題は一応解決したと思ってもいいかしら。


「でもマアマさん、あたしたちは旅の途中なのよ。ここを離れちゃってもいいの?」


 ここでずっと遊ぶというわけにはいかないのよね。


「大丈夫ー」

「マアマにとっては、この世界のうえならどこでも一緒だ」


 どこでも一緒、ですか。なにか引っかかるおっしゃり方だわ。

 でも、どこへ連れていかれても問題はないというだけのことよね。


「御飯とかは、なにを用意すればいいんでしょう」


 口がないとはいえ、話せるのだから食べることもできそうよね。

 どう食べるのかには興味があるわ。


「身体の代わりにオリハルコンに宿っておるから、なにも要らぬだろう」


 宿っているから、ですか。

 身体を維持するための食事以外は不要、という意味よね。


「天井を消すほどのエネルギーを消費しているのにですか」


 マアマさん自身の活動エネルギーは補給しなければならないはずよね。

 食事以外の手段があるということかしら。


「マアマはエネルギーを消費する側ではなく、供給する側の存在だ」


 ……教わってきた知識が音を立てて崩れていく気分だわ。


「なによそれ。便利な存在なのね、あんた……」

「えへん」


 つまり天井を消滅させるくらいのことは、無制限に繰り返せるということよね。

 聞けば聞くほどに、とんでもない話がでてくる感じだわ。

 これ以上聞くのが怖いわね。

 でも聞いておかないと、もっと怖いことになりそうよ。


「着火魔法も照明魔法も不要になったな」


 どうしてここで魔法の話が……


「あ。この子がやってくれるのか。でもそんな道具みたいな使い方するのは、失礼であると……」


 へ。武器の先に火がついたわ。これも見た目だけなのかしら。

 熱っ。本物の火だわ。


「あそぶー」


 ……道具みたいに使え、ということなのよね。


「マアマにとっては使われることが遊びのようなものだ。使えそうなときは、なににでも使ってやるがよい」


 意思を持つこの子を道具として扱えというのかしら。それって虐待よね。

 でもそれが、この子にとっての遊びだというのよ。うーむ。


「……どうしてあんたみたいなありがたい子を、誰も相手にしないのか不思議すぎるわね」


 各国で奪い合っているほうが自然に思えるわ。

 天井を消しちゃうほどの力を使い放題なうえに、対価も求められないのよ。


「今の人には見えぬ。加えてオリハルコンを持ち歩く者などおらんからな」


 そうだったわ。人がいても、誰もこの子に気づいてくれなかったのよね。


「そっか。そうよ、この子も寂しいわよね」


 あたしに理解しがたいとはいえ、使われることがこの子には遊びなのよね。


「この子がそれでいいなら、いいか。じゃぁこれからよろしくね、マアマさん」

「よろしくー」


 あ。でもさっきの天井消滅みたいなことが、また起きるわよね。

 いや、あれが全力だとも限らないわ。

 あれは、あたしが口にしたことを実践しただけだものね。

 どれくらい危険なのかは確認しておく必要があるわ。


「つかぬことをお聞きしますよ…… もしあたしが、全力でこの子を使ったらどうなりますかね?」


 ……へ。目を逸らされた?


