第39話 同志と家族
「あぁっ……ヒカル……っ、ヒカル様ぁ……っ」
誰からともなく、甘い吐息が漏れ始める。
施術台をぐるりと囲む令嬢生徒たちは、嫉妬と欲情に狂いそうになりながら、ついに自らの指で自身の体を慰め始めた。制服のスカートの上から秘部を擦る者、胸を強く押し潰して喘ぐ者。
サロン内は、セリアの絶頂の声と、それを見つめながら悶える少女たちの卑猥な水音と喘ぎ声が入り混じる、異常な熱気に包まれた狂乱の空間と化していた。
「ひぐぅっ……! あ、あぁぁぁぁっ!!」
ついに限界を迎えたセリアは、背中をバナナのように反らせ、全身をビクンと大きく跳ねさせると、白目を剥きかけてシャンプー台に突っ伏した。
完全に骨抜きにされ、放心状態で荒い呼吸を繰り返す彼女の耳元に、俺は優しく囁いた。
「どうだ、最高のご褒美。国家を欺くだけの価値があったろ?」
セリアはトロンと潤んだ瞳で俺を見上げると、ゆっくりと俺の足元に崩れ落ち、その頬をすり寄せた。
「はい……っ。ヒカル様……私、もう国家の密偵なんてどうでもいいです……っ。これからは、国ではなく、ヒカル様個人の専属護衛として……一生、お傍でお仕えします……っ」
かつての冷徹な国家の犬は、完全に俺の忠実な『飼い猫』へと成り下がった。
嫉妬に狂って自らを慰めるヒロインたちを尻目に、俺はセリアの艶やかな黒い毛並みを優しく撫でながら、確かな下剋上の勝利を噛み締めていた。
だが、その余韻に浸る暇もなく、極限まで焦らされた猛獣たちが一斉に俺へと群がってきた。
「次は私よ! ヒカルさん、お願い、もう限界……っ!」
レオナが汗ばんだ豊かな胸を俺の腕に強く押し付け、黄金の尻尾を俺の足に絡ませる。
「ずるい! 幼馴染の私を一番に撫でてよぉっ!」
ミオも負けじと背中から抱きつき、熱い吐息を俺の首筋に吹きかけてきた。
「ガルルッ……私の番だ! 早くその手袋で、私を奥まで抉ってくれ……!」
牙を剥き出しにしながらも、シルヴィの瞳は完全に潤みきっている。
「ワンッ! ご主人様、次は私にしつけを……っ!」
四つん這いのレティシアが俺の太ももに顔を擦り付ける。
熱を帯びた柔らかな肉体と、むせ返るような獣の体臭に四方から押し潰されそうになりながら、俺は苦笑するしかなかった。
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セリアの施術が終わり、狂乱のプレオープンから数時間が経過し、サロンに夕闇が迫る頃だった。
「よお、坊主。随分と派手にやったみたいだな」
カラン、とドアベルが鳴り、私服姿のジン・ドーベルがサロンに入ってきた。かつて生ける屍のようだった彼の顔には、今は確かな精気と余裕が満ちている。
俺が特例を勝ち取り、非人道的な管理体制に風穴が開いたことで、ジンもまた「国家管理の遺伝子供給奴隷」という過酷な立場からついに解放されていたのだ。
「ジンさん。あんたも無事でよかった」
「お前のおかげだ。俺たち獣人の男も、ただのインフラから『人間』として生きる権利を少しずつ取り戻せそうだよ」
ジンは力強く俺の肩を叩き、真剣な眼差しで誓った。
「これからは俺も、お前の右腕として働く。獣人の男たちの労働環境改善と、社会的な地位向上……俺たちで、本当の下剋上を成し遂げてやろうぜ」
「頼もしい同志ができたぞ。これでジンさんも、ゆっくり休めるだろ」
俺が安堵して笑うと、ジンはニヤリと獣特有の獰猛な笑みを浮かべた。
「いや、休むつもりはねぇよ。国に強制されるのはご免だが、自由になったからには一日十回のフリー交尾は自分の意志で続けるからな」
「……は?」
「俺のずば抜けた性欲を舐めるなよ。むしろこれからが本番だ」
呆気にとられる俺を置いて、ジンはケタケタと笑っている。ロマンも何もない彼の生態に呆れつつも、社会構造を変えるためのその底知れぬタフさは確かに頼もしかった。
そこに、再びサロンの扉が開いた。
「ヒカル、プレオープンおめでとう!」
花束を抱えて駆け込んできたのは、産婦人科医である母・恵だった。その後ろには、官僚である母の志保と、人権派弁護士の市川舞が続いている。
恵は俺の男子用の制服姿を見ると、大粒の涙をこぼして強く抱きついてきた。
「あぁ……本当に、よかった。あなたが男として、こうして堂々と自由に生きられる日が来るなんて……っ」
「母さん、泣きすぎだって。今まで俺を守ってくれて、本当にありがとう」
俺は母の背中を優しく撫でた。志保が眼鏡を押し上げながら、誇らしげに微笑む。
「感傷に浸るのはこれくらいにしておきなさい。私たちの戦いはこれからよ、ヒカル」
「ええ」と市川弁護士も力強く頷く。
「政府との契約通り、次は『トリマー訓練学校』の設立よ。私たち大人組で、政治的な根回しや法整備は完璧に進めておくわ。ヒカル君は、国家公務員として堂々と講師を務めなさい」
強欲な裏社会の商人たち、狂乱するエリート令嬢たち、頼もしい男の戦友、そして最強の家族。
俺の周りには、この狂った社会構造を根底から変えるためのすべてが揃っていた。
「ああ。俺のゴッドハンドで、この世界を俺の思い通りにトリミングしてやる」
夕陽に照らされた公認サロンの中で、俺は新たな下剋上の幕開けに向けて、不敵な笑みを浮かべた。




