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chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ⑥

いきなりの出来事に目を丸くしていると、にっこりと青年に微笑まれた。

笑顔なのに優雅という言葉が一番しっくりくるような気がする。

「君が菫姉さんの娘になる子かな?」


流暢な日本語で話されて、かなり嫌な汗が背中をつたう。

もしかして、この凛夜ぐらいの年齢の人が夏葵のお見合い相手だなんて言わないだろうな。


「初めまして。藤ノ百合夏葵と言います。あの……失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「可憐な挨拶をありがとう。僕はハイル・メルジーネと言います。初めまして、小さなプリンセス」

「えっと……」


奏多だったらドン引きするセリフを言われているのに、その気品な物言いで鳥肌もこないし、寒いとも思わない。多少、恥ずかしいが。


「孝輔おじさんから、ここで君の相手をしていてほしいと頼まれたんだ」


確定!?


さすがに夏葵と近しい年齢だと思っていただけに、驚きはそのまま顔に出てしまっていたのだろう。

ハイルに困ったように笑われた。

「会うだけ会ってほしいと言われたんだ。君もそうなのかな?」

強制的に決められていたものだが、そんなことは言えないので曖昧に頷けば、帽子の上から頭を撫でられる。

凛夜とはまた違う優しい手に、人それぞれの撫で方があるんだなと当たり前のことを思ってしまう。

「ここにずっといるよりも歩きながら話そうか? それともどこかに座りたい?」

「そうですね……歩きながらで」

「じゃあ、そうしよう」

歩き出す際に自然と手を繋いだハイルに、恥ずかしさを覚える余裕もなくそのまま促される。

こういうのって、大人の女性は弱いんじゃないのかな?

千早がよくやっているゲームにこんなシーンが美麗な絵つきであると、千早がうっとりとしていたことを思い出す。


「あの、ハイルさんは洪流家の方々とどういったお知り合いなのでしょうか?」

「父が学生の時、留学中に孝輔おじさんにお世話になったんだ。父はメルジーネ家の跡取りだったから、洪流家の次期当主でもある孝輔おじさんとは話が合ったというか。跡取りって色々と気苦労が多いいものだからね」


メルジーネ。


その名前を聞いたことがある。

そもそも父がなんの利益もない相手と夏葵を見合いさせるなどありえない。

メルジーネ、メルジーネ、メルジーネと延々と頭の中で繰り返していた夏葵は、ある企業の名前を思い出した。

さあっと体から血の気が引いていく感覚をおぼえる。

「ハ、ハイルさん! メルジーネというのはドイツに本社がある、あの世界的な会社のお名前では?」

「うん、そうだよ。僕の一族がやっている会社で父が社長なんだ」


メルジーネコーポレーション。


ドイツに本社をかまえているが、世界的に有名な大企業で色々な分野のビジネスを幅広く手掛けている。

はっきり言うと、日本の名家と謳われている藤ノ百合家なんて霞む存在だ。

「兄が会社を継ぐのは決まっているんだけど、僕はまだどうしようか悩んでいるんだ。だから、大学は大好きな日本で勉強をしたいなって思って下見に来ていたんだ」

そして次男坊!

まさに父にしてみれば奏多よりも望む人間だ。

でも、奏多と婚約するぐらいなら、歳の離れたこのハイルと婚約したほうがマシ。

けれど今さっきから思っていることだが、ハイルはこれが見合いだとわかっているのかが怪しい。


会話をしながら考え事をしていたせいだろう。

「あっ!」

注意力散漫になっていて、少し大きい石に足を取られて転んでしまった。

「大丈夫かい!?」

すぐにハイルが助け起こしてくれるが、せっかくのドレスが土色に変わっている部分がある。

きっと父は気にせずに新しいのを買えばいいとか言ってくるだろうが、そんな勿体ないことはしたくなかった。けれど、これは有無を言わさずクリーニングではなくゴミ箱行きだ。

ちょっとだけ気落ちしてしまったのが、ハイルにもわかったらしい。

「ナツキ、ちょっとごめんね」

「へ?」

言うなり抱き抱えられた。

こ、これは千早がよくゲームをしている時に見せてくれていたお姫様抱っこというものでは!?

「あ、あの! 大丈夫です! 一人で歩けます!」

「可愛いお姫様は、二度とドレスを汚さないようにこうされるのが一番いいんだよ。それとも嫌だったかな?」

「嫌ではないですけど、ハイルさんにご迷惑はおかけできません!」

「じゃあ僕は迷惑だと思っていないから問題ないね」

この人、絶対に女性が放っておかない!

お見合いなんてしなくても充分、素敵な女性がハイルには寄ってくるだろう。

このお見合いは、まあ当初からわかっていたことだが父の勇み足に終わる。

そう思っていた時、不意にハイルの足が止まり、夏葵を申し訳なさ気に見てくる。

「ナツキ、これは見合いだって聞かされている?」

「はい。やっぱりハイルさんも知っていたんですね」

「うん。ごめんね」

なぜ謝罪? ああ、お断りのかな。

「僕はナツキのことは可愛いお姫様だと思うけど、妹のようにしかまだ見れない。将来はどうなるかわからないけど、今はこの答えしか浮かばないんだ」

「ハイルさんが謝ることではないです。私も正直、ハイルさんほど年齢が離れている方だと思っていませんでした。てっきり同じ年ぐらいの方かと」

だから断ってくださって平気ですと続けようとした。

「そう。でも、今さっきも言ったように将来はどうなるかわからない。それに僕はナツキを可愛い妹だとは思えるから、気長にお互いを知っていこうか」

「……は、い?」

「そろそろ帰ろうか。遅くなると孝輔おじさん達を心配させるからね」

間の抜けた返事を返してしまい、それが返答だと勘違いされてしまったまま、夏葵は混乱する情報を整理するので一杯一杯だった。






わかったことは、十も歳が離れている婚約者候補ができたことだけだった。










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