「ちょ、ガルマさん?」


 なんですかそれは。答えられないようなことになってしまうというのですか。


「大丈夫ー」


 そんな能天気な答えを聞いていられる状況ではないのよ。

 ガルマさんが目を逸らすような状況なんて想像もしたくないわ。


「いや、あんたの大丈夫と、あたしの大丈夫はおそらく違うのよ」


 天井を消しちゃったあとで大丈夫なんて言われても信ぴょう性が皆無だわ。


「ベルタは昔の人と違うー。きもちいー」

「へ?」


 なにを言っているのよ。気持ちいいって、握り方とかのことかしら。

 今、話しているのはそんなことじゃないのよ。


「そうだな」


 ガルマさんまで同意されちゃったわ。


「さっぱりわからないですよ」


 気持ちよければ全力で使っても大丈夫、なんて理屈は成り立ちませんよ。


「前にこやつを使った者は、大陸を消滅させた」


 やっぱり。そんな力を使ってもいいわけがないわ。


「……」


 でもこの子を放置するのも可哀そうよね。どうしたらいいのかしら。


「だがベルタが全力で使ってもそうはならぬ、ということだ」


 あたしが微力だからということかしら。

 ならどうしてさっきは答えてくださらずに目を逸らされたのですか。


「全然わかりません」


 あたしが聞きたいのは、全力で使ったらどうなるのかよ。


「欲望の質の違いだ。お主の性根が和を望んでおる。ゆえに暴走しても周囲を巻き添えにすることはない」


 質とか性根とかおっしゃっても、なんのことだかさっぱりわからないわ。

 でも、暴走しても大丈夫だとはおっしゃっているのよね。

 なら安全だと思ってもいいのかしら。

 一応は念を押しておく必要があるわね。


「あたしが護りたいものは、護ってくれるということですか?」

「うむ」


 即答で肯定していただけたわ。それなら一安心ね。


「あんた本当にすごいのね?」

「えへん」


 く。気が抜ける返事だわ。


「どうにもその口調が不安になるわね」

「大丈夫ー」


 力と口調が全然釣り合っていないのよ。慣れるしかないのかしら。


「わかったわよ。信じるわ。みんなを護るのに協力してちょうだいね」

「おっけー」


 うんうん。素直よね。力がとんでもないとはいえ、いい子だわ。


「気になるのは、なぜマアマが起きていたかだな」


 ……起きていることがおかしいのですか。

 ガルマさんが気にされるだなんて、またとんでもなく不安になるわね。


「眠っていたのですか? 温泉騒ぎで目覚めたとか?」


 これだけの大浴場を開設するだけでも相当の工事をしたでしょうしね。


「その程度で目覚めるものではない。普通は次の世界の創造まで寝ているのだがな」


 あー。不安的中だわ。


「今の世界が終わることは決まっているみたいなおっしゃり方ですね……」


 お願いですから否定してくださいよ。


「終わらずに済めばよいとは我も思うがな」


 なによ。まさかもう、決定事項だとでもおっしゃる気かしら。

 そんなわけはないわよね。

 だってガルマさんは今、現にこうして、あたしたちを導いて――


「起こされたー」


 そうよ。事の真相はマアマさんから直接聞かなきゃいけないわ。


「誰に?」

「さぁ? 竜神かなー」


 竜神様すらをも呼び捨てなのね。本当に何様のつもりなのよ、この子は。


「起こすのは竜神の役割ではあるが、それは同時に導きを告げる時でもあるはず」


 ……竜神様から直接起こしていただくほどの方である、とおっしゃるのですね。

 アルフみたいな、ただの礼儀知らずとは違うんだわ。


「聞いていないー」


 あら。それなら、人を滅ぼすとは決まったわけじゃない、ということよね。


「どうにもわからぬな。竜神はシイタに調べてもらっておるが、いまだ連絡がない」


 竜神様を調べるですって。なんておそれ多い発言をさらっと流されるのかしら。

 いや、ガルマさんは竜神様と一体とまでおっしゃっていたものね。

 健康診断みたいなものなのかしら。

 シイタというお名前も初耳ね。


「シイター。どかーん」


 マアマさんもお知り合いみたいね。

 どかーん、てなにかしら。遊んでいただいていたのよね、きっと。


「マアマさん(うれ)しそうね。シイタって方と仲いいのかしら」


 そうだとしたら、お会いできたときにマアマさんのことでお話がはずむかもしれないわね。


「シイタは先日、お主が見た透明な竜だ。あやつの身体をマアマが破壊しておる」

「あははははは」


 あたしって一言多いのかしら。お聞きしないほうがよかったわ。


「また聞いてはいけないことを聞いてしまった気がします」


 竜の身体を破壊って、笑いごとじゃないわよね。どうして笑えるのよ。

 まさかマアマさんて、竜神様に敵対するような存在じゃないわよね。

 いや、起こしていただくという話すらあったもの。そんなわけはないわ。


 ハァ。知らないほうが幸せそうなことがどんどん増えていくわね。

 でも聞いておかないと危険な状況なのよ。あたしはどうすればいいのかしら。


