第38話 第一号の客
「お前ら、いい加減にしろ!」
俺の一喝が、マーキング争奪戦でカオスと化したサロン内に響き渡った。
ピタリと動きを止める獣人たち。俺は大きく息を吐き出し、乱れた襟元を正した。
「いいか、ここは今日から神聖な俺の公認サロンだ。備品に匂いを擦り付けたり、順番を争って暴れる奴は問答無用で出入り禁止にするぞ」
その言葉に、学園のトップ層に君臨する彼女たちはシュンと耳や尻尾を垂らして大人しくなった。誰もが出入り禁止のペナルティだけは恐れている。
俺は改めて、期待に目を輝かせて俺を囲む彼女たちを見回した。
「記念すべき、公認サロンの第一号。……俺はもう、誰にするか決めている」
「私よね、ヒカル!」「キングスレイ家に決まってるわ!」「私だろ!」
再びざわめく彼女たちを片手で制し、俺は部屋の隅へと視線を向けた。そこには、この狂騒の中でも直立不動を貫き、冷徹な護衛の任務を全うしようと必死に耐えている漆黒の影があった。
「セリア。お前だ。こっちへ来い」
「……え? わ、私、ですか?」
国家のエージェントであるセリア・シャノワールは、信じられないものを見るように目を丸くし、自分の黒猫の耳を疑うようにピクピクと動かした。
「ふざけないでよ! なんでそのゴマ猫が一番なのよ!」
「そうだ! 国家の犬風情がヒカルの極上の手技を一番に受けるなんて、絶対に認めないわ!」
レオナやシルヴィたちが一斉に牙を剥いて猛烈に抗議する。だが、俺は冷たく言い放った。
「あんなに俺にべったり張り付いて、国に背いてまでして俺を守ってくれたんだ。その最高のご褒美をやるって約束したんだ。……文句がある奴は帰れ。ただし、俺の極上の手技を特等席で見学する分には許す」
その言葉に、彼女たちは悔しそうに唇を噛み締めながらも、誰もサロンから出て行こうとはしなかった。逃げるどころか施術台の周りをぐるりと何重にも囲むように陣取り、ギラギラとした嫉妬の炎を燃やしてセリアを睨みつけてくる。
「さあ、脱げよセリア」
セリアは周囲からの突き刺さるような殺気と嫉妬の視線に震えながらも、ゆっくりと服のボタンに手をかけた。漆黒のタクティカルスーツが床に落ち、引き締まった無駄のない肉体と、艶やかな黒い毛並みがあらわになる。
彼女が浅いバスタブの前の椅子に腰を下ろすと、俺は両手にクロエ特製の『無数のイボ付きゴム手袋』を装着した。
「いくぞ、セリア」
俺は、限界まで抑え込んでいた中和剤なしの『完全なオスのフェロモン』を、密室のサロン内に全開で解き放った。
ドクンッ、と。部屋中の獣人たちの心臓が一斉に跳ねる音が聞こえた気がした。
むせ返るような、暴力的なまでの甘い匂いが、セリアだけでなく、周りを取り囲む生徒たちにも容赦なく襲いかかる。
「ひょにゃんっ!?」
イボ付き手袋がセリアの首筋に触れた瞬間、彼女の口からおよそエージェントらしからぬ、甲高い悲鳴が上がった。
「な、なにこれ……っ! いつもより、指が、奥まで……っ!」
「当然だ。今日は特別仕様だからな」
過酷な訓練で凝り固まった密偵の分厚い皮膚。その奥にある神経節を、イボの突起が的確に抉り、強烈な摩擦でほぐしていく。フェロモンと圧倒的な快感のパルスが血流に乗って全身を巡り、彼女の脳髄を直接とろ火で煮詰めるように麻痺させていった。
「あぁっ……! ヒカル様ぁっ……! だめ、そんな深く揉まれたら、頭が、真っ白に……あぁぁんっ!」
普段の冷徹なエージェントの面影は微塵もない。彼女は椅子からずり落ちそうになりながら、だらしなく舌を出して俺の手首にすがりつき、黒猫の尻尾を狂ったようにお湯の中で波打たせている。
その信じられないほど淫らで艶かしいセリアの鳴き声と、むせ返るようなオスのフェロモンは、施術台を囲む生徒たちの理性を限界まで揺さぶっていた。
「はぁっ……はぁっ……ヒカルさんの匂い、濃すぎる……っ。それに、あの泥棒猫のいやらしい声……っ」
ライオン系のレオナが、顔を真っ赤にして荒い息を吐きながら、自身の太ももをギュッと擦り合わせている。王者のプライドなどすでに消し飛び、彼女の目は完全に発情したメスのそれになっていた。
「ずるい……ヒカルのあの手袋、私も、私もされたい……っ」
ミオは涙目でセリアを睨みつけながら、自分の豊かな胸を両手で揉みしだき、熱を逃がすように身をよじらせていた。
「グルゥゥッ……! 私の……私のオスが、他のメスを……っ」
軍事の名門であるオオカミ系のシルヴィは、牙を剥き出しにして唸り声を上げているが、その手は自身のスカートの裾を強く握りしめ、下半身から込み上げる熱い疼きに必死に耐えている。
「ハァッ……ハァッ……ご主人様の手が、あんな風に……あぁっ、私も首輪をつけてしつけられたいぃっ……」
元生徒会長のレティシアに至っては、完全に犬の本能を剥き出しにし、四つん這いになりながら床に涎を垂らしている。
極上のオスの手技を至近距離で見せつけられ、さらにその対象が自分ではないという強烈な『嫉妬』。それが起爆剤となり、彼女たちのメスとしての欲望は限界を突破していた。