「気にするな。マアマは人に使われるゆえにぶつかることもある。そこに感情はない」

「そういうものですか」


 敵対しているわけではない、ということよね。

 でも、あたしがシイタ様に会いづらくなっちゃったわよ。

 身体を破壊しちゃったマアマさんと共にいれば、気分を害されるわよね。

 まぁ過去はどうしようもないわ。問題は今後よ。

 自重していただかないと、あたしだけじゃなく世界の危機になりかねないわ。


「マアマさん。ガルマさんたちの身体を破壊するなんて、しちゃダメなのよ」

「あい」


 ハァ。返事だけはいいのよね。でも、まったく安心はできないわ。


「おっと、ベルタの場合は注意が要るな」


 へ。あたしの場合、ですか。あたしがほかの人とは違う、という意味よね。


「なんでしょう?」


 生まれてこの方、特別扱いなんてされた覚えはないわよ。

 あたしに隠れた力があったりするのかしら。


「マアマよ。ベルタは(わな)アイテムという道具で身を護っておる」

「あい」


 なんだ。あたしじゃなくてマアマさんへの注意なのね。

 そうか、きっと以前の人の世界には(わな)アイテムなんてなかったんだわ。

 その説明なのね。


「ゆえ、その道具で防げる災難には手を出すな」

「えー」


 あら。使えそうなときは、なににでも使ってやれとおっしゃっていたわよね。

 矛盾してはいないかしら。この子もやりたがっているみたいよね。


「この子が(わな)アイテムの代わりにもなれるってことですか?」


 できるというのであれば、代わらせてあげたいと思うわ。


「それくらい優しければ注意しなくてよいのだがな」

「は?」


 (わな)アイテムが優しいわけはないわ。

 問答無用で相手を捕縛、場合によっては殺傷しちゃうのよ。


「このまま外へ出て襲われたら、その敵はなんであろうと瞬時に消滅するであろう」


 ぶ。消滅ってなによ。天井みたいにってことよね。話が違う、違い過ぎるわ。


「ちょ? 護りたいものは護ってくれるんじゃ」


 そう、ガルマさんがおっしゃったからこそ信じることにしたのよ。


「襲われた瞬間に、襲った相手を護りたいとは思わぬであろう」


 瞬間ですか。あたしが気づいてすらいない状況も含まれるわよね。


「そりゃとっさには…… でもあたしが手を出さなければ、この子は、なにもできないんじゃ――」


 マアマさんが天井を消した動機は、あたしが外へ出る方法をアルフに尋ねていたからなのよ。

 でも、あたしが尋ねたときは、マアマさんと話す前だったわ。

 それなのに、あたしが武器を振るまでは、マアマさんは天井を消せなかったのよ。


「できないわけではない。遊びでなければ動こうとせぬだけだ。護りたい者がおれば護るだろう」


 護りたい者…… ってあたしのことかしら。

 あたしを護るために、あたしを襲ったものを無条件に消滅させちゃう、とおっしゃっているのよね。

 いや、気持ちは(うれ)しいわ。でも、どう考えてもやりすぎよ。

 人は過ちを犯すわ。でも更生できるのよ。

 襲ってきたからといって、即座に消滅させちゃうだなんて――


「んー。ベルタいやがっている。わかったー」


 え。本当にわかってくれたのかしら。

 安心した矢先にこの展開だし、この子に関しては気を抜いちゃダメよね。

 怖すぎるわよ。念を押しておかないといけないわ。


「お願いね。殺しちゃうのは本当に、最後の最後の手段にしてほしいのよ」

「おっけー」


 ……軽い返事だわ。でも、とりあえずは信じるしかないわよね。


 じゃぁ旅を再開しましょうか。よいしょ。


「待ったー! せっかく仲間が増えたんだ。歓迎会として飯にしようぜ」


 ふむ。そうよね。話がまとまったからといって、慌てる必要もなかったわ。


「あんたが食べたいだけよね。まぁいいか、出る前にいろいろ聞いたほうがいいみたいだわ」


 大陸を消したなんてお話もあったのよ。

 あたしも間違えて消しちゃいました、なんて言い訳はできないわ。

 危険につながる情報は知っておく必要があるわよ。

 聞かないほうがいいことも多そうだから気は重いのよね……


 まぁ、とりあえずは調理を始めるわよ。


「できればアルフも一緒に護ってあげてね」


 むしろ危なっかしいのは、あたしよりもアルフなのよね。


「んー。必要ないと思うけれどもわかったー」


 ずいぶんと、素っ気ない返事ね。

 アルフとなにかあったのかしら。


「必要ないって酷いわね。アルフ、あんたマアマさんになにかしたの?」

「え? 俺? さっきまで気絶していたんじゃねぇの」


 まさに、なにもありようがなかったわ。


「それもそうね。マアマさん、アルフのどこが気に入らないの?」


 身体を借りたときに、なにかあったのかしら。


「気に入らなくないー。おいらといっしょー」


 また会話が怪しくなってきたわね。


「一緒ってなにが?」


 能天気なところくらいしか思いつかないわ。


「見た目ー」

「全然違うわよ!」

「あはははは」


 そもそも、見た目が一緒なら護る必要がない、という理屈もわからないわ。

 ガルマさんの場合は説明していただけるだけマシよ。理解できないとはいえね。

 マアマさんの場合はまともに説明すらされないから、理解のしようがないわ。

 そういえば、武器が身体だから目はないのよね。見え方が違うのかしら。

 とはいえ、アルフと一緒と言われてもねぇ。なにをどう見ればそうなるのよ。


 さて、調理は終わったし、まずは食べましょうかね。


「食事のひとときは、本当に幸せって感じですね」

「ベルター。しあわせー」


 うんうん。でも、マアマさんにはその幸せがないのよね。


「マアマさんも食べられたらよかったのにねぇ。代わりになにか、できればいいのに」


 なんだか罪悪感が募ってきたわ。

 マアマさんを差し置いて幸せを満喫、だなんて酷い仕打ちよね。


「だっこー」

「え? 抱っこって、こう?」


 食事中だから、膝の上に置くくらいしかできないわよ。


「きもちいー」

「オリハルコンに宿っていても、抱っこって気持ちいいもんなの」


 膝枕が気持ちいいのはわかるわ。でもオリハルコンに神経なんてないわよね。


「物理的な感触ではない。抱っこしている間は、お主の意思がマアマに向くであろう。それを心地よく感じるのだ」


 素直に気持ちが伝わるだなんてステキね。


「注意を向けるだけで喜んでくれるのですか。人もそうならステキなのですがね」

「べるたー」


 かわいー。


「はいはい。こうなつかれると、動かない武器でも可愛く思えちゃいますね」


 不思議だわ。武器というよりも小動物を抱いている感じかしら。

 話せるだけでも感じ方がずいぶんと違うものね。


「我よりも(はる)かに年配だがな」


 う。つい口調で子どもと錯覚しちゃうわね。

 そういえば太古から生きているとか言っていたんだわ。

 でも、ガルマさんよりも年配とおっしゃったわよ。

 ガルマさんて、2億年以上も生きておられるのよね。


「……マアマさん、どれだけ生きてんのよ」

「いっぱいー」


 それはわかっていますって。


「こやつは世界をつくりだす前。世界を物質で構築すると決めたときにつくられた」

「世界のない世界に生まれたってことですか? 言葉にすると意味不明ですね」


 思ったよりも、さらに長生きをしているのね。想像もつかないわ。


「逆にいうと、こやつが消滅すれば、すべての物質が崩壊するということだ」


 ぶ。どうしてそうなるのよ、って聞かないほうがいいのよね、きっと。


「また聞いてはいけないことを聞いている気がしてきました」


 大切なのは、この子を護らねばならないということよ。

 この子が消滅しちゃえば、本当に世界が消えちゃうんだわ。

 ガルマさんのお言葉でなければ、冗談にすらならなかったわね。


「こやつは竜の力を代行する者の一端を担う。仮に我が暴れて、すべての世界が消滅してもこやつは残る」


 あら。ちょっと安心したわ。あたしが心配しなくても消えることはないのね。


「……到底そんなすごい子には見えない口調なのですがね。竜の力の代行ですか」


 それで竜神様から直接に起こされたりもするのね。


「竜神がさぼったー」

「へ?」


 突然なにを言いだすのかしら。竜の力の代行を指して言っているのよね。

 竜神様がさぼるためにマアマさんをつくられた、という趣旨なのかしら。


「お主に代行させておるのだ。さぼったわけではない」

「えー」


 ガルマさんの言い訳じみた発言は、初めて聞いたかもしれないわ。う~む。

 竜神様がなされることを代行するとおっしゃるのであれば、あらゆる面で優れた存在であるはずよ。

 でも、マアマなんて名前は初耳なのよね。


「そんなにすごい子なのに、今まで聞いたこともないのは不思議ね」


 竜神様、竜、竜人、そして四大元素精霊を筆頭とする多くの精霊についてはよく知られているわ。

 つまり、精霊様ほどの立場ではないはずよね。

 でもそれにしては、竜神様に直接起こしていただくとか、大陸を消したとか、お話のスケールがおかしいのよ。


「ふむ。いまだわからぬというのであれば、もともと知らぬのか。四大元素精霊は知っておるか?」


 そんなことは幼児ですら絵本で知っていますよ。

 まさに竜神様やガルマさんたちに次ぐともいえる、敬愛すべき偉大な方々だわ。


「地水火風のそれぞれの力を統べる大精霊様たちですよね。この世界を支えておられると認識しています」


 竜人様とは違って、人を助けてくださる存在として有名なのよね。

 だからみんなの信仰を集めているのよ。

 もちろん、あたしもこれ以上はないほどにあこがれているわ。

 この旅でお目通りできればと――


「そやつらの親玉みたいなものだ」


 ……へ。

 今、なんとおっしゃったのかしら。

 聞き間違いじゃないわよね。


「……これが? これが大精霊様たちの…… 上?」


 あたしの膝の上にある、この武器ひとつがですか?


「これー」


 ……ないわ。……あたしの大精霊様のイメージを返して。

 ん。ちょっとまってよ。

 つまりあたしは、大精霊様たちの親玉だとまでおっしゃる方に対して、アルフから出ていけと怒鳴りつけていたのよね。

 あたしったら、なんておそろしいことをしていたのかしら。


「マアマというのはマテリアルマスターから3文字切り取って自身でつけた名だ」

「自分で、ですか」


 一般に知られていないのは、自称の名前だからなのかしら。

 でも、マテリアルマスターという名にも聞き覚えがないわね。


「人と接するのに呼びやすい名が欲しかったのであろう」


 まぁ、たしかに呼びにくいし、なんだか堅苦しい感じの名前よね。

 それに名前というよりも称号みたいだわ。


「マテリアルってことは物質ですか」


 四大元素精霊様の上ともなれば、物質を自在に操れるであろうことは想像できるわ。


「こやつは物質を統括する。お主らに見えるものすべてといえよう。それらの母ともいえる」

「はぁ」


 名前のとおりですね。

 でも、操るのではなく統括なんだわ。どう違うのかしら。


「物質操作に限定すれば、我と同等の力をもつといえば、その立場がわかるか?」

「……はぁ? ガルマさんの力って、竜神様、神様そのものでしたよね」


 それって、四大元素精霊様の上どころじゃないわよ。


 神の力、物質の統括、世界を物質で構築すると決められたときに誕生。

 それってつまり、この世界の実質的な創造主ってことですよね。


「うむ。こやつは物理特化ゆえ、位相の破壊などはできぬがな」


 ……話を聞くほどにマアマさんの脅威度が上がるわね。

 どうしてそんなおっそろしい存在に簡単に遭遇するのかしら。

 いまだ四大元素精霊様にはお目通りもしていないのよ。

 それなのに、竜神様に近い存在がおふた方も同行されることになるなんてね。

 偶然にしてもありえないわよ。

 こんなに次々と遭遇するとなると、ほかにも似たような方がおられるのかしら。


「竜に連なる者でしたっけ。その方々以外にも、大きな役割を担った方々がおられるということですか」


 正直、もう勘弁してほしいですよ。

 今回だって、あたしもアルフも下手したら消されていたってことよね。


「うむ。竜の代行者と呼ばれる者どもだ。特定の力に限定した統括をそれぞれ任されておる」


 やはりいるんだわ…… まさかその方々を訪問して回る旅じゃないわよね。

 アルフの呼び主って何者なのよ。アルフの正体も気になるわ。

 でもそれを確かめるための旅なのよね。

 つまりは旅を中断して調べられるようなことじゃないわ。

 参ったわね。いや、先のことよりも、まずは目の前の現実だわ。

 竜の代行者、統括を任されたもの、つまりは特定の力の頂点に立つお方なのよ。


「……そのおひとりが…… これ?」

「これー」


 く…… 緊迫感が削げるわね。

 統括を任されているのなら、相応の行動をとってほしいわ。


「って、ダメよ! そんなとんでもない力を人に使わせちゃ」

「あはははは」


 統括者としての責任感がまるでない感じよね。

 世界をつくり直すときまでは寝ているはずである理由がわかる気がするわ。


「人と竜の代行者では感覚が違うからな。護りたいものがなければ力を抑える理由もない」

「そんな」


 ガルマさんに匹敵する力がありながらも抑えないとおっしゃるのよね。

 むちゃくちゃにもほどがあるわ。みんな消されちゃうわよ。


「無論破壊したいわけでもない。その証拠に世界は維持されておるであろう」


 ……なるほど。今に始まった脅威ではなかったわね。


「それはそうですね。でも、いつ消されてもおかしくはないってことですよね」


 今までが大丈夫だったとはいえ、これからも大丈夫だなんて根拠にはならないわ。


「消されたくなければお主が護ればよい」


 ガルマさんたら、あたしをなんだと思っておられるのかしら。


「そんな力に、あたしがどうやって対抗するんですか」


 人の域を凌駕(りょうが)するとまでおっしゃっていただいた筋力ですら、マアマさんが相手では無力に等しいのですよね。


「マアマが護りたい者に、お主がなればよいのだ」


 護りたいものがあれば力を抑える理由になる、というお話は覚えていますよ。

 でも神の力を行使されるような方が護りたくなる者って、どんな方ですか。


「そんな簡単に。あたし、気に入られるための特別な芸とかないですよ」


 というか凡人に可能なことなのかしら。


「心配せずとも気に入られているようだがな」


 ……そういえば(わな)アイテムの代わりにというお話のときにも、そんなことをおっしゃっていたわね。


「ベルター。すきー。まもるー」


 肯定していただけたわ。でも、どうしてよ。


「あたし、なんにもしてないわよ」


 (うれ)しいし、ありがたくもあるわ。でも納得はいかないわよ。

 好かれた理由がわからなければ、いつ嫌われるのかもわからないわ。


「お主の偏った欲望…… お主にとっての愛というものを心地よく感じておるのだろう」


 あたしにとって、という部分は引っかかりますが、愛という言葉には説得力がありますね。

 とはいえ、マアマさんがあたしから感じたというのなら、やっぱり変だわ。


「あたし、マアマさんを愛した覚えはないですよ」


 むしろ、アルフの身体を乗っ取られて怒っていたわ。


「お主の愛する人、もの、世界が物質でできておる。つまりはこやつを愛しておるようなものだ」


 妙な理屈ですね。まぁたしかに、あたしはこの世界を愛しているわ。


「それでおとなしくしていてくれるなら、なにも問題ないのですがね」


 あたしが世界を愛していれば力を抑えてくれるということよね。それなら安心できるわ。

 でも、抑えていても、事前告知もなしに天井を消しちゃうくらいなのよね。

 遊びでなにをしでかすのかがわからないわ。

 あたしよりも、もっとしっかりした方に遊んでもらうべきだと思うのよ。


「こやつは人と遊びたいだけだ。もしお主が放棄して、賊の手に渡ればどうなるかは推測できよう」


 そ、それは――


「ゾクゾクするー」


 ぐ。これは深刻な話なのよ。


「オヤジかお前は!」

「あはははは」


 こんなところまでアルフに似ているだなんてね。

 でもやはり危険だからガルマさんにお願いしたいわ。


「ガルマさんが使って、遊んであげるわけにはいかないのですか」


 というか、どう考えても人に使わせるべきではないですよね。

 あれだけ愚かだ愚かだとおっしゃっておきながら、その愚かな人に神の力を行使させるだなんて、ありえないですよ。


「つまんないー」


 いや、だから、そんな感情だけで拒まれても困るのですよ。


「こやつにできることは我にもできるからな。違いがなければつまらんのであろう」


 あ…… 同じことしかできないから、ね。結局そういうことなんだわ。


「ここにも大願の根はあるのですね……」


 竜神様に近い方同士では楽しめないんだわ。

 となると、賊の手に渡っても困るし、あたしがどうにかする以外はないのよね。

 ハァ。ガルマさんが同行してくださることがせめてもの救いかしら。


 よし。この際、小さなことでも確認しておくべきよね。


「マアマさんはどうして稚拙な口調をするのでしょう」


 可愛いとはいえ、質問をしてもはぐらかされる感じで困っちゃうのよね。


「ひとつには威厳を保つことに意義を見出せないこと。ひとつには人と仲よくしたいからであろう」


 圧倒的な力の差があれば威厳が無意味なのはわかるわ。

 虫の前で威厳を保とうとする人なんていないものね。


「人とですか」


 トカゲと大差ないうえに愚かである人と仲よくねぇ。


「マアマは、今の人でも遊び相手にたりると認識しておるのだ」


 へぇ。神の力をもちながらも、人を認めてくださっているのですね。

 それは(うれ)しく思うわ。


「竜神様よりは要求が低いのですね」


 でも話し相手にはなりえないから、稚拙な言動でも構わないということなのかしら。

 だからといって、ふつうに話されてもいいわよね。


「だが知識量は我に匹敵するうえに、経験では我を(はる)かに凌駕(りょうが)する。なめると痛い目にあいかねんぞ」


 ガルマさんを凌駕(りょうが)とか、軽くおっしゃらないでくださいよ。

 ガルマさんの経験とやらも、あたしの想像を絶するのですからね。


「おどかさないでくださいよ。怖いのは重々理解しています。おそらくはですが」


 なめたくはないのに、うっかりとなめてしまうような口調をどうにかしてほしいわ。


「ベルター。よしよしー」


 ハァ。でも、そうね。厳格な口調なら遊び相手になんてなりえないかしら。

 今の口調は、仲良くしたいからであろうとおっしゃっていたものね。

 ふつうに話せばガルマさんと同様に、おそれられかねないわ。


「そっか。力の差がありすぎるから、安心させようとしてその口調になったのかしら」

「えっへん」


 あたしのほうが慣れるしかないみたいね。


「あたしが自制することと、この子を怒らせたりすることがないよう、十分気をつけないといけませんね」


 あたしもガルマさんと同じようになっちゃうのね。

 下手に人を殴っただけでも町が消えるみたいな心配を……

 いや、この子が怒っても終わりだから、あたしのほうが厳しいわよ。


「人になせる程度のことで、こやつが怒ることはほぼなかろう」

「そうなのですか」


 そういえば、泣きはしても怒ってはいなかったわね。

 怒らないとおっしゃるのであれば、あたしだけが気を付ければいいのかしら。


「しいて言えば、お主を傷つけられたら怒るであろうな」


 ぐ。それって、簡単に怒るってことではありませんかね。


「なにか、あたしの責任がどんどん重くなっていませんか」


 あたしはただの村娘よ。アルフの旅についてきただけだわ。

 それなのにこの現状って、おかしいわよね。

 どう考えても、あたしのせいじゃないわよ。


「アルフにでも言ってくれ」


 そうだわ。すべての元凶はアルフなのよ。


「ちょっとアルフ! あんたのせいなの?」


 あんたの旅なんだから、あんたが背負うべき責任よね。


「えぇ~? いきなりなに? なんで?」


 なんでじゃないわ。ガルマさんの御指名よ。弁解の余地はないわ。


「あんたについていって、こんなことになっているのよ」


 ここにきたことだって、散々注意したのにあんたが無視して進んだ結果だわ。


「落ちつけって。なにも悪いことにはなってねぇだろ。仲間がひとり増えただけじゃん」


 そんなことを言っているんじゃないわよ。


「あたしの責任がありえないほどに重くなっていることが問題なのよ」


 あたしになにかあっただけで、下手をすれば世界が消されかねないのよ。

 わかっているの、あんた。


「気にしなければいいんじゃねぇの?」


 これほどの状況を気にしないで、なにを気にするっていうのよ。


「気にするわよ」


 どれほど危険な状況であるかを理解していないのかしら。

 試して見せればいいのかもしれないわ。でも試すのも怖い力なのよね。


「ベルタが襲われてマアマが怒ったんだったら、それは襲ったやつが悪い。ベルタは気にしなくていいさ」


 襲うのが悪いことだと諭そうとしたときには、消されちゃっているかもしれないのよ。


「相手が悪いと言えばすむ程度ならいいわ。でもね……」


 ガルマさんと同等の力を持ちながらも、あたしを護るときには自制をしない可能性があるのよ。

 半端な程度ではすまないはずだわ。

 下手をすれば襲ってきた相手だけじゃなく、周囲をも巻き込んじゃう可能性があるわよね。


「あはははは」

「心配せずとも、もはやお主を傷つけられる者は、ほとんどおらぬであろう」


 ……ほとんど、ということは、すべてではないのですよね。

 でも、こうやってアルフに愚痴っていても仕方がないことはわかるわ。


「とんでもないことになっちゃいましたね」


 あたし以外には誰も、とんでもないという認識がなさそうなのよ。

 それがまた、とんでもないわ。


「生命力を直接削ったり、精神破壊を仕かけるような非物理攻撃には注意せねばならぬだろうがな」


 なんですかそれは。注意以前にそんな攻撃は知りませんよ。


「そんな攻撃をされることもあるのですか」


 注意していたとしても対策のしようがないと思うわ。


「要人でなければ狙われることはそうなかろう。だが精神破壊については、先日の放火でも危なかったな」


 あ。そういう意味ですか。たしかに精神を攻撃する手段はありますね。

 放火のときは、あたしのおかあさんが死にそうだと錯覚していたのよ。

 たしかに気がおかしくなりそうだったわ。


「あのときは……」


 そういえば。

 燃える柱が消えたときって、もしかして精神がおかしくなっていたのかしら。

 あたしがやったと考えるのが自然とはいえ、覚えがないのよね。


「そのような心の(もろ)さは、マアマでは護れぬ。己が強くなるしかなかろう」


 あのときに、もしマアマさんがいたら……

 自制を失ったあたしは、賊を消していたかもしれないのですね。

 いや、もしもみんなを護りたいという意識すら消えていたとしたなら……

 町を吹き飛ばしていたかもしれないということかしら。きっついわね。


「そうですね。あたしが強くなるしかないんですよね」


 ほかに手はないのよ。甘えが許される状況じゃないわ。やるしかないのね。


 さて、食事も終えたし、今度こそ旅を再開よ。

 とんでもない温泉だったわね。あ……


「そうだ、天井消しちゃったのよ。どうしよ」

「あい」


 あ、あはは…… 悪気のない返答ね。

 きっとマアマさんにとっては大したことじゃないんだわ。


「いや返事されてもね。これ弁償となると一生かかりそうな気がするわ」


 まずは所有者に連絡をしなければいけないわね。


「ベルタがやったと言っても信じてもらえないんじゃね」


 ……たしかに説明はしがたいわね。でも消しちゃったことは事実なのよ。


「そういう問題じゃないわよ。どうにか償いたいところだわ。でもねぇ」


 償いたくても方法がないのよね。


「あそぶー」

「ん? まさか温泉丸ごと消しちゃう気? ダメよ」

「あそぶー」


 あぁ、困ったわ。これ以上損失を増やすわけにはいかないわよ。

 遊びたいなら弁償をしなくて済むようなところにしてもらわないとね。


「ベルタよ。マアマを信じてはやれぬか?」


 信じるもなにも、あそぶと言っているのですよ。


「ガルマさん? ……まさか壊すだけじゃなくて直せるの?」

「どかーんといこー」


 ……そうだわ。あたしは信じると決めたのよ。

 あたしが償いたいと思っているのに、さらに破壊するような真似はしないはずだわ。


「どうせこのままじゃ償えないのはたしかだし、やるだけやってみますか」


 マアマさんも神様みたいなものなのよね。なら祈るわよ。

 祈ってどうにかなるものなら、喜んで力いっぱい祈るわ。

 天井が直りますように…… えいっ。


「……」


 って…… なによこれ。ありえないわ。

 でも、あたしが覚えていた天井が、直したかった様相そのままに見えるわよ。

 一瞬でつくり直したとでもいうのかしら。消滅させるときはゆっくりだったのよ。

 これ、幻覚じゃないわよね。


「どかーん」

「すっげー」


 はっ。こんな、一瞬で天井をつくるような真似をしたなら、衝撃で周囲が崩れたりはしていないのかしら。

 ……見た目は大丈夫みたいね。

 いや、でも…… これは今つくったにしてはおかしいわよ。

 まるで最初からあったみたいに汚れているし、ほこりもたまっているわ。


「なにこれ、おかしいわ。あんた一体なにしたのよ」


 消えた状態が幻覚だったのかしら。

 いや、それはないわよ。天井のあった場所からも出られたものね。


「戻したー」

「お主は温泉を壊したくなかったから素振りにしたのであろう。マアマはそれを理解して、壊す前の状態を覚えておき、復元したのだろう」


 直したのではなく、まさに文字通り、戻したのですか。

 いやいや。言葉のうえではわかりますよ。

 でもそれってつくり直すよりも(はる)かにむずかしいですよね。


「復元って、材料もなしにですか」


 天井は溶けて蒸発していくかのように消えていったのよ。

 (たた)き壊した破片が残っているのであればともかく、何も残っていない状態からなんて復元のしようがないですよね。


「消えたように見えても分解された素粒子は散らばっておる。それを集めて再構築したのだろう」


 ……当然のことのようにおっしゃらないでほしいわ。

 あ。もしや小石を砕かれたときにできた大穴にも復元をされていたのかしら。

 あのときもいつの間にか元通りになっていたのよ。

 ガルマさんたちにとっては当然のことなのかもしれないわね……

 マアマさんのすごさは説明されていたわ。でもあまりにも非現実的な力よね。

 なんだかめまいがしてきたわ。


「もう魔法少女になった気分ね……」


 妙な悪役組織とかでてこないわよね。勘弁してよ。

 あたしは物語のヒロインじゃなくて、ただの村娘だわ。


「魔法使いが束になったところで、今のお主の相手にはなりえぬ。獣人にも無傷で勝てよう」


 ハァ。そんなのを相手にしてたまりますか。逃げますよ。


 それはさておき、本当に天井が元通りになったのよね。涙がにじんでくるわ。


「マアマさん、ありがとう。本当に助かったわ。でも…… 今後は自重してね。お願い」

「あはははは」


 今までどおりの旅ができるのかしら。

 ガルマさんの力だけでもやばいのに、同等の力を遊びで使っちゃうだなんてね。

 頭痛の種なんて程度じゃ済まないわよ。


 とりあえずは山道に戻って……

 あら。歩いていた人が、あたしを見ていきなり逃げ出したわ。

 そりゃそうよね。

 あたしだって、マアマさんが武器に宿ったときには見た目が怖かったもの。

 だって燃えているように見える武器なのよ。危ないと思わなければおかしいわ。

 だからといって、意思があるんだから隠すわけにもいかないわよね。

 武器の威嚇で賊を回避したい、なんて考えたことが罰当たりだったのかしら。

 これは先が思いやられるわね。


